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2部 1章
領主
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私とギルドマスターは冒険者ギルドを後にし、このラリアスの街の領主さまの館まで来ていた。
「おや、フランク様……どうされました?」
領主の館の門番をしている兵士が、ギルドマスターを見て話しかけてくる。
「ジュラーノ様に、急ぎの話がある、通してもらえないか?」
「急ぎ……ですか、少々お待ちくださいませ、領主様にお伝えしますので」
「ああ」
そう言うと、門番の人は、館の中へと入っていった。
しばらくすると、門番の人は戻ってきて、館の中へと案内してくれた。
どうやら、領主は会ってくれるようだ。
「あら、フランクおじ様……怖い顔……何かあったんですね?」
領主のいる部屋へと向かう途中、一人の女性に話しかけられる。
ギルドマスターの知り合いなのか、ギルドマスターの顔を見ただけで緊急事態と判断してくれたらしい。
「ああ、アンリエッタ……少々マズいことが起きたのだ」
「マズいことですか……お父様の所へ行かれるのですね、私も一緒に参ります」
お父様ということはこの子は領主の娘さんなのかな、うーん年齢的には二十歳くらいかな?
私達よりちょっとお姉さんって感じだ、ロングの銀髪をたなびかせ、いかにもお嬢様という感じの立ち振る舞いだ。歩き方にも気品がある。
「入れ」
館の一番奥にある部屋のドアをノックすると、中から返答があった。
ドアを開けて中へ入ると、そこは恐らく執務室なのだろう、書類の類が机の上に大量に置かれており、その机の前にアンリエッタと呼ばれた女性と同じ銀髪の男性が立っていた。
「フランク殿、この忙しい時に一体何用だ?」
「すみません、領主様……実は問題が起こりまして」
「問題?一体なんだ?そこの娘も関係しているのか?」
大きくため息を吐きながら領主は私の方を見てくる……むう……なんか嫌感じ。
「実は森に邪鬼が現れたようなのです」
「なん……だと?」
邪鬼という言葉を聞いた瞬間、領主の顔色が真っ青になった。
「ば、馬鹿な、邪鬼だと!?なぜだ、なぜこのような時に!!」
「解りません」
「馬鹿な……なぜ……」
「お父様、悩んでいる暇などありません!すぐに王国に援軍を要請しなければ!」
「馬鹿者!王国に知らせ、援軍を要求してもこちらに着くのは5日はかかる……」
5日……邪鬼がどれくらいで襲ってくるか分からないけど、あの邪鬼はそんなに気の長い方ではないと思う……早ければ今日にも、遅くても明日には襲ってくるんじゃないだろうか……。
「すぐに逃げる準備だ、必要なものだけ持って王国に逃げるぞ!馬車を用意しろ!」
「な、何を言っているのです領主様!」
いきなり逃げ腰の領主にギルドマスターが慌てる。
それはそうだ、ここで領主が逃げるということはラリアスの街の人達を見捨てるということである。
「お父様!逃げるなんて駄目です!街と人達はどうするのですか!」
「知るか!私はただでさえ、こんな辺境の領主などやりたくなかったのだ!……それなのに魔の海の結界が破られたかもしれないこの時に………さらに邪鬼が現れただと!私は逃げるぞ!誰が何と言おうと逃げるぞ!」
駄目だ、この領主、完全に心が折れている。もう、貴族としての威厳すらなく、子供のように泣き喚いている……っていうか、待って……。
「え、魔の海の結界が破られたって……」
「うむ、まだ一部の物しか知らぬことだが、先日、魔の海の調査をした者たちが結界が消滅していたと報告してきたのだ」
「魔の海には昔、神が魔を封印したと言われている……その結界が破られたのだ!魔が解き放たれたということだろう!そうなれば、一番先に狙われるのは魔の海に一番近いこのラリアスだ!」
うわぁお……結界無くなってたのバレてたよ……。
どうしよう……魔はもういないよと言っても信じてくれないかな……うーん。
いや、下手をすると私達が魔の使いとか言われてしまうかもしれない。
「それでも、街を預かる私たちが先に逃げるなど許されません!お父様、考え直して!」
「うるさい!そんなに残りたければお前だけ残ればいいだろう!私は絶対に考えを変えん!」
マズいね……ここで領主が街の人を見捨てて逃げた、なんてことになれば街の人は混乱するだろう……そしてそのタイミングで魔が来れば……最悪だ。
リスクもあるけど……仕方ない。
「待って……『魔』に関しては心配ないよ」
「む……どういうことだカモメ殿?」
「小娘が適当な事を言うでない!」
「適当な事じゃないよ……だって、私はこの目で魔が滅びるところを見ているもん……結界が無くなったのは魔が解き放たれたからじゃない、魔が滅びたからだよ」
「………………ふざけるなぁあああああ!!そんなデタラメを私が信じると思うのか!下賤な冒険者如きが適当な事を言うな!!」
デタラメじゃないよ!?本当の事だよ!?
でも、うう………やっぱり信じてもらえないよね……。
だからって、ここでこの人に逃げ出されたらこの街が大変なことになっちゃうし……なんとか信じてもらわないと……。
「嘘じゃないよ!その証拠に、私には天啓スキルなんてものないし!この大陸の知識もないもん!」
「お前……」
「それに、ギルドにもみせたこの偽のギルドの証……これも結界の中の私たちの国の冒険者ギルドのカードなんだよ……」
「………むぅ」
「うるさいぞ!!これ以上出鱈目を言うな!誰か、この嘘つき女をつまみ出せ!!」
ぐ……駄目だ、全然信じてもらえない……これ以上、信じてもらえる物なんて持っていないよ……。
ギルドマスターは少しは考えてくれているみたいだが、領主の人は完全に考えることを放棄している。
もう、逃げることしか頭にないって感じだ……。
「もうよい、これ以上は話は無駄だ!出ていけ!」
そう言うと、領主は私達を部屋から追い出した。
「お父様!考え直してください!お父様!」
「うるさい!そんなにこの街を護りたければお前が護れアンリエッタ!……ふふふ、そうだ、それがいい、アンリエッタよ、今日からお前がこの街の領主だ!領主の座をお前にやろう!この街を護りたいのなら自分で護ればよい!!」
無茶苦茶な事を言い出したよ……ぐう……。
「お父様……」
もう返事は返ってこなかった、悔し涙を浮かべたアンリエッタが扉を力なく叩く。
「どうしよう、ギルドマスター……このままじゃ、街の人が……援軍まで5日かかるって言うのはホント?」
「ああ、これから早馬で報せを出したとしても5日はかかるだろう……」
それじゃ、どちらにしても間に合わないかもしれない……でも、何もしないよりはマシだ、もしかしたら、邪鬼と魔物たちが来るまでに時間があるかもしれない……なかったとしても5日耐えれば援軍が来るということである……やらないより良いだろう……ましてや、逃げるより。
「フランクおじ様、街の人を逃がすことは出来ませんか?」
「無理だ、街の人口はかなりのものだ、すぐに逃げる準備を出来るものではない……」
その人たちにも生活がある、いや、それよりも逃げてくれと言ったところで分かりましたと逃げてくれるとは限らない……自分たちの街を失いたくないという人は少なからず出てくるだろう。
「そんな……」
「それよりカモメ……」
「何?」
ギルドマスターが私に真剣な顔をして尋ねてくる……うーん、やっぱりそうだよね。
「魔の海から来たというのは本当か?」
「………うん、さっき言ったことは全部本当だよ」
「そうか、色々と聞きたいことがあるが、今はこれだけ聞きたい……魔が滅びたというのは本当か?」
「本当だよ……私がこの手で倒したんだもん」
「……何だと?」
私は正直に結界の中で起きたことを話した。
私が闇の魔女として国を追われ、それを画策していたのが魔族という存在だったこと、そしてその魔族を騙し、この世界を滅ぼそうとしていたのが『魔』という存在であったと事、戦いの末、結界の外へ出ようとしていた『魔』を滅ぼしたこと、そして『世界』がそれを認め、結界を再度張ることをしなかったこと。
それを簡単にまとめてギルドマスターとアンリエッタに話したのだ。
「そんなことが……」
「にわかには信じられん話だ……だが……もしそれが本当であれば、『魔』の恐怖は無いということだ…・…」
「はい、後は邪鬼さえ退けられれば……カモメさん、魔を滅ぼした貴方なら、邪鬼を退けることは出来ませんか?」
邪鬼を退ける……少し前に私達は邪鬼と戦っている……邪鬼は強い……私達四人を相手に戦い、それでもまだ全力ではなかったと言っていた。私達もまだ全力だったとは言わないが……それでもあの強さだ、確実に勝てるとは言えない……でも。
「うん、そのつもり……でも」
「でも?」
「……魔物だな」
「うん、邪鬼の相手をするなら、多分、魔物の方まで手が回らないと思う……邪鬼を倒せても、魔物に街の人達を殺されたら意味がないよ」
「……そんな」
どれくらいの魔物が来るのか分からないが、ギルドのクエストボードの討伐依頼の量を見る限り、とんでもない量が攻めてくるだろう……いくら私達でも、大量の魔物と邪鬼両方を何とかするなんてことは出来ないのだ。
「それじゃあ、やはり……この街は駄目なのですか?」
「いや、そんなことはない」
絶望に満ちたアンリエッタに、ギルドマスターは笑顔で答えた。
え、どういうこと?
「冒険者とこの街の兵士、全てで魔物は抑え込む」
「出来るの?」
この街にはCランク以上の冒険者は二人しかいない……その戦力で大量の魔物をどうにかできるとは思えないんだけど……。
「ふん、舐めるなよ、俺はこう見えても元はAランクの冒険者だ、その腕は落ちてないぜ?」
「でも……」
ギルドマスターが強い人なのは分かる……動きやその所作からベテランのそれを感じるもん……でも、ギルドマスター1人じゃ大量の魔物はどうにも出来ないよ……いや、大量の魔物か……。
「でももヘチマもねぇさ、やれることは全部やる……無理なんてもんはねぇ、やろうと思えば人間なんとかなるもんさ!」
根性論である……いや、私もそう言うの好きだけどさ……。
「やれることをやる……そうですよね……」
ギルドマスターの言葉に反応したのは領主の娘、アンリエッタであった。
「私もやれることをやります……幸い、領主の立場をお父様から譲り受けました、それなら、やれることはたくさんあります!」
「ああ、頼む!」
意気込む二人……上手くいくと良いけど……でも、魔物が大量に来るということは纏まってくるってことだよね……なら、邪鬼の相手をする前にいくらか数を減らすことも出来るかもしれない……だって、纏まってくるってことは纏まって吹き飛ばせるってことだもんね。
まだ、可能性はある……それなら、私は諦めないよ!
「おや、フランク様……どうされました?」
領主の館の門番をしている兵士が、ギルドマスターを見て話しかけてくる。
「ジュラーノ様に、急ぎの話がある、通してもらえないか?」
「急ぎ……ですか、少々お待ちくださいませ、領主様にお伝えしますので」
「ああ」
そう言うと、門番の人は、館の中へと入っていった。
しばらくすると、門番の人は戻ってきて、館の中へと案内してくれた。
どうやら、領主は会ってくれるようだ。
「あら、フランクおじ様……怖い顔……何かあったんですね?」
領主のいる部屋へと向かう途中、一人の女性に話しかけられる。
ギルドマスターの知り合いなのか、ギルドマスターの顔を見ただけで緊急事態と判断してくれたらしい。
「ああ、アンリエッタ……少々マズいことが起きたのだ」
「マズいことですか……お父様の所へ行かれるのですね、私も一緒に参ります」
お父様ということはこの子は領主の娘さんなのかな、うーん年齢的には二十歳くらいかな?
私達よりちょっとお姉さんって感じだ、ロングの銀髪をたなびかせ、いかにもお嬢様という感じの立ち振る舞いだ。歩き方にも気品がある。
「入れ」
館の一番奥にある部屋のドアをノックすると、中から返答があった。
ドアを開けて中へ入ると、そこは恐らく執務室なのだろう、書類の類が机の上に大量に置かれており、その机の前にアンリエッタと呼ばれた女性と同じ銀髪の男性が立っていた。
「フランク殿、この忙しい時に一体何用だ?」
「すみません、領主様……実は問題が起こりまして」
「問題?一体なんだ?そこの娘も関係しているのか?」
大きくため息を吐きながら領主は私の方を見てくる……むう……なんか嫌感じ。
「実は森に邪鬼が現れたようなのです」
「なん……だと?」
邪鬼という言葉を聞いた瞬間、領主の顔色が真っ青になった。
「ば、馬鹿な、邪鬼だと!?なぜだ、なぜこのような時に!!」
「解りません」
「馬鹿な……なぜ……」
「お父様、悩んでいる暇などありません!すぐに王国に援軍を要請しなければ!」
「馬鹿者!王国に知らせ、援軍を要求してもこちらに着くのは5日はかかる……」
5日……邪鬼がどれくらいで襲ってくるか分からないけど、あの邪鬼はそんなに気の長い方ではないと思う……早ければ今日にも、遅くても明日には襲ってくるんじゃないだろうか……。
「すぐに逃げる準備だ、必要なものだけ持って王国に逃げるぞ!馬車を用意しろ!」
「な、何を言っているのです領主様!」
いきなり逃げ腰の領主にギルドマスターが慌てる。
それはそうだ、ここで領主が逃げるということはラリアスの街の人達を見捨てるということである。
「お父様!逃げるなんて駄目です!街と人達はどうするのですか!」
「知るか!私はただでさえ、こんな辺境の領主などやりたくなかったのだ!……それなのに魔の海の結界が破られたかもしれないこの時に………さらに邪鬼が現れただと!私は逃げるぞ!誰が何と言おうと逃げるぞ!」
駄目だ、この領主、完全に心が折れている。もう、貴族としての威厳すらなく、子供のように泣き喚いている……っていうか、待って……。
「え、魔の海の結界が破られたって……」
「うむ、まだ一部の物しか知らぬことだが、先日、魔の海の調査をした者たちが結界が消滅していたと報告してきたのだ」
「魔の海には昔、神が魔を封印したと言われている……その結界が破られたのだ!魔が解き放たれたということだろう!そうなれば、一番先に狙われるのは魔の海に一番近いこのラリアスだ!」
うわぁお……結界無くなってたのバレてたよ……。
どうしよう……魔はもういないよと言っても信じてくれないかな……うーん。
いや、下手をすると私達が魔の使いとか言われてしまうかもしれない。
「それでも、街を預かる私たちが先に逃げるなど許されません!お父様、考え直して!」
「うるさい!そんなに残りたければお前だけ残ればいいだろう!私は絶対に考えを変えん!」
マズいね……ここで領主が街の人を見捨てて逃げた、なんてことになれば街の人は混乱するだろう……そしてそのタイミングで魔が来れば……最悪だ。
リスクもあるけど……仕方ない。
「待って……『魔』に関しては心配ないよ」
「む……どういうことだカモメ殿?」
「小娘が適当な事を言うでない!」
「適当な事じゃないよ……だって、私はこの目で魔が滅びるところを見ているもん……結界が無くなったのは魔が解き放たれたからじゃない、魔が滅びたからだよ」
「………………ふざけるなぁあああああ!!そんなデタラメを私が信じると思うのか!下賤な冒険者如きが適当な事を言うな!!」
デタラメじゃないよ!?本当の事だよ!?
でも、うう………やっぱり信じてもらえないよね……。
だからって、ここでこの人に逃げ出されたらこの街が大変なことになっちゃうし……なんとか信じてもらわないと……。
「嘘じゃないよ!その証拠に、私には天啓スキルなんてものないし!この大陸の知識もないもん!」
「お前……」
「それに、ギルドにもみせたこの偽のギルドの証……これも結界の中の私たちの国の冒険者ギルドのカードなんだよ……」
「………むぅ」
「うるさいぞ!!これ以上出鱈目を言うな!誰か、この嘘つき女をつまみ出せ!!」
ぐ……駄目だ、全然信じてもらえない……これ以上、信じてもらえる物なんて持っていないよ……。
ギルドマスターは少しは考えてくれているみたいだが、領主の人は完全に考えることを放棄している。
もう、逃げることしか頭にないって感じだ……。
「もうよい、これ以上は話は無駄だ!出ていけ!」
そう言うと、領主は私達を部屋から追い出した。
「お父様!考え直してください!お父様!」
「うるさい!そんなにこの街を護りたければお前が護れアンリエッタ!……ふふふ、そうだ、それがいい、アンリエッタよ、今日からお前がこの街の領主だ!領主の座をお前にやろう!この街を護りたいのなら自分で護ればよい!!」
無茶苦茶な事を言い出したよ……ぐう……。
「お父様……」
もう返事は返ってこなかった、悔し涙を浮かべたアンリエッタが扉を力なく叩く。
「どうしよう、ギルドマスター……このままじゃ、街の人が……援軍まで5日かかるって言うのはホント?」
「ああ、これから早馬で報せを出したとしても5日はかかるだろう……」
それじゃ、どちらにしても間に合わないかもしれない……でも、何もしないよりはマシだ、もしかしたら、邪鬼と魔物たちが来るまでに時間があるかもしれない……なかったとしても5日耐えれば援軍が来るということである……やらないより良いだろう……ましてや、逃げるより。
「フランクおじ様、街の人を逃がすことは出来ませんか?」
「無理だ、街の人口はかなりのものだ、すぐに逃げる準備を出来るものではない……」
その人たちにも生活がある、いや、それよりも逃げてくれと言ったところで分かりましたと逃げてくれるとは限らない……自分たちの街を失いたくないという人は少なからず出てくるだろう。
「そんな……」
「それよりカモメ……」
「何?」
ギルドマスターが私に真剣な顔をして尋ねてくる……うーん、やっぱりそうだよね。
「魔の海から来たというのは本当か?」
「………うん、さっき言ったことは全部本当だよ」
「そうか、色々と聞きたいことがあるが、今はこれだけ聞きたい……魔が滅びたというのは本当か?」
「本当だよ……私がこの手で倒したんだもん」
「……何だと?」
私は正直に結界の中で起きたことを話した。
私が闇の魔女として国を追われ、それを画策していたのが魔族という存在だったこと、そしてその魔族を騙し、この世界を滅ぼそうとしていたのが『魔』という存在であったと事、戦いの末、結界の外へ出ようとしていた『魔』を滅ぼしたこと、そして『世界』がそれを認め、結界を再度張ることをしなかったこと。
それを簡単にまとめてギルドマスターとアンリエッタに話したのだ。
「そんなことが……」
「にわかには信じられん話だ……だが……もしそれが本当であれば、『魔』の恐怖は無いということだ…・…」
「はい、後は邪鬼さえ退けられれば……カモメさん、魔を滅ぼした貴方なら、邪鬼を退けることは出来ませんか?」
邪鬼を退ける……少し前に私達は邪鬼と戦っている……邪鬼は強い……私達四人を相手に戦い、それでもまだ全力ではなかったと言っていた。私達もまだ全力だったとは言わないが……それでもあの強さだ、確実に勝てるとは言えない……でも。
「うん、そのつもり……でも」
「でも?」
「……魔物だな」
「うん、邪鬼の相手をするなら、多分、魔物の方まで手が回らないと思う……邪鬼を倒せても、魔物に街の人達を殺されたら意味がないよ」
「……そんな」
どれくらいの魔物が来るのか分からないが、ギルドのクエストボードの討伐依頼の量を見る限り、とんでもない量が攻めてくるだろう……いくら私達でも、大量の魔物と邪鬼両方を何とかするなんてことは出来ないのだ。
「それじゃあ、やはり……この街は駄目なのですか?」
「いや、そんなことはない」
絶望に満ちたアンリエッタに、ギルドマスターは笑顔で答えた。
え、どういうこと?
「冒険者とこの街の兵士、全てで魔物は抑え込む」
「出来るの?」
この街にはCランク以上の冒険者は二人しかいない……その戦力で大量の魔物をどうにかできるとは思えないんだけど……。
「ふん、舐めるなよ、俺はこう見えても元はAランクの冒険者だ、その腕は落ちてないぜ?」
「でも……」
ギルドマスターが強い人なのは分かる……動きやその所作からベテランのそれを感じるもん……でも、ギルドマスター1人じゃ大量の魔物はどうにも出来ないよ……いや、大量の魔物か……。
「でももヘチマもねぇさ、やれることは全部やる……無理なんてもんはねぇ、やろうと思えば人間なんとかなるもんさ!」
根性論である……いや、私もそう言うの好きだけどさ……。
「やれることをやる……そうですよね……」
ギルドマスターの言葉に反応したのは領主の娘、アンリエッタであった。
「私もやれることをやります……幸い、領主の立場をお父様から譲り受けました、それなら、やれることはたくさんあります!」
「ああ、頼む!」
意気込む二人……上手くいくと良いけど……でも、魔物が大量に来るということは纏まってくるってことだよね……なら、邪鬼の相手をする前にいくらか数を減らすことも出来るかもしれない……だって、纏まってくるってことは纏まって吹き飛ばせるってことだもんね。
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