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1章
闇の子
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「ま、まさか皇太后か・・・」
「ひひひひひ!悪魔の子!やっと死んだ!!これで息子は安泰よ!!ひひひひひ!」
「な、なにを言っている!王はすでに立派に国を治めているではないか!!アスカは何も邪魔などしていない!今更アスカを狙う理由がどこにあると言うのだ!!」
「ひひひひ、悪魔の子!死んだ!死んだ!」
「く、狂っているのか・・・?」
見るからに様子のおかしかった皇太后がまるで子供の用に小躍りをしながら死んだ死んだと叫んでいた。
その姿は明らかに異常であった。
「一体、どうしたと言うのだ・・・」
『それは・・・私が答えよう』
気配はなかった・・・姿も見えなかった・・・だが声はどこからともなく聞こえる。
「誰だ!」
私が声を上げると、何もなかった場所に小さな黒いひずみが出来、そこから異形の物が現れた。
全身が黒く、体は細く胴回りが女性の腕くらいしかない、そしてその顔には三つの黒い円が目と口の位置にある白いお面のようなものを被っていた。
「貴様・・・魔族か?」
「ご明察・・・」
私は以前、邪竜を倒した際に魔族と戦ったことがある。
その時の魔族も、何もない空間から突如として現れた。
「まさか、まだ魔族がいたとはな・・・奴で最後かと思ったが」
「それこそまさかだな。我ら魔族が滅びるなどありえん」
「それで、彼女はお前が狂わせたのか?」
「ふ・・・察しがいいな」
ふざけている・・・いや、こうしている間にも背中の妻は徐々に呼吸が弱くなっている。こんな話をしている場合ではない。
「悪いが先を急いでいるんでな、通してもらうぞ」
「そうはいかん・・・その女の息の根を止めねばならんのでな」
「なに?」
魔族がなぜアスカを狙う?
いや、それも考えている時ではないな。
私はそう思いなおし、娘も抱えこの場を去ろうとする。そこに・・・
魔族が右手をかざし炎の魔法を放ってきた。
その魔法の大きさは直径5メートルを超えるほどの大きさで私は瞬時躱すことも出来なかった。
だが、その火球は私の前で霧散する。
「なっ・・・・」
「あなた・・・私を置いて・・・カモメを連れて逃げて・・・・」
妻が魔法を使って魔族の魔法を相殺したのだ。
「ば、馬鹿な!そんなこと出来るわけがない!」
私の腕には聖武具である手甲を装備している。戦おうと思えば魔族と戦う事も出来る。
だが、そうすれば妻は確実に死んでしまう・・・。
「さすがは闇の子よ・・・恐るべき力よな」
「ひひひひ!悪魔の子は闇の子!ひひひひ!」
「闇の子?なんだそれは?」
「貴様ら人間が知る必要はない」
再び火球が私を襲う。
私はアスカとカモメを降ろし、拳を構えた。
逃げることはできない、ならば最速で魔族を倒し、治癒師の所へ向かうしかない。
そう考えた私は、聖武具を装備した拳で目の前の火球を弾き飛ばした。
「なに!?」
驚愕する魔族に私は超スピードで駆け寄る。
そして右腕を振りかぶり一撃で魔族を倒すため聖武具にありったけの魔力を込めた。
後は右腕を突き出し、魔族を殴るだけの所で目の前に割り込む者がいた。
「ばあ!ひひひひひひ!」
皇太后だ。
私は、とっさに拳を止めてしまった。
このまま右腕を振りぬけば、皇太后ごと魔族を倒せたかもしれないかったのだが私は、拳を止めてしまったのだ。
「スキありだ」
魔族は火球を放つ。
その火球は皇太后を一瞬で消し炭にし私に襲い掛かった。
「しまったっ!」
私は炎に飲まれながらも聖武具を前面に出し、魔力を流し盾とした。
そのおかげでなんとか命は繋いだものの、すでに動けぬほどのダメージを全身に受けてしまったのだ。
「く・・・」
「あなた・・・」
妻の声が聞こえる・・・普段の明るく元気な彼女の声ではない・・・か細い、今にも消えてしまいそうな声だ。
「おかーさん!おとーさん!」
娘の声が聞こえる・・・優しく、太陽のように明るい娘・・・その娘が泣いている。
「ぐうっ!」
私は再度全身に力を入れ立ち上がる。
足は焼かれており、力を入れるだけで激痛が走る。
体は焦げており、息をするのもままならない。
腕は特にひどく、すでに感覚がない・・・・・。
だが、知った事か!私は父親で夫だ!家族を守る為ならばこの体のすべてが壊れようと戦い続ける!
「ぬおおおおお!」
「ほう・・・まだ動くか・・・だが」
全身に激痛を感じながらも魔族に殴りかかろうとしたその時・・・魔族の手の中で動くものを見つける。
先ほどまで私の後ろで泣いていたはずだ。
・・・なぜ、そこに?
「なぜという顔をしている・・・答えよう、私の体は伸縮自在だ。故に腕を伸ばし掴んだ、それだけだ」
「ぐっ・・・」
「動くな、動けばこの娘を殺す」
馬鹿な・・・動かなかったとしても生かしておく気など無いだろう・・・だが、私は動けん・・・娘を見殺しになど出来るものか・・・。
「それでいい」
そう言い、魔族は再び火球を放った。
私は死を覚悟したが、その火球は私に届くことはなかった。
妻が私の前に立ち己の体と魔力を使い私を護ったのだ。
「あなた・・・負けないで・・・」
「アスカああああ!!」
妻は私の方を振り向くと微笑み、炎をに飲まれた。
次の瞬間、そこにはもう妻の姿はなかった。
妻がいたであろう場所に黒い焦げた跡だけが残っていたのだ。
「おかーさん?・・・おかーさん!?・・・・・・」
「貴様・・・」
「すぐに後を追わせてやる」
魔族は再び火球を作り出す。
だが、その時、私の視界が歪む・・・。
なんだ?いや、体のダメージが限界に達したのか?
だが、そうではないことを次の魔族の言葉が証明した。
「な、なんだこれは・・・」
魔族の驚愕の声、そして、魔族の手の中にいる我が娘の様子がおかしい。
「カモメ!」
カモメの目から光が消えている。
どういうことだ、様子がおかしい、それはわかる・・・だが、私のこの『感情』はどうしたことだ。
私は、カモメを見た瞬間、言いようがないほどの恐怖に駆られた。
恐怖しているのは私だけではない魔族もだ。
「な、なんなのだこれは!!!」
そう、魔族が恐怖している。
魔族こそが人々の恐怖の象徴であるはずだ、なのにその魔族が恐怖している。
その状況に私は焦りを覚える・・・あそこにいるのは本当にカモメなのか?
カモメは徐々に黒いオーラのようなものを躰から湧き上がらせる。
・・・あれはなんだ?
いや、あれはもしかして魔力か?
以前、妻が魔力の絶対容量を上げる為の修練法として魔力をあのように湧き上がらせていた。
しかし、その時の魔力の色は少し青みがかった透明色であった、あのように黒い色ではなかったはずだ。
だが、私の予想が当たっていることを魔族が証明した。
「く、黒い魔力・・・まさか・・・」
「許さない・・・」
「・・・・なっ!?」
カモメが右腕を魔族に向けた瞬間、黒い刃のような物が放たれる。
そしてその黒い刃は易々と魔族の右肩から先を斬り飛ばし、後ろにあった家屋を真っ二つにした。
「な、なんという威力だ・・・」
「今のは闇の魔法・・・」
闇の魔法、魔族は確かにそう言った。
この世界に存在する魔法は火、水、土、雷、風、光の6種類しかないはずだ。
(厳密には水の中に氷があったりなど細かな種類もあるが)
闇の魔法などというものは聞いたことが無い。
「本当はこんなことはしたくなかったのだけれど・・・仕方ないわよね」
カモメの声ではない誰かの声がカモメの口から聞こえた。
「ならば・・・闇の子はあの女ではなく貴様っ・・・がっ、ぎゃああああああああああああああああああああああ!!」
魔族は最後まで言葉を言う事はなかった。
カモメが再び右手をかざすと今度は黒い炎のようなものが魔族を跡形もなく消し去ったのだ。
カモメは支える者がいなくなり、地面へと落ちた。
「カモメ!」
私はカモメに近寄る。
もしかしたら、先ほどの黒い攻撃を私にもしてくるかもしれないが知った事ではない。
私より娘の方が大事だ。
「カモメ・・・よかった、息はある・・・」
私は安堵すると黒く焦げた大地を見る。
「アスカ・・・」
何もないその場所を見て、私の頬に流れる物があった。
そして、娘を治癒師に診せる為、私はその場を後にしたのだ。
《クオンside》
「闇の魔法・・・」
「うむ、あの時確かに魔族はそう言った。そして、あのカモメの様子も未だに私の脳裏に焼き付いている」
「カモメはその後、その魔法を使ったことは?」
「ない、あの時だけだ」
「そうですか・・・」
魔族をも簡単に倒してしまう魔法・・・確かにヘインズとの戦いのときにカモメはそんな魔法は使っていなかった。
「それだけではない、あの時の母親が自分を庇って魔物にやられた後のことをカモメは覚えていない」
「記憶がないのですか・・・」
「ああ、だから、カモメは母親を殺した相手は私が倒して終わったと思っている」
「なぜ、この話を僕に?」
「今回魔族らしきものがいるというのが一番の理由だな」
「また、カモメがその時のようになると?」
「かもしれん」
確かに、母親が死んだときも魔族が絡んでいた。
だとすれば、魔族が現れたときにカモメがその状態になるのかもしれない。
「クオン・・・」
「・・・はい?」
「もし、またカモメがその状態になった時、もし普通では無かったらその時はあいつを止めてやってくれ」
「僕が・・・ですか?」
「ああ、あいつはお前にかなり心を開いている・・・同じような境遇だからなのか分からぬが頼めるのはお前しかいない・・・そう思うのだ」
「ヴィクトールさん・・・」
「勘だがな」
「・・・勘ですか」
「うむ」
まったく、真剣な話をしているかと思えば・・・。
「だが、私の勘はよく当たるのだ」
そして、僕を見てニヤリと笑う。
確かに、その闇の魔法というのは正体不明で恐ろしいが使っているのはあのカモメだ。
根っからのお人好しでお節介で、泣き出した子供相手にアタフタしてしまうような女の子だ。
何が怖いというのだろうか。
「仕方ありませんね、もしそれで敵以外の人間を傷つけようとしたらほっぺたをつねって止めてあげますよ」
「ふ・・・頼んだぞ」
「ええ」
ヴィクトールさんがどこまで本気だったのか正直ちょっとわからなかったがカモメの過去を話してくれたということは僕の事を本当に信頼してくれているのだろう。
なら、その信頼には答えたい。
「では、明日に備えて寝るとするか」
「そうですね」
僕はヴィクトールさんが部屋から出ると再び窓の外に目を向けた。
そして、先ほどの話を考える。
カモメの使う闇の魔法か・・・魔族が怯えるほどの魔法か・・・一体どんなものなんだろう。
「はあ・・・余計眠れなくなった・・・」
月夜の部屋に僕は一人、頭を抱え溜息を吐いた。
「ひひひひひ!悪魔の子!やっと死んだ!!これで息子は安泰よ!!ひひひひひ!」
「な、なにを言っている!王はすでに立派に国を治めているではないか!!アスカは何も邪魔などしていない!今更アスカを狙う理由がどこにあると言うのだ!!」
「ひひひひ、悪魔の子!死んだ!死んだ!」
「く、狂っているのか・・・?」
見るからに様子のおかしかった皇太后がまるで子供の用に小躍りをしながら死んだ死んだと叫んでいた。
その姿は明らかに異常であった。
「一体、どうしたと言うのだ・・・」
『それは・・・私が答えよう』
気配はなかった・・・姿も見えなかった・・・だが声はどこからともなく聞こえる。
「誰だ!」
私が声を上げると、何もなかった場所に小さな黒いひずみが出来、そこから異形の物が現れた。
全身が黒く、体は細く胴回りが女性の腕くらいしかない、そしてその顔には三つの黒い円が目と口の位置にある白いお面のようなものを被っていた。
「貴様・・・魔族か?」
「ご明察・・・」
私は以前、邪竜を倒した際に魔族と戦ったことがある。
その時の魔族も、何もない空間から突如として現れた。
「まさか、まだ魔族がいたとはな・・・奴で最後かと思ったが」
「それこそまさかだな。我ら魔族が滅びるなどありえん」
「それで、彼女はお前が狂わせたのか?」
「ふ・・・察しがいいな」
ふざけている・・・いや、こうしている間にも背中の妻は徐々に呼吸が弱くなっている。こんな話をしている場合ではない。
「悪いが先を急いでいるんでな、通してもらうぞ」
「そうはいかん・・・その女の息の根を止めねばならんのでな」
「なに?」
魔族がなぜアスカを狙う?
いや、それも考えている時ではないな。
私はそう思いなおし、娘も抱えこの場を去ろうとする。そこに・・・
魔族が右手をかざし炎の魔法を放ってきた。
その魔法の大きさは直径5メートルを超えるほどの大きさで私は瞬時躱すことも出来なかった。
だが、その火球は私の前で霧散する。
「なっ・・・・」
「あなた・・・私を置いて・・・カモメを連れて逃げて・・・・」
妻が魔法を使って魔族の魔法を相殺したのだ。
「ば、馬鹿な!そんなこと出来るわけがない!」
私の腕には聖武具である手甲を装備している。戦おうと思えば魔族と戦う事も出来る。
だが、そうすれば妻は確実に死んでしまう・・・。
「さすがは闇の子よ・・・恐るべき力よな」
「ひひひひ!悪魔の子は闇の子!ひひひひ!」
「闇の子?なんだそれは?」
「貴様ら人間が知る必要はない」
再び火球が私を襲う。
私はアスカとカモメを降ろし、拳を構えた。
逃げることはできない、ならば最速で魔族を倒し、治癒師の所へ向かうしかない。
そう考えた私は、聖武具を装備した拳で目の前の火球を弾き飛ばした。
「なに!?」
驚愕する魔族に私は超スピードで駆け寄る。
そして右腕を振りかぶり一撃で魔族を倒すため聖武具にありったけの魔力を込めた。
後は右腕を突き出し、魔族を殴るだけの所で目の前に割り込む者がいた。
「ばあ!ひひひひひひ!」
皇太后だ。
私は、とっさに拳を止めてしまった。
このまま右腕を振りぬけば、皇太后ごと魔族を倒せたかもしれないかったのだが私は、拳を止めてしまったのだ。
「スキありだ」
魔族は火球を放つ。
その火球は皇太后を一瞬で消し炭にし私に襲い掛かった。
「しまったっ!」
私は炎に飲まれながらも聖武具を前面に出し、魔力を流し盾とした。
そのおかげでなんとか命は繋いだものの、すでに動けぬほどのダメージを全身に受けてしまったのだ。
「く・・・」
「あなた・・・」
妻の声が聞こえる・・・普段の明るく元気な彼女の声ではない・・・か細い、今にも消えてしまいそうな声だ。
「おかーさん!おとーさん!」
娘の声が聞こえる・・・優しく、太陽のように明るい娘・・・その娘が泣いている。
「ぐうっ!」
私は再度全身に力を入れ立ち上がる。
足は焼かれており、力を入れるだけで激痛が走る。
体は焦げており、息をするのもままならない。
腕は特にひどく、すでに感覚がない・・・・・。
だが、知った事か!私は父親で夫だ!家族を守る為ならばこの体のすべてが壊れようと戦い続ける!
「ぬおおおおお!」
「ほう・・・まだ動くか・・・だが」
全身に激痛を感じながらも魔族に殴りかかろうとしたその時・・・魔族の手の中で動くものを見つける。
先ほどまで私の後ろで泣いていたはずだ。
・・・なぜ、そこに?
「なぜという顔をしている・・・答えよう、私の体は伸縮自在だ。故に腕を伸ばし掴んだ、それだけだ」
「ぐっ・・・」
「動くな、動けばこの娘を殺す」
馬鹿な・・・動かなかったとしても生かしておく気など無いだろう・・・だが、私は動けん・・・娘を見殺しになど出来るものか・・・。
「それでいい」
そう言い、魔族は再び火球を放った。
私は死を覚悟したが、その火球は私に届くことはなかった。
妻が私の前に立ち己の体と魔力を使い私を護ったのだ。
「あなた・・・負けないで・・・」
「アスカああああ!!」
妻は私の方を振り向くと微笑み、炎をに飲まれた。
次の瞬間、そこにはもう妻の姿はなかった。
妻がいたであろう場所に黒い焦げた跡だけが残っていたのだ。
「おかーさん?・・・おかーさん!?・・・・・・」
「貴様・・・」
「すぐに後を追わせてやる」
魔族は再び火球を作り出す。
だが、その時、私の視界が歪む・・・。
なんだ?いや、体のダメージが限界に達したのか?
だが、そうではないことを次の魔族の言葉が証明した。
「な、なんだこれは・・・」
魔族の驚愕の声、そして、魔族の手の中にいる我が娘の様子がおかしい。
「カモメ!」
カモメの目から光が消えている。
どういうことだ、様子がおかしい、それはわかる・・・だが、私のこの『感情』はどうしたことだ。
私は、カモメを見た瞬間、言いようがないほどの恐怖に駆られた。
恐怖しているのは私だけではない魔族もだ。
「な、なんなのだこれは!!!」
そう、魔族が恐怖している。
魔族こそが人々の恐怖の象徴であるはずだ、なのにその魔族が恐怖している。
その状況に私は焦りを覚える・・・あそこにいるのは本当にカモメなのか?
カモメは徐々に黒いオーラのようなものを躰から湧き上がらせる。
・・・あれはなんだ?
いや、あれはもしかして魔力か?
以前、妻が魔力の絶対容量を上げる為の修練法として魔力をあのように湧き上がらせていた。
しかし、その時の魔力の色は少し青みがかった透明色であった、あのように黒い色ではなかったはずだ。
だが、私の予想が当たっていることを魔族が証明した。
「く、黒い魔力・・・まさか・・・」
「許さない・・・」
「・・・・なっ!?」
カモメが右腕を魔族に向けた瞬間、黒い刃のような物が放たれる。
そしてその黒い刃は易々と魔族の右肩から先を斬り飛ばし、後ろにあった家屋を真っ二つにした。
「な、なんという威力だ・・・」
「今のは闇の魔法・・・」
闇の魔法、魔族は確かにそう言った。
この世界に存在する魔法は火、水、土、雷、風、光の6種類しかないはずだ。
(厳密には水の中に氷があったりなど細かな種類もあるが)
闇の魔法などというものは聞いたことが無い。
「本当はこんなことはしたくなかったのだけれど・・・仕方ないわよね」
カモメの声ではない誰かの声がカモメの口から聞こえた。
「ならば・・・闇の子はあの女ではなく貴様っ・・・がっ、ぎゃああああああああああああああああああああああ!!」
魔族は最後まで言葉を言う事はなかった。
カモメが再び右手をかざすと今度は黒い炎のようなものが魔族を跡形もなく消し去ったのだ。
カモメは支える者がいなくなり、地面へと落ちた。
「カモメ!」
私はカモメに近寄る。
もしかしたら、先ほどの黒い攻撃を私にもしてくるかもしれないが知った事ではない。
私より娘の方が大事だ。
「カモメ・・・よかった、息はある・・・」
私は安堵すると黒く焦げた大地を見る。
「アスカ・・・」
何もないその場所を見て、私の頬に流れる物があった。
そして、娘を治癒師に診せる為、私はその場を後にしたのだ。
《クオンside》
「闇の魔法・・・」
「うむ、あの時確かに魔族はそう言った。そして、あのカモメの様子も未だに私の脳裏に焼き付いている」
「カモメはその後、その魔法を使ったことは?」
「ない、あの時だけだ」
「そうですか・・・」
魔族をも簡単に倒してしまう魔法・・・確かにヘインズとの戦いのときにカモメはそんな魔法は使っていなかった。
「それだけではない、あの時の母親が自分を庇って魔物にやられた後のことをカモメは覚えていない」
「記憶がないのですか・・・」
「ああ、だから、カモメは母親を殺した相手は私が倒して終わったと思っている」
「なぜ、この話を僕に?」
「今回魔族らしきものがいるというのが一番の理由だな」
「また、カモメがその時のようになると?」
「かもしれん」
確かに、母親が死んだときも魔族が絡んでいた。
だとすれば、魔族が現れたときにカモメがその状態になるのかもしれない。
「クオン・・・」
「・・・はい?」
「もし、またカモメがその状態になった時、もし普通では無かったらその時はあいつを止めてやってくれ」
「僕が・・・ですか?」
「ああ、あいつはお前にかなり心を開いている・・・同じような境遇だからなのか分からぬが頼めるのはお前しかいない・・・そう思うのだ」
「ヴィクトールさん・・・」
「勘だがな」
「・・・勘ですか」
「うむ」
まったく、真剣な話をしているかと思えば・・・。
「だが、私の勘はよく当たるのだ」
そして、僕を見てニヤリと笑う。
確かに、その闇の魔法というのは正体不明で恐ろしいが使っているのはあのカモメだ。
根っからのお人好しでお節介で、泣き出した子供相手にアタフタしてしまうような女の子だ。
何が怖いというのだろうか。
「仕方ありませんね、もしそれで敵以外の人間を傷つけようとしたらほっぺたをつねって止めてあげますよ」
「ふ・・・頼んだぞ」
「ええ」
ヴィクトールさんがどこまで本気だったのか正直ちょっとわからなかったがカモメの過去を話してくれたということは僕の事を本当に信頼してくれているのだろう。
なら、その信頼には答えたい。
「では、明日に備えて寝るとするか」
「そうですね」
僕はヴィクトールさんが部屋から出ると再び窓の外に目を向けた。
そして、先ほどの話を考える。
カモメの使う闇の魔法か・・・魔族が怯えるほどの魔法か・・・一体どんなものなんだろう。
「はあ・・・余計眠れなくなった・・・」
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