いろいろなものがたり

ゆめかわ

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鶴の怨還し

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 むかしむかし、あるところにおじいさんが1人で暮らしていました。
季節は冬、寒い風に当たりながら帰っていると1羽の鶴がバタバタともがいているのを見つけました。

「罠にかかっているのか、かわいそうに。外してあげよう」

罠から足を解放してもらった鶴は、おじいさんを見つめそのまま元気に飛んでいきました。

「やあ、よかったよかった」

おじいさんはそれを満足そうに眺め、家に帰りました。

 とある夜、おじいさんの家に美しい娘が1人で訪ねてきました。

「吹雪で山を降りることができず困っております。しばらく泊めてくださいませんか」

優しいおじいさんはすぐに娘を家に入れてやりました。娘はごはんの支度、そうじ、洗濯なんでもやり、おじいさんもそんな娘を孫のようにかわいがりました。

 ある時、おじいさんは熱をだし倒れました。
薬を飲んでもお粥を食べてもなかなか回復せず、苦しみながら寝込む日々が続きます。

娘が言いました。

「おじいさん、私はお寺にいたことがあります。おじいさんが少しでも良くなるように、毎日隣の部屋でお祈りを唱えます」

「でも、決して襖を開けないでください。絶対に中を見ないでください」

 娘はそれから毎晩おじいさんが眠る隣の部屋でお祈りを唱えました。
バサバサッ バサバサッ
布が擦れるほど動いているのか、音も聞こえます。

するとどうでしょう、みるみるうちにおじいさんの熱は引き、元の元気な姿に戻ったのです。
おじいさんは大変喜び、きっとお祈りが効いたのだと娘に感謝しました。

「お前のお祈りにはすごいご利益があるんだろう。これからも毎晩唱えてはくれないだろうか」

おじいさんが頼むと、娘は快く返事をしました。

「いいですよ。でも、絶対に中は見ないでくださいね」

それから娘は寝る前に毎晩隣の部屋に籠もり、お祈りをしました。

バサバサッ バサバサッ

あの音がまた聞こえます。はて、一体どんな動きをしたらあんな音がするのだろうとおじいさんは気になります。
しかし、絶対に見るなと言われたので襖を開けることはできません。

一つのことが気になればそのことで頭はいっぱいになり、何日も何日も考えてしまいます。

「孫のようにかわいがったあの子が何をしているのか心配だ。少し覗くくらいなら平気だろう」

ガラッ

とうとうおじいさんは、襖を開けてしまいました。

おじいさんは驚きました。
そこでは1羽の鶴が羽を広げて黒いモヤのようなものをついばんでいたのです。
鶴はおじいさんに言いました。

「絶対に開けないでと言ったのに、見てしまいましたね。私は罠にかかっていた日、あなたに助けていただいた鶴です」

おじいさんは鶴を助けた日のことを思い出しました。あのバサバサ聞こえた音は布擦れではなく、羽根の音だったのです。
しかし、まだわからないことがあります。この鶴がついばんでいる黒いモヤの正体です。
呆気にとられているおじいさんに鶴は続けて話します。

「あなたが現れなければ、私はあのまま毛皮をはぎとられ、肉は食べられていたことでしょう。本当に助かりました。あの後罠には何一つかかることなく、仕掛けた人間は栄養も温もりも手に入れることができず死んでいきました。

罠を勝手に触った人間への恨みが募ったのでしょう。その家族たちの怨念があなたの元へ形となってやってきたようです。あなたが体調を崩したのもそのため…私は助けていただいたお礼にその怨念を元の場所にかえしてやっておりました」

「も、元の場所とは?」

鶴はニコリと答えました。

「この怨念をよこした人間ですよ。あなたのおかげで死んでくれた人間の家族の元です。
でももう安心です。返した怨念によりその人間達もいずれ死ぬでしょう」

おじいさんはへたりと座り込みました。

「しかし、姿を見られてはもうここには住めません。
怨念も返しきったことですし、私は去ります。さようなら。命を助けてくれてありがとう」

鶴はそう言うと、美しい翼を大きく広げ天高く飛び立ちました。
おじいさんの足元に1本の羽が落ちてきました。


 おじいさんはその羽を大事に飾りました。
そして毎日その羽を見て、考えるのです。
自分は何かを間違えていたのか。どこから間違えたのか。
次また罠にかかった生き物を見たらどうするのか。

いつまでも考えるのです。
きっと死ぬまで考えるのです。



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