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3章

少女

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コハクに人気のない場所を回ってもらい、私たちは少し離れたところからリーナの遠見の魔法で様子を伺っている。


「特に何も起こりませんわね」


コハクに囮を頼んでからもう3時間程立っているが、今のところ何も起きていない。
人気のないところを回ってもらってるんだけどなぁ。

やっぱり、少女は関係ない?・・・いや、でも森に少女がいること自体がおかしいのだ、関係ないとは思えないんだよね。


「すぐに襲ってくるというわけじゃないのかもしれないね」
「でも、被害者の冒険者の人は見た日に意識不明になってたよ?」
「そうだったね・・・うーん」
「あら?」


私とクオンが頭を捻っていると、エリンシアが声を上げる。


「兄様が立ち止まりましたね?」



それを聞いて、私達も遠見の魔法に注視すると、確かにコハクが立ち止まっている。


「兄様の視線の先に映像をずらします」


そう言って、リーナはコハクの視線の先に遠見の魔法をずらした。
そこにはフリルの付いたピンクの服を着た可愛らしい少女が立っていた。
頭にはこれまたピンクの帽子をかぶっている、だが、長い髪の毛が前に垂れていて顔はよく見えない。


「どうやら、来たみたいですわね」
「じゃあ、すぐに行こう!」
「エリンシア、君はリーナと一緒にこのまま監視を続けて、僕とカモメはコハクの所に行くよ!」
「了解!」


エリンシアもクオンの指示に頷いたのを確認すると、私たちは駆けだした。

コハクの視線の先にいたのは確かに少女だった。
手にはコハクの言うようにぬいぐるみを抱えていた。デフォルメされたかわいい小悪魔のぬいぐるみという感じである。
小悪魔と言っても本当に愛らしい感じのぬいぐるみだったのだ・・・ちょっと欲しいと思ってしまった。


私達の位置からコハクのいる場所まで走れば一分とかからないだろう。
とはいえ、相手が事件の犯人であるなら油断は出来ない、なるべく早くコハクと合流する為、私たちは全速力で走った。







私達が到着したとき、コハクは少女に対峙し弓を構えていた。

弓を構えているということはコハクはあの少女を敵と認識したようだ・・・つまり、やっぱり事件の関係者であるということだ。



「コハク!」
「魔女様!」



私がコハクに近づき、声を掛ける。
すると、少女も私に気づきこちらを見た。
やっぱり、髪の毛で顔が隠れており可愛らしい姿をしているのにその姿はどこか不気味だ。


「大丈夫?」
「はい・・・気を付けてください、この子・・・人間じゃありません」
「どういうこと?」
「わからないんですが・・・何か嫌な感じがするんです」


エルフは人間より筋力が低い代わりにあらゆる感覚が優れていると聞く、コハクの何かがあの少女を警戒しているのだろう。

私も気を抜かず、バトーネを構えた。


「くすくすくす」


少女が笑う、とても可愛らしい笑いだった・・・だったのだが、その笑い声はどこか不気味であった。
いや、そうだ、今、少女はコハクに弓を向けられ、バトーネを構えた私と対峙している。
もし少女が普通の少女であれば怖がるか、泣き出してもおかしくない・・・それなのに綺麗な声で笑っているのだ。
不気味な筈である。


「ひどいなぁ・・・こんなかわいい少女に武器を向けるなんて」


少女は可愛らしい声でそう言った。
まるで今の状況を楽しんでいるかのように。


「お前は一体何者だ!」


コハクが少女に問う。


「あはは、普通の女の子だよ?エルフのお兄さん」
「普通って言葉辞書で調べたほうがいいんじゃない?」
「えー、めんどくさーい」


私が、挑発するも挑発には乗らず楽しそうに言葉を返してくる少女。


「ねーねー、そっちのブスなおねーちゃんはもしかして闇の魔女?」
「ぶ、ブス?!?」
『よーし、この餓鬼ぶっ殺しましょう』


誰がブスじゃ!って言おうと思ったのだが、私の頭の中で女神にあるまじき女神の言葉が聞こえて言葉を引っ込める。
ディータ、怖いよ。


「ねーねー、闇の魔女なのー?」
「・・・・・そうだけど?」


悪気があるのかないのかよくわからないなこの子・・・いや、人の事を悪気もなくブスとは言わないとは思うけど、少女の無邪気な言葉を聞いていると調子が狂う。


「やっぱり!」
「私が闇の魔女だと何かあるのかな?」
「んーとね、王様にあなたを殺せって頼まれてるのー」
「フィルディナンド王が?」


あの王様が私を殺そうとしてる?
なんでこんな少女に?いや、ただの嘘かな?


「ぶっぶー、違いまーす!私の王様だよー、こんな小っちゃな国の王様じゃなくてー」
「あなたの王様?誰なの?」


私が他の国王様に狙われている?・・・考えられるとすればグランルーンだけど、あそこは今、王様がいない。
四年前に命を落としているはずだ、そして今は、大臣が国の指揮を執っていると聞いている。
なら、大臣の事?


「グランルーンの大臣の事?」
「ぶっぶー、あんなガマガエルのわけないよー、王様はとーってもかっこいいんだから!」
「なら、誰の事なのさ!」


一向に話が進まず、イラついてきた為、少し語気をあげる私。
そんな私の態度が楽しいのか少女はくすくすと笑う。


「えー、そんなの決まってるじゃーん!」
「わからないから教えて欲しいんだけど?」


私が聞くと少女の顔隠していた前髪がふわっと浮き上がり、顔が露見する。


「!?」
「な・・・・・」


その顔は人間の顔とは言えない形をしていた。
瞳は三つ、そしてその瞳は赤く、白目の部分は黒くなっていた。
口は耳近くまで避けていて、歯はまるで犬のように尖がっている。


「魔物!?」


コハクが声を上げる・・・あの瞳の色、私は覚えがある。
お父さんが命を落とした事件の時、ヘインズが人間の死体を使って作り上げた下僕・・・。


「魔鬼!?」
「あは、さすが魔女のおねーちゃん、物知りだねー」


しかし、私の知っている魔鬼はあんな風に会話なんて出来なかったはずだ。


「でもね、私は魔鬼じゃないよー?」


魔鬼じゃない?なら、なんだというの?


「私はね・・・魔族だよ?」


そう言うと、少女の髪が私とコハクに襲い掛かる。


「コハク!」


私は咄嗟にコハクの前にでて少女の髪を魔力を込めたバトーネで弾いた。


「魔族・・・」
『魔族ですって・・・』


まずい、こんな街中で魔族なんかと戦うわけにはいかない。
ヘインズとの戦いのときも戦場になった廃墟は完全に崩れ落ちていた。
それに魔族相手では私も闇の魔法を使わざるを得ないのだ、そうなれば街ごと破壊してしまう可能性がある。
この間の魔人との戦いのときと違って、街には何も知らない住民が普通に歩いているのだ・・・下手をすればその人たちを傷つけてしまう。
どうする・・・。


『魔族・・・つまり、アイツにカモメを殺せと命令した王って・・・』


はっ!そうだ、ディータの言う通り、魔族の王は一人しかいない。


「魔王・・・?」
「おおー、すごいねー、さすが闇の魔女のおねーちゃん、まおうさまを知ってるんだー」
「カモメさん、魔王って?」
「昔話に出てくる千年前の古の戦いに出てくる魔王だよ」
「そんな・・・そんなやつがカモメさんを!?」


魔王が私を狙っているということは私の中にディータがいることが魔王に知れたということ・・・ううん、それ以前に魔王はもう復活してこの世界にいるということだ。


『くっ・・・あの三流魔王が自己主張も無くこの世界に紛れ込んでいるなんて夢にも思わなかったわ』


ディータの話を聞くと、魔王は正面から攻撃を仕掛けてくることが多い奴だったらしい。
小細工などせず、自身の力で蹂躙をする、それを誇りに思っているような奴だったらしく、その為、ディータも魔王が現れたらすぐわかるとたかを括っていたらしい。
この千年で魔王も戦い方を変えたって事か・・・。


「闇の魔法・・・使えるんでしょー?闇の子が本当に生まれたんだねー、すごーい、あの方の言う通りだったよー」


闇の子?・・・そういえば、ヘインズも私の事をそう呼んでたね、なんで闇の子?ディータの力を受け継いだからってことなのかな?



「闇の子ってなに?」
「えー?それは魔女のおねーちゃんが一番知ってるんでしょー?くすくすくす」


私が一番知っている?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、全然わかんないよ?
そう言われて私はちょっと考えてみたが思い当たるのはディータの事だけである。
とはいえ、一番知ってるも何もそうなのかなー?という不確かな事なのだけど、いや、ディータの事を一番知っているということなのかな?
でも、彼女の言う闇の子は闇の魔法を使うってことはディータに関係しているんだろう、となれば私の事で間違いないんだろうけど・・・。


「それで、魔王はどこにいるの?私を殺したいなら居場所を教えてくれればこっちからいくよ?」
「それはおしえられなーい、まおうさま忙しいしー、魔女のおねーちゃんは私が殺しちゃうしねー」


魔王が忙しい?何か企んでいるってことだよね・・・むぅ。



「それじゃ、魔女のおねーちゃん。そろそろ死んじゃおっかー?」
「無理」
「えーなんでー?」
「だって無理だもん・・・ほら」
「え?・・・ぎゃああああ!」


私がそう言うと少女は悲鳴を上げた。
なぜ悲鳴を上げたかというと、少女の背中に魔剣が突き刺さったからである。
そう、コハクの元に駆け付けたのは私だけではない、もう一人、私の相棒も一緒に来ていたのだ。
だが、この場に着いた時、コハクの近くに駆け寄ったのは私だけである。
私の相棒は屋根の上に上り、気配を消して少女の後ろへ回り込んでいたのである。
そして、情報をこれ以上聞けないと判断すると彼は少女に攻撃を仕掛けたのだ。


「クオンさん!」


クオンの姿を見てコハクが声を上げた。
クオンがヴァンパイアから奪った魔剣には光の魔法を操る力がある、そして光の魔法は魔族にダメージを与えることのできる魔法だ。
その光魔法を魔剣自体に宿し、クオンは魔族の少女の背中から突き刺したのである。


「魔剣よ!」


クオンが叫ぶと、魔剣が光り出し、光の魔法の出力が上がった。


「ぎゃああああああああ!!」


魔族が叫ぶ、これならば街に被害を出さずに魔族を倒すことができるかもしれない。


「ぎゃああああああ・・・」


そして、少女は灰へと姿を変えた。


「ナーイス、クオン!」
「うん、でも、魔王がもうこの世界に来ているなんてね」
「うん、探さないと」
「どうやってー?」
「わからないけど、とにかく王様に相談してみよ・・・う?」


ちょっと待って、今の声・・・?


「えー、死んじゃうのにー?」
「なっ!?」


灰になった少女を見る、だが、少女は灰になったままだった。
なら、この声はどこから聞こえるの?


「ひどいよー、この体気に入ってたのにー、まあ、お家に帰ればスペアがあるけどー」
「一体、どこから・・・」
「ひどーい・・・ココダヨ」


少女(?)の声がそう言うと何かがクオンに襲い掛かった。


「なっ!?」


私もクオンも驚きの声を上げる。
それはそうだ、だって少女が来ていた服が、クオンに巻き付いているのだから。


「あははー、びっくりした?」


服・・・いや、帽子が喋っている。


「ざんねーん、私の本体は帽子でしたー」


そう言いながら服を操り、クオンの動きを封じる魔族。
なんてこった・・・まさか帽子の形をした魔族だったとは・・・いや、そういえばヘインズも黒い何かに姿を変えるときがあった。
魔族に形は無いのかもしれない。
その魔族が気に入った形をしているだけで。


「クオンをはなして!」
「いいよー、でも条件があるんだー」
「条件?」


魔族はクオンを放してくれるという、さすがの私もそれを簡単に信じるつもりはないけど、このままだと服にまとわりつかれているクオンが窒息死してしまう。
今、魔族の服はクオンの顔に張り付いている、必死にそれを剥がそうとしているクオンなのだが、まともに息が出来ないからか上手く剥がすことが出来ずにいた。


「そこの人ぬいぐるみを拾ってー、お気に入りなんだー。さすがに体が無いとちゃんと戦えないし、今日はもうお家にかえるー」


だが、あっちに落ちている人ぬいぐるもはお気に入りらしく置いて帰りたくないと言った。
私が人形を取りに行ったらコハクを襲う可能性もある、かと言って魔族の近くにコハクと一緒に移動して万が一襲い掛かられたらコハクを守れる自信もない。
ここは十分警戒をしながら、私一人でぬいぐるみを取りに行った。

このとき私はいきなりの魔族の出現に、ことの発端を忘れていた。


私がぬいぐるみを掴み持ち上げた時、クオンが何とか服から口部分を出すことに成功していた。
よかった、あれなら窒息の心配はない。
そう安堵する私にピンチであるはずのクオンの方が叫ぶ。


「駄目だカモメ!そのぬいぐるみに触るな!」
「え?」


そう言われても、すでにわたしはぬいぐるみを持ってしまっている。
口の部分は出せてもまだ顔に張り付いている服を全部とれているわけではないのでクオンは前が見えていない。

そして、私は手に持ったぬいぐるみから不気味な違和感に気づく。
え・・・ぬいぐるみから、心臓の音のようなものが聞こえる・・・。


『カモメ!!』


そう、私は忘れていた、この事件は意識不明の被害者の事件を調査していたということを・・・。
私の意識は暗闇へと飲まれるのだった。
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