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6章

ベラモルト

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(どうするよ、相棒……あいつの身体に傷を付けられなくなっちまったぜ?)
「そんなことないよ、普通に斬っても駄目だけど、工夫すれば何とかなると思う」
(おお、さすが相棒だぜっ)
「カモメと約束したからね、ドラゴンも全員護るって」
(未来の嫁さんの頼みじゃ、断れねぇよな!)
「そ、そそそんなんじゃないっ」


 刃の通らない敵を前にしても余裕のあるクオンとクレイジュ。
 そのことが気に入らなかったのかマゼンダは軽く舌打ちをする、そして避けた口の端をいやらしく上げると、ドラゴンたちの方に眼をやった。

 

「ドラゴンたちには手を出させませんよ、僕を無視して攻撃できるなんて思わないでください」


 マゼンダがドラゴンたちに目をやったことに気付いたクオンが、釘を刺すと、マゼンダがこちらに向き直る。


「ああ、もちろん分かっているわよ……『私』は手を出せないさ……『私』はね」
「何?」
「いるんだろ、ベラモルト!」


 マゼンダがドラゴンたちのいる方へと叫ぶと少しの沈黙が流れる。
 クオンが、ハッタリか自分の気を逸らすための罠かと思ったその次の瞬間、ドラゴンたちの中から悲鳴が聞こえた。



「きゃあああああ、あ、アナタ!何をするの!?」
「ヒヒヒヒ、ざぁ~んねぇん、魔族のベラモルトさんでぇ~す!」



 つい先ほどまでドラゴンの姿をしていた男が、まるで蝋燭が溶けた時のようにドロドロになると、再び別の姿に構築され直す。
 その姿は人間より頭二つ分くらいの大きさで、角のようなものを頭から二本生やし、まるで悪魔のような姿をしていた。


「な、なんで……さっきまで旦那の姿を……」
「ああ、お前さんの旦那は俺が喰っちまった、次はその家族をって思ってよぉ……姿を借りてたんだ!ヒヒヒヒヒ!」
「いやあああああ!」



 ベラモルトの口が大きく開くと、目の前にいたドラゴンを包み込む。
 ベラモルトより遥かに大きいドラゴンであるが、まるで異空間にでも仕舞われてしまったかのように口の中へと吸い込まれていった。
 自分より大きなものを食べたというのにベラモルトはさもそれが当然というかのように満足そうに笑っている。



「ケップ……恐怖と絶望のスパイスのきいた食事は美味いぜぇ」
「馬鹿言ってないで、他のドラゴンどもを殺しな!魔王様の命令だよ!」
「はいはい、解ってますよぉ……じゃあ、ドラゴンたちよぉ、もったいないけど死んでもらうぜぇ……腹はもういっぱいだから……なぶり殺しでいくかねぇ、ヒヒヒヒヒ!」


 ドラゴンたちから悲鳴が上がる。
 逃げようとするドラゴンの足をベラモルトは身体を針のように変形させ串刺しにし、動けないようにする。足を貫かれ逃げれなくなったドラゴンは涙を流しながらそれでも這って逃げようとするが、今度は腕を切り落とされ、その場から動けなくなってしまった。


「おいおい、逃げようなんてひどいねぇ」


 ベラモルトが悲しそうな顔をしてそう言うと、ドラゴンたちは今度は飛んで逃げようとするが……悲しそうな顔から嬉しそうな顔へ変貌したベラモルトが自分の右手を再び無数の針状の喪に変形させると、それを空へ飛ばす。
 空へ飛んだ針状の者たちは空中で弧を描き、飛んで逃げようとしたドラゴンたちの前を塞ぎ、地面に突き刺さる。針状のものはまるで檻のようにこの広場は包み込んだ。


「ざんねぇ~ん、これで逃げれなくなっちゃったねぇ♪」


 さも楽しそうに笑うベラモルトにドラゴンたちは恐怖を増すのであった。


「くっ!」


 クオンはドラゴンを護ろうと、走り出そうとするが、それをマゼンダによって邪魔される。


「邪魔だ!」


 クオンは回転を利用し威力を増した一撃をマゼンダに叩き込む。


「がっ……なんて威力だい……」


 その攻撃を弾き返しきれず、怯むマゼンダであるが、焦っているクオンの攻撃は大打撃とはいかなかった。


(相棒、離れてる魔族を同時に相手にするのは無理だぜ)
「だけど、このままじゃ……」


 マゼンダを相手にしているうちにドラゴンたちを全滅させられてしまうかもしれない……いや、何より、ベラモルトのいる方向には目の見えないカモメもいるのだ。


「そうだ、弱いドラゴンでもSランクモンスター並みの強さがあるってアークミスラさんは言っていたよね……だったら、全員で戦えばあっちの魔族はなんとか……」
(無理だぜ相棒……Sランクモンスタークラスがあれだけいても魔族に敵うわけがない、ドラゴンたちは本能でそれをわかってるんだろうさ)


 例えば、ここにいる全員のドラゴンに襲い掛かられたらクオンは苦戦をするのかとクレイジュに問われ、クオンは考える……苦戦しないだろう、Sランクモンスターがいくらいたところで今のクオンは敵にならないのだ……それほど、今のクオンはレベルが上がっている。そして、クオン程ではないにしろ近い実力を持っている魔族たちもそれは同じなのだ……殺そうと思えばこの場にいるドラゴンたちを一瞬で殺すこともできる。


「なら、戦闘能力の高いドラゴンが来るまで時間を稼げば……」
「無理ね、ここに来るまでにほとんどの戦えるドラゴンは殺したわ……生き残りが居たとしてもこの檻の中には入ってこれないでしょうしね」
「くそっ」


 八方ふさがりである……このままではクオンのイメージする最悪の事態に……。


「やめなさい!!!」


 ドラゴンたちの悲鳴の中、一際響く声が広場に木霊する。
 クオンが一番恐れていたことが起こってしまったのだ。


「私が相手だよ!ドラゴンさん達に危害を加えるな!」


 カモメがバトーネを構えながらそう叫んだ……だが、カモメの勢いとは別に、カモメは敵の位置が分かっていない、威勢よく叫んではいるものの向いている方向にベラモルトはいなかった。
 その姿を見て笑うベラモルト。


「ヒヒヒヒヒ!なんだい、人間の嬢ちゃん……あっちのあんちゃんみたいに強い人間が現れたのかと思ったら……ヒヒヒヒヒ!目が見えないのかい?俺はそっちにはいないぜぇ?」
「くっ」


 バトーネを構えはするものの魔力が使えない以上、バトーネの威力も上がらない。
 正直、戦力にならない状態のカモメである。
 だけど、間近で悲鳴が上がっているのを無視できるような正確でないのはクオンがよく知っていた。
 こうなった時にカモメはこういう行動をとるだろうとすぐに予測が出来たため、クオンは慌てていたのだ。そして、その通りになってしまった。
 そして、眼の見えないカモメが勝てるわけもない……、クオンの焦りは募るばかりであったが、すぐに駆け付けようにも目の前のマゼンダが邪魔をしそれも出来ないのであった。
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