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5章

凶刃

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 一方、ドラグ山脈の山頂では、ドラゴン達が襲ってきた魔物の魔石を片付けながら、辺りを警戒していた。


 「魔物の襲撃があれだけとは限らぬ、警戒を怠るな!」
 「はっ!」
 「王!人間たちがこちらへ戻ってまいります!」
 「む、そうか。人間たちも魔物に襲われたのだろう……避難してきたというのならばこちらへ通すのだ」


 ドラゴンの王は人間たちも魔物に襲われこちらまで逃げてきたのだろうと予想したのだ。


 「女神殿とは行き違いになってしまったのか……」
 「王!!」
 「なんだ?」
 「人間たちがこちらに攻撃を仕掛けてきています!」
 「なんだと!?」


 その報告にドラゴンの王は驚き、慌てて報告のあった場所に向かう。
 そこには人間たちに襲われ、無残な姿になった同胞たちの姿があった。


 「なっ……」


 その光景に絶句する、ドラゴンの王の目に傷つき倒れたドラゴンに止めを刺す人間の王の姿が入ってきた。



 「人間よ、何のつもりだ!!!」


 その姿に怒りの感情が沸き上がったドラゴンの王はまるで咆哮のような声を上げ怒鳴った。


 「なんのつもり?それはこちらのセリフだ!我々に魔物をけしかけおって!!」
 「何を言っている?我々はその様な事をしてはおらん!!」
 「嘘を吐くな!」


 まるで聞く耳を持たない人間の王。その姿に戸惑いながらも仲間を失った怒りと悲しみで今にも人間に襲い掛かろうとする同胞を止めるドラゴンの王。


 「嘘ではない、女神殿に誓おう、我々は人間に敵対する気はない」
 「はっ、貴様らの言う女神とはあの偽女神のことであろう!」
 「偽?」
 「我々は知っているのだ、あの女神が偽物であることを!」
 

 あの女神が偽物?そう言われたドラゴンは女神と名乗る少女の事を思い出しながら考える。
 確かに、女神という割には偉ぶることも無くまるで普通の少女のような者であった。
 女神でないと言われればそうかもしれない、だが、その少女が我々を救ったことも間違いない。
 

 「あの者達が我らを救ったことに変わりはあるまい?」
 「違う!我らを救った女神殿はすでに死んでいるのだ!あの者は魔族か何かが化けているに違いない!」
 「なんだと?」


 魔族が化けている?いや、それは無いだろう。
 もしそうだったのならば、ドラゴンも人間も昨晩のうちにこの世から消えている筈だ。
 それだけ無防備に昨日は騒いでいたのだから。


 「それは無いのではないか?もしそうであれば我々は……」
 「もうよい!貴様らが裏切ったことも我々には解っている。ならば殺すのみよ!」


 そう言い放つと、人間の弓隊が弦を引き、無数の矢がドラゴンたちに襲い掛かる。


 「む……」

 
 だが、ドラゴンの王はその矢に火のブレスを放ち、燃やし尽くした。


 「話を聞け、人間の王よ!」
 「ふん、トカゲ風情の話を聞く耳など持たぬ!」
 「なんだと?」
 「所詮、貴様らも魔物……戦いが終われば人間に狩られる運命だったのだ!」


 その言葉に、ドラゴンの王の目の色が変わる。
 そして、後ろに控えていた他のドラゴンたちの目も。


 「我々は最初からドラゴン等と仲良くする気などないわ!戦いを有利にするために利用したまでよ!」
 「……そうか」
 「戦いが済めば用済みだ!」
 「ニンゲンめ……貴様らの考えは良く分かった……皆の者!聞いたな、ニンゲンが裏切った!奴らは我々を狩る等と言ったのだ、どちらが狩られる側かその身に教えてやれ!!」
 


 ドラゴンの王の言葉に後ろに控えていたドラゴンたちは応える。
 その眼に怒りの炎を宿しながら。


 「本性を現したな魔物め……我が有志達よ!トカゲ狩りの時間だ!奴らに我ら人間の力を思い知らせてやれ!」
 「オオオオオオ!!」


 人間たちも王の言葉に応える。
 だが、人間たちの眼には怒りの炎ではなく、まるで花の花粉のような、霞のようなものが映っていた。
 ドラゴンたちはその事には気づきはしない。
 人間たちが自分たちを裏切り、最初から自分たちを殺すつもりでいたと思ってしまっているのだ。
 


 「殺せ!殺せ!」
 「ニンゲンめ!裏切り者め!!!」


 戦いは激しさを増し、人間の武器で串刺しにされるドラゴン。
 ドラゴンのブレスで焼かれる人間。
 双方の数は確実に減ってきていた。


 


 「女神様……あれ!」
 「もう、始まってる……っ」


 そんな中、魔物たちを葬り、レナ達は急いで山頂に戻ってきていた。


 「どうしましょう、女神様!」
 「アネルの言う通りならば、人間たちは操られている可能性が高いはず……それならっ」


 レナはそう言うと持っている杖を掲げ『浄化の光よ!』と叫ぶ、すると、杖から光が放たれ、人間達を包み込んだ。
 その光に包まれた人間たちはまるで操り糸の切れた人形のようにその場に崩れた。


 「今の光は……女神殿!」
 「無事……ではないわね」
 「ニンゲン共が裏切ったのだ!」
 「違うわ、人間たちは何かに操られていたのよ」
 「違う、確かに今襲ってきたのはそうかもしれん、だが、奴らはハッキリと言ったのだ、もとより我々を殺すつもりであったと!」
 「そんな……そんなはずはっ」


 その言葉に戸惑うレナ。


 「女神よ、そなたには感謝している……だが、我々は人間を信じることは出来ぬ」
 「ま、待ってください!私達はあなた方を裏切るなんて……」
 「貴様らの王がハッキリとそう言ったのだ!戦いが終われば我らを狩るつもりだったと!」
 「そ、そんな……」


 怒りの目をぶつけられ、後ろに後退るアネル。
 レナはそんなアネルを庇いながらドラゴンの王と話を続けた。


 「その言葉も操られてのものかもしれないわ」
 「かも知れぬ、だが、同胞を殺され、人間たちの口からその言葉を聞いた我らはニンゲンを信じることなど出来ん!」
 「くっ……」


 ドラゴンたちの目に映る、怒りの炎にレナはこれ以上の説得は不可能であることに気付き、奥歯を噛んだ。


 「でもっ、でもっ……」
 「アネルちゃん、今は何を言っても駄目よ……とにかく、倒れた人間たちは私が運ぶわ……そして、あなたの言っていた通り、元からドラゴンたちを襲うつもりだったのか、聞かせてもう」
 「いいだろう……お主には感謝もしているし信用もしている……」


 このままでは倒れた人間までも炎で焼いてしまいそうな勢いであったドラゴンにレナはそう言った。
 人間たちを助けるという理由もあったが、人間たちを操った女性の事、そして、ドラゴンの言ったことが真実なのかも確かめたかったからだ。


 「とにかく、風の魔法で浮かせて運びます、アネルちゃん、手伝って」
 「は、はいっ!」
 

 レナとアネルがまずは人間の王に近づき、倒れている王を風の魔法で浮き上がらせようとする……が。


 「死ね、偽物め!!!」
 「えっ!?」


 人間の王が立ち上がり、持っていた短剣をレナの腹に突き立てた。


 「め、女神様!?」
 「きさまああああ!!」
 「ヒヒヒ…ヒヒヒヒヒh……」


 竜の王のブレスで人間の王とその後ろに倒れていた人間たちが消し炭へと変わった。

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