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君との出会い 始
しおりを挟む特別な存在になりたかった。
何かの、誰かの特別になりたかった。
特別な世界を見てみたかった。
そんな誰かに、出会いたかった。
季節は夏の終わり。夜の3時過ぎ、1人家の外に出る。
マンションの7階、玄関を出てすぐの廊下の手すりにもたれかかる。夜景がやけに眩しく見えた。
長袖を着ているが暑くない程度、少し冷たい風が吹いているが気にならない程度の気温。
家では家族が寝ている。1人家を抜け出すのに苦労はしなかった。
「はぁ…」
ため息のような呟きのような息を吐く。
こうしてしばしば夜に家を抜け出しては1人マンションの廊下で外を見ていた。特に意味なんてなかった。
今までの人生だってそうだ。
ただなんとなく思いついたこと、言われたことを人並み程度にこなしてきた。
特別苦手なことはなく、かといって特別秀でるものもなかった。手を抜いているわけではなかった。
ただ頑張っても特別な結果が出なかっただけのこと。
昔こそ運動が得意だと思っていたが、世界が広がるにつれ自分は別に特別では無いのだと知った。
何においてもそうだった。スポーツ、勉強、習い事、趣味…この分野において自分は結構すごい方なのではないかと思うたび、世界の広さがお前は人並みなのだと突きつけてくる。
いつしか特別を求めることもなくなっていた。
「はぁ…」
今回はしっかりとしたため息だった。
明日は学校だ。早く寝ないと。
そう思い手すりから身を離す。
玄関へと振り返ったその時、視界の端に誰かが見えた気がした。咄嗟に左を見る。…少女だ。
いや少女というには少し大人びているか。
自分と同じくらいの年齢の女の子が5メートルほど先に立っていた。
こんな女の子、このマンションにいただろうか。
「…」
少女はこちらをじっと見ている。
その顔は少し笑っていた。
「…こんばんは」
少し考えたあと軽く会釈をして挨拶をする。
もういいだろう。
1人外を見ていた姿を見られたことによる気恥ずかしさと気まずさを振り払うように家に戻ろうとドアに手をかけた、その時。
「こんばんは!」
女の子が元気に挨拶を返してきた。
夜にしては少し大きいと感じる声に少々驚いて女の子の方を見る。女の子は変わらず笑っている。
こんな夜に1人笑って立っている女の子、という図はなかなかに不気味だった。
早く戻ろう、そう思った。
「…それでは」
「君さ」
僕が2回目の会釈をするのと女の子が口を開くのはほぼ同時だった。
「なんでしょう」
少しうんざりしながらも女の子を見やる。
女の子は僕との距離を縮めながら、
「僕のこと、知ってる?」
と聞いてきた。
僕。女の子にしては珍しい一人称に少し戸惑う。
実は女の子ではなくて男の子なのか?
いや、今考えるべきはそんなことではない。目の前にいる人は自分のことを知っているかと聞いてきた。
瞬時に記憶を探るも目の前の人物に該当する人には会ったことはないはずだ。
「いえ…全く知らないと思います」
言った後、しまったと思った。少し嫌な言い方になってしまっただろうかと不安になる。
しかし、
「だよね!うん、そうでよかった!」
目の前の人物は嬉しそうに笑った。
不安になっていた僕は少しほっとした、と同時に目の前の人物の反応に首を傾げた。
普通、知らないと言われて喜ぶだろうか。
そもそも、反応からして僕と初対面ということは分かっていたはずだ。なのになぜ、わざわざ知っているかと聞いてきたのか。
「あの、僕に何か用ですか?」
目の前の人物のことが全くわからず、思わず聞いてしまった。すると目の前の人物は目を輝かせた。
「あぁ!僕を知らない君に頼みがあるんだ!」
あまりにも無邪気に言い放つ目の前の人物に、僕は少し身構えてしまった。
失礼かもしれないが許して欲しい。初対面の人間に頼みがあると言われれば誰だって身構えるだろう。
内心警戒していることが表情に出ていたのか態度に出ていたのか、僕を見て目の前の人物は少し苦笑した。
そして少し寂しそうな顔をして、
「僕は桜沢 春」
はっきりと言った。
「君には僕の世界を終わらせる手伝いをしてほしいんだ。」
これが僕と桜沢 春との出会いであった。
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