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2部 2章

侵入

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「さて……」


 私は根暗坊主と別れてアンダールシアの城の中へと侵入している。
 城の中をふわふわと移動していると、街の中と違い城の中は様子がおかしい感じがした。


「王女の野郎許せねぇ……」
「でもよぉ……あの王女が何で王妃様を殺すんだ?」
「知らねぇよ……だけど俺の家族は王様と王妃様に貧困でくたばりそうな時に助けられてんだ……あんな良い人たちはいねぇ……その王様がそう言ってんだ嘘なわけがねぇ」
「そうだけどよぉ……」
「お前、あの犯罪者の肩を持つのかよ?」
「いや、そうじゃねぇけど……」


 どうやら、城の中の人間はメリッサが母親を殺したという報せを信じるものと信じないものに別れているらしい。それはそうだろう……メリッサはこの城の中で暮らしていた。ならば、城で働く人間はメリッサがどういう人間なのか知っているはずである。それ故に、信じきれない人間もいるのだろう。

 そして、王と王妃が良い人間だったというのも本当の事の様だ。
 メリッサを仇として見ている人間は大抵、王と王妃に恩のある人間の様だった。
 そのため、偽物の王の言うことを真に受けてしまっているのだろう。


「厄介と言えば厄介よね……」


 恩から来る忠誠心はそうそう壊せるものではない。
 そうなると、いくら言葉で訴えても、聞く耳を持たないだろう。
 あの王が偽物だって証明できればいいんだけれどね……。


「それより聞いたか?近衛の奴らが離反したって……」
「ああ、あいつらも王女と共にこの国を乗っ取るつもりらしいな」
「それで奴らが潜伏しているのが王都の外にある砦らしい」


 離反した……?ということはこの城の中にもあの王様が偽物と気づいた人間がいるということかしら……それならば、その人間を味方に引き込めないだろうか……。


「だけど、そいつらはもうすぐ討伐されるんだろ?」
「ああ、明日の昼には部隊が出て殲滅するって聞いたぜ?」


 良い王様が聞いて呆れるわね。話し合いもなしにいきなり討伐ね……。
 まあ、王妃殺しの共犯にされているのならそれも当然か……むかつくわ。


「明日の昼ね……」


 助けに行く価値はあるだろう……根暗坊主と相談してみようかしらね。
 

「おい……あいつらだ……」


 兵士の男が顎で指した先にはお城には似つかわしくもない異様な雰囲気を放つ男たちがいた。


「紅の傭兵団のやつらめ……」
「あん?何見てやがんだ?殺されてぇのか?」


 兵士がその集団を見ていると、集団の中でもとりわけ頭の悪そうなガラの悪い男が威嚇してくる。


「いえ……」
「そうそう、生意気な態度をとるんじゃねぇぞ?俺たちは王様に頼まれて来てんだからよぉ」
「はい、申し訳ありません」
「ハハハハハハ!」


 そう言うとガラの悪い男は気分よさそうに仲間の元へと戻っていく。
 私は自分の姿が見えないのを良いことにその男の集団へと近づく。


(紅の傭兵団とか言ったわね……どういう集団なの?)


「おい、ガラドルフ。遊んでんじゃねぇ」
「おっと、すいやせん。副団長」


 副団長と呼ばれた長髪の男がガラドルフを睨む。
 それにしてもこのガラドルフという男、笑い方もそうだけど喋り方も癇に障るわね。
 いかにも無法者という喋り方に私は苛立った。


「それで、近衛の討伐には誰が行くんだ?」
「マストリスだ」


 バンダナを巻いた男が、副団長に尋ねると、副団長は簡潔に答えた。


「ちっ……あの野郎か……美味しい奴め」
「美味しい?どういうことだよトルネス?」
「近衛隊には女が何人かいるって話だ。それも上玉の」
「マジかよ、マストリスの野郎……一人だけ良い思いしやがって」


 近衛隊というと、先ほど聞いた砦にいる離反した人たちの事よね……。
 

「くだらん、俺たちは任務をこなすだけだ……行くぞ」
「へ、へい」


 副団長の男が促すと他の男たちもついて行った。

 傭兵団ね……面倒な連中がいるわね……それにあの副団長とか呼ばれていた男……かなり強いわ……油断はしないようにしないといけないかしら……。


「さて、街とは違って城の中はかなり雰囲気が悪いわね……離反している人もいるとなると……もしかして……」


 私は城の様子を見て一つの事を考える。
 王が偽物と気づいたものがいるのであれば、それを言及したものもいるはずである。
 そう言った人間が辿る道は……近衛隊の人達と一緒に砦に逃げているか……もしくは殺されているか……そして殺されはしなかったものの捕られられているという可能性である。


「牢屋と言えば、地下よね」


 私はそう考えると地下への階段を探すことにした。

 地下への階段はすごく簡単に見つかった。
 まあ、牢屋が城の中心にあるということはなかなかないだろうからそれらしい離れた建物を探してみたら一個目でビンゴだったのだ。


「さて……」


 ステルス状態の私は見張りの兵士を気にせずに牢屋の中へと入りこんでいく。
 
 牢屋の中には何人かの人間が捕らえられていた。
 と、言っても……見た感じ、盗人とか罪人と言った感じである。
 つい最近まで、城の中に勤めていた人間と思える人物はいなかった。

「外れだったかしらね……」
「………ろっ………だ……」
「ん?」


 奥の方の部屋から何か怒声のようなものが聞こえる。
 兵士たちの休憩所かと思っていたけど、どうやら違うようだ。
 私はその扉の前へと移動し、中の様子を伺った。
 そこには磔にされた男とそれを乱暴に蹴り飛ばす兵士の姿が見えた。


「いい加減に白状しろや!!」
「……がはっ」


 兵士の蹴りが男の腹へ決まる。
 磔にした男をいたぶっているようだ。


「とっとと、近衛の奴らの行方を教えやがれよぉ!」
「ぐっ……知らん……」
「知らねぇわけねぇだろ、近衛の隊長さんよぉ?」
「がっ……」


 どうやら、あの磔にされている男は件の近衛部隊の隊長らしい。
 ということは、砦に籠っているのは隊長を失った部隊ということだ……ん?
 近衛部隊が王都の外の砦にいることは上の兵士たちは知っていたわよね?
 なら、なんでこの兵士は尋問しているのかしら?


「ハハハ!強情な奴だ!そんなに蹴られたいのか!!ハハハハ!」


 こいつ………。
 違う、こいつは尋問や拷問をしているわけではない。
 ただ単に、あの男をいたぶりたいだけだ。

 ………最低ね。


「まあ、俺はお前が白状しようが何しようがどうでもいいけどよぉ!元から気に入らなかったんだよなぁお前!王に気に入られて近衛の隊長になってなりやがって!ただの冒険者上がり調子に乗りやがってよぉ!!」


 くだらない……ただの嫉妬じゃない……。


「ハハハハ!もっと痛めつけてやるぜ……ぎゃああ!!」
「はあ……手を出しちゃったわ」


 私は、我慢できずに拷問していた兵士に雷の魔法を喰らわせてやったのだ。


「貴方は……」
「とりあえずは味方よ……とっとと逃げるわよ」


 さて、根暗坊主になんて言い訳しようかしらね……今回は情報収集だけの予定だったんだけど……。
 ここで私たちの存在が敵にバレると動きにくくなってしまう……とはいえ、見つからずに逃げるのは難しいかしらね……この牢屋の入り口にも兵士がいたし……見つからずに逃げるのは厳しいか……私のステルスは自分にしかかけられないしね。


「侵入者だ!!!!」


 私が悩んでいると、牢屋の入り口の方から声が聞こえる。
 嘘、もうバレたの!?


「城の中に賊が侵入したぞ!!!お前たちも来い!!」


 そう言うと、足音はこの建物から離れていく。
 どうやら、侵入者というのは私の事ではないようだ。


「あら、あの根暗坊主見つかったのかしら?」


 あいつが見つかるというのはちょっと考えられないけれど、他に思い浮かばないわよね。
 この男の仲間が助けに来たというのなら城の中じゃなくここに来ているだろうし。
 根暗坊主、油断したのかしら………無事でしょうね?


「考えていても仕方ないわね」


 私はそう言うと、磔にされている男の手枷と足枷を風の魔法で斬って外す。


「とりあえず逃げるわよ」
「う……ぐっ……」
「ほら、しゃんとなさい!」


 私は男に治癒魔法をかける。


「こ、これは……」
「治癒魔法よ。それで動けるでしょう……入り口の兵士たちは城内に入った賊を探しに行ったわ。逃げるなら今がチャンスよ」
「かたじけない」


 私は男を連れて一度、城から出ることにした。
 根暗坊主め……死んだりしたら承知しないわよ……。
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