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7章

魔王との戦い⑩

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「ふんっ、この世界の生き物に助けられるとはな……まあ、よい、これで先程の様にはいかぬぞ?」
「あらあら、魔王様の復活ですか?面倒ですねぇ……」
「それが遺言で良いか?」
「ふぇ!?」


 言葉を交わしていた次の瞬間、30メートルは離れていたであろう魔王が、一瞬にしてリーンの背後を取る。そして、手に銀の魔力を溜め、ツメのような形に変形させると、そのツメでリーンを斬り裂いた。


「っ……手ごたえが無いだと?」
「残念ですね……そんなスピードじゃ、私は捉えられませんよ~♪」


 魔王が斬り裂いたのはリーンの残像である。
 リーンはすでにそこからさらに20メートルは離れた場所に移動をしていた。


「貴方のスピードも大したものではないですよ?」
「なっ……くっ!?」


 だが、その動きは読んでいたとでもいうかのように、そのリーンの背後をクオンがさらにとっていた。
 そして、振りぬいたクレイジュでリーンの背中を斬り裂く。


「浅いかっ!」


 とっさにクオンに気付いたリーンがその場を離れ致命傷を避ける。
 ……だが。


「あら、いらっしゃいませですわ♪」
「ぐっ!」


 さらに移動したその先には魔導銃を構えたエリンシアがいた。


「おぶっとびやがりなさいですわ!!聖滅全力魔弾セイクリッドフルバスター!!」
「なっ!?」


 全力のエリンシアの一撃がリーンを飲み込む。
 リーンはまだ、移動中であった為、そのエリンシアの攻撃を避けることは出来ない。
 柱を折り、壁を破壊しなおも突き進むそのエリンシアの一撃は、異空間の彼方まで突き抜けた。
 だが、それでも……


「危ないですね、咄嗟に魔法で防げて良かったです」
「あれも防ぐのか……」


 これ以上ないくらい完璧なタイミングだと思われた一撃であったが、リーンはそれをも防いでしまった。
クオンとエリンシアが、作戦の失敗に落胆している中、次の行動に移る者が一人いた。
 ――――――――――魔王である。


「油断大敵だぞ、女狐め」
「なっ!?」


 魔王の手刀が、リーンのお腹を貫く。
 

「これはイルザを使い、我の腹に風穴を開けた礼だ」
「がふっ!」
「終わりだ」


 お腹を貫かれ、口から血を吐くリーン。
 そのリーンに対し、魔王はもう一本の掌に銀色の魔力を集中させる。


「滅びよ!」


 魔王の銀色の魔弾がリーンの顔面に向かって放たれようとする……が。


「嫌です~♪」
「何!?」

 
 お腹を貫いた手ごたえが、今度は確かにあったのだが、次の瞬間、リーンの姿は幻のように消え、放たれた銀色の魔弾は虚しく虚空の彼方へと消えた。


「馬鹿な!?」
「ビックリしました?私、幻術は得意なんですよ♪」
「今のが幻だと……」
「はい、まるで本物のような手ごたえでしたでしょう♪」
「ぐ……」


 見ると、お腹だけではない、クオンが斬り裂いた背中も傷の跡が見当たらなかった。


「でも、あなたのスピードはちょっと厄介かな」
「なっ……ぐっ!」


 いつの間に目の前に移動したのか、クオンの正面に現れたリーンがクオンの首を手でつかみ、力を込める。


「がはっ……」


 首を掴まれ、息が出来ないクオンが苦しそうに表情を歪めた。


「離しなさいですわ!光祝福リヒトブレス!」


 身体能力も魔力も高める、エリンシアの切り札である。
 体力の消費が激しいため、ここぞという時にしか使わないリヒトブレスであるが、クオンを救うために使い、リーンへと殴りかかった。


「邪魔」
「きゃああああ!!」


 身体能力、もちろん反射神経やスピードも跳ね上がっている状態のエリンシアを軽々と捉え、風の魔法でエリンシア斬り裂く。
 身体中を斬り裂かれながら、吹き飛んだエリンシアは地面を転がりながら壁と衝突する。


「エリンシア!……ぐっ!」


 エリンシアを心配するクオンにさらに力を込めるリーン。
 そこへ、魔王が動いた。

 そう、魔王が動いたのだが、クオンを助ける為ではない、クオン諸共リーンを吹き飛ばそうと、銀色の魔力を放ったのだ。


「あら……」


 それに気づいたリーンは手に持っていたクオンを盾にしようというのか、腕を動かし自分の前へと移動させる。
 が、クオンはリーンが魔王の魔弾に気をとられた一瞬を見逃さす、リーンの手を、蹴り上げ、首から引っぺがした。


「ちっ」


 忌々しそうに舌打ちをするリーンに、魔王の魔弾が迫りくる……だが。
 リーンは魔王の魔弾を片手で軽く弾き飛ばしてしまった。


「なんだと!?」


 そして、もう一方の手から爆発の魔法をクオンへと放ったのだ。


「ぐああああああああああ!!」


 爆発に焼かれ、吹き飛ばされたクオンはエリンシアと同じように壁へと叩き付けられた。


「二人そろって死んじゃってくださいね♪」
「クオン!エリンシア!!」


 魔力も体力も共に使い果たしているディータが二人の名前を呼ぶが、二人の元へ駆けつけることも出来ないでいる。
 二人へとどめの魔法を放とうとした、リーンへ、一つの大きな影が襲い掛かった。


「うっふうううううううん!!」


 レディである。
 レディのウォーアクスがリーンへと襲い掛かったのだ。


「たかだか魔物風情が……私の邪魔をするなんて……鬱陶しいですねぇ」
「うそぉん!?」


 レディのウォーアクスをリーンは片手で掴んでしまう。
 そして、力を込めると、レディのウォーアクスを破壊してしまった。


「邪魔です」
「いやあああああああああああああん!!!」


 レディもクオン達と同じく吹き飛ばされる……だが、壁に叩きつけられる前に後方に飛びながら回転をし、器用なことに壁に着地する、そして、武器を失っているにも関わらず、またもリーンへと向かって行くのだ。

 そして、その傍らでは先ほど吹き飛ばされた、クオン達がコロによって、回復してもらっていた。


「なるほど……」
「まだ終わってないわよぉん!」
「貴方は後です♪」
「あらぁん、どこにいったのぉん!?」


 拳を振るい、リーンを捉えたと思ったレディの目の前からリーンはまたも姿を消す。



「ごめん、ありがとうコロ」
「助かりましたわ」
「いえ、こんなことくらいしかできませんから……あれ?」
「なっ!?」
「そんな!?」


 笑顔で二人を癒していたコロの胸から何かおかしなものが生えている。
 
 それは、人の手に見える……コロの胸からなぜ人の手が……手だけではない、その手の生えた場所から夥しいほどの血が流れているではないか。


「これで、もう、回復は出来ませんね」


 リーンの手がコロを貫いたのだ。
 そして、コロの身体から力が抜けたのか、両腕がだらりと力なく下がる。


「コロ!!」


 そして、まるでゴミでも捨てるかのようにコロを自分の手から引き抜き、投げ捨てた。

 コロはそのまま力なくディータ達の方へと転がる。


「レナ、回復を!」
「は、はい!……いえ、ですが……これは……」


 もう、わずかに呼吸をしている状態のコロを見て、レナは絶望の表情を浮かべる。
 ただでさえ、もうほとんど魔力が残っておらず、治癒の魔法を掛けれるかもわからない状態であるレナだが、今のコロの状態は万全だったとしても治せるとは思えないほど致命的であった。

 そして、コロが小さく微笑むと、ディータへ聞こえる程度の声で何かを騙るのであった。 
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