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6章

浸食

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(私は何を見てるんだろう?)


 カモメはふと、疑問に思う。
 元々は自分の魔力の暴走の原因を知る為に竜の秘宝を使用したはずである。
 目の前の光景が自分の魔力の暴走に関係があるんだろうか?


(もしかして、この人も魔力の暴走をさせて目が見えなくなるのかな?)


 もしかしたら、自分と同じ体験をした人の過去を見せられているのかもしれない。
 そう思ったカモメは、リーンの行動を逐一観察するようになる。


 リーンは心優しく、誰にでも平等に接していた。
 そして誰からも好かれていた。
 そんな中、少女の一つの言葉が耳に止る。



「女神様~、一緒にあそぼ~」
「ふふっ、良いわよ。でも、女神様じゃなくてリーンって呼んでね」
「はーい、リーン様~」
「それじゃ、なにしよっか?」
「あやとり!」


 小さな竜の女の子とあやとりを始めたリーン。
 彼女は女神と呼ばれてた。


(女神?……でも、ディータじゃないよね……ディータの妹の光の女神はレナさんって言うらしいし)



 この人は光の女神でも闇の女神でもない、別の女神?
 そういえば、アークミスラが以前この世界にいた女神が世界に反旗を翻したと言っていた。
 この人がその女神なのか?


(でも、とってもいい人そうだけど……)


 アークミスラの話では竜達を操り、世界を滅ぼすための道具として使っていたと言っていたけど……目の前の女性は一人一人を大事にするまさに女神様という感じだと思った。



「ふふ、この子たちが幸せに暮らせるように頑張らないとね」
(この人は本当に竜族の人達が大好きなんだね)
「それにしても、魔物ってなんで生まれてくるのかしらね……はあ、『世界』とお話が出来れば理由がわかるのかしら……」


 ふと独り言を漏らす、リーン。
 どうやら魔物はリーンが作った者でもなかったようだった。
 ディータやレナは以前の女神が残したものだと思っていたのだが、どうやら違うらしい。


「リーン様!」
「あら、アークミスラ、どうしたの?」
「以前襲われた街が、またも魔物の襲撃に!!」
「そんな!?」


 その言葉を聞くと、リーンは空を飛び、その街へと向かった。
 リーンが着いた頃には魔物たちが街にあふれかえっていた。
 竜達の中でも戦える者たちは魔物を撃退していたが、今度の襲撃はその数が異常である。

 前回、リーンが助けた時に現れた魔物の数は100程だったのだ、そのくらいの数であれば竜達とリーンで十分撃退できたのだが……今回の襲撃は桁が違った。ざっと2000は超えているであろう魔物が街を覆いつくしていた。


「なんでこんなことに!?」
(魔物の大量発生…私たちの時代にもたまにあるけど…理由は解っていたないんだよね)



 突然発生した魔物の大群が近くの街を襲うという事はカモメ達の時代にも稀にある。
 全長があまりないため、その襲撃をうけた街はかなりの被害を出すことになる。
 とはいえ、100年に一度あるかないかという数であるが。


 そんな絶望的な状況の中、リーンは必死に魔物を倒し、傷ついている竜達を助ける。
 女神であるリーンにとっては魔物は敵ではない、だが、竜達はそうはいかなかったようで、かなりの犠牲が出てしまった。


「そんな……」


 竜達の亡骸を前にしてリーンは膝を地面につけ呆然としてた。


「女神様……貴方が悪いんじゃありません……どうか気にせず」
「気にしないでなんていられないわよ!……なんで、どうしてあんなに大量の魔物が……」


 リーンの時代でも珍しい事なのか、魔物の大量発生を予想していなかったのか竜達の亡骸を前に涙を流し続けるリーン。


(いくら女神様でも、何でもできるってわけじゃないもんね……)


 近くディータと言う女神をずっと見てきたカモメは、ディータが苦悩するところも何度も見てきている。
 女神だって人間と変わらない、自分で考えて最善の、最良の行動をつかみ取る為努力をしているのだ。


「許せない」
(……え?)


 リーンの声のトーンが一段下がり、少し背中がゾワリとする感触を覚えるカモメ。
 いや、それだけではない、何か……心の中に騒めくものを感じたのだ。



「女神様?」
「っ!……ごめんなさい、取り乱してしまって……」
「いえ、それだけあなた様が私たちの事を気にしていてくれているという事です、我々は貴方様に感謝しております」
「ありがとう……その言葉だけでも救われるわ」


 眼にたまった涙を人差し指で吹きながら、リーンは何とか笑顔を出す。
 だが、その眼の奥には寂しさのような少し、暗い気持ちが見え始めていた。


 そして、またも場面が切り替わる。そこには再び魔物と戦う竜達とリーンの姿があった。


「なぜ……なぜなの!なぜ竜達の平和な暮らしをじゃまするのよ!!!」


 リーンは泣きながら魔物たちを葬り続ける。
 それもそのはずだ、周りには竜達の死体が多く転がっている。
 中には大きな魔石に姿を変えてしまっている竜達もいた。

 そして、リーンの横には小さな竜が一匹……横たわっていた。


「女神様……また、あやとりしよーね」
「ええ、絶対に!だから、死なないで!」


 周りの魔物を粗方、片付けるとリーンは回復の魔法をその少女の竜に施す……だが、傷は塞がらず、少女の竜はみるみるうちに衰弱していった。


「なんで!なんで治らないのよ!」
「リーンさま……眠くなってきちゃった……お歌……うた…って」
「駄目よ!まだ寝ちゃ駄目!お願い、逝かないで!!」



 叫ぶ、リーンの声も虚しく、少女の竜はそのまま息を引き取ったのだ。


「ふざけるな……なんで、なんでこんな仕打ちをするの!竜達が何をしたというの!平和に暮らしているのに!……私が何をしたというの!女神が人に関わるなとでも!!!……許せない」
(……まただ)


 おかしい、確かに彼女の気持ちもわかる……だけど何かがおかしい……カモメはそう感じるのであった。
 確かに、リーンの気持ちは分かる、やりきれない気持ちでいっぱいだろう。その気持ちを何かにぶつけたいのもわかる……でも、何にぶつけるというのだろうか……魔物?だが襲撃してきた魔物はすでにほとんどを滅ぼしてしまっている。許さないも何もないと思うけど……。


 いや、それよりもだ……リーンに不幸が訪れるたびに何か黒いものが心の中を這いまわるような感覚に襲われるのだ……これは一体なんなんだろう……。


「リーン様」


 カモメが胸に手を置き疑問に思っていると、アークミスラがリーンの元にやってくる。


「アークミスラ……私は世界を探すわ」
「は?世界ですか?」
「ええ……そして、なぜ魔物が現れるのか問い詰める」
「その様なことが?」
「ええ……世界なら知っている筈よ」


 そう言ってリーンが立ち上がると、そのまま空へと飛び立ってしまった。
 そして、また場面は切り替わるのであった……。
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