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2章

侵入

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カモメ達がウェアウルフたちのアジトであろう洞窟へと向かった後、部屋に一人残った男が考え事をしている。
このツァインの王、フィルディナンドである。


「グランルーンの魔女・・・あの者がこの国に来たのは救いとなるのか滅びとなるのか・・・しっかりと見極めねば・・・。利用できるのであれば利用させてもらおう・・・この国の為にな」


両手の肘を机の上に着き、口元の前で手を組み溜息を吐く彼は、どこか疲れた顔をしていた。


「国の為とはいえ、年端も行かぬ少女を利用するか・・・我ながら嫌になる・・・」


再度、ため息を吐いたフィルディナンドは窓の外の空を見上げた。
空は晴天とは言えないが曇り空ともいえぬ、なんとも微妙な天気であった。

フィルディナンドはその空をみて苦笑いを浮かべた。
その空はまるでこの国の未来は自分に掛かっているとでも言っているかのようであったのだ。







私たちはクオンの案内で岩盤地帯を抜け、ウェアウルフたちのアジトである洞窟の前まで来ていた。
洞窟の前にはクオンの言った通り二匹のウェアウルフが見張りをしている。
さて、どうしたものか。


「どうしよう、倒しちゃう?」
「倒すなら、中の連中に気づかれないように素早く倒さないとだね」


うんうん、じゃないと肝心のウェアウルフを操っている相手が逃げちゃうかもしれないもんね。
でも、どうやって倒そう・・・一番いいのは風の魔法で音もなく斬ることかな?
もしくは、クオンに瞬殺してもらう?
そう思っているとエリンシアが声を上げる。


「なら、ワタクシの出番ですわね」


あ、そっか、エリンシアの魔導銃ならここから簡単にウェアウルフを倒せる・・・あ、でも。


「エリンシアの魔導銃、発砲音、結構大きくなかった?」
「あら、それならば音を出さずに撃つだけですわ」
「そんなこと出来るの?」
「もちろんですわ、この四年間ワタクシも成長しておりますのよ」


それなら、エリンシアに任せようかな。
私の魔法だと少し音出ちゃうしねぇ。


「じゃあ、任せるよ」
「任されましたわ♪」


そう言うと、エリンシアは銃を構えた。
エリンシアの魔力が銃を覆い始める。
普段撃つときは、魔導銃の周り全部をうっすらと魔力が覆う感じだけど、今は魔導銃の発射口辺りに集中している。
エリンシアがトリガーを引くと、細いレーザーのようなものが発射された。

そして、そのまま、ウェアウルフ達の頭部を貫き絶命させた。


「なんと・・・」


ソフィーナが驚きの声を上げる、私も驚いた。
エリンシアの言う通りほとんど音もなく敵を倒したのだ。
当然、洞窟の中からは誰も出てこない、どうやら見張りが倒されたことには気づいていないようだ。


「では、突入しますわよ!」
「うん、行こう!」


私達は洞窟の中へと侵入する。
中は暗く、自分たちの目の前1メートルくらいしか見えない。


「灯りの魔法付ける?」


小声で私はクオンに言う。
何処に敵がいるかわからないので灯りを付けるのをためらうのだ。


「いや、少し離れているけど灯りの漏れている場所がある、そこまで行ってみよう」


本当だ少し離れた場所から灯りが漏れている。
ということはあそこにウェアウルフたちを操っている者がいるのかな?

私たちはクオンを先頭に注意をしながらその場所まで進んだ。


光の漏れている場所に来た私たちはその光景に驚く。
私たちは洞窟に入ったはずであるのに、そこには空が見えるのだ。
私が後ろを振り返ると、そこには先ほどまでの洞窟がある。
光をくぐった先がまるで別の場所のようになっているのだ。


「クオン・・・これ?」
「わからない・・・」
「何がどうなってますの!?」
「これは、まやかしの類か!?」

『これは、空間を捻じ曲げられているわね』


私たちが驚いているとディータが説明をしてくれた。
ディータが言うにはこの場所、この光の門のようなものは空間を捻じ曲げて別の場所と別の場所をつなげる役割を持っているらしい。
そんなことできるの!?


『普通は無理よ・・・相手は余程の相手ということになるわね』


私たちの想定ではランクA以上の魔物がいるであろうと思ってはいたがディータが言うにはこの門はランクA程度の魔物では使える代物ではないそうだ。
となると、ランクS・・・もしくはまた魔族の可能性もある。


私はそのことをみんなに話した。


「もし、ランクSの魔物がいた場合、かなり危険だ」


クオンの言う通りだ、ランクSの魔物は今までに戦ったことはない。
そもそも、そう簡単に出会えるものでもないのだ。
ランクSといえる魔物は数も少なく、知能も高い。

以前逃亡中に、兵士たちから逃げるために上った山にキメラという魔物がいたことがあった。
そこは地元の人たちが危険な山で誰も登らないということから逃走ルートにしたのだが、誰も登らない理由はそのキメラであった。
キメラというのはランクAの魔物でとても大きく、獅子と山羊の頭をもち、尻尾は蛇のとんでもなく怖い魔物であった。
そりゃあ、地元の人が近づかないわけだ。

私とクオンは何とかそのキメラを倒したのだが、それなりに苦戦を強いられたのだ。
そのキメラより上の魔物となると、正直戦いたくはない・・・でも。


「ここで帰ると、またウェアウルフたちがツァインを襲うんだよね?」
「そうなります・・・出来れば、私としては原因を排除したいのですが・・・」


そうソフィーナさんは言った。
でも、ランクSの魔物の危険度も彼女は承知しているのかあまり強くは言ってこない。


「あそこに見えるのって」


私がおもむろに指を指した。
私たちの少し先の方に砦のようなものが見えている。
そして、砦の入り口付近にはウェアウルフらしき影が見えているのだ。


「まあ、間違いなくあそこが連中のアジトなんだろうね」
「どうしますか?」


ソフィーナが心配そうな顔で聞いてくる。
正直、あの砦を落とせる戦力は今のツァインにはないだろう。
やるなら、このメンバーで挑むしかない。
明日になればまた、ウェアウルフたちが襲撃してくるなら他の国に応援を頼む余裕もないだろう。

なら、ここで引いても意味がない。


「とりあえず、中の様子を探ろう」
「それがいいですわね、ならば夜になるのを待ちますわよ」
「りょーかい!」


私たちは夜の暗闇を利用して侵入することにした。
攻撃を仕掛けるにしても中から奇襲した方がいいだろうしね。
でも、ランクS以上の魔物がいた場合うまくいくかどうか・・・。








辺りは暗くなり、虫たちの声が聞こえ始める。
私たちは静かに砦に近づく、見張りのウェアウルフが目を光らせているので彼らの目に留まらなぬよう闇に紛れて近づいた。
どこかに侵入できそうな場所がないか私たちは探す、だが、それほど大きい砦ではない為、思った以上に侵入が難しい。

見張りのウェアウルフの数はそれほど多くないが、もし洞窟の前の見張りの時のように倒してしまえばいくらなんでも他の見張りが気づいてしまう。
かと言って、見張りすべて倒すには距離が離れていた。

こうなると見張りを倒して潜入というわけにはいかない。


「レディさんを探した時のように空からは駄目ですの?」


私は魔法で空を飛ぶことができる。だが、空を飛んでいる間は魔力を発動している。
私の魔力が黒いとはいえ、魔力の輝きが夜の間では目立つのだ。
かと言って昼間に来れば丸見えである。
空を飛べば砦の中には入れるとは思う。
でも、もし飛んでる最中を見られてしまったらいい的でしかないので不安でもある。
それに、私の腕力では一度に運べるのは一人である、となると3往復・・・見つかる可能性は高い。
それをエリンシアに伝えるとそうですのと残念そうにしていた。


「いっそ、堂々と正面から殴り込みをかける?」
「それはさすがに・・・」


敵の数も分からないしさすがに危険か・・・。
それじゃあ、やっぱり・・・。


「いつものでいこっか」
「だね」


私とクオンの会話を聞いた二人がいつものってと言う顔をしている。
そんな二人を余所に私は手をガッチリと組み合わせ腰を下ろして壁を背中に待機した。
その私に向かってクオンは助走をつけて走ってくる。

私が組み合わせた手の部分にクオンが足を掛ける。
クオンの体重が乗ったのを確認すると私は手を上にあげクオンを上へと飛ばした。
簡単に言うと私の手を踏み台にしたクオンに私の力を加えてより高くジャンプさせたのだ。

おっと、勘違いが無いように言っておくと別に私は怪力の持ち主ではない、風の魔法で補助したのだ。
これならば、ジャンプしたクオンには魔力の輝きが無く見えにくいし、魔法を使った私も見張りの死角にいるので魔力の輝きを発見される心配もないのだ。


そして、音もなく中に侵入したクオンは中から人のいない場所を探し出すと内側から砦の壁を斬り裂いた。
人のいないところ、見張りから見えないところを確認してから斬り裂くためそうそうバレないのである。
逃亡生活中に何度か、隠れる場所を探すためにこの手を使ったがバレたことはない。


「剣で壁を・・・」
「手慣れてますわね」
「逃亡生活長かったもん」


ソフィーナはクオンの剣捌きに驚き、エリンシアはちょっと呆れていた。



私たちはクオンが作った穴から侵入するのであった。


 
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