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第8話 霊のあられの未来って?
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20時ごろ、雪乃がグループの皆に声を掛けて砂浜に下りた。
雪乃と女子は浴衣姿だ。
16夜の月の出が始まり、さざ波に煌めく光が波打ち際までのびていた。
「綺麗だね」
みんな裸足になって波打ち際を歩き、波と光を蹴って遊んだ。
「いいもの見せてあげる」
雪乃がロープを引いて、海から壺を引き上げた。
「見ていて」
壺の水を海に振り蒔くと、青い光の粒が飛び散った。
うわーッという歓声が上がる。
「海蛍?」
「そうなの。でも生態は説明しない方がロマンがあるから言わない」
誰かが
「うん。確かに確かに。ゲンジボタルも肉食だと知った途端に儚《はかな》さがなくなったからな」
「お前、結局ばらしてるんじゃねーか」
ワッと笑い声が上がる。
「聞いて欲しいことがあるの」
雪乃が言った。
「その前に、このグループは、私を独占しない。ということが目的で、できているという認識で良いのかな」
「それで良いと思うぜ。ハッキリ言えば彼氏として立候補する自信が無い、軟弱者の集まりだな」
自虐的な笑い声が力無く広がるなかで、
「ちょっと。言っとくけど女子は違うからね」という声があがる。
「私達は雪乃ちゃんみたいになりたいの。お化粧も上手だし身のこなしも優雅だし、服のセンスも素敵。賢くってさ。それで1年上のお姉さんで同級生って最高じゃん」
「綾ちゃん、わかったから。それでね、言いたいことはシンと私の事なの」
皆に緊張が走る。
「大丈夫。私と付き合うってことじゃないから……あのね、3年前にね、見返り坂で姫女《ひめじょ》のスクールバスの事故があったでしょ。あの事故でバスの運転手と女子高生が死んだけど、その女子高生が私の親友でね、国木あられって言うんだけど、今年が三回忌だったの。私が抜けたのはその為だけど、その子は事故の時シンの恋人になったの」
時系列が整理できない皆は怪訝な顔をするが、雪乃は無視して話を進める。
「つまり、事故現場で二人は付き合う約束をしてから彼女は死に、幽体になってシンと付き合い始めた。その媒体として私の身体を使っているの」
雪乃は僕を見て、少し微笑んだ。
「信じにくい話しだからあられに説明して貰うね」
雪乃の身体が白く輝いて見えた。浴衣を透して身体のシルエットが見える。
みんなが唖然として見守るなか、雪乃の口が『あられです』と動いた。
『といっても同じ雪乃ちゃんだけど』
数人が乾いた声で笑い、女子が「綺麗」と言った。
あられは両親が、見返り坂の片隅に交通安全の守護像を建立したことから、魂がこの世に戻ったのだと言って、事故の時の僕との経緯と、欠陥ブレーキの説明をした。
「そんなわけで」
これは雪乃だ。
「私とシンが一緒に居てもそれは私じゃなくてあられと居るんだってことを理解して欲しいの」と言った。
次の日の夜、僕とあられは砂浜に降りて、初めてのデートをした。
『雪乃ちゃんが完全に身体を貸してくれたから、今は私が全部あられだよ』
そう言って浴衣の裾を摘まんでくるりと回ってみせる。浴衣の柄も昨日とは違っていた。
雪乃は今、変性意識状態ということで、部屋で寝ているのに近い状態らしい。
あられの身体占有率が高くなると身体が光るので、岩陰をみつけて並んで座った。
手を握り、身体を寄せ合い、色々な話しをした。
好きなこと、好きな音楽、将来の夢……。
将来の夢……。あられに失われたものだ。
あられを傷つけたと思い、話題を変えようとした。
だがあられは、『弁護士になりたかったの』と弾んだ声で言った。
『でもこうなったから、雪乃ちゃんに検事になって貰い、二人で悪をやっつけることにしたの。だから心配しないで』と、とびきりの笑顔で僕にキスをした。
立ち上がって帯をほどいたあられは、『折角身体を感じる機会だから泳ごうよ』
そう言って浴衣を脱ぎ、僕の手を引く。
下着姿のあられとトランクスだけの僕は、海の中でもつれるように抱き合いキスをした。
海から上がった僕達は、1枚の浴衣で二人を包み、身体を暖めあった。
『かえって冷たい』と言って下着を脱いだあられは、最初から脱いでおけば良かったと、僕にもたれかかり、『暖かい』と言った。
朝、浴室に入った雪乃が、鏡を見たのだろう。「あられーッ、泳いだでしょう。髪ぐらい綺麗に洗っといて」という声と『ごめーん』という声が、まるで浴室に二人居るように聞こえた。
朝食の後、雪乃が「今夜は私と付き合わなければ許さないから」と囁いた。
公然とデートする。そのためにあられの存在をみんなに知らせたとしたら……。
どうやら未来を心配した方がいいのは僕の方かもしれない。
――完――
雪乃と女子は浴衣姿だ。
16夜の月の出が始まり、さざ波に煌めく光が波打ち際までのびていた。
「綺麗だね」
みんな裸足になって波打ち際を歩き、波と光を蹴って遊んだ。
「いいもの見せてあげる」
雪乃がロープを引いて、海から壺を引き上げた。
「見ていて」
壺の水を海に振り蒔くと、青い光の粒が飛び散った。
うわーッという歓声が上がる。
「海蛍?」
「そうなの。でも生態は説明しない方がロマンがあるから言わない」
誰かが
「うん。確かに確かに。ゲンジボタルも肉食だと知った途端に儚《はかな》さがなくなったからな」
「お前、結局ばらしてるんじゃねーか」
ワッと笑い声が上がる。
「聞いて欲しいことがあるの」
雪乃が言った。
「その前に、このグループは、私を独占しない。ということが目的で、できているという認識で良いのかな」
「それで良いと思うぜ。ハッキリ言えば彼氏として立候補する自信が無い、軟弱者の集まりだな」
自虐的な笑い声が力無く広がるなかで、
「ちょっと。言っとくけど女子は違うからね」という声があがる。
「私達は雪乃ちゃんみたいになりたいの。お化粧も上手だし身のこなしも優雅だし、服のセンスも素敵。賢くってさ。それで1年上のお姉さんで同級生って最高じゃん」
「綾ちゃん、わかったから。それでね、言いたいことはシンと私の事なの」
皆に緊張が走る。
「大丈夫。私と付き合うってことじゃないから……あのね、3年前にね、見返り坂で姫女《ひめじょ》のスクールバスの事故があったでしょ。あの事故でバスの運転手と女子高生が死んだけど、その女子高生が私の親友でね、国木あられって言うんだけど、今年が三回忌だったの。私が抜けたのはその為だけど、その子は事故の時シンの恋人になったの」
時系列が整理できない皆は怪訝な顔をするが、雪乃は無視して話を進める。
「つまり、事故現場で二人は付き合う約束をしてから彼女は死に、幽体になってシンと付き合い始めた。その媒体として私の身体を使っているの」
雪乃は僕を見て、少し微笑んだ。
「信じにくい話しだからあられに説明して貰うね」
雪乃の身体が白く輝いて見えた。浴衣を透して身体のシルエットが見える。
みんなが唖然として見守るなか、雪乃の口が『あられです』と動いた。
『といっても同じ雪乃ちゃんだけど』
数人が乾いた声で笑い、女子が「綺麗」と言った。
あられは両親が、見返り坂の片隅に交通安全の守護像を建立したことから、魂がこの世に戻ったのだと言って、事故の時の僕との経緯と、欠陥ブレーキの説明をした。
「そんなわけで」
これは雪乃だ。
「私とシンが一緒に居てもそれは私じゃなくてあられと居るんだってことを理解して欲しいの」と言った。
次の日の夜、僕とあられは砂浜に降りて、初めてのデートをした。
『雪乃ちゃんが完全に身体を貸してくれたから、今は私が全部あられだよ』
そう言って浴衣の裾を摘まんでくるりと回ってみせる。浴衣の柄も昨日とは違っていた。
雪乃は今、変性意識状態ということで、部屋で寝ているのに近い状態らしい。
あられの身体占有率が高くなると身体が光るので、岩陰をみつけて並んで座った。
手を握り、身体を寄せ合い、色々な話しをした。
好きなこと、好きな音楽、将来の夢……。
将来の夢……。あられに失われたものだ。
あられを傷つけたと思い、話題を変えようとした。
だがあられは、『弁護士になりたかったの』と弾んだ声で言った。
『でもこうなったから、雪乃ちゃんに検事になって貰い、二人で悪をやっつけることにしたの。だから心配しないで』と、とびきりの笑顔で僕にキスをした。
立ち上がって帯をほどいたあられは、『折角身体を感じる機会だから泳ごうよ』
そう言って浴衣を脱ぎ、僕の手を引く。
下着姿のあられとトランクスだけの僕は、海の中でもつれるように抱き合いキスをした。
海から上がった僕達は、1枚の浴衣で二人を包み、身体を暖めあった。
『かえって冷たい』と言って下着を脱いだあられは、最初から脱いでおけば良かったと、僕にもたれかかり、『暖かい』と言った。
朝、浴室に入った雪乃が、鏡を見たのだろう。「あられーッ、泳いだでしょう。髪ぐらい綺麗に洗っといて」という声と『ごめーん』という声が、まるで浴室に二人居るように聞こえた。
朝食の後、雪乃が「今夜は私と付き合わなければ許さないから」と囁いた。
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どうやら未来を心配した方がいいのは僕の方かもしれない。
――完――
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