上 下
353 / 361
2部 3章

辛勝

しおりを挟む
「その頭、粉砕してあげるわ!」


 ローラの鞭がローブの骸骨の頭を捉える。
 他の骸骨達であればその一撃で粉砕できる威力を持つローラの鞭であるが、ローブの骸骨はその一撃を受けても少し後ろに仰け反るだけであった。


「どんな骨をしてるのよ!」


 ローラは悪態を吐きながら再び鞭を振るう。
 だが、今度はその攻撃が届く前に、ローブの骸骨が赤い光球を放ってきた。


「わっと!」


 ローラはその場を飛びのきその光球を躱す。
 ローラを逃した光球は後ろの家を軽々と吹き飛ばす。


「あんなの当たったら一溜まりもないわね……」


 ローラが額に冷や汗をかく。
 その間にローブの骸骨は今度は両手に赤い光球を出現させ、それをローラへと投げつけた。


「ちょっ、連射できるの!?………ふうっ……勘弁してよね」


 その光球たちを何とかかわし、げんなりとした表情で言うローラ。
 何とかして、あのローブの骸骨を倒さなければ……いや、待てよ……メリッサにディータかクオンを呼びに行かせるという手もあるのでは?………いや、恐らく他の所にもコレが沸いているに違いない……こちらの人数は少ないのだ、手助けに来れるとは思わない方がいい。それに移動している間にメリッサが襲われたら大変である……やっぱり、私が何とかして倒さないと……そう思い、ローラは腹をくくる。


 …………とはいえ、どうする?
 鞭の攻撃は全くダメージが無いと言う訳ではないみたいだが、敵を倒すには至らない。
 となれば………あれを使うしかないわね。


「こっちよ!!」


 ローラは鞭で一撃を当てると、後ろを向いて走り出す。
 ローラの向かう先には石化したエルフがいた。


「ローラさん何を……そうかっ!」


 まるで、いや、明らかにエルフの元へと敵を導いている姿を見て一瞬メリッサが戸惑うが、そのすぐ後にはローラの考えに気づく。
 ローラは思いっきりジャンプをすると石化したエルフの前へと着地する。


「さあ、こっちにいらっしゃい!」


 挑発するローラにローブの骸骨はゆっくりと近づいてきた。
 そして、ある程度距離が縮まった瞬間……ローブの骸骨の足元が爆発した。
 レンのトラップである。
 その威力は凄まじく、爆発がローブの骸骨を包み込む。


「どうよ!」
「ローラさんさすがです!」


 残っていた普通の骸骨を倒したメリッサが喜ぶ……が。
 爆煙で見えなくなっていたローブの骸骨が、杖を振るい、その爆煙を吹き飛ばす。


「なっ……嘘でしょ!?」


 ローブの骸骨を倒したと思い近づいてきたメリッサにローブの骸骨は気づき、赤い光球を手に出現させる。


「マズい!!」


 それを見た瞬間ローラは走り、ローブの骸骨へと近づく。
 そして、光球を出現させた方の手に鞭を振るい、その手を絡めとった。


「王女ちゃん!離れてなさい!」
「は、はいっ………っ!ローラさん!!」


 鞭に手を絡めとられていたローブの骸骨が、持っている杖を地面に刺しもう片方の手を空けると、その手に光球を出現させる。
 その狙いはローラである。
 相手の動きを止めているローラであるが、同時に自分の動きも止めてしまった。
 そこを狙われたのだ。


「やばっ!?」


 ローラに目掛けて光球が放たれる。
 メリッサを助けることに気をとられていたローラは自分が失敗したことに気づく。
 咄嗟に鞭から手を離し、体を捻るが光球はローラの持っていたムチに当たり、その場で爆発を起こしてしまう。

 遠くにまで避けることのできなかったローラはその爆風を間近で浴びてしまい、思いっきり吹き飛ばされるのであった。


「ローラさん!!」
「くっ………」


 地面を盛大に転がったため、全身がボロボロになっているローラ。
 そのローラに慌てて近づいたメリッサは治療の魔法をローラにかけた。


「大丈夫ですかローラさん……ごめんなさい、私が不用意に近づいたから……」
「いいえ、私も油断していたのよ……でも、参ったわ……あれどうやったら倒せるのかしら……」


 得意の鞭も効かず、レンのあの爆発でさせ耐えたローブの骸骨………はて?おかしくないか?


「どういうこと?」
「どうしたんですかローラさん?」
「あの骸骨なんでローブをまだ羽織っているの?」
「………???」


 ローラの言いたいことが掴めないメリッサが頭にハテナを浮かばせる。


「おかしいでしょう?あの骸骨がいくら頑丈だったとしても、纏っているのは普通のローブよ?あの爆発なら消し飛んでいてもおかしくないわ」
「……あ、確かに」


 あのローブも魔法のローブや魔導具だったりするの?
 確かにその可能性もあるけど……そう考えたローラが「そうだ」と気づく。


「王女ちゃん、貴方の看破のスキルであのローブが何か見破れない?」
「は、はい、やってみます!」


 そう言って、ジッとローブを見つめるメリッサ。
 少しの間見つめると、首を横に振った。


「あのローブは普通のローブにしか見えません……私のスキルで見破れないだけかもしれませんが……」
「なら、あの骸骨全体を見て……恐らく何か秘密があるはずよ」
「は、はいっ」


 再び、今度は敵の全体を見るように見つめるメリッサ……すると気づいたようにハッとする。


「あの骸骨の持っている杖……あれが異常な魔力を放っています……恐らくあの魔力で全身を覆っているのかと……」
「なるほど……」


 つまり、あの杖があの骸骨の頑丈さの秘密ということだろう……それならっ!


「王女ちゃん、協力をお願い」
「はいっ!」


 ローラが手放してしまった鞭の元へと走り出すと、ローブの骸骨はローラを追うように見る。
 だが、その瞬間、メリッサの爆発の魔法がローブの骸骨を捉えた。

 ローブの骸骨はその魔法をメリッサの鞭を喰らった時と同じように仰け反るだけで堪え、今度はメリッサの方へと向く。

 自分の方に注意を向けられたことを感じたメリッサは、その場から走り出す。
 先ほど、ローラがやったようにエルフの像の近くへ行き、レンのトラップに敵をかけようと言うのだ。
 だが、ローブの敵はそれに気づき、今度はその場で赤い光球を放ってきた。


「えっ!?」


 その攻撃は予想していなかったのか、メリッサは驚く。
 だが、ここで避けてしまうと、後ろのエルフの像が粉々に砕けてしまう。
 そう思ったメリッサは咄嗟に爆発の魔法を地面に放ち、レンのトラップを作動させた。
 レンのトラップが爆発を起こすと、飛んできた光球を飲み込む。
 飲み込まれた光球を、その爆発の威力で消し飛んだ。


「危ない……くっ……」


 このままここにいると、さらに攻撃をされ、今度こそエルフの像を壊されてしまうと思ったメリッサはその場から移動をする。
 
 そのメリッサに対して、ローブの骸骨は連続で赤い光球を放つ。
 メリッサは必死にその攻撃を避けながら地面を転がるが、爆発する光球の爆風に飲み込まれ吹き飛ばされてしまう。

 吹き飛ばされたメリッサは家の壁にぶつかって止まる。
 動きを止めたメリッサに、ローブの骸骨は掌に今まで以上に大きな光球を出現させた。


「……くっ」


 全身をボロボロにしたメリッサは、まともに動けずにいる。
 ローブの骸骨は掌をメリッサに向けると光球を放とうとするが、メリッサの方向へ向けたはずの掌がいきなり上を向いてしまった。

 放たれた赤い光球は上空へと打ちあがると弾ける。


「私を忘れないでほしいわね!」


 メリッサを救ったのはローラであった。
 ローラは拾いにいった鞭を振るうと、またも敵の腕を絡めとり、上へと跳ね上げたのだ。
 そのおかげで光球は上空へと打ちあがったのである。


「王女ちゃん!!」
「はい!!……風弾ウィンディローア!」


 メリッサの放った風の弾丸がローブの骸骨の杖を弾き飛ばす。


「ナイスよ!」


 それを見たローラが今度は持っている鞭を思いっきり引っ張った。
 強いとはいえ、敵は骸骨である。
 その重さはさほどではないのだろう、ローラの腕力で引っ張られた敵は、その体を浮かし、思いっきり投げ飛ばされた……そして。


 投げ飛ばされた敵が地面を転がると、その地面で再び大爆発が起きた。
 そう、レンのトラップへとローラは敵を投げ込んだのだ。
 しかも、今度は杖を持っていない。
 
 爆煙が再び包み込む……そして、こんどはそれが振り払われることは無かった。
 爆煙が晴れたその場所にはバラバラになった敵の姿があったのだ。
 そして、そのバラバラになった体は赤い粒子へと変わり、消えていった。


「……ふう、なんとか勝てたわね」
「はい、やりました!!」


 ヘタリとその場に座るローラに、メリッサは抱き着きながら喜んだ。
 二人ともボロボロであるが、その顔は晴れやかであった。
 あれほどの強敵を二人で倒した達成感から笑顔になったのだ。


 ………だが、その笑顔は次の瞬間打ち砕かれる。
 再び、地面が盛り上がり、骸骨達が現れたのだ……。


「嘘でしょ……」
「……そんな」


 二人の顔は絶望へと変わった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

ちょっっっっっと早かった!〜婚約破棄されたらリアクションは慎重に!〜

オリハルコン陸
ファンタジー
王子から婚約破棄を告げられた令嬢。 ちょっっっっっと反応をミスってしまい……

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...