異世界食道楽アドベンチャー

海鼠腸

文字の大きさ
上 下
71 / 73
青年期・カサード多忙編

70話 シュティーナ商人ギルド長と会食したが……

しおりを挟む
カサードは街で美味しそうな店を探している最中に、サルベール国の商人ギルド長シュテーナさんと偶然? 遭遇し、声をかける。

 シュティーナさんもこちらに気づいていた様で、スススッとカサードのそばに寄ってきて耳元で囁く。



「カサード殿下、何か新しい事業を始める様ですね? 今度は木工製品……ですかね?」

「おやぁ?! な……何のことでしょう?」 

「とぼけても無駄です。商人ギルドの情報網を甘く見て貰っては困りますよ」



 うわぁ……インターネットも携帯電話も普及していない、この世界でこの情報収集力……異世界の商人ギルド、恐るべし。



「シュ……シュティーナさん。その話は別の所でしましょう」



 カサードは冷や汗をかきながら、自分がたまに食べに来ているビストロ的な店まで、シュティーナさんを案内する。



「シュテーナさん、ここはボクがたまに食事に来ている美味しいお店なんです。おすすめはこの『ハンバーグランチセット』ですよ」



 『ハンバーグランチ』とは、熱々のプレートにハンバーグが乗っていて、付け添えの小皿にサラダとパンが出てくる、誰もが大満足のセットメニューだ。

 カサードはそれを2つ注文し、しばらく待つとハンバーグランチセットが、ジュウジュウと音を立てながら運ばれてくる。



「ほほぅ……この料理は熱いままに出てくるのだな。勿論、これはそなたが考案したものであろうな」

「!? ははは……まさかー……そそそそんなことはないですよぉ……」

「ふふふ、動揺しておるぞ?カサード殿下」



 ギクリと精神的に驚くカサード。

 この人は本当にどこまで言い当てるんだろうか、とハラハラしながら出された料理に口を付ける。



「うん、ジューシーで食べごたえがあって美味しい……」

「うむ、確かに……しかし、こんな焼きたての熱々で食べられるとは……ん! 答えはこの熱されたプレートじゃな?」



 シュテーナが鉄製のプレートに手をかざしながら、カサードを問い詰める。



「はい、種明かしするとそうで……あ」



 カサードが口を滑らせて途中で気づくが時すでに遅し、シュティーナがニヤリとほくそ笑む。

 しまった! 誘導尋問に引っかかった?!



「カサード殿下、貴殿のその嘘の付けない性格。嫌いではないぞ」



 何か微妙に慰められてる? と思いつつ、ハンバーグを食べながら話を続ける。



「まぁ、確かにドライアドの森のそばで、木工製品を作る為の村を造る事は本当です。そして森の主との交渉も成功し、許可を習得済みです」

「ほぅ、あの森の主によく会えたな。そいつは滅多に会えないという噂だったが……ほぅ、このはんばーぐとやらは、肉を細かくし加工して、丸く固めて焼いた物なのか。普通の料理人では思いつかない発想だな。実に素晴らしく美味だ」



 えっと……どっちに反応すればいいかな? と、戸惑いつつも。



「いやぁ、偶然その森の守り人の長と顔も見知りだったので、案内していただきました。」



 ドライアドの森の件に絞って答えることにした。



「カサード殿下、ワタシは『はんばーぐ』とやらを褒めているのに冷たい反応だな?』



 えっ? 褒めてくれてたのか。気持ちがこそばゆい……。



「あっ ありがとうございます。色々と苦労しました」



 褒められたら礼を言う、これ大事な事ね。



「シュティーナさん、レシピは後で紙に書いて渡します。本題はどの様な話なのですか?」

「うむ、単刀直入に言わせていただく。カサード殿下、例の森の近辺に造る製造拠点の話に、我々サルベーヌ国商人ギルドにも一枚かませて頂きたいと思っております」



 あぁ、儲け話にまぜて欲しいと言う事だったのか。



「あっ はい、構いませんよ。丁度、距離的に其方の国の方に近いので、村の管理と製品流通の方を任せてみようかな?」

「おぉ! 有難い! このシュティーナ、ギルド長の名に賭けて頑張らせて頂きます!」



 生産拠点の管理と製品流通を、サルベーヌ共和国の商人ギルドに任せるという提案を出す。

 すると、シュテーナが急にガタっと立ち上ったので、カサードは驚きシュティーナの顔を見つめる。

 どうやらもう決まったような雰囲気である。



「えっと……まだ提案の段階なので決まったわけじゃ……」

「カサード殿下! 馳走になった! これからワタシは早急に戻りギルド内で話を纏めるゆえ、村が出来次第連絡をよろしく頼む!」



 シュティーナが、カサードの話もよく聞かずにハンバーグランチのお代だけを置いて、疾風の如く走って店から出ていった。



「おーい、ハンバーグのレシピと挽肉機の図面ー。それと、ハンバーグランチを全部食べてってー……ってもう聞こえないか……食べ残したのを食べて処理しなきゃ……それとレシピと図面を、執務室に戻った時に封をしてサルベール共和国商人ギルド宛に送るしかないなこりゃ……」



 怒涛の行動力にカサードは、呆然とハンバーグランチを食べながら、独り言のように呟くしかなかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

処理中です...