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1章

嵐が去る

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エリンシアは天に向かって吠えた後、白目をむいてその場に倒れた。無理もない。
私は、なんとか動けるくらい回復したので気絶してしまったエリンシアに治癒魔法を掛けに近づいた。


「まったくぅん、こんなイケメンそうそう会えないのにぃん、残念だわぁん」
「はあ・・・本当にクレイさんにプロポーズしていただけなの?」
「そうよぉん」


頭が痛くなってきた。


「なら、なんでクレイさんを縛ったりしたの?襲っているようにしか見えないよ」
「だって、縛らないと逃げるんですものぉん」


そりゃ逃げるよね・・・ある意味襲ってもいたんだし。


「なら、なんで私たちと戦ったの?ちゃんと説明してくれれば・・・」
「何度も襲ってないわよぉんって言ったわよぉん、それなのに問答無用って襲い掛かってきたのはあなた達よぉん?」


そうだった・・・だって、クレイさんの命の危機かと思ったんだもん。いや、あのままだとクレイさんショック死したかもしれないけどさ。


「でも、なんでクレイさんにプロポーズなんてしたの?クレイさん人間だし、同じオークにでもした方が・・・」
「いやよぉん、あんな人間を殺すことしか考えてないような奴ら」
「そうなの?ってことはレディは違うの?」
「当たり前じゃない、そんなもったいないことしないわよぉん」


もったいない?


「どういうことですの?もったいないって・・・」
「あ、エリンシア気が付いたんだ?」


エリンシアが上半身を起こしながら仏頂面でレディに問う。


「治癒魔法ありがとうございますわ、カモメさん」
「どういたしまして、それでレディ、もったいないってどういうこと?」
「あら、そんなの決まっているじゃない、イケメンは当然として女の子だっていつかはイケメン産むかもしれないしぃん、イケメンじゃない男の子孫がイケメンになるかもしれないじゃなぁい♪」
「・・・・・あ、そう」


エリンシアは再び地面に倒れる・・・なんというか、イケメンしか興味ないんだろうか・・・。


「でもさ、だからって今回みたいに相手を縛ってプロポーズしてもうまくいかないと思うよ?」
「でもぉん、他にどうしようもないわよぉん、人間は私を見た瞬間逃げ出すし」
「あたりまえですわ・・・」
「でしょぉん?だったら、捕まえるしかないじゃないぃん」
「駄目だよ!そんなことしたって、恋愛なんて出来るわけない!」
「だったらどうしたらいいのぉん?」


うっ・・・どうしたらいいんだろう。
私も恋愛なんて言える経験したことないし・・・まだ12歳だもんよくわかんないよ。


「いきなり恋人を捕まえるんじゃなくてまずは人間の友達を作った方がいいんじゃないかな?」


私が悩んでいるとクレイさんが提案をしてきた。
なるほど、それはそうだ。いきなり恋人を目指すから難しいんだ・・・レディの場合友達も難しくない?


「あらぁん、じゃあ、あなた達、私の友達になってくれるのぉん?」


どうしてそうなったのかな?
とはいえ、レディをこのまま放っておくわけにはいかないよね・・・また同じことされても困るし。


「うん、いいよ。私たちが友達になるよ」
「・・・達!?ワタクシもですの!?」
「とーぜん!」


エリンシアがとっても嫌そうな顔をしているが私一人こんな責任は負えないのでエリンシアにも犠牲になってもらおう。


「うれしいわぁん!人間の友達は初めてよぉん!!」


レディは余程うれしかったのか私たちに抱き着いてくる。
レディの力で抱きしめられた私たちは『ぐえっ』っとつぶれたカエルのような声を上げる。


「よかったですね、レディさん。僕は恋人がいるので女性の友達は持てませんが応援はしていますね」


さらっと逃げるクレイさん。言い出しっぺなのに!大人なのに逃げたよ!!
恋人がいたって女性の友達くらい普通いるでしょ!と逃がさないよと言いたいのにレディに抱きしめられて声を出せない私とエリンシア。
クレイさん・・・オボエテロ。


「とはいえ、お嬢様、カモメさん。助けていただきありがとうございました。このご恩は忘れません」


私達、結局助けられてないけどね・・・。もがもがとクレイさんに返すが未だに手を放してくれないレディのせいで何も言えない。


「先ほどのお嬢様には感銘を受けました、僕は一生、グラシアール商会に尽くすことを約束いたします」


忠実な従業員がグラシアール商会に増えたようだ。よかったねエリンシア。
エリンシアはもがもが言いながら恥ずかしそうに顔を赤くして手をヒラヒラと振っていた。


「ところでレディ殿、そろそろお二人を解放してあげてください」
「あらぁん、ごめんなさいねぇん。うれしくてつい力を入れ過ぎたわぁん」


やっとこさ解放された私とエリンシアはすでに文句を言う力は残っていなかった・・・。


「ところでレディ」
「あら、なぁにカモメちゃん」
「なんで人間の言葉をしゃべれるの?」
「そうねぇん、異常種だからとしか言えないかしらぁん、魔物の中にはたまに私みたいなのが生まれるのよぉん。本来オークに性別はないわぁん。というより魔物自体子供を作ったりはしないものなのよぉん」
「そうなの?でもレディさっきクレイさんにベビー作ろうって言ってなかった?」
「ええ、私は作れるみたいなのよぉん」
「だからこそ異常種なんですわね」


魔物は子供を作ったりしない、そういえば、以前お父さんに魔物はまず、魔石が自然に生成されそれが魔物に変身するって聞いたことある。
つまり、子供の時代はなく大人の状態でいきなり出現するということなのか。


「それに、他の魔物と違って感情が芽生えたし言葉を理解できるようになったのぉん」
「だから、私たちと普通に喋れるんだね?」
「ええ、それに、感情が芽生えたせいで人間に興味をもったわぁん」
「どして?」
「人間たちは時に笑って、時に怒って、泣いて本当に色々な感情を見せてくれるわぁん。感情を持った私はそれを理解できるのぉん・・・だからかしらぁん、私は人間が好きなのよん」


レディは頬を染めながら言う・・・ちょっとかわいいなと思ってしまった・・・気がする。


「でもぉん、魔物にはそれが逆に嫌みたい、私が人間を好きになったころから他の魔物たちは私を襲うようになったわぁん」
「・・・あ、だから」


私は、クレイさん達を探してた時に見つけた魔石の事を思い出す。


「ここに来る途中に落ちていた魔石はあなたが倒した魔物でしたのね?」
「そういえば、襲われたわねぇん。いつもなら無視しちゃうんだけど、そこの子がいたから張り切っちゃったのよぉん」


そんな理由で蹴散らされた魔物がちょっとかわいそうだった。
まさか魔物に同情する日が来るとは・・・。


「さて、それではそろそろ王都に戻りますわよ、マーニャも心配おりますわ」
「マーニャが?それは急いで帰らないと!」
「マーニャって誰かしらぁん?」
「クレイさんの恋人さんだよ」
「あらぁん、うらやましいわぁん。イケメンをゲットする方法教えてもらおうかしらん」
「やめてくださいまし・・・マーニャが卒倒しますわ」
「たはは・・・」


可愛そうだけどきっとそうなるね・・・。
あ、レディはイケメンが好きってことはクオンと会わせたらクオンも襲われるんじゃ・・・それはいけない!
・・・・・・・あれ?


「そういえば、クオンは?」
「あら?そういえば、すぐに駆け付けるとおっしゃってましたのに来ませんでしたわね?」


おかしいな、クオンのいた場所からここはそれなりには離れているけど。クオンならすでにここに着いていてもおかしくないんだけど。
私の合図が見えなかった?・・・それとも、来る途中で何かあった?
私はそこまで考えると急に不安に襲われる。


「何かあったのかも・・・ちょっと私様子を見てくるよ」
「確かにその可能性もありますわね、ワタクシも行きますわよ」
「でも、クレイさんを王都に送ってあげないと」
「あらぁん、それなら私が送ってあげるわぁん」
「・・・・・え゛」


クレイさんが顔を引きつらせる。


「いえ、さすがにそれは・・・王都にレディが近づいたら襲われるかもしれないですわよ」
「確かに・・・」


レディは人間を襲わない・・・あ、いや殺そうとしない。でも人間からはそれが分からないもんね。
倒すべき魔物として向かってくるかもしれない。なら、王都や人の多いところには余り近づかない方がいいだろう。


「大丈夫よぉん、王都の近くまでにするからぁん。それじゃ、捕まってダーリン」
「ダーリンじゃな・・・ぎゃああああああああああああああ!」


レディは捕まってといいながらクレイさんを肩に抱き抱えると、すごいスピードで走り出していった。


「だ、大丈夫・・・だよね?」
「わかりませんが・・・少しいい気味ですわ」


確かに、レディと友達にならせておいて自分はならなかったり、命が危険だと思って助けに来たのにプロポーズされただけだったりとちょっと腹が立っていたので少しいい気味だなと思ったのは確かだ。
まあ、後者は理不尽な怒りだとは思うけど。クレイさん的にはかなりやばい状況だったのは確かだし。
とはいえ、ここはレディを信じるしかない・・・これでまたクレイさんを攫うなんてことはないと思う。レディは嘘をついているようには見えなかったし。
なら、私たちはクオンを探そう・・・少し嫌な感じがする。


「じゃあ、エリンシア。また空から探すよ」
「ええ、わかりましたわ」


私が魔法を唱えようとしたその時。


「ヒヒーン!!」


馬が私たちの方へと突っ込んできた。


「わっ!?」


馬は避けた私たちの間を通って木の近くで止まった。
だが、私達の間を通ったときに背中に乗せていた物を落としたようだ。
・・・・いや、物ではなく者をだ。


馬の背中から落ちたのは男性で綺麗な執事風の服がボロボロになっている。
今落ちたときに破れたのではないようだ、中には爪か何かで破られたような跡があった。


「大丈夫ですか!?」
「あ、あなた達は・・・」
「エリンシア=グラシアールですわ」
「冒険者のカモメ=トゥエリアです。今はエリンシアに雇われてます」
「グラシアールのお嬢様・・・いけない!ここから早くお逃げください!」
「どういうこと?」


何かを思い出したように執事の男は慌てだした。


「私はドンダー伯爵に使える執事のドレスタンと申します。ですが、この近くを馬車で通っている際、盗賊に襲われたのです・・・」
「盗賊ですって?」
「はい、その盗賊は妖魔を呼び出し操り、我々に襲い掛かってきました・・・冒険者の方々が応戦致しましたが敵の数が多く次第に劣勢に・・・そして旦那様は妖魔の凶爪に命を落としてしまったのです」
「そんな・・・それじゃあ、その冒険者の人たちも?」
「いえ、旦那様が倒れ我々ももう駄目かと思ったその時、一人の少年が現れたのです。その少年は妖魔を倒し、冒険者の方々と力を合わせ戦況を盛り返しました。そしてその隙に我々使用人を逃がしたのです」
「なるほど・・・カモメさん」
「うん、きっとクオンだ・・・その少年は星空のような髪をしてました?」
「は、はい、その通りです。まさかあなた方・・・」
「うん、その子は私の相棒なの、行かなくちゃ」


妖魔を操る盗賊と言えば『紅の牙』だ。
その中にはクオンの家族の仇がいる。私たちの標的だ、クオン一人で戦わせるわけにはいかない。
家族の仇が目の前にいるときの感情は私にもわかる・・・経験があるから。
急がなくちゃ!


「その子偉いね、おじさんを置いていかないでちゃんと待ってるよ」
「申し訳ありませんが、その馬でご自分で帰ってくださいまし」


私は浮遊魔法を唱え、エリンシアと一緒に飛び立った。
急いで、向かわないと他にも冒険者の人がいるらしいけど敵は「妖魔の呼び笛」でいくらでも戦力を呼べる敵だ。
私はかなりスピードを出して執事さんの馬が来た方向へと向かった。 
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