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3章
クオンの想い
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カモメ達がドラグ山脈へと向かった翌日の朝、ここツァインの城には各地に向かわせた密偵達が手に入れた情報を伝える為に戻り報告を行っていた。
カモメからツァインに残るように言われた僕とエリンリア、そして異常種であるラガナは情報をすぐに手に入れられるよう王様の傍にいることにしていた。
「先ず、グランルーンの様子ですが街に被害はありません」
「何?戦争を仕掛けられたというのに街に被害が無いのか?」
街に被害が無いという事は市街地での戦いは無かったということだ・・・戦いになる前にグランルーン側が降参をしたという事か・・・しかし、なぜ?
「降参を提案したのはグランルーンの大臣ゴリアテとされています、どうやら、王子の首を差し出したとのことで・・・」
「なんだと!?」
・・・なんてことを。
確かにあの大臣は自分の事しか考えていないような男だったが・・・まさか、国を売るような真似をするなんて・・・。
ラインハルトさんは止めることが出来なかったのか。
「それで、王子はどうなった?」
「騎士団長であるラインハルト殿が王子を連れ落ち延び、行方はわからないようです」
「・・・そうか」
王子もラインハルトさんも無事なようだ。
しかし・・・。
「となると、グランルーンは帝国の属国になったというわけか」
「はい、大臣の指揮のもと大陸を帝国の物にする為、動いているようです」
「・・・なんだと?」
「帝国の狙いは大陸の統一。帝国の王であるドラフリア国王が大陸全てを統べるのが目的とのことです」
「・・・ばかなっ!」
フィルディナンド王は座っていた椅子の手置きの部分を殴る。
大陸全てと言っているのだ・・・つまり、大陸の最果てにあるこのツァインにも攻めてこんでくる。
そして、もしそうなれば、数の少ないこの国ツァインは勝てる見込みがないだろう。
他の国と比べると兵と冒険者の質は高い。
それはこの辺境の国の周りにいる魔物が強力且つ凶暴である為だ。
しかし、個人の力で勝てていても数の差の前には意味をなさない・・・それが戦争である。
ただし、あくまで常識の範囲の話だ・・・うちには常識はずれがいっぱいいる。
カモメを筆頭にエリンシアも十分に常識外れの強さである。
それに、昨日再会を果たしたレディとその仲間の異常種たちもかなりの力を持った者たちだ。
「王よ・・・どうするのです?降伏されますか?」
ソフィーナさんが王様に尋ねる・・・いや、答えは分かっていながら聞いているのだろう。
「するわけがないだろう、私はツァインの民を護らねばならん」
「さすがです」
「ツァインの街の者たちはどうなっていますの?無事ですの?」
話が民の事になったところでずっと聞きたかったのだろうエリンシアが声を上げる。
そう、街は無事とわかっても街に住んでいる人のことはまだ報告されていないのだ。
「今のところは・・・大臣が降伏したためか、街の者たちには帝国も手を出してはおりません・・・ですが、街の人々は恐怖に不安を覚えているようです」
「当然だな・・・」
傷痕が無いとは言え戦争に負けたのだ・・・いや、効いている話だと戦争すらせずに負けたのだ。帝国がどんな要求をしてくるかわからないし、最悪は兵士として一般人ですら最前線に駆り出されるかもしれない。
「・・・・」
エリンシアも不安そうな顔をしている、彼女の家族はグランルーンにいるのだ。当然だろう。
「エリンシア、不安だと思うけど今はどうすることも・・・」
「そうですわね・・・ああ・・・大人しくしてくれているといいですけれど」
「・・・え?」
大人しく?
どういう事だ、何が大人しくなんだろう?
「大人しくってどういうこと?」
「弟の事ですわ、父からグラシアール商会を継いで少しは落ち着いたと思うのですけれど、昔からやんちゃの子ですの・・・無茶をして帝国に喧嘩を売ったりしないと良いんですけれど」
「そ、そうなんだ」
どうやら、エリンシアの心配はただ単に家族の無事をというだけではないようだ。
しかし、かなりの破天荒であるエリンシアがやんちゃという弟・・・一体、どんな子なんだろう。
「とにかく、引き続き各国の情報を知らせてくれ、帝国に降るのはグランルーンだけではないだろう。後、グランルーンの王子の行方も頼む」
「はっ!」
密偵さんは敬礼をすると扉から外に出ていった。
王様は大きなため息を一つはいた後、頭を抱え考え込む。
それにしても、どうしたものか・・・このまま大陸中が戦争になってしまったらどこにいてもカモメは巻き込まれるだろう。
出来ることなら、カモメには自由気ままに冒険を楽しんでほしい。
笑顔のあの子が一番なのだから・・・でも、あの子の笑顔を崩したグランルーン、そしてこのツァインでもまだ短い期間だというのに多くの厄介ごとに巻き込まれている。
そして今度は大陸を巻き込んだ戦争を帝国が起こした。
帝国は差別の激しい国だ、種族が違うというだけで亜人を差別するような国なのである。
その国が戦争に負けた国を優遇することはないだろう・・・使えるだけ使った後は簡単に捨てる・・・今はまだグランルーンと大臣に利用価値があるというだけでなくなれば街も無事とは思えない。
グランルーンはカモメと僕にとっても故郷なのだ・・・出来ることなら失いたくないな。
でも、そうすると、カモメを戦争に巻き込むことに・・・いや、すでにもうカモメを戦争から遠ざけることは出来ないだろう・・・。
カモメはすでにツァインを好きになっている。
この国が巻き込まれることを知ったら自ら進んで手助けをしようとする・・・あの子はそう言う子だ。
・・・それなら。
「ぐっ!」
僕がそこまで考えているとエリンシアがいきなり僕の頭を殴った。
「痛いじゃないか・・・」
「あなたの考えていることは解りますわよ・・・カモメさんの為にあなた一人で帝国に潜入して帝国の王、ドラフリアを暗殺でもしようと考えているんですわよね?」
「うっ・・・」
なぜ、そこまでわかるのだろう・・・。
しかし、カモメを巻き込まず、何とかできる方法と言えばそれしかない。
かなりの無茶だとは思うが可能性があるのならば僕の命なんていくらでも賭けよう。
「はあ・・・クオンさん」
「ん?」
「カモメさんが大好きなのは解りますが、そんなことをしてもカモメさんは喜びませんわよ?」
「カモメが喜ぶからやるんじゃないさ・・・カモメを危険な目に遭わせたくないだけだ」
「はあ・・・」
あからさまに大きなため息を目の前でつくエリンシア。
「そんなにカモメさんを悲しませたいんですの?」
「失敗するとは限らない」
「ずぇ~ったい!失敗しますわ!帝国に乗り込んで国王を暗殺なんて出来るわけないじゃありませんの!」
「わからないだろ!」
「解りますわよ!それに、普段のクオンさんならそれくらい解っておりますわ!!カモメさんの事となるとクオンさんはすぐに暴走しますわ、でもそれではいずれカモメさんを危険にさらしますわよ!」
「なっ!?」
「この間の魔族の時の事を思い出してくださいまし!カモメさんの魂が取られたと思ったワタクシ達は何も考えず敵の罠に飛び込んでどうなりましたの!」
あの時、カモメの魂を取り返すために僕は魔族のいる館に何も考えず飛び込んだ・・・その結果、異空間に閉じ込められ、その上、実は魂を取られていなかったカモメが僕たちを追いかけてきて、魔族に対峙するも、僕たちが人質になり手出しができなかったという事をあとからディータに聞いたのだ。
そうだ・・・あの時と同じように僕はまた何も考えずに動こうとしているのか?・・・いや、そんなことは・・・。
「カモメさんはあなたに自分を護って欲しいなんてこれっぽっちも思っておりませんわ!カモメさんはあなたにずっと隣にいて欲しいんですのよ!」
「!」
「それなのにあなたはカモメさんをほっぽり出していきますの?カモメさんはきっとあなたの後を追いかけますわよ?どんな危険があってもあなたを助けるために・・・」
そうだ、カモメはそういう子だ・・・。
「カモメさんにも護りたいものはありますのよ・・・そして、その一番はきっとあなたですわ・・・でもカモメさんはあなたを信頼しておりますのよ」
「・・・・・」
「だから、カモメさんはあなたにここに残ってもらっているんじゃありませんの、あなたを信頼して自分の護りたいものであるツァインの人たちを任せて・・・あなたはカモメさんを信頼しておりますの?」
「・・・・・」
してる・・・いや、しているつもりだった・・・。
僕はカモメを護りたかった・・・あの子の笑顔を・・・いや、あの子自信を・・・でも、違ったんだ。
僕は怖かったんだ、あの子を失うことが・・・家族を失った時の悲しみを二度と味わいたくなくて。
一番大切なあの子を失いたくなかったから・・・。
はは・・・僕が護ろうとしてたのは自分だったのか・・・最低だ。
「ワタクシは信頼しておりますのよ、カモメさんも・・・もちろん、カモメさんが信頼するクオンさんあなたも・・・」
「エリンシア」
「ワタクシはカモメさんの大切なものを一緒に護りますわ、あの方の隣であの方と一緒に・・・あなたはどうしますの?」
「僕は・・・僕もあの子の隣にいたい」
「ですわよね」
エリンシアはにっこりとほほ笑むと満足そうに言った。
そうだ、僕が護りたいのはあの子の笑顔なんだ・・・自分の未熟さがよくわかった・・・ヴィクトールさんが言ってたな、力だけでなく心を鍛えろって・・・そうか、僕はまだ心の鍛錬がなっていなかったのか。
思えば、ヴィクトールさんはいつも堂々としていた、そしてあの大きな背中で多くの事を護ってきたんだろうな。
護るべきものは命だけじゃない、その人の心を護らなければ意味がないんだ・・・その為に僕はもっと自分の心を磨かないといけないんだ・・・。
「良い顔になりましたわね」
「ありがとうエリンシア・・・決めたよ、僕はカモメを護る為に何かを殺すんじゃなく、カモメを護る為にすべてを護るって」
「あら、随分と大きいことを言いますわね」
「闇の魔女と仲間だからね、それくらいできないと駄目だろう?」
「お~っほっほっほ、その通りですわ!」
僕の答えに満足したのかエリンシアは楽しそうに笑うのだった。
そして・・・
「青春ですねー」
「ちゃかすな」
その状況を温かい目で見ていた王様は、生暖かい目で見ながら空気の読めない人ことを言ったソフィーナさんにハリセンを喰らわせるのだった。
ちなみにラガナはいつの間にか部屋の隅で寝ていた・・・自由な奴だな。
カモメからツァインに残るように言われた僕とエリンリア、そして異常種であるラガナは情報をすぐに手に入れられるよう王様の傍にいることにしていた。
「先ず、グランルーンの様子ですが街に被害はありません」
「何?戦争を仕掛けられたというのに街に被害が無いのか?」
街に被害が無いという事は市街地での戦いは無かったということだ・・・戦いになる前にグランルーン側が降参をしたという事か・・・しかし、なぜ?
「降参を提案したのはグランルーンの大臣ゴリアテとされています、どうやら、王子の首を差し出したとのことで・・・」
「なんだと!?」
・・・なんてことを。
確かにあの大臣は自分の事しか考えていないような男だったが・・・まさか、国を売るような真似をするなんて・・・。
ラインハルトさんは止めることが出来なかったのか。
「それで、王子はどうなった?」
「騎士団長であるラインハルト殿が王子を連れ落ち延び、行方はわからないようです」
「・・・そうか」
王子もラインハルトさんも無事なようだ。
しかし・・・。
「となると、グランルーンは帝国の属国になったというわけか」
「はい、大臣の指揮のもと大陸を帝国の物にする為、動いているようです」
「・・・なんだと?」
「帝国の狙いは大陸の統一。帝国の王であるドラフリア国王が大陸全てを統べるのが目的とのことです」
「・・・ばかなっ!」
フィルディナンド王は座っていた椅子の手置きの部分を殴る。
大陸全てと言っているのだ・・・つまり、大陸の最果てにあるこのツァインにも攻めてこんでくる。
そして、もしそうなれば、数の少ないこの国ツァインは勝てる見込みがないだろう。
他の国と比べると兵と冒険者の質は高い。
それはこの辺境の国の周りにいる魔物が強力且つ凶暴である為だ。
しかし、個人の力で勝てていても数の差の前には意味をなさない・・・それが戦争である。
ただし、あくまで常識の範囲の話だ・・・うちには常識はずれがいっぱいいる。
カモメを筆頭にエリンシアも十分に常識外れの強さである。
それに、昨日再会を果たしたレディとその仲間の異常種たちもかなりの力を持った者たちだ。
「王よ・・・どうするのです?降伏されますか?」
ソフィーナさんが王様に尋ねる・・・いや、答えは分かっていながら聞いているのだろう。
「するわけがないだろう、私はツァインの民を護らねばならん」
「さすがです」
「ツァインの街の者たちはどうなっていますの?無事ですの?」
話が民の事になったところでずっと聞きたかったのだろうエリンシアが声を上げる。
そう、街は無事とわかっても街に住んでいる人のことはまだ報告されていないのだ。
「今のところは・・・大臣が降伏したためか、街の者たちには帝国も手を出してはおりません・・・ですが、街の人々は恐怖に不安を覚えているようです」
「当然だな・・・」
傷痕が無いとは言え戦争に負けたのだ・・・いや、効いている話だと戦争すらせずに負けたのだ。帝国がどんな要求をしてくるかわからないし、最悪は兵士として一般人ですら最前線に駆り出されるかもしれない。
「・・・・」
エリンシアも不安そうな顔をしている、彼女の家族はグランルーンにいるのだ。当然だろう。
「エリンシア、不安だと思うけど今はどうすることも・・・」
「そうですわね・・・ああ・・・大人しくしてくれているといいですけれど」
「・・・え?」
大人しく?
どういう事だ、何が大人しくなんだろう?
「大人しくってどういうこと?」
「弟の事ですわ、父からグラシアール商会を継いで少しは落ち着いたと思うのですけれど、昔からやんちゃの子ですの・・・無茶をして帝国に喧嘩を売ったりしないと良いんですけれど」
「そ、そうなんだ」
どうやら、エリンシアの心配はただ単に家族の無事をというだけではないようだ。
しかし、かなりの破天荒であるエリンシアがやんちゃという弟・・・一体、どんな子なんだろう。
「とにかく、引き続き各国の情報を知らせてくれ、帝国に降るのはグランルーンだけではないだろう。後、グランルーンの王子の行方も頼む」
「はっ!」
密偵さんは敬礼をすると扉から外に出ていった。
王様は大きなため息を一つはいた後、頭を抱え考え込む。
それにしても、どうしたものか・・・このまま大陸中が戦争になってしまったらどこにいてもカモメは巻き込まれるだろう。
出来ることなら、カモメには自由気ままに冒険を楽しんでほしい。
笑顔のあの子が一番なのだから・・・でも、あの子の笑顔を崩したグランルーン、そしてこのツァインでもまだ短い期間だというのに多くの厄介ごとに巻き込まれている。
そして今度は大陸を巻き込んだ戦争を帝国が起こした。
帝国は差別の激しい国だ、種族が違うというだけで亜人を差別するような国なのである。
その国が戦争に負けた国を優遇することはないだろう・・・使えるだけ使った後は簡単に捨てる・・・今はまだグランルーンと大臣に利用価値があるというだけでなくなれば街も無事とは思えない。
グランルーンはカモメと僕にとっても故郷なのだ・・・出来ることなら失いたくないな。
でも、そうすると、カモメを戦争に巻き込むことに・・・いや、すでにもうカモメを戦争から遠ざけることは出来ないだろう・・・。
カモメはすでにツァインを好きになっている。
この国が巻き込まれることを知ったら自ら進んで手助けをしようとする・・・あの子はそう言う子だ。
・・・それなら。
「ぐっ!」
僕がそこまで考えているとエリンシアがいきなり僕の頭を殴った。
「痛いじゃないか・・・」
「あなたの考えていることは解りますわよ・・・カモメさんの為にあなた一人で帝国に潜入して帝国の王、ドラフリアを暗殺でもしようと考えているんですわよね?」
「うっ・・・」
なぜ、そこまでわかるのだろう・・・。
しかし、カモメを巻き込まず、何とかできる方法と言えばそれしかない。
かなりの無茶だとは思うが可能性があるのならば僕の命なんていくらでも賭けよう。
「はあ・・・クオンさん」
「ん?」
「カモメさんが大好きなのは解りますが、そんなことをしてもカモメさんは喜びませんわよ?」
「カモメが喜ぶからやるんじゃないさ・・・カモメを危険な目に遭わせたくないだけだ」
「はあ・・・」
あからさまに大きなため息を目の前でつくエリンシア。
「そんなにカモメさんを悲しませたいんですの?」
「失敗するとは限らない」
「ずぇ~ったい!失敗しますわ!帝国に乗り込んで国王を暗殺なんて出来るわけないじゃありませんの!」
「わからないだろ!」
「解りますわよ!それに、普段のクオンさんならそれくらい解っておりますわ!!カモメさんの事となるとクオンさんはすぐに暴走しますわ、でもそれではいずれカモメさんを危険にさらしますわよ!」
「なっ!?」
「この間の魔族の時の事を思い出してくださいまし!カモメさんの魂が取られたと思ったワタクシ達は何も考えず敵の罠に飛び込んでどうなりましたの!」
あの時、カモメの魂を取り返すために僕は魔族のいる館に何も考えず飛び込んだ・・・その結果、異空間に閉じ込められ、その上、実は魂を取られていなかったカモメが僕たちを追いかけてきて、魔族に対峙するも、僕たちが人質になり手出しができなかったという事をあとからディータに聞いたのだ。
そうだ・・・あの時と同じように僕はまた何も考えずに動こうとしているのか?・・・いや、そんなことは・・・。
「カモメさんはあなたに自分を護って欲しいなんてこれっぽっちも思っておりませんわ!カモメさんはあなたにずっと隣にいて欲しいんですのよ!」
「!」
「それなのにあなたはカモメさんをほっぽり出していきますの?カモメさんはきっとあなたの後を追いかけますわよ?どんな危険があってもあなたを助けるために・・・」
そうだ、カモメはそういう子だ・・・。
「カモメさんにも護りたいものはありますのよ・・・そして、その一番はきっとあなたですわ・・・でもカモメさんはあなたを信頼しておりますのよ」
「・・・・・」
「だから、カモメさんはあなたにここに残ってもらっているんじゃありませんの、あなたを信頼して自分の護りたいものであるツァインの人たちを任せて・・・あなたはカモメさんを信頼しておりますの?」
「・・・・・」
してる・・・いや、しているつもりだった・・・。
僕はカモメを護りたかった・・・あの子の笑顔を・・・いや、あの子自信を・・・でも、違ったんだ。
僕は怖かったんだ、あの子を失うことが・・・家族を失った時の悲しみを二度と味わいたくなくて。
一番大切なあの子を失いたくなかったから・・・。
はは・・・僕が護ろうとしてたのは自分だったのか・・・最低だ。
「ワタクシは信頼しておりますのよ、カモメさんも・・・もちろん、カモメさんが信頼するクオンさんあなたも・・・」
「エリンシア」
「ワタクシはカモメさんの大切なものを一緒に護りますわ、あの方の隣であの方と一緒に・・・あなたはどうしますの?」
「僕は・・・僕もあの子の隣にいたい」
「ですわよね」
エリンシアはにっこりとほほ笑むと満足そうに言った。
そうだ、僕が護りたいのはあの子の笑顔なんだ・・・自分の未熟さがよくわかった・・・ヴィクトールさんが言ってたな、力だけでなく心を鍛えろって・・・そうか、僕はまだ心の鍛錬がなっていなかったのか。
思えば、ヴィクトールさんはいつも堂々としていた、そしてあの大きな背中で多くの事を護ってきたんだろうな。
護るべきものは命だけじゃない、その人の心を護らなければ意味がないんだ・・・その為に僕はもっと自分の心を磨かないといけないんだ・・・。
「良い顔になりましたわね」
「ありがとうエリンシア・・・決めたよ、僕はカモメを護る為に何かを殺すんじゃなく、カモメを護る為にすべてを護るって」
「あら、随分と大きいことを言いますわね」
「闇の魔女と仲間だからね、それくらいできないと駄目だろう?」
「お~っほっほっほ、その通りですわ!」
僕の答えに満足したのかエリンシアは楽しそうに笑うのだった。
そして・・・
「青春ですねー」
「ちゃかすな」
その状況を温かい目で見ていた王様は、生暖かい目で見ながら空気の読めない人ことを言ったソフィーナさんにハリセンを喰らわせるのだった。
ちなみにラガナはいつの間にか部屋の隅で寝ていた・・・自由な奴だな。
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