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2部 1章

鬼化

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「ぐあっ!」
「浅いかっ!」


 クオンの剣が邪鬼の胸元に傷をつける、だが、深くは切り込めなかったのか致命傷とはいかなかった。


「ちっ……厄介な奴らだ……」


 邪鬼がこちらを睨みながら悪態を吐く……。
 間合いをとられてしまった……ヤバいね、さっき私の近くに移動してきた方法が分かっていないのに、また、瞬間移動みたいに移動してきたら対処できるだろうか?

 駄目だ、対処できるとは限らない……それならっ!


闇の刃オプスラミナ!」


 私は、間合いを取った邪鬼に、闇の刃を放つ。


「ちっ」


 その瞬間、邪鬼の姿がその場から消えた。
 なっ、一体どういうこと?本当に瞬間移動できるってこと?
 だとしたら、どこに?


「はっ、まずはお前からだ、坊主!お前が一番厄介そうだからな!」
「クオン!」


 消えた邪鬼が、クオンの背後に現れる。
 やっぱり瞬間移動みたいな能力……いや、天啓スキルを持っているってこと?
 クオンは完全に背後をとられている……だめっ!


「死ねぇ!」
「―――――お断りします」


 だが、完全に背後をとらえていたと思われていたクオンが邪鬼の鎌を軽々と躱した、そして――――。


「なにぃ!?」
「ハアッ!」


 クオンの横薙ぎが邪鬼の胴をとらえるのだった。


「があっ……な、なぜ……」


 自分の攻撃が躱されるとは思っていなかったのだろう驚愕する邪鬼。
 一体どうして、クオンは邪鬼の攻撃が分かったのだろう……。


「なぜって、さっき見ましたから……あなたがカモメの影からでてくるのを……」


 影から……?


「ちっ」
「貴方の天啓スキルは影魔法……もしくは影移動といったところでしょうか?でも、間合いを取った時に影を使った攻撃をしてこなかったところを見ると、影移動の方ですよね?それなら、出てくる場所が影だと分かっているのなら脅威ではありません」


 影移動……なるほど、確かに影から出てくるって言うのが分かっていれば敵が消えたら自分の影を気にしていればいいんだ……出てくるのが分かっていれば不意を突かれることはないってことだね。

 
「ちっ……」


 邪鬼は自分のおなかを押さえながら苦虫をつぶしたような顔をしていた。
 どうやら、クオンの言っていることは当たっているらしい。


「やるねぇ、お前さんの言う通りだ、俺の天啓スキルは影移動……けどよぉ!それを見破ったからって俺に勝てるわけじゃねぇんだぜ!」


 邪鬼が吠えると同時に、私に悪寒が走る。
 なに……これ!?

 
「いけない……っ、クオンさん気を付けて!!」


 シルネアがクオンに呼びかける、一体何が起きるって言うの?
 

「ガアアッ!」


 再び、邪鬼を見ると、邪鬼の姿形が変わっていた。
 燃えるような赤い髪が伸び、筋肉が隆起し……邪鬼と言う名にも関わらず、髪の色や瞳の色は違えども人族と同じような姿かたちをしていた邪鬼が、その名の通り、まるで鬼のような姿へと変貌を遂げていた。



「なっ!?」



 その邪鬼が鎌を振るう、なんとかそれに反応したクオンが、その鎌の威力を殺しきれず、吹き飛んだ。
 ………なんて力……見た目通り、かなり筋力がアップしているのだろう、クオンを軽々と吹き飛ばした。ただただ、鎌を振るっただけで……。
 
 これは、マズい……。
 あれで影移動をされたら……。


 私がそう思っていると、次の瞬間、邪鬼の姿が消える―――――影移動だ。

 影を渡った邪鬼は次はディータの後ろへと出現した。


「ディータ!!」
「ちっ、闇雷纏シュベルクレシェント!」


 ディータは咄嗟に体を強化して、その場を離れるも、邪鬼の振るった鎌を完全に避けきれず、弾き飛ばされる。


「くっ……強化してなかったらヤバかったわ……」
「ディータさん下がってくださいまし!ワタクシが前に出ますわ!光纏躰リヒトコール!」


 私のパーティの中で唯一、前線で戦えないディータの代わりに、エリンシアが邪鬼に飛び掛かる。
 いや、武器のない私も今は前では戦えないので今は二人か……。


「ぐっ、お馬鹿力ですわね!光祝福リヒトブレス!」


 鎌を拳で受け止めるという離れ技をやってのけるエリンシア、だが、リヒトコールで抑えきれないと判断したのか、切り札であるリヒトブレスを使う。


「グゥっ」
「そこですわ!!」


 エリンシアが邪鬼の体制を崩し、その拳を邪鬼のお腹に叩き込もうとする、その瞬間、邪鬼はまたもやその場から消えた。
 影移動で間合いを取ったのだ。
 今度は誰かの陰ではなく、岩の陰から出現した。
 あの影移動、奇襲だけでなく、敵の攻撃を避けることにも向いているのか………厄介だ。
 しかも、今の邪鬼の力で奇襲をかけられれば脅威となる、いきなり目の前に猛獣が出現するようなものなのだから……。


「それにしても、邪鬼にはあんな力もあるんだ……」
「鬼化と呼ばれるものです、邪鬼が強敵と出会ったときにのみ使う奥の手です」


 なるほど……。

「何か弱点とかはないの?」
「特には……いえ、強いて言うのであれば、鬼化が解けたとき、しばらくの間、邪鬼はまともに動けなくなります」


 それだけ、鬼化は体に負担をかけるということか……でも、鬼化が解けた後じゃ意味がないよね……うーん。結局、力押しで勝つしかないのだ。
 
 周りでは、街から魔物を倒すために来た、街の人達や冒険者が、邪鬼の姿におびえ始めている。
 仕方がない、あれは恐怖そのものだとも言えるのだから――――――幸いなことにまだ、魔物の第三波は来ていない……次が来る前に、あの邪鬼を倒さないと……でも、どうやって……合成魔法を普通に撃ってもあの影移動で逃げられる……なんとか、敵の動きを止めないと……そうだ。


 敵の動きを止める魔法……あの時、あの人が使っていた魔法なら……使ったことないし、光魔法はそこまで得意じゃないけど、やってみるか……。


 吹き飛ばされたところから戻ってきたクオンとエリンシアが、邪鬼を押さえているうちにやれることはやってみよう!
 私はそう決めると、魔法を唱えるのだった。
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