大統領は風俗嬢（全37話）

第1章

第4話 事件の後

　あの事件が解決した後、なんと被害者側の弁護士が店に来て、しかも常連になってくれたんだ。それに、被害者と店の主人も何度か来てくれたんだ。へへへ、毎度あり。チップも弾んでくれたから治療費分と店の修繕費分は回収できた。私は善意は素直に受け取る主義だ。

　だけど、この弁護士、最初の1回以外はただ話だけして帰るんだよね。エリートって寂しいのかな。まあ、こっちはお金さえもらえばOKだけどね。
　だいたい2週間に1回のペースで来るから、そろそろ来る頃かな。弁護士といっても駆け出しみたいだから、あんまり余裕はないんだろうね。
　なんとなく心待ちにしてる自分もいて、来るころになるとなんかそわそわしちゃったりしてね。

　なんて考えてたら、お呼び出しがかかった。あっ、これはもしかして？　店長の呼び出しの声でなんとなくどんな客か分かるんだ。接客業だし、しかも特殊だから人を見る目が自然と養われる。
　店長はベテランだから鋭く察知して、それが声にも表れるんだ。だから、声の感じでお金持ちとか、常連さんとか、要注意人物とか、なんとなくね。

　あっ、来た。やっぱりそうだった。今日もただ意味のない会話をして時間終了になった。
　「もう、終わりか」
　あっ、話し過ぎちゃったかな。
　「あっ、ごめんなさい。話し込んじゃって。次はちゃんんとします」
　「いや、話したいんだ」
　「・・・・」
　なんか、赤くなって急いで帰ろうとする。

　見送るために服を着て部屋の外へ出ると、なんか、声が聞こえる。ここは一応高級店で、お忍びの有名人とかも来るからお客さん同士が顔を合わせないようになってるんだけど、

　あの声は利子ちゃんだ。国立大学の法学部を出たエリートで検事になったけど上司と喧嘩して失業して、転職先でも正義感強すぎて揉めて辞めてを繰り返して、とうとう行くところがなくなってここに辿り着いたらしい。エリートもいろいろ大変だね。

　どうも、通常サービス以上のことを要求されて客ともめているらしい。刑法とか判例とかを持ち出して議論しようとしてるけど、そんなもんが通じる相手ではなさそうだね。
　「なんだよ、それが仕事だろ」
　「それは脅迫ですね。訴えます！」
とか怒鳴りあっているよ。

　もう、そういうのは適当にいなして、お金だけ払わせて帰らせればいいのに。弁護士が止めに行こうとしたけど、腕を掴んで、首を振って、行くなと合図した。
　こんなところで揉め事に巻き込まれたら、キャリアに瑕がつくし、まあ、こういう店はこういう揉め事には慣れてるからね。店長が出てきていなして大人しくさせたよ。客も出るとこ出られたら困るからひっこめなくなったところに店長が出てきてくれて内心ホッとしてる感じ。
　最後に小さく毒づいて帰った。