上 下
262 / 361
8章

闇の魔女は冒険がしたい

しおりを挟む
 ―――――――――――鳥のさえずりが聞こえる。
 身体の周りには暖かいフワフワした感触………どうやら私はお布団の中にいるようだ。


 私は寝ているのか……うんと……昨日は何をしていたっけ……。
 なんか頭がぼーっとして上手く考えが纏まらない……。


 よいっしょっと、考えが上手くまとまらないのでとりあえず、起き上がることにした………が……。


「ぴぎゃっ!?」


 身体を動かそうとすると全身に激痛が奔る。
 その激痛で、自分が何をしたのか……何と戦ってどんな無茶をしたのかを思い出す……。

 この激痛は光と闇の魔法を全身の強化に使ったせいだろう………。
 とんでもなく激しい筋肉痛と言った感じだ……だけど、痛みを感じるということは神経はおかしくなっていないはず……それなら。


「時間が経てば戻る……かな?」


 なんとなくの勘だけど……身体が今後動かせなくなるとかそう言うことはなさそうである。


「戻る……かな?じゃないわよ……全く心配させて……」
「あ、ディータ……それにクオンにエリンシアも……」
「目が覚めたんだ……よかった」
「カモメさんいきなり倒れますし、大変でしたのよ……クオンさんもディータさんも大慌てだったんですから」
「なっ!?そういう貴方はワンワン泣いていたじゃないの!?」
「な、なななななな泣いていませんわよっ!?」


 先ほどまで聞こえていた鳥の鳴き声が聞こえなくなるほど私のいる部屋がにぎやかになる……あはは、でも私はこの方が好きだ……安心できる。


「ごめんね、心配かけて……あの後大丈夫だった?」
「ええ、貴方が倒れた以外の事はね」


 ディータ達の話によるとあの戦いは『魔』が消えたことで無事に終結したようだ。
 眠っていた兵士たちも、あの青髪の『世界』が目覚めの薬を置いていっていたらしく、それを使ってすぐに目を覚ましたそうだ。もちろん方法は眠り薬と同じ、『レディ散布』だ。
 斧をブンブンと回して兵士たちに振りかけたらしい。



「ところで、ここは?……ツァインのお城じゃないよね?」
「うん、ツァインにある宿屋だよ」


 運ばれるならツァインのお城かなと思ったのだけど、何かあったのかな?
 いや、唯の冒険者なのだからお城に運ばれるのも変な話なのか……?


「お城には運べなかったのよ……他の国の人間があなたに会いたいって押し寄せてきていたから」
「……私に?」
「そりゃそうよ、世界を救った少女なんだから……有名人よ貴方」
「……うへぇ」


 なんだかとっても面倒くさいことになっているような……宿屋に運んでくれたディータ達に感謝だね……うん、ほとぼりが冷めるまでここで寝てよう……そうしよう。


「ところで、体の調子はどうなんですの?」
「あーうん、動かないです」
「……え!?」


 一瞬にして青ざめる三人に、私は慌てて説明をする。
 動かないのは確かなんだけど、全身筋肉痛みたいなもので多分、時間を置けば動けるようになるだろうっていうことを。


「本当に大丈夫なの?」
「アネルさん……レナさんを呼んだ方が良いかもしれないよ」
「ですわね、念には念を入れましょう……呼んできますわ」
「ほ、本当に大丈夫だよ?」
「貴方の大丈夫はあんまり信用できないわよ……エリンシアお願い」
「解りましたわ、すぐ呼んできます」


 言うが早いか動くが早いか、セリフ終わりが聞こえたころにはすでにエリンシアは部屋にはいなかった。
 むー、本当に大丈夫なんだけどなぁ。

 

 しばらくすると、レナを肩に担いだエリンシアが戻ってくる……いや、エリンシア?それ呼んでくるって言わない……拉致って来るって言います。
 何が起きたのかわからないと言った顔のレナは、部屋に着くと、私の様子を見て事情を把握したのか、一息溜息をついて私に「おはようございます」と言ってくれた。
 その後、ディータ達に頼まれ、私の様子を診察する。



「ええ、体は大丈夫そうです……ひどい筋肉痛のようなものですね……恐らく、あの合成魔法での強化に体がついてこなかったのでしょう、その為、筋肉痛になったみたいです」
「ね、言った通りでしょう?」
「ふう、よかったわ」
「ただ……」


 ん?あれ……まだ、なにかあるの?


「あの光と闇の合成魔法はもう、使わない方が良いかもしれません……体の強化だけではなく、光と闇の合成魔法そのものを……」
「どういうこと?」
「始め、カモメちゃんが視力を失った時にも思いましたが、あの魔法は身体への負担が大きい……」
「で、でも、私の中の『魔』と一緒になった事で魔力が上がって、使っても視力を失ったりしなくなったよ?」
「はい、でも、それでもカモメちゃんの身体に負担をかけているんだと思います……この筋肉痛も無理に体を強化したからだけではないのではないでしょうか……恐らく、それだけの負担がカモメちゃんに掛かっていたんだと思います」


 確かに、光と闇の合成魔法を使った後はかなりの気怠さに襲われる……でも、それは魔力を大量に使ったからだと思っていたけど……もしかして、違ったのかな。


「下手をすると、カモメちゃんの寿命を縮めているかもしれません……」
「何ですって……カモメ……光と闇の合成魔法は今後使用禁止よ」
「う……でも、また『魔』みたいな敵と戦うことがあったら……」
「他の方法で倒しなさい……良いわね……もちろん、負けるのも禁止よ」
「そんな無茶苦茶な」



 その後、無茶苦茶でもなんでも禁止と、ディータは言う。
 クオンやエリンシアも賛成なのかディータの意見を否定しなかった。
 まあ、そんなにあの魔法が必要になるってことは無いと思うけど……光と闇の合成魔法気に入ってたんだけどなぁ……。仕方ないか……。



「はい、それじゃ、お姉さま、それに皆さんも、カモメちゃんを休ませてあげましょう……体を治すにもしっかりと休まないと」
「う……そうね、ごめんなさいカモメ」
「ううん、皆が来てくれて嬉しいよ……でも、ふわぁああ……あはは、なんか眠くなってきちゃったから寝るね」
「ええ、ゆっくり休んで」
「今更だけど、お疲れ様カモメ」
「『魔』を倒した時のカモメさんかっこよかったですわよ♪」
「えへへ、ありがとう」


 そう言うと皆は部屋から出ていった……私は襲い来る眠気に抗わず、そのまま、また眠りへとついた。
 

 そして、何度目の眠りだろう、一週間くらいたったのかな……体の痛みが取れてきてそろそろ、ベッドから抜け出そうかと思い、汗で汚れた体を拭いている時の事だった……慌てた様子でディータとエリンシア、クオンの三人が私の部屋に入ってきた。


「あれ、どうしたの三人とも?」
「カモメ、すぐにここを出る準備をしなさい」
「え、う、うん、丁度、準備を始めてたけど……なんで?」
「なんでじゃ、ありませんわ……他の国の人にここの場所がバレたんですのよ」


 他の国の人っていうのは私に会いたいって言っていた人たちの事かな……うーん、お礼言われるのとか苦手だし、あまり会いたくはないんだけど……さすがにそう言う人たちを邪険にするのも悪いと思うんだよね……会った方が良いんじゃ……。


「そんな生易しい連中じゃ……うわああ!?」
「ん?どうしたのクオン?」


 クオンが私を見ると、いきなり両手で顔を覆って赤面する。
 一体どうしたのだろうと、私は自分の身体に視線を落とすと、クオンが何に赤面したのか理解をする……それを理解した途端、顔中が熱くなった……そう私は、体を拭いているところだったのだ……上半身、裸で……。



「きゃあああああああ!?クオンのエッチ!ばかあ!!」
「ご、ごめん、ワザとじゃ!?」


 クオンは慌てて部屋の外に出ていった。
 私は息を荒げながら出ていくクオンにそこら辺にある物を投げる……あうう……大失態だよぉ。



「はいはい、じゃれ合いはいいから、早くしたくなさい」
「じゃれ合いって乙女の体を見られちゃったんだよ!?」
「カモメさんとクオンさんの仲で今更って気もしますわね……とにかく、早く逃げる準備をしないとですわ」
「に、逃げるって、私にお礼を言いたいって人たちなんだよね……そんなに邪険にしなくても」
「ただお礼を言いたいだけなら良いわよ……でも、ほとんどの連中が国のお偉いさんよ?」
「そんな方々がお礼をいうだけで終わるわけがないでしょう……どうせ、自分の国に来てくれだとかいってきますわ」



 うぐ……それは面倒くさい……。


「それにメリアンナを失ったベラリッサがあなたを新しい聖女として迎えたいといっているわよ」
「お母様の話だと、グランルーンもあなたを女王として迎え入れたいとまた、言ってるみたいですわね」
「ええ……嫌だよそんなの……冒険が出来なくなっちゃう」
「でしょ、だから、冒険の準備よ」
「え、でも、いろんな国がそんな状態じゃ……冒険なんて出来ないんじゃ」


 どこの国に行ってもお偉いさんに追いかけられる未来しか見えないよ……あうう……私はまた冒険が出来ないのかな……。


「この大地……結界の中にあった国ならね♪」
「あ……」


 そうだ、先の戦いで私は『世界』が作った結界を壊している……そして、世界は結界を張り直してはいない……それなら、今まで謎の大陸と呼ばれていた場所に行くことができるということだ。


「フィルディナンド王が、貴方を先遣隊として派遣したことにしてくれるそうよ」
「王様が!……さっすが!」
「ですので、とっとと、行きますわよ……空を飛んで行けばあなたを探しにここに来る連中に見つからずにいけますわ」
「わかった、すぐに準備する!」
「カモメ~、着替え終わった?入ってもいいかな?」
「ま、まだだよ!?」


 話に夢中で服を着るの忘れてた、慌てて私は服を着ると、必要最低限のものだけ準備する。
 謎の大陸に冒険に行ける……そのワクワクで私は心は踊っていた。
 今度こそ、私は冒険をするんだ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

「婚約破棄してやった!」と元婚約者が友人に自慢していましたが、最愛の人と結婚するので、今さら婚約破棄を解消してほしいなんてもう遅い

時雨
恋愛
とある伯爵家の長女、シーア・ルフェーブルは、元婚約者のリュカが「シーア嬢を婚約破棄にしてやった!」と友人に自慢げに話しているのを聞いてしまう。しかし、実際のところ、我儘だし気に入らないことがあればすぐに手が出る婚約者にシーアが愛想を尽かして、婚約破棄をするよう仕向けたのだった。 その後リュカは自分の我儘さと傲慢さに首を締められ、婚約破棄を解消して欲しいと迫ってきたが、シーアは本当に自分を愛してくれる人を見つけ、結婚していた。 だから今更もう一度婚約して欲しいなんて、もう遅いのですっ!

処理中です...