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6章

古のグランルーン

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「ここは……」
「グランルーンだよ、リーンはグランルーン初めて?」
(わぁ、ホントだグランルーンだ……ちょっと違うところもあるけど、間違いなくグランルーンだよ)


 そう、リーンが少年に連れてこられてやってきたのはカモメもよく知るグランルーンであった。
 だが、その様相はカモメの知っているグランルーンと少し違うところもある、お店が違ったり、同じ店でも売っている人が違ったり、些細な事ではあるがカモメの知るグランルーンとは違うとハッキリわかるものでもあった。


「私が洞窟に引き籠っている間に、こんな街が出来ていたのね……」
「リーン、何か言った?」
「いいえ、なんでもないわ、ところでクルスあなたのお母さんはどこにいるの?」
「こっちだよ!」


 クルスというのは少年の名前である。
 ここに来るまでの途中、リーンとクルスはお互いの自己紹介をしながら歩いてきたのだ。
 リーンの引き籠っていた洞窟はグランルーンから子供でも来れる距離の場所にあった。だが、少し見つけにくい地形であったため、クルスがくるまで他の人間には見つからなかったようだ。


「ここだよ!」
「え?」
(ほへ?……ここって)


 クルスが連れてきたのは大きな、街の中でも一際大きな建物で、街の中心に建造されている。
 ……街の中心に会って、街で一番大きな建物と言えば……そう、城である。


「え、ここ?」
「うん!」
「お、王子様!?またお城を抜け出していたのですか!?」



 門番の兵士がクルスの存在に気付いて、慌ててこちらに駆け寄ってくる。
 二人の門番が近づいてくるとリーンの存在に気が付いたのか、リーンを見て声を掛けてきた。


「ん、誰だ?」
「この人はリーン!おかーさんの病気を見てくれるんだ!」
「王妃様の?……何が目的だ?」
「治せるかはわかりません、ですが私は治癒魔法を使えます、もし良ければその方の症状を見せていただけないでしょうか?」
「……むう」


 門番二人は難しい顔をしながらリーンを見ていた。
 それも当然である、いきなりやってきた女に体調のすぐれない王妃の元へ通すわけにはいかない。
 だが、王子が連れてきた客人でもある、このまま無碍に返すわけにも行かず、二人の門番は迷った挙句王に取り次ぐので待って欲しいと言ってきた。


「はい、わかりました」
「えー、早く連れて行きたいのに!」
「そうはいかないのでしょう、私もいきなり来てしまってごめんなさい」
「い、いえ、王子の客人にこちらこそ申し訳ありません、ですが、王妃様の元においそれと通すわけにはいきませんので……」
「ですね、私もクルスのお母さんが王妃様とは思わなかったので」
「そ、そうなのですか……」


 お互いに苦笑いをしつつ、軽く会話しながら王へと報告に向かったもう一人の門番の帰りをまった。
 そして、門番は帰ると、王子と共に一度、謁見の間に来て欲しいと伝えてきた。


「わかりました」
「ぶう……」


 二人は門番に連れられて、城の中へと入っていった。
 そして、奥へ進むと一際大きな扉があり、その先へと門番に促されるのであった。


「そなたが息子の連れてきた治癒師か?」
「はい……お力になれるかはわかりませんが、もし治せるようならばと思いまして」
(まあ、女神に治せなかったら誰にも治せないと思うけどねぇ)


 強いて言うのであれば光の女神と言われるレナであれば治せるかもしれないが、それでもリーンも慈愛の女神と呼ばれる存在である、この人に治せなければ人間に治せるものはいないだろう。


「おとーさん!リーンをおかーさんに会わせてあげて!」
「馬鹿者!大人の話に口を出すでない!しかも、また城を抜け出したそうではないか!もし、リーン殿が国に害を成すものであったらどうするつもりだったのだ!」
「リーンはそんなことしないよ!夢であそこでおかーさんを助けられるって教えてもらったんだもん!」
「クルス!」
「あ…ごめんなさい」


 夢?夢で教えてもらったとはどういう事だろうと、カモメは首を捻った。
 リーンも同じのようで疑問の顔をしている。


「夢…ですか?」
「ふう……息子は予知能力と言う物を持っているらしくてな、たまに夢で見ることがあるそうだ」
「夢見の能力ですか……珍しいですね」
「出来れば他言無用で願いたい」
「知れ渡れば心ない者に狙われる……ですか?」
「そう言う事だ」


 そう、先の事が解る能力を持っていると知られれば当然、その能力を狙うものが現れるだろう。
 ならば、そのことは公にしないのがベストである。
 まあ、それでも、漏れてしまうものでもあるが……。


「そう……そうよね、女神は二人とも私が殺してしまったのですもの……そう言うよからぬことを考える者が出てきてもおかしくないわ……それを正すべき女神がいないのだもの」
「ん?何か言ったか?」
「いえ、委細承知いたしました。このことは私の心の中に留めておきます」
「頼む」


 リーンは力強く頷くと話を元に戻す。
 結果的にはリーンは王妃の症状を見ることになった。
 だが、王妃の元に向かったリーンは驚くものを眼にする。
 ベッドに横たわる王妃の隣に魔族と思しき人物が立っているのだ。


「あなたは……」
「おや、どこかでお会いしましたかな?」
「この者は王妃の専属の治癒師でな、手を尽くしてもらっているのだが……」
「申し訳ありません、私の力が及ばず」
(王妃様苦しそうだね……)


 カモメの言う通り、王妃は胸を押さえながら身悶えをしていた。
 息は荒く、苦しそうである。


「これは……病などではありません……毒、呪いの類です」
「なんだと!?どういうことだ、リーン殿!」
「リーン殿?……もしやあなたは」


 リーンの名前を聞いて、魔族は心当たりがあったのかリーンの顔をまじまじと見ていた。
 だが、リーンはその魔族の顔を鋭く睨めつけている。


「いや、名が一緒なだけか?あの方がそのような目つきで私を睨むわけがない」
「ええ、あなたの知るリーンとは別人よ……異世界の魔族さん」
「魔族だと!?」
「魔族って……あのご本に出てくる?」


 クルスが王様に庇われながら聞く。
 そう、この時代にはすでに魔族は過去の存在なのである。
 伝説でなんとか古の戦いとして語り継がれてはいるが、魔族をその眼で見た者はいない。
 そして、それがどれだけの脅威なのか分かる者もいないのだ。


「消えなさい……私と戦えばどうなるか……わかるわね?」


 リーンは魔力を増大させながら魔族を威圧する。
 その魔力に圧倒されたのか額に汗を流しながら魔族は後退りをした。


「なんだその魔力は……馬鹿な、貴様本当にあの方では…?」
「違うと言ったわ……ここで滅びたいの?」
「くっ」


 男は逃げるように空間に移動をし、その場から姿を消した。


「リーン、なんで逃がしちゃうの!?」
「ここで戦うと、お城や街が壊れちゃうのよ……それにあなたのお母さんも巻き込むことになってしまうわ」
「リーン殿、助かった……しかし、なぜ、魔族が……」
「戻ってきたのね……」



 王様の独り言に応えたわけではなく、リーンもまた独り言をつぶやく。
 戻ってきた……そう、リーンのせいで異世界の魔族たちはこの世界が原因で自分たちの世界が危機に瀕していると思っている、だからこそ、諦めるわけがない。それは解っていたのだ……だから、魔王は傷が癒えたら必ずここに戻ってくる。私の付いた嘘を信じて……。


「止めないと、この世界のせいじゃないと知らせないと……」


 リーンは自分のやるべきことを見つけ、それを果たそうと考えるのであった。
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