14 / 16
3-2
しおりを挟む
《レイside》
俺がユウくんと訪れたのは、個室のある高級レストラン。
ユウくんを誘ったとはいえ、どのお店に行くのが一番いいのか、かなり悩んでいた。だが、発作が治まったあと、目を瞑って横たわっていたときに、その店をふと思い出した。
あの店は、今までに訪れた飲食店の中で、一番素敵だと思った所だった。冷や汗が出るほどの金額ではあるが、それに勝るほどの味や雰囲気が思い出深い。
過去に一度、記念日に訪れただけだったが、次回来る時は特別なときがいいと心に決めていた。きっと今が、その特別なときなのだろう。
タクシーの料金を運転手に支払っているユウくんの横顔を盗み見る。
移動中のユウくんと運転手の様子からして、お互いにいい印象を持っていないことは、何となく気がついていた。二人とも誤解しているだけだと思うけれど、誤解させるきっかけを作ったのは、俺だった。
ユウくんの家に向かう車内で、運転手に何度か心配された。その内容は、家に帰ったときの過呼吸。
俺も迷惑をかけたいわけではなかったので、同じオメガとして事情を説明した。
数日間にわたる誘拐、凌辱。抵抗しても殴られるだけだったのに、反応を示さなくなった途端に捨てられたこと。無理やり番にさせられたことを除いて、簡潔に話した。
もちろん、今から一緒に出かける人に人生を救われたことも、全て話した。
運転手は、ユウくんが俺の恩人だと知っていても、凌辱を受けた点でアルファ自体に嫌悪感を抱かせてしまったことは否定できない。それに、俺はユウくんに何一つ話していない。
「…さん、レイさん。」
「……あ、はい!」
よく透き通った大好きな声が横から聞こえて、ハッとする。そちらに顔を向けると、子犬のような目で俺を見つめるユウくんの姿。
あまりの愛らしい姿に我を失いそうになるも、寸前のところで堪える。
「少し、おじさんと二人で話したいことがあるからさ。先に中で待っててくれる?」
ユウくんの言葉に、思わず首を傾げそうになった。
(二人きりで話すこと……?)
「…分かりました。先に受付を済ませておくので。」
心配と不安と疑問の気持ちを抱きながらも、二人の真剣な様子に負けて、そのままタクシーから出た。
軽快なドアベルの音ともに店の扉を開くと、すでにウェイターがそこに立っていた。
「いらっしゃいませ。カウンター、テーブル席、個室がございます。ご希望があれば、お伺いいたします。」
「個室でお願いします。」
「かしこまりました。本日はおひとりでしょうか。それとも、後ほどお連れ様がいらっしゃるのでしょうか。」
「えっと…。もうすぐ連れが一人来るので、連れと一緒に案内お願いしてもいいですか?」
「承知いたしました。では、お連れ様がいらしたら、またお声掛けください。」
丁寧な言葉遣いと最敬礼を見せたウェイターは、近くのカウンターへと戻っていく。
初めて来たときも思っていたが、接客されるこちら側まで背筋を伸ばしてしまう丁寧さには惚れ惚れする。
店内を見渡すと目に入る煌びやかで豪華な内装。かといって、程よい食欲が湧く上品さに目を奪われた。
高級レストランだとは思えないほどの繁盛ぶりは、接客や内装の些細な部分の積み重ねだろう。
「レイさん。お待たせしました。」
数分ほど店内の雰囲気を堪能していると、同じくドアベルを鳴らして、ユウくんが入ってきた。
ユウくんもこの店の内装に目を奪われたのだろう。しばらく店内を眺めてから、俺に耳打ちしてくる。
「この店、すごいね。こんな素敵な店知ってるって…さすがレイさん。」
「……いえ。ここは一度来たきりだったんだけど、すごく気に入っていて。お礼も兼ねて、今日は俺が奢りますから。」
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおっかな。ありがとう、レイさん。」
耳元で囁かれる言葉一つ一つが擽ったく、耳まで熱を持っているのを感じた。
俺は無意識に逃げるように、カウンターに立っていた先程のウェイターに声をかける。
「連れが来ましたので…案内お願いします。」
「かしこまりました。それでは、ご案内致します。」
後ろ姿まで所作が美しいウェイターの後を追うように、ユウくんと歩く。
「個室にしたんですけど…大丈夫でしたか?」
「むしろ助かるよ。ありがとう。」
目をキュッと細めて笑顔を浮かべるユウくんの言葉に安堵する。
ユウくんは有名人だし、あの獣耳と尻尾の存在がバレてしまっただけで、本人だと勘づかてしまう。そんなことをユウくんが言っていた気がしたから個室を選んだのだが、どうやら正解だったらしい。
ウェイターの案内で広めの個室に案内されると、向かい合うようにして座った。
「僕、中々こんな店に来ることないから、不思議な気分。」
「ユウくんが?…意外ですね。」
「ははっ、よく言われる。」
そんなことを話しながら、ユウくんが帽子とコートを脱ぎ始める。なんだか見てはいけないものを見てしまっている背徳感に襲われた俺は、慌てて目を逸らしてメニューを眺め始める。
やはりメニューはどれも美味しそうだったが、それなりに高い。
しかし、ユウくんが食べるのなら話は別だ。俺が奢ったものが巡りに巡ってユウくんの体を作るのなら、実質俺がユウくんの体を作っているようなものだ。それは本望でもあるし、ユウくんにはたくさん食べてもらいたい。
ついでに、俺もチートデイとして好きなものを食べよう。
そう思いながら口を開こうとしたが、いとも簡単に遮られることになった。
「ねぇ、レイさん。僕、児童養護施設育ちなんだよね。」
俺がユウくんと訪れたのは、個室のある高級レストラン。
ユウくんを誘ったとはいえ、どのお店に行くのが一番いいのか、かなり悩んでいた。だが、発作が治まったあと、目を瞑って横たわっていたときに、その店をふと思い出した。
あの店は、今までに訪れた飲食店の中で、一番素敵だと思った所だった。冷や汗が出るほどの金額ではあるが、それに勝るほどの味や雰囲気が思い出深い。
過去に一度、記念日に訪れただけだったが、次回来る時は特別なときがいいと心に決めていた。きっと今が、その特別なときなのだろう。
タクシーの料金を運転手に支払っているユウくんの横顔を盗み見る。
移動中のユウくんと運転手の様子からして、お互いにいい印象を持っていないことは、何となく気がついていた。二人とも誤解しているだけだと思うけれど、誤解させるきっかけを作ったのは、俺だった。
ユウくんの家に向かう車内で、運転手に何度か心配された。その内容は、家に帰ったときの過呼吸。
俺も迷惑をかけたいわけではなかったので、同じオメガとして事情を説明した。
数日間にわたる誘拐、凌辱。抵抗しても殴られるだけだったのに、反応を示さなくなった途端に捨てられたこと。無理やり番にさせられたことを除いて、簡潔に話した。
もちろん、今から一緒に出かける人に人生を救われたことも、全て話した。
運転手は、ユウくんが俺の恩人だと知っていても、凌辱を受けた点でアルファ自体に嫌悪感を抱かせてしまったことは否定できない。それに、俺はユウくんに何一つ話していない。
「…さん、レイさん。」
「……あ、はい!」
よく透き通った大好きな声が横から聞こえて、ハッとする。そちらに顔を向けると、子犬のような目で俺を見つめるユウくんの姿。
あまりの愛らしい姿に我を失いそうになるも、寸前のところで堪える。
「少し、おじさんと二人で話したいことがあるからさ。先に中で待っててくれる?」
ユウくんの言葉に、思わず首を傾げそうになった。
(二人きりで話すこと……?)
「…分かりました。先に受付を済ませておくので。」
心配と不安と疑問の気持ちを抱きながらも、二人の真剣な様子に負けて、そのままタクシーから出た。
軽快なドアベルの音ともに店の扉を開くと、すでにウェイターがそこに立っていた。
「いらっしゃいませ。カウンター、テーブル席、個室がございます。ご希望があれば、お伺いいたします。」
「個室でお願いします。」
「かしこまりました。本日はおひとりでしょうか。それとも、後ほどお連れ様がいらっしゃるのでしょうか。」
「えっと…。もうすぐ連れが一人来るので、連れと一緒に案内お願いしてもいいですか?」
「承知いたしました。では、お連れ様がいらしたら、またお声掛けください。」
丁寧な言葉遣いと最敬礼を見せたウェイターは、近くのカウンターへと戻っていく。
初めて来たときも思っていたが、接客されるこちら側まで背筋を伸ばしてしまう丁寧さには惚れ惚れする。
店内を見渡すと目に入る煌びやかで豪華な内装。かといって、程よい食欲が湧く上品さに目を奪われた。
高級レストランだとは思えないほどの繁盛ぶりは、接客や内装の些細な部分の積み重ねだろう。
「レイさん。お待たせしました。」
数分ほど店内の雰囲気を堪能していると、同じくドアベルを鳴らして、ユウくんが入ってきた。
ユウくんもこの店の内装に目を奪われたのだろう。しばらく店内を眺めてから、俺に耳打ちしてくる。
「この店、すごいね。こんな素敵な店知ってるって…さすがレイさん。」
「……いえ。ここは一度来たきりだったんだけど、すごく気に入っていて。お礼も兼ねて、今日は俺が奢りますから。」
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおっかな。ありがとう、レイさん。」
耳元で囁かれる言葉一つ一つが擽ったく、耳まで熱を持っているのを感じた。
俺は無意識に逃げるように、カウンターに立っていた先程のウェイターに声をかける。
「連れが来ましたので…案内お願いします。」
「かしこまりました。それでは、ご案内致します。」
後ろ姿まで所作が美しいウェイターの後を追うように、ユウくんと歩く。
「個室にしたんですけど…大丈夫でしたか?」
「むしろ助かるよ。ありがとう。」
目をキュッと細めて笑顔を浮かべるユウくんの言葉に安堵する。
ユウくんは有名人だし、あの獣耳と尻尾の存在がバレてしまっただけで、本人だと勘づかてしまう。そんなことをユウくんが言っていた気がしたから個室を選んだのだが、どうやら正解だったらしい。
ウェイターの案内で広めの個室に案内されると、向かい合うようにして座った。
「僕、中々こんな店に来ることないから、不思議な気分。」
「ユウくんが?…意外ですね。」
「ははっ、よく言われる。」
そんなことを話しながら、ユウくんが帽子とコートを脱ぎ始める。なんだか見てはいけないものを見てしまっている背徳感に襲われた俺は、慌てて目を逸らしてメニューを眺め始める。
やはりメニューはどれも美味しそうだったが、それなりに高い。
しかし、ユウくんが食べるのなら話は別だ。俺が奢ったものが巡りに巡ってユウくんの体を作るのなら、実質俺がユウくんの体を作っているようなものだ。それは本望でもあるし、ユウくんにはたくさん食べてもらいたい。
ついでに、俺もチートデイとして好きなものを食べよう。
そう思いながら口を開こうとしたが、いとも簡単に遮られることになった。
「ねぇ、レイさん。僕、児童養護施設育ちなんだよね。」
10
あなたにおすすめの小説
飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
2025/09/12 ★1000 Thank_You!!
国民的アイドルの元ライバルが、俺の底辺配信をなぜか認知している
逢 舞夏
BL
「高校に行っても、お前には負けないからな!」
「……もう、俺を追いかけるな」
中三の卒業式。幼馴染であり、唯一無二のライバルだった蓮田深月(はすだ みつき)にそう突き放されたあの日から、俺の時間は止まったままだ。
あれから15年。深月は国民的アイドルグループのセンターとして芸能界の頂点に立ち、俺、梅本陸(うめもと りく)は、アパートでコンビニのサラミを齧る、しがない30歳の社畜になった。
誰にも祝われない30歳の誕生日。孤独と酒に酔った勢いで、俺は『おでん』という名の猫耳アバターを被り、VTuberとして配信を始めた。
どうせ誰も来ない。チラ裏の愚痴配信だ。
そう思っていた俺の画面を、見たことのない金額の赤スパ(投げ銭)が埋め尽くした。
『K:¥50,000 誕生日おめでとう。いい声だ、もっと話して』
『K』と名乗る謎の太客。
【執着強めの国民的アイドル】×【酒飲みツンデレおじさんV】
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました
こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる