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6章

リーンという女性

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――――――――暗闇。
 まさしくそう呼ぶにふさわしい場所である。
 カモメはその場所にたった一人、佇んでいた。
 周りを『見渡す』も誰もいない、クオンもエリンシアもディータも、一緒にドラグ山脈へ来た皆がいきなりいなくなったのだ、さっきまで感じていた皆の気配も無くなってしまっている。皆を探そうと手探りで辺りを探索しようと手を伸ばすが……。


「あれ?」


 そこでカモメはふと気づく、視界の端に見慣れた肌色のものがあったのだ。


「あれ……見える?」


 目の前に出てきたのは自分の手であった。
 魔力の暴走で眼が見えなくなっていたはずのカモメがなぜか今はその視力を取り戻している。


「なんで?」


 カモメが疑問の声を上げると、透き通った声が辺りに響いた。


「ここはあなたの精神世界だからです」
「え?」


 その声に驚くも不思議と怖さはない、優しい声で頭の中に響くその声を聴き、カモメは気付く。


「精神世界……そっか、ディータと会った時と同じ……」
「そう、闇の女神はここで闇の子であるあなたと話しました」


 という事は、今、カモメに語り掛けているのは『世界』という事だろうか。
 竜の秘宝は世界と交信するための魔導具だとアークミスラは言っていた。
 となれば、今は話しているこの優しい声の相手が世界ということか。


「貴方の考えている通り、私はこの世界そのものです」
「そうなんだ」
「それを知り、あなたはどうしますか?闇の子よ」
「あ、そうだ。今、私は魔力暴走で魔法も使えないし、目も見えない状況なの……それを治す方法を知らない?」


 カモメは世界の問いに自分達がここまで来た目的を伝える。


「魔力の暴走は貴方が貴方自身の事を知らない為に起こるものです」
「どういうこと?」
「貴方の魔力が人間を遥かに超えている理由、それを理解しなければその魔力を制御することは永遠に不可能でしょう」
「そんな!?」


 自分の魔力が高い理由、そんなの分かるわけがない。
 そう思ったカモメが表情を曇らせる。
 だが、相手は世界。世界なら自分の魔力が高い理由を知っているのではないか?そう思い、カモメは世界に再び問う。


「私の魔力が高い理由って?」
「闇の子よ、その理由を知れば貴方は貴方でいられないかもしれない、それでも聞きますか?」
「え、どういうこと?」


 予想外の回答に、カモメは躊躇する。
 自分が自分ではなくなるとは一体どういうことなのだろうか?
 だが、ここで理由を聞かずに帰れば、カモメは一生、魔法を使えず、視力も戻らないままだ。
 それは駄目だ、そうなれば、今後の魔族との戦いで皆の足を引っ張ることになる。
 カモメは、不安を振り払い、世界にそれでも聞きたいと答えるのであった。


「……解りました、では、あなたに見せましょう。あなたの真実を」


 その言葉を聞くと、再び、カモメの意識は何かに引っ張られるように遠くなる。
 そして、眼を覚ました時、カモメは小さなベッドの上に寝ていた。
 いきなり、場所が移動したことに驚くカモメであったが、手足を動かそうとすると上手く動かない。


(どうして、何があったの?ここはどこ!?)


 慌てるカモメであるが不意に、聞きなれない女性の声が聞こえた。


「んっ……もう朝か」
(誰!?)
「ふわぁ……それじゃ、今日も世界を見て回りましょうか」


 戸惑うカモメの声が聞こえていないのか、女性はマイペースに立ち上がり、着替え始める。


(って、あれ?体が勝手に……違う、これ……私じゃない)


 女性が丁度、鏡の前に立った時、その姿がハッキリとカモメの視界に移った。
 その女性は青い長髪の女性でウェーブのかかった髪がふわふわとしていて、見るからに美女であった。
 その女性が動くと、カモメの視界も移動する、その女性が首を振るとまたもカモメの視界がいどうする。



(私、この人になってる?……ううん、この人の中にいてこの人の見ているものを見てるの?)
「さて、行きましょうか」


 女性は独り言が多いようだ、誰かと会話する訳でもないのにその綺麗な声を発する。


(この人、一体誰なの?って、あれ?)


 女性が外に出ると一瞬で景色が変わる。
 家の中から見た外の風景は森の中のような感じであったのに、次の瞬間、そこは街のような風景になっていた。


「リーン様」
「あら、どうしたのアークミスラ」


 青髪の女性はリーンというらしい……いや、それよりも驚いたのは目の前にいる少年の名前であった。
 アークミスラというその少年は蜥蜴のような尻尾を生やしており、頭には竜の角のようなものが生えていたが、その姿は人間になった時の竜の王の面影があった。


「見て見て、僕、変身できるようになったんだよ!」
「まあ、すごいじゃない、カッコいいわよ」
「えへへ」
「でもまだ、尻尾と角が残っているからもっと練習しないとね♪」
「わわっ、ホントだ!?……むぅ、せっかくできたと思ったのに」


 頬を膨らませ、悔しがるアークミスラにリーンはその頭を撫でてあげた。
すると、アークミスラは驚き、見上げると、そこには優しい笑顔でほほ笑むリーンの顔があったのだ。
その優しい笑顔のリーンを見て、アークミスラは頬を染め、下を向いてしまう。


(優しい人だなぁ)


 自分がなぜこんな光景を見ているのか、全然わからないカモメであったが、その女性の優しさに心を温めるのであった。
 そして、またも風景は変わる。


「リーン様!」
「どうしたの、アークミスラ?」
「西の街が魔物に襲われました!」
「何ですって!すぐに向かいます!」
「はっ!」


 次の光景ではすでに何年か経過しているのかアークミスラと呼ばれたのは少年ではなく青年であった。
 ここに来て、カモメは気付く。


(これ、この人の過去に起きたことを切り取って見ているの?)


 まるで魔導具で取った過去の映像のように、別のシーンに切り替わる。
 それは、誰かの記憶を記録し、映し出されているかのようであった。


「皆、無事?」
「はい、けが人はおりますが皆、無事に生きております」
「そうよかった、怪我をした方はこちらに、回復をするわ」


 リーンは回復の魔法を怪我をした竜族の人達に施していた。
 周りにいる竜族はそのほとんどが人間の姿をしている。
 現代の竜族は人間の姿になることを嫌うというのになぜだろう?とカモメは思うのだが、その答えが周りにいた竜族から帰ってきた。


「リーン様は本当にお優しい」
「ああ、我らもリーン様の様になれるため、この変化の術を磨かねばな」
「そうだな」


 どの竜達もリーンと呼ばれる女性に憧れ、少しでも近づきたいがために、人間の姿になっているようだった。
 だが、その光景は微笑ましいほどに優しく、輝いて見えた。
 カモメはその光景を見ていると不思議と心安らぐのであった………そう、この次の光景に変わるまでは。 
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