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2部 3章

奴が来た

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 少し時間は遡り、エルフの集落。
 そこでは、災厄の骸骨達とディータ達の戦いが続けられていた。
 

「まったく、一体どれだけ沸いてくるのよ!レンやメリッサの所に行きたいのに、これじゃあ動けないじゃない!」


 一度は見える範囲の敵を殲滅し、仲間の元へと向かおうとしたディータであったが、その直後に、またも骸骨達が地面から出現したのだ。
 中にはフードを被った強力な個体もおり、簡単には持ち場を離れることが出来なかった。
 もし離れれば、すぐにでもエルフたちを破壊されてしまうだろう。


「エリンシアは無事かしら……」


 もし、自分が持ち場を離れエルフたちを犠牲にしてエリンシアを護るとなれば、エリンシアはそれを喜ばないだろう。ディータを責めることはないだろうが……恐らくあのエリンシアは自分を責めることになる。
 そんな思いをさせるわけにはいかない。


「レン……頼むわよ」


 


 エルフの集落の中心の広場であるこの場所でも未だに戦いは続いている。
 鎧を着た骸骨達を退けたレンであったが、退けたすぐ後にまたも骸骨達は現れた。

 周りに仕掛けておいたトラップはすでに使い切り、レン自身も満身創痍である。
 だが、そんな状態においても、この広場にあるエルフ、そしてエリンシアの像には傷一つついていなかった。レンがボロボロになりながらも護り続けているのだ。

 だが、その反面、レンの身体はすでにボロボロである。
 骸骨一人一人であれば、そこまで強敵ではない、だが、すでに何百と言う数と戦い続けたレンの体力は尽きかけているのだ。


「はぁ……はぁ……キツイな……だが、エリンシアには指一本触れさせん」


 持っていた手のひらサイズの球を骸骨達の周辺に投げつけると、その球は爆発をし、骸骨を吹き飛ばす。
 

「今度こそ……終わったか……」


 レンが肩で息をしながら周りを見回すと、見える限りには骸骨の姿はない。
 だが、安堵しようとしたその瞬間、広場の噴水の近くの地面が盛り上がる。
 エリンシアの近くである。


「させんっ!」


 レンは弾かれたように走り出し、地面から出現した骸骨とエリンシアの間へと移動した。
 改造した銃を取り出すと、地面から出てくる骸骨に向けて発砲する。


「何っ!?」


 今までであればそれで弱い骸骨なら倒せていた。鎧の骸骨であっても多少のダメージくらいは与えられていたのだが。今現れたローブを羽織った骸骨はまるで効いていないようであった。

 ローブの骸骨は骨で出来た口を振動させカタカタカタと笑っているかのようである。


「ならばっ、最後の一発をお前にくれてやる!」


 炎の力を込めた弾を取り出すと、それを銃に装填させレンは骸骨に向かって放った。
 その弾はローブの骸骨に着弾すると、大きな爆発を起こす。
 その威力はすごく、その爆発音で近くの噴水の水が震えて波を起こすほどであった。
 だが、その爆発を受けてもローブの骸骨はダメージを受けていなかった。


「馬鹿な!?」


 ローブの骸骨は掌に赤い球を出現させると、レンに向ってそれを放つ。

 レンはそれを一瞬避けようとするが、後ろにいるエリンシアの像に気づき、その行動を止める。
 そして、赤い光球を自分の身体で受け、炸裂させた。


「ぐああああ!?」


 レンはその威力に吹き飛ばされ、そのまま噴水を破壊する。
 壊れた噴水から噴き出している水があたりへと散乱する。
 レンはなんとか立ち上がるが、光球の当たったお腹の辺りが抉れていた。

 普通の人間であればその傷で即死となっているだろう。
 だが、超再生をもつレンは痛みをこらえながらもなんとか立ち上がる。

 その姿を見て、ローブの骸骨はカタカタカタとその頭をまたも振るわせた。
 そして、もう一度、手に赤い光球を出現させると、再びレンに目掛けて放つ。
 かろうじで立っている状態であるレンはそれをもう避けることは出来ない。
 光球はレンの右肩に当たると、炸裂し、レンの右腕を吹き飛ばした。



「があああああ!?」


 超再生を持つレンであるが、そのとき受ける痛みはあるのだ。
 だが、自分でも自爆をしたり、自分の身体を一切庇おうとしないレンはその痛みには慣れている。
 右肩を抑えながらも、痛みを我慢し、敵を見据えていた。
 その眼には怯えも恐怖もない。
 唯々、敵を倒す……それだけを考えているようであった。
 だが、すでにレンには武器がない。
 切り札であるクロスボウはすでに使ってしまい、弦の切れている状態である。
 目の前のローブの骸骨が弦を悠長に張り替えさせてくれるわけがない。
 そして、改造銃の球もすでに品切れだ……あるのは数個の爆弾のみである。

 だが、この爆弾の威力は先ほどの魔導銃の威力と大差はない。
 残った数個を同時に爆発させても奴は倒せないだろう。
 ならば………。

 レンは持っていた爆弾のうち一つを上空へと投げる。
 確かに今の自分は目の前の敵を倒すことは出来ない……だが、ディータやクオンが上空に投げた爆弾の意味を理解してくれればエリンシアを助けに戻ってきてくれる筈だ。
 ならば、自分はここで時間を稼げばいい……それくらいであれば出来る。


 ディータやクオンであればこの敵をも倒してくれるだろう……レンはそう思った。
 それは正しい、確かにディータやクオンであればローブを羽織った骸骨も難なく倒せている……そう、倒しているのだ……今現在も。

 ディータやクオンの所にも敵が現れている……腹を抉られ、右腕をも吹き飛ばされ痛みを耐えているレンは自分以外の所にも敵が現れている……そんな当然の事にも頭が回らない状況であった。
 今のレンの頭にあるのはなんとしてもエリンシアを護る……それだけである。


「さあ、ローブのクソ野郎……ダンスでも踊ろうか」


 レンは残った左手でローブの骸骨を挑発する。
 ローブの骸骨は再び、赤い光球を出現させると、レンに向って放った。
 レンはその光球に残っている爆弾の一つを投げつける。
 爆弾が爆発し、光球はその爆風でかき消された。


 光球を防がれた敵は、今度は杖を掲げてこちらへと向かってくる。
 肉弾戦に切り替えたようだ。
 確かに素早く動けない今のレンであればそれも有効であろう。
 あの杖は他のローブの骸骨の骨を砕くほどの威力があるのだから、やろうと思えばレンの骨を砕くなんてわけがないはずだ。


 レンもそれに気づいたのか、銃を取り出し、通常弾を発砲する。
 魔力を込めた弾はそこを尽きたが普通の弾であればまだるのだ。
 だが、魔力弾ですら効かなかったのだ、当然通常の弾は敵には効かなかった。
 それでも、牽制くらいにはなるかと、撃ち続けるレンであるが、骸骨に接近を許してしまう。
 そして振り上げた杖をまともに脇腹に受けてしまい、またも吹き飛ばされ地面を転がった。


「がっ……ふっ……」


 超再生を持つレンであるが不死身と言う訳ではない。
 体のどこかにある核となる部分を壊されてしまえば死んでしまうのだ。
 その核はレンの意思で体の中を自由に移動させることが出来るのだが……もし先ほどの右腕のように消し飛ばされてしまえば確実に殺されてしまう。


「死ぬわけにはいかん……俺はまだ……なにも護れていない」


 レンは立ち上がると、銃を構える……効かないと解ってはいるがレンにはもう武器がこれと爆弾があと一つ残っているだけなのだ。

 よろよろと立ち上がるレンが骸骨を睨むと……ローブの骸骨はこちらをすでに見ていなかった。
 骸骨の目線の先……それは、石像となったエリンシアであった。


「させんっ!」


 レンは走り出す、ボロボロになった体で必死に。
 ローブの骸骨はゆっくりとエリンシアに近づくと、持っていた杖を振り上げる。
 その杖が振り下ろされる寸前でレンはその杖の行く手を止めた。


「この子は殺させない……貴様のようなモノに……エリンシアは気づ付けさせん!」
「カタカタカタ」


 ローブの骸骨はまるであざ笑うかのように骨を震わせる。


「くっ、なんて力だ……」


 だが、レンは次第に押され始めた。
 骸骨のパワーで徐々に杖が下に下がり始める。
 このままではエリンシアへと届いていしまう、そう思ったレンは思い切って前へと走り、骸骨の胴体へとしがみつく、そして勢いよく骸骨を突き飛ばし、エリンシアから距離をとった。


「俺と共に地獄を味わえ……」


 残っていた最後の爆弾を骸骨の口の部分へと突っ込む……そして。
 爆発させたのだ。

 至近距離で爆発を受けたレンは体を四散させた。
 ちぎれて飛んできた頭の部分がエリンシアの像の近くへと転がってくる。


「また、君に怒られるかな………」


 飛んできたレンは少し自嘲気味に笑いながらそう呟いたのだ。


「カタカタカタカタ」
「……馬鹿な」


 首だけとなったレンの視線の先にローブの骸骨が骨を震わせながら歩いてくる。
 先ほどの爆発でもローブの骸骨は倒せなかったのだ。


「……すまん……エリンシア……君を護れなかった」


 すでにすべてを使い果たしたレンが苦痛の表情で言葉を漏らした。
 だが、その次の瞬間、目の前を骨を笑わせながら歩いてくるローブの骸骨が一瞬にしてバラバラになったのだ。


「……なんだ?」


 一瞬の出来事にレンは眼を見開く。
 その視線の先には一人の女性の姿があった……いや……女性なのだろうか?……恐らく女性だ。
 その女性(?)がこちらをクルリと向く。
 その手にはバトルアックスと呼ばれる大斧を持っていた。
 女性(?)はゆっくりとこちらに近づいてくると、その大きな口を開いたのだ。


「あらぁん、命を懸けて女の子を護るなんてイケメンねぇん……惚れちゃいそうだわぁん♪」
「………な……に?」


 恰幅のいい女性(?)はそう言うと首だけとなったレンに投げキッスをしてくる。
 その姿に、さしもレンも今は首だけしかないが背筋が凍る思いがした。


「って、あらぁん!?そっちの石像ってエリンシアちゃんじゃないのぉん!?」
「エリンシアを知っているのか?」
「当然よぉん、お友達ですものぉん!」
「なん……だと?」


 まさかの……まさかのエリンシアのお友達発言にレンは思考が止まる。
 だが、エリンシアの友人ということであれば、この女性(バケモノ)は味方ということなのだろうか。


「……って、あらぁん?いやぁあああああん!?」
「な、なんだ!?」


 この見た目からいやぁあああんだと!?
 ……いや、違う、何かあったのか!と、レンが驚く。


「生首が喋ってるわぁあああん!?」
「今更か!?」


 まさか、悲鳴の原因が自分とは思わなかったレンが珍しくツッコミを入れていた。
 先ほどまでの命の危険、そして、仲間を護り切れなかった自責の念も一気に吹っ飛ぶほどのこのふざけた状況に、頭しかないレンはその最後の頭が痛くなる思いであった。


「む!」
「………あらぁん?」


 女性(バケモノ)の後ろで、地面が盛り上がる……まだ続くのか。
 盛り上がった地面から骸骨達が何十体と現れた。
 この化け物が強いとはいえ、この数を相手にエリンシア達を護れるか……もう自分が仕掛けたトラップもない……ここは……。


「すまない、エリンシアの友人として頼みたい……このエリンシアを連れて逃げてくれないか」

 エリンシアの像を連れて逃げてくれ……そう口にしたレンはそれがどういう意味かはちゃんと理解している。つまり他のエルフたちは見捨てるということである。もちろん、レンだって他のエルフを護りたいという気持ちはちゃんとある……出来ることであれば護りたかった。護れなければいつの間にか自分の心の中にいる女性が悲しむ顔を思い浮かべてしまうからである。
 きっとエリンシアはそれを喜ばない。自分だけ助かるなんて絶対したくないだろう……だが、それでもレンはエリンシアだけでも救いたかったのだ。


「うっふうううううううん!!!」
「なん……だと……」


 本日何度目の思考停止だろうか……レンが悲痛の思い出、口にした願いは目の前の化け物が斧を振るだけで粉々になる骸骨達と共に吹き飛んでいったのだった。

 


 
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