28 / 361
1章
父の背中
しおりを挟む
私が廃墟に戻ったとき、丁度ラインハルトさんが魔鬼をバラバラにしたところであった。
さすが、騎士団長すごいね。
「カ、カモメさんですの?」
エリンシアが私を見て驚いたような顔をする。
そして、私もエリンシアをみて驚く。
「エリンシア、大丈夫!?」
そう、彼女は左腕と左肩を怪我したのか、白い服が赤く染まっていた。
慌てて私はエリンシアに駆け寄るが・・・。
「ワタクシより先にラインハルトさんをお願いしますわ」
そう言われて、改めてラインハルトさんを見ると背中の鎧が砕けており、そこから流血していた。
かなりのひどい傷である。
私は急いでラインハルトさんに駆け寄る。
そして治療魔法を掛けた。
私の治療魔法は傷の治療は出来るものの流れた血までは戻らない。
なのでラインハルトさんには少し休んでもらわないといけないね。
「痛みは消えました?」
「ああ、すまない」
「傷は治したけど、血までは戻らないので少し休んでください」
私はそう言うとラインハルトさんは頷いた。
そして、お父さんとヘインズが戦っている方を見る。
お父さんも私に気づいたようでこちらに視線を送った、そして私を見ると少し驚いた顔をする。
なんだろ?
今度はクオンの方を見ると、クオンは頷く。
頷いた後、クオンは笑った後首を横に振った。まるで心配いりませんとでも言っているかのようであった。
私はラインハルトさんの治療を終えると、エリンシアの元に戻ってくる。
そして左腕に治療魔法を掛け始めた。
「カ、カモメさん・・・その髪と眼はどうしたんですの?」
「あ、忘れてた」
そっか、さっきエリンシアが驚いたのもお父さんが驚いたのもこの髪と眼のせいか・・・黒にかわってたの忘れてたよ。
「えっと、新しい魔法の影響・・・かな?」
「新しい魔法・・・ですの?」
「うん、すごいんだよ♪」
私は笑顔でVサインを出す。
エリンシアの治療が終わるとお父さんとヘインズの戦いは再開していた。
お父さんの攻撃は何度かあたっているようであったがヘインズにはダメージを与えられていないのかニヤニヤと笑っていた。
あの聖武具という武器は魔族にもダメージを与えられるはずなのだが、攻撃力が足りないのかな?
でも、お父さんの攻撃力が足りないとなると聖武具使ってもヘインズにダメージを与えられる人っていないんじゃないだろうか?
私が不安を顔に出しているとラインハルトさんがその不安を察したのか声を掛けてきた。
「大丈夫だ、ヴィクトールの聖武具にはギアのようなものがある、戦いがヒートアップするにつれてヴィクトールの力は増していく」
「そうなんだ・・・」
ラインハルトさんの話によるとお父さんの聖武具は戦いが後半になるにつれてどんどんと攻撃力を増してく武器のようだ。
なんというか、使いずらそうな武器だなぁ。
そんなことを思いながら再びお父さんの方に視線を送るとヘインズの体の一部が黒い触手のようになりお父さんの右腕に絡みついていた。
ヘインズは口を三日月の形にして笑う。
「捕まえましたよ」
「そのようだな・・・だが、私が捕まえたともいえるのではないか?」
お父さんはそう言いニヤっと笑うと右腕を後ろに引いてヘインズを自分の方へと引き寄せた。
そしてもう一方の左の拳を握る。
「丁度、ギアも上がってきたところだし・・・なっ!!」
言葉と同時にお父さんの左の拳がヘインズのお腹に突き刺さった。
「ぐはっ!!」
初めてヘインズの顔が歪む。
私の頭の中で『効いたようね』とディータが言った。
その言葉が正しい証拠にお父さんの右腕を絡めていた力が弱まったのか今度は右の拳がヘインズの顔面にめり込んだ。
そして、ヘインズはその勢いで後ろへと吹き飛んでいた。
さすがお父さん!
そして、そのお父さんの周りの様子が少しおかしいことに気付く。
お父さんの周りがユラユラと微かに揺らいでいた。
「あれが、ヴィクトールの聖武具のギアが上がってきたときに起こる現象だ。ヴィクトール自身が熱を持ち始めるらしい」
ラインハルトさんの説明によるとギアが上がるとお父さんの体温も上昇し、周りが熱で揺らぎ始めるということだった。
ろうそくの周りが揺らいでいたりするのと同じようなものらしい。
その揺らぎがまるで何かオーラを纏っているように見えてお父さんがかっこよく見えた。
「ふ、フハハハハハ!面白い!この私が・・・魔族であるこの私が!人間にダメージを与えられるなんて・・・・」
また、最高の物語になりそうだとかいうのだろうか?
「ですが・・・いけませんねぇ、カモメさんの悲劇の物語を見たかったのですがカモメさんは魔鬼を倒してきてしまいますし・・・いけません・・・いけませんねぇ」
いけませんいけませんと呟くヘインズ、頭を殴られておかしくなっちゃったのかな?
「本来であれば、魔鬼を相手に儚く散った不幸な少女の物語でしたのに・・・」
先ほどまでは両手を広げて面白いと言っていたヘインズが途端に両手を地面に向け猫背になり顔は項垂れている。
「いえ、そうです、そうですね、やはりカモメさんには死んでもらいましょうそれが最高です。そして、不幸な娘の死を目の当たりにする不幸な父親の復讐物語、これは面白くなりそうですよ」
ブツブツブツブツとこちらにはほとんど聞こえない声で何かを言っている。
そして顔だけこちらを向き今までにないほど大きく三日月形に開いた口が不気味に笑っていた。
『カモメ!気を付けなさい!』
ディータの声が私の頭に響く。
そしてその次の瞬間、ヘインズの姿がその場から消え、私の目の前に現れた。
そして無数の黒い触手が私を串刺しにしようと向かってきた。
エリンシアとクオンの叫ぶ声が聞こえる。
私はヘインズの攻撃に何の反応も出来ずにいた。
避けることもできない、防ぐこともできない、魔法を唱える時間もない。
私は目をぎゅっと瞑った。
やられると思った瞬間私は衝撃を受け、後ろに倒れる。
不思議と体に痛みはない、余りに大きな傷を負うと脳が痛みを理解できないことがあると言う、そのせいかな?
私は瞑っていた目を開いて自分の体を確認する。
だが、私の体には傷も無ければ黒い触手も刺さってはいなかった。
そして顔を上げると目の前にはお父さんの大きな背中があった。
お父さんはヘインズの意識が私に向いたのを感じて咄嗟にこちらに向かっていたらしい。
さすが、お父さん!娘を思う父親の愛の力だね!
私が、お父さんに心の中で称賛を送っていると赤い小さな雫が地面へと落ちた。
私はなんだろうとそれが何か理解するまでに少し時間が掛かる。
そして、それが血だと認識すると途端に血の気が引いた。
「お父さん!!」
お父さんは私の代わりに無数の黒い触手をその体に受けていた。
肩、足、腹部と何か所も深々と刺されていてかなりの重症だった・・・急いで治療魔法を掛けないと!
私は立ち上がりお父さんに近づくとすぐに治療魔法を掛ける。
だが、ヘインズは笑いながらさらに攻撃を仕掛けてきた。
「いいですね!父娘の愛!これはこれでいい物語になるのではありませんか!!アハ、アハハハハハ!!!」
演出家を気取るなら初志貫徹してよね!!
再び黒い触手を放ってくるヘインズの攻撃をお父さんは私を抱えながら避けた。
かなりの重症ではあるが、治療すれば命の危険はないだろう・・・だが、その治療をヘインズがさせてくれない。
後ろでラインハルトさんが立ち上がろうとしているが血が足りていない為立ち上がれずにいた。
エリンシアは魔導銃を撃ってくれているのだが、魔族であるヘインズにはダメージが無いためお構いなしにヘインズはこちらに攻撃を仕掛けてくる。
駄目だ、このままじゃお父さんの治療どころか、動き回ってさらに傷がひどくなる・・・なら、先にヘインズを何とかしないと!
「ディータ!使うよ!」
『ええ、見せてやりなさい、あなたの力を!』
ディータに許可を取ると私は闇の魔法を唱える。
黒い魔力が私の周りに発生するとお父さんやエリンシアが驚き・・・そしてヘインズも驚愕していた。
「なっ・・・その魔力は・・・」
「闇の刃!!」
闇の刃がヘインズに向かっていく。
驚愕していたヘインズは反応が遅れ闇の刃をかわそうとするも右腕らへんにあった触手を一本斬り飛ばされる。
「ぐあああああああああ!」
すごい、合成魔法でも効いていなかったヘインズがあんな悲鳴を上げるほどのダメージを受けている・・・これならいける!
そう思い、闇の刃を反転させ再度ヘインズの方へと向かわせる。
「ありえないいいい!」
いきなり奇声を上げたヘインズが右腕の残っている何本かの触手を一本にまとめ上げたかと思うとそれを振り闇の刃を砕いた。
「え・・・うそ・・・」
魔鬼をも圧倒した闇の刃が砕かれてしまった。
「ありえないありえないありえない・・・闇の魔法を使うなんて・・・カモメさん・・・あなたには確実に死んでもらわないといけませんねぇ」
ヘインズの眼を見た瞬間恐怖が私を支配する。
血走ったような目だ・・・まるで私を憎い仇として見ているような・・・怖い。
『カモメ、集中しなさい!まだ、使い慣れていない闇の魔法だけど、使い方次第でなんとかなるはず!』
ディータが私を鼓舞する。
そうだ、ここで怖がっていたらお父さんが死んでしまう!
なんとか、ヘインズを倒さないと!
そう思ってヘインズを睨み返すとヘインズの形相がまるで鬼のように変わっていた。
そして、先ほど束ねた右の触手を伸ばし、上へと挙げるとそれをそのままこちらに叩き付けてきた。
お父さんが私を抱えてまたそれを避ける。
そして触手が落ちてきた地面はまるで飴細工だとでもいうかのようにヒビが入っていた。
ヘインズの様子が先ほどまでと全然違う。
「闇の魔法とはそれほどまでに魔族に危険視されているのか・・・」
お父さんが呟く。
その呟きに私の頭の中でディータが答えていた。
『当然ね、1000年前私は闇の魔法で何百という魔族を滅ぼしてきたのだから』
1000年前?ディータはそれほど前から魔族と戦っているの?
1000年前というと古の戦いがあったころだよね、いろいろと疑問がわいては来たが今はそれどころではない。
考えるのは後だ!
「お父さん離れてて!」
私はお父さんから離れるように駆けだした、そして再び闇の刃を作りヘインズへと放つ。
今度はヘインズの死角になるように刃を誘導しながら攻撃した。
またもまとめた触手で私の闇の刃を砕く。
くう・・・どうしたらいいの!
「闇の子は殺さなければ・・・あの方の為にも・・・」
「闇の子?あの方?」
ディータわかる?と聞くとディータが答えてくれる。
『あの方ってのは魔王の事だと思うわ・・・でも闇の子っていうのは分からないわね、単に私・・・闇の女神の力を受け継ぐ子って意味かも知れないけど』
そう答えたディータはでも、私が力を受け継がせることを魔族が知っているとは思えないのだけどと後に続けた。
そして、闇の子と言われる私は魔族から目の敵にされるってことだよね・・・おおう。
私は再び闇の刃を放つがその刃も軽々砕かれてしまった。
まずいね・・・魔力ももう何発も撃てるほど残っていない。
どうしようと思っているとヘインズの姿がまたも消えた・・・しまった!
今度は私の後ろに現れたヘインズが纏まった右の触手を私に叩き付けてくる。
まともに喰らえば一撃で死んでしまう!
「風よ!」
咄嗟に私は風の魔法の要領で風を操り、自分をその場から移動させた。
だが、叩き付けられた触手の衝撃で私は吹き飛ばされる。
「きゃあああ!」
地面を転がり壁に叩き付けられた私はたったそれだけでほとんど動けないほどのダメージを負ってしまった。
そして、そんな私に鬼の形相のままヘインズは近づいてきた。
再び、右の触手を振り上げるヘインズ。
駄目だ・・・もう躱せない。
そう思った矢先にヘインズをお父さんが殴り飛ばした。
お父さんは先ほどまで周りを微かに纏っていたオーラのような揺らぎが今はハッキリと周りが揺らいでいるのが分かる。
お父さんのギアがさらに上がっているようだ・・・でも。
「お、お父さん!」
「そこで見ていろ、カモメ・・・何この程度の傷ではくたばらんさ」
そう言ってお父さんはヘインズへと向き、拳を構えた。
ヘインズは鬼の形相をしたまま、お父さんではなく私の方をずっと見据えていた。
さすが、騎士団長すごいね。
「カ、カモメさんですの?」
エリンシアが私を見て驚いたような顔をする。
そして、私もエリンシアをみて驚く。
「エリンシア、大丈夫!?」
そう、彼女は左腕と左肩を怪我したのか、白い服が赤く染まっていた。
慌てて私はエリンシアに駆け寄るが・・・。
「ワタクシより先にラインハルトさんをお願いしますわ」
そう言われて、改めてラインハルトさんを見ると背中の鎧が砕けており、そこから流血していた。
かなりのひどい傷である。
私は急いでラインハルトさんに駆け寄る。
そして治療魔法を掛けた。
私の治療魔法は傷の治療は出来るものの流れた血までは戻らない。
なのでラインハルトさんには少し休んでもらわないといけないね。
「痛みは消えました?」
「ああ、すまない」
「傷は治したけど、血までは戻らないので少し休んでください」
私はそう言うとラインハルトさんは頷いた。
そして、お父さんとヘインズが戦っている方を見る。
お父さんも私に気づいたようでこちらに視線を送った、そして私を見ると少し驚いた顔をする。
なんだろ?
今度はクオンの方を見ると、クオンは頷く。
頷いた後、クオンは笑った後首を横に振った。まるで心配いりませんとでも言っているかのようであった。
私はラインハルトさんの治療を終えると、エリンシアの元に戻ってくる。
そして左腕に治療魔法を掛け始めた。
「カ、カモメさん・・・その髪と眼はどうしたんですの?」
「あ、忘れてた」
そっか、さっきエリンシアが驚いたのもお父さんが驚いたのもこの髪と眼のせいか・・・黒にかわってたの忘れてたよ。
「えっと、新しい魔法の影響・・・かな?」
「新しい魔法・・・ですの?」
「うん、すごいんだよ♪」
私は笑顔でVサインを出す。
エリンシアの治療が終わるとお父さんとヘインズの戦いは再開していた。
お父さんの攻撃は何度かあたっているようであったがヘインズにはダメージを与えられていないのかニヤニヤと笑っていた。
あの聖武具という武器は魔族にもダメージを与えられるはずなのだが、攻撃力が足りないのかな?
でも、お父さんの攻撃力が足りないとなると聖武具使ってもヘインズにダメージを与えられる人っていないんじゃないだろうか?
私が不安を顔に出しているとラインハルトさんがその不安を察したのか声を掛けてきた。
「大丈夫だ、ヴィクトールの聖武具にはギアのようなものがある、戦いがヒートアップするにつれてヴィクトールの力は増していく」
「そうなんだ・・・」
ラインハルトさんの話によるとお父さんの聖武具は戦いが後半になるにつれてどんどんと攻撃力を増してく武器のようだ。
なんというか、使いずらそうな武器だなぁ。
そんなことを思いながら再びお父さんの方に視線を送るとヘインズの体の一部が黒い触手のようになりお父さんの右腕に絡みついていた。
ヘインズは口を三日月の形にして笑う。
「捕まえましたよ」
「そのようだな・・・だが、私が捕まえたともいえるのではないか?」
お父さんはそう言いニヤっと笑うと右腕を後ろに引いてヘインズを自分の方へと引き寄せた。
そしてもう一方の左の拳を握る。
「丁度、ギアも上がってきたところだし・・・なっ!!」
言葉と同時にお父さんの左の拳がヘインズのお腹に突き刺さった。
「ぐはっ!!」
初めてヘインズの顔が歪む。
私の頭の中で『効いたようね』とディータが言った。
その言葉が正しい証拠にお父さんの右腕を絡めていた力が弱まったのか今度は右の拳がヘインズの顔面にめり込んだ。
そして、ヘインズはその勢いで後ろへと吹き飛んでいた。
さすがお父さん!
そして、そのお父さんの周りの様子が少しおかしいことに気付く。
お父さんの周りがユラユラと微かに揺らいでいた。
「あれが、ヴィクトールの聖武具のギアが上がってきたときに起こる現象だ。ヴィクトール自身が熱を持ち始めるらしい」
ラインハルトさんの説明によるとギアが上がるとお父さんの体温も上昇し、周りが熱で揺らぎ始めるということだった。
ろうそくの周りが揺らいでいたりするのと同じようなものらしい。
その揺らぎがまるで何かオーラを纏っているように見えてお父さんがかっこよく見えた。
「ふ、フハハハハハ!面白い!この私が・・・魔族であるこの私が!人間にダメージを与えられるなんて・・・・」
また、最高の物語になりそうだとかいうのだろうか?
「ですが・・・いけませんねぇ、カモメさんの悲劇の物語を見たかったのですがカモメさんは魔鬼を倒してきてしまいますし・・・いけません・・・いけませんねぇ」
いけませんいけませんと呟くヘインズ、頭を殴られておかしくなっちゃったのかな?
「本来であれば、魔鬼を相手に儚く散った不幸な少女の物語でしたのに・・・」
先ほどまでは両手を広げて面白いと言っていたヘインズが途端に両手を地面に向け猫背になり顔は項垂れている。
「いえ、そうです、そうですね、やはりカモメさんには死んでもらいましょうそれが最高です。そして、不幸な娘の死を目の当たりにする不幸な父親の復讐物語、これは面白くなりそうですよ」
ブツブツブツブツとこちらにはほとんど聞こえない声で何かを言っている。
そして顔だけこちらを向き今までにないほど大きく三日月形に開いた口が不気味に笑っていた。
『カモメ!気を付けなさい!』
ディータの声が私の頭に響く。
そしてその次の瞬間、ヘインズの姿がその場から消え、私の目の前に現れた。
そして無数の黒い触手が私を串刺しにしようと向かってきた。
エリンシアとクオンの叫ぶ声が聞こえる。
私はヘインズの攻撃に何の反応も出来ずにいた。
避けることもできない、防ぐこともできない、魔法を唱える時間もない。
私は目をぎゅっと瞑った。
やられると思った瞬間私は衝撃を受け、後ろに倒れる。
不思議と体に痛みはない、余りに大きな傷を負うと脳が痛みを理解できないことがあると言う、そのせいかな?
私は瞑っていた目を開いて自分の体を確認する。
だが、私の体には傷も無ければ黒い触手も刺さってはいなかった。
そして顔を上げると目の前にはお父さんの大きな背中があった。
お父さんはヘインズの意識が私に向いたのを感じて咄嗟にこちらに向かっていたらしい。
さすが、お父さん!娘を思う父親の愛の力だね!
私が、お父さんに心の中で称賛を送っていると赤い小さな雫が地面へと落ちた。
私はなんだろうとそれが何か理解するまでに少し時間が掛かる。
そして、それが血だと認識すると途端に血の気が引いた。
「お父さん!!」
お父さんは私の代わりに無数の黒い触手をその体に受けていた。
肩、足、腹部と何か所も深々と刺されていてかなりの重症だった・・・急いで治療魔法を掛けないと!
私は立ち上がりお父さんに近づくとすぐに治療魔法を掛ける。
だが、ヘインズは笑いながらさらに攻撃を仕掛けてきた。
「いいですね!父娘の愛!これはこれでいい物語になるのではありませんか!!アハ、アハハハハハ!!!」
演出家を気取るなら初志貫徹してよね!!
再び黒い触手を放ってくるヘインズの攻撃をお父さんは私を抱えながら避けた。
かなりの重症ではあるが、治療すれば命の危険はないだろう・・・だが、その治療をヘインズがさせてくれない。
後ろでラインハルトさんが立ち上がろうとしているが血が足りていない為立ち上がれずにいた。
エリンシアは魔導銃を撃ってくれているのだが、魔族であるヘインズにはダメージが無いためお構いなしにヘインズはこちらに攻撃を仕掛けてくる。
駄目だ、このままじゃお父さんの治療どころか、動き回ってさらに傷がひどくなる・・・なら、先にヘインズを何とかしないと!
「ディータ!使うよ!」
『ええ、見せてやりなさい、あなたの力を!』
ディータに許可を取ると私は闇の魔法を唱える。
黒い魔力が私の周りに発生するとお父さんやエリンシアが驚き・・・そしてヘインズも驚愕していた。
「なっ・・・その魔力は・・・」
「闇の刃!!」
闇の刃がヘインズに向かっていく。
驚愕していたヘインズは反応が遅れ闇の刃をかわそうとするも右腕らへんにあった触手を一本斬り飛ばされる。
「ぐあああああああああ!」
すごい、合成魔法でも効いていなかったヘインズがあんな悲鳴を上げるほどのダメージを受けている・・・これならいける!
そう思い、闇の刃を反転させ再度ヘインズの方へと向かわせる。
「ありえないいいい!」
いきなり奇声を上げたヘインズが右腕の残っている何本かの触手を一本にまとめ上げたかと思うとそれを振り闇の刃を砕いた。
「え・・・うそ・・・」
魔鬼をも圧倒した闇の刃が砕かれてしまった。
「ありえないありえないありえない・・・闇の魔法を使うなんて・・・カモメさん・・・あなたには確実に死んでもらわないといけませんねぇ」
ヘインズの眼を見た瞬間恐怖が私を支配する。
血走ったような目だ・・・まるで私を憎い仇として見ているような・・・怖い。
『カモメ、集中しなさい!まだ、使い慣れていない闇の魔法だけど、使い方次第でなんとかなるはず!』
ディータが私を鼓舞する。
そうだ、ここで怖がっていたらお父さんが死んでしまう!
なんとか、ヘインズを倒さないと!
そう思ってヘインズを睨み返すとヘインズの形相がまるで鬼のように変わっていた。
そして、先ほど束ねた右の触手を伸ばし、上へと挙げるとそれをそのままこちらに叩き付けてきた。
お父さんが私を抱えてまたそれを避ける。
そして触手が落ちてきた地面はまるで飴細工だとでもいうかのようにヒビが入っていた。
ヘインズの様子が先ほどまでと全然違う。
「闇の魔法とはそれほどまでに魔族に危険視されているのか・・・」
お父さんが呟く。
その呟きに私の頭の中でディータが答えていた。
『当然ね、1000年前私は闇の魔法で何百という魔族を滅ぼしてきたのだから』
1000年前?ディータはそれほど前から魔族と戦っているの?
1000年前というと古の戦いがあったころだよね、いろいろと疑問がわいては来たが今はそれどころではない。
考えるのは後だ!
「お父さん離れてて!」
私はお父さんから離れるように駆けだした、そして再び闇の刃を作りヘインズへと放つ。
今度はヘインズの死角になるように刃を誘導しながら攻撃した。
またもまとめた触手で私の闇の刃を砕く。
くう・・・どうしたらいいの!
「闇の子は殺さなければ・・・あの方の為にも・・・」
「闇の子?あの方?」
ディータわかる?と聞くとディータが答えてくれる。
『あの方ってのは魔王の事だと思うわ・・・でも闇の子っていうのは分からないわね、単に私・・・闇の女神の力を受け継ぐ子って意味かも知れないけど』
そう答えたディータはでも、私が力を受け継がせることを魔族が知っているとは思えないのだけどと後に続けた。
そして、闇の子と言われる私は魔族から目の敵にされるってことだよね・・・おおう。
私は再び闇の刃を放つがその刃も軽々砕かれてしまった。
まずいね・・・魔力ももう何発も撃てるほど残っていない。
どうしようと思っているとヘインズの姿がまたも消えた・・・しまった!
今度は私の後ろに現れたヘインズが纏まった右の触手を私に叩き付けてくる。
まともに喰らえば一撃で死んでしまう!
「風よ!」
咄嗟に私は風の魔法の要領で風を操り、自分をその場から移動させた。
だが、叩き付けられた触手の衝撃で私は吹き飛ばされる。
「きゃあああ!」
地面を転がり壁に叩き付けられた私はたったそれだけでほとんど動けないほどのダメージを負ってしまった。
そして、そんな私に鬼の形相のままヘインズは近づいてきた。
再び、右の触手を振り上げるヘインズ。
駄目だ・・・もう躱せない。
そう思った矢先にヘインズをお父さんが殴り飛ばした。
お父さんは先ほどまで周りを微かに纏っていたオーラのような揺らぎが今はハッキリと周りが揺らいでいるのが分かる。
お父さんのギアがさらに上がっているようだ・・・でも。
「お、お父さん!」
「そこで見ていろ、カモメ・・・何この程度の傷ではくたばらんさ」
そう言ってお父さんはヘインズへと向き、拳を構えた。
ヘインズは鬼の形相をしたまま、お父さんではなく私の方をずっと見据えていた。
0
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
大好きな母と縁を切りました。
むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。
領地争いで父が戦死。
それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。
けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。
毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。
けれどこの婚約はとても酷いものだった。
そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。
そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
妹とそんなに比べるのでしたら、婚約を交代したらどうですか?
慶光
ファンタジー
ローラはいつも婚約者のホルムズから、妹のレイラと比較されて来た。婚約してからずっとだ。
頭にきたローラは、そんなに妹のことが好きなら、そちらと婚約したらどうかと彼に告げる。
画してローラは自由の身になった。
ただし……ホルムズと妹レイラとの婚約が上手くいくわけはなかったのだが……。
侯爵夫人は子育て要員でした。
シンさん
ファンタジー
継母にいじめられる伯爵令嬢ルーナは、初恋のトーマ・ラッセンにプロポーズされて結婚した。
楽しい暮らしがまっていると思ったのに、結婚した理由は愛人の妊娠と出産を私でごまかすため。
初恋も一瞬でさめたわ。
まぁ、伯爵邸にいるよりましだし、そのうち離縁すればすむ事だからいいけどね。
離縁するために子育てを頑張る夫人と、その夫との恋愛ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる