Journey to the West -タケル編-

甲斐枝

文字の大きさ
上 下
6 / 12

第6話 ~ モフとの遭遇 ~ 新居昭乃 - 金色の目 premiere version

しおりを挟む
 せっせと潮干狩りである。
 道具は鉗子である。
 9月の海はクラゲの海……いや、たぶん今5月だよね。
M「 遊星衝突の際、公転に影響を及ぼしたのではないかと推測できます。」
「それで公転速度が変わったとしたら、1年の日数も変化してるのかね」
 もちろん手は休めない。掘りながら、次の目標、め=2つの穴っぽいものを探し、かつ変な漂流物=海月や魚がいないか確認する。
M「 瞬間的に、数ヶ月遅れたのですが、また揺り戻しのように早くなり、今は以前とほぼ同じです。」
 へ?それは、ご都合主義的な感じがするけど。
M「事実そうなのです。」
μ「気にしたら負けみたいなー」
「わかった」
 実際春の海でも海月がいて何らおかしくはないしね。
「生物相の変化の可能性もあるのではないかな。」
M「 その可能性もあります。海中をさらによく見てください。」
 うん?手を止め、よく見る。フナムシかエビかカブトエビみたいなのがチョロチョロ動いている。メダカみたいな小さな魚が小規模な群れを作り、波野に揺さぶられるように漂っている。まあ、砂浜だからそんなに生き物は見ることが出来ない。ん?
 カブトエビみたいなのを摘む。手の動きが自分の予想よりも早く、しゃしゃっと取れる。瞬間筋肉痛が来て耐える。素早く動くとこれが来るのがなあ。でも慣れるとなんとかはなる。
「これ、もしかして、あれ?三葉虫っぽくない?」
μ「すごい!虫みたい!」
「そねー」
M「三葉虫と決定はできませんが、既存の種にはいない生物に見えますね。」
 ……いや、ちょっと気になってたんだけど、どうやって見てるの?
M「 ウェアラブルデバイスにはカメラが付いていますよ。文書翻訳のためのサポートデバイスですから」
 そうか、そうだな。
 そういえば、あんまり見たことのない虫が多かったような。それに蛇も、シマヘビでもマムシでも青大将でもなかったような。
M「はい。いづれでもなかったですね。」
「これって、カンブリア爆発的な?ことが発生しているとか」
M「可能性は否定できません」
 うーん、楽しいような怖いような。日本固有種的にあまり恐ろしい生き物はいなかったからね。せいぜい熊とか、スズメバチとか。イラガとか毒のある虫はそれなりにいて嫌な感じだったけど、出会ったら即死するようなのは皆無に近かったからね。
 いや、もしかしたら、この微妙な熱帯感、アジアから大型肉食獣が来ている可能性もあるのか。それは怖いなあ。
 三葉虫もどきをそれっっとばかりに遠くへ投げる。突然とんでもない勢いで空から何かが落ちてきて、いや、鳥だな、バサッと翼を広げると咥えて陸地に飛び去っていった。
「うぉっ、ビビった」
M「とんびのような鳥ですが、かなり大型でした。これも既存の生物相にはいなかったと思われます」
 もう一度三葉虫もどきを捕まえる。今度はおかに目掛けて投げる。案の定、また大鳶おおとんびが掻っ攫う。おもしれえ。また投げる。今度は別のがやってきて、不意をつくように最初の1羽の目前で掠める。おぉっ。投げる。また投げる。更に2羽増える。
「そろそろ怖いね」

 とりあえずリュックを背負い直し、貝をたんまり入れた袋を持って波打ち際を移動する。30分くらい歩くと適度に木が茂り、大岩が転がっている地形になった。ちょっと休憩しようか。歩きながら拾い集めていた、乾燥した流木を適当に手で割る。適当に大きめの石を組んで適当に火を着けた木の周りを囲う。網を出し、大きめの貝をバラバラと載せる。口が開いたら塩とその辺で摘んでいた芹っぽいものを適当に入れる。
 実は、酒はあるのだ。いわゆる無水アルコールだ。
 アルミカップにちょっぴり入れ、ちょっぴり生理食塩水を入れ、ちょっぴりビタミンCを入れ、ちょっぴりブドウ糖を垂らす。水をガバガバ投入して飲む。ふぃー、酒だ。美味くはないが、酒っぽい、いや酒だ。
M「 貝毒は存在しませんでした。エタノールの新規生成は困難です。あまり消費されないようにお願いします。また、アルコールの分解も過去の肉体とは比べ物になりません。酩酊は不可能と進言します」
「わかってる。気分だから」
 貝うまい。酒蒸しも作れるか、いや無理だな、日本酒あってこそだろうからね。

 大鳶が1羽、割と近所にいる。焼けた貝の身を少し冷まして投げると器用に捕食する。面白がっていくつも投げると、だんだん近づいてくる。でかい。あれ?でかすぎないか?立った状態で1.5m位あるぞ。色も鳶っぽいが、羽の色が全体に薄くてまだらに汚れているように見える。目元が赤い。何だか見たことあるような。
「雉か」
 雉の幼鳥がこんな感じだったようなそうでもないような。雌は赤い色にはならないし、どうだろう。只の鳶ではなさそう。猛禽っぽい顔で、鋭く尖った嘴、ヒクイドリのようなごっつい脚には熊のような爪。
「悪いがもう無い」
 網を持ち上げて見せると、頷いて向きを変え、差し渡し4m近く羽を広げ、バッサバッサと飛んでいった。
「頷いたように見えた。ちょっとドキッとした。」
M「少なくとも犬程度の知性はあるように思われます。雉には見えません。」
「ロック鳥みたいだった。」
M「 今の鳥種の推定可搬重量は10~15kg程度だと思われます」
「気分の問題で」

 他にも微妙な生き物を色々見かけた。大体は小さいもので、ゴリラっぽいゴキブリとか逆立ちしたネズミとか蠢く植物とか移動する茸とか変なのもいたが敢えて無視する。

 箱根を越えようかとも思ったが、大きな猿がじっと見てたし諦める。いや猿のような猿でないような。声をかけたが無視された。知性はありそうなんだが。

 しょうがないので伊豆半島を大回りし、富士山の形が変わっていることに気づいた。かなりえぐれている。阿蘇山ぽいか?だから神奈川付近では見えなかったしわからなかったのか。
 不思議と、残念さとか無念さが心に滲んでいる。富士山は大昔に登ったことはあるけれど、特に思い入れがあるものでもなかったんだがね。

 気を取り直しまた海岸に沿って歩を進める。何が良いかって、食料調達が容易なのだ。それに、やはり歩きやすい。山の中を分け入るのは骨が折れる。変な生き物も多い。時々大鳶を見つけては、余裕のあるときに餌を投げる。支配種とでも言うのか、割とどこにでもいる。いや、確かに鳶はどこにでもいたけれど別に支配種とかではなかったな。移動するほど普通サイズの鳶ばかりになったが、時々大きなのもいる。

 通信だが、実はまだ続いている。電波が強力で、思ったより飛んでいるらしい。詳しくはわからないが、私の知っている時代の言葉でいうと短波無線と衛星電話の組み合わせらしい。こちらの通信は使用可能な衛星を利用し、向こうの発信は複数、ということらしい。
 しかし屋根のある環境や切り立った崖下付近ではこちらの送信が受け取れないらしく、できるだけ見通しの良いところを通るように言われた。海岸沿いに進むのはそういう理由もある。
 もう一つ理由がある。発電用の原材料パックのようなもの、これが100kg近くあるらしい。液体水素みたいなものと言っていたが、私が運べる量で大丈夫なのだろうか。
 これは担ぐのは無理な重量なので、最悪橇か何かに載せて引っ張らねばならない。その場合、山道はそもそも通れない。開かれた緩やかなハイキング道路程度が限界だろう。渋谷や上本町のアップダウンですら辛いかもしれない。だからよほどでなければ、平坦な道を通り、復路の目星をつけておくこともある程度は必要だ。

 §

 おそらく旧浜名湖を超えた辺りで、野犬ぽいものの群れと遭遇した。豆柴くらいの大きさだが、洋犬のような顔をしている。小さい茶色いシェパードみたいな感じだ。
 それに気づいたのは、大鳶が騒いだからだ。
 ケーrrrrrrrrンー。
 その日はよく晴れていて、遠くまで見渡せた。鳶が上空で輪を描いて飛んでいたが、不意に急降下するとけたたましい犬の鳴き声が響く。
「これは……どうしよう?犬か狼かわからんがイヌ科の動物だよな。まだ見たことなかったけど、生き残っていたのか。」
M「まずは様子見を。人間のいない社会で犬がどのような社会性を持っているか、野犬の群れを考えると賢く凶暴な可能性が高いです」
「そうだな。しかし逃げるところがないな」
 運動能力は高いが続かない。
?「 カーテン生地を左腕に巻きつけてください。ハンドアックスとメス数本を手に取りやすい位置に用意してください。その後時間があれば石を集めてください」
 あれ?声が違う。
?「 私ソピアμミュー並行中央処理装置パラレルCPUの一つで心理学や社会学や行動学を特に得意とする疑似人格を有しています。3人よれば文殊の知恵ということでモンタンと呼んでください。」
 ……モンタン……漢字で書くと文旦……もぅマヂ無理。。……いやいや、でも手は動かす。
「わかった。よろしく頼む」
モ「任されました。 体の方向だけ野犬の群れに向けてください。映像状況で逐次サポートします」

 腕に布を巻いたところで野犬の群れがこちらに走ってきているのがわかる。まだ1kmくらい?どんどん近づく。もはや石を拾っている暇がない。5匹くらいいるか……みんな小さい。大鳶が追い立てるように上空を旋回している。あれ?コイツラ首輪してないか?キャンキャン鳴いてるが、攻めて来てる感じではないぞ?
文「こちらに対する敵意や攻撃意思が感じられません。庇護を求めている確率70%を超えました」
 それでも無茶苦茶勢いあるぞ、あんなのに飛び付かれたら普通に怪我するやろ。
 しょうがなくて手を上げて大鳶に叫ぶ。
「Stop! やめろ!コイツラ餌じゃない!」


 遅かった。


 5連発の犬の頭突きを喰らい、跳ね飛ばされた。

 『You Died』の赤い文字が見える……


________________

電気グルーヴの「富士山」だと思った人、ごめんなさい。だってあんだけだけだから。

「雉か?」言いたかっただけちゃうん、と。ご存じない方は外車メーカー接待自動車評論家案件です、「雉か?」でググると出てきます。

鳥かわいい。フクロウカフェにいる梟とか、可哀想かもしれないが、でもかわいい。頭のいいオウムとか、すげーかわいい。高いし買えないな思っていたら、実は寿命が長くて30代のうちに飼わないとイカンとか、もうご縁がなかったということですね。

犬と猫は幼いときから身近に欠かしたことはなかったのですが、この数年モフれなくて悲しい。犬猫の匂いが好き。
大昔、都会でも野良犬は普通で、なつくのと、吠えるのと、咬むのがいた。咬むのは餌やったらなつくけど、吠えるのは時間がかかる。
物心付く前、長屋的な2階建ての貸家に住んでいた頃、近所のボス的な大きな野良犬と仲が良かったらしい。家の土間に勝手に入ってきて寝てるのに、乗ったり、引っ張ったり、からんで遊んでいたという。犬は平気な風で、特に何もしなかったと。親とかはちょっと怖くて遠巻きに見てたとか。おい!
時々動物gifで癒やされています。

カンブリア爆発といえば奇妙奇天烈動物ですね。まあ、そんな想像力はないので、変な生き物の描写については期待しないでください。

*「金の目」、鳥に襲われた犬の想い。と思ってください。(白目)
旧バージョンももちろん素敵です。でも新バージョンの歳月を経たしっとり感ツヤ感は捨てがたいです。新居昭乃さん、(これどうしてか”さん”が消えないのでそのままで進行)アレンジの保刈久明さんと組んでるアルバム(最初期とか一部除いてほとんどだと思うけど)全部好き。いや、ほとんどの曲が好き。なんだろう。癒やされるだけでないんです。暗すぎる曲とかあるけど、沈み込む感じが本当に良い。


すみません、多分明日はお休みです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...