31 / 32
見守るだけ
しおりを挟む
いきなりもう来るなと言われて、はいそうですかともいかないわけで。
俺は物陰に隠れて、ひっそりとソウの様子を伺っていた。
今日は夜市で串焼きを売っている。
またある時はソウの舞台を観に行く。
セイラも同じ舞台に立っていた。
そんな生活を2週間ほど繰り返していた頃、レイクが家に来た。
「よぉ。どうしてる? 今日は仕事じゃないのか?」
「どうもしてない。仕事は辞めた。今日は何だ?」
「おい。また急にどうしたんだよ。こないだまでご機嫌アリスだったのに。仕事まで辞めたのか」
「たいしたことじゃない」
「命の雫だったか? ソウという人間は無事か?」
「まあ一応な」
「何だ? 喧嘩でもしたのか?」
「もう会いたくないと言われた。薔薇ももう売らなくていいし、舞台も観に来るなとさ。他に好きなやつが出来たみたいだ」
「え? それでもう会ってないのか?」
「会ってはない」
「ん? 会っては?」
「心配だから、物陰に隠れてとりあえず様子を見てる」
「ははは! そりゃあもうストーカーじゃねぇか!」
と爆笑するレイクにワインを出しながら言った。
「うるさい。拒まれているのにしつこくするのも違うだろ」
「まぁそうだな。今日は何もない日か?」
「今日は20時から舞台のはずだ」
「そしたら観に行こう!」
「は?」
「俺も一緒に行ってやるから」
「いや、でも……」
「なんか言われたら、友人に誘われたから仕方なかったと言えばいい。お前も堂々と彼の姿を見たいだろ?」
「それはそうだが……」
「よし!じゃあ決まりだな」
レイクは俺の手を引っ張り、ソウのいる劇場へ連れて行った。
今日もここは賑わっている。
もうすっかり顔馴染みになってしまった劇場のマネージャーがこちらに駆け寄る。
「アリスさん! 今日はどうしたんですか? いつもの席空けてますよ!」
「いつもの?」
とレイクが俺の顔を見た。
するとマネージャーが、
「はい! いつものお席です。1番前のど真ん中!」
それを聞いたレイクは腹を抱えて笑っている。
「お前もうそれは……全く隠れられてないじゃないか」
「それは会いに来るなと言われる前の話だ。そのあとは1番後ろの端の席から観ていた」
「あー。そうか。そうか。ククク……」
笑いがなかなかとまらない。
「もう笑うな」
「わかったよ。今日もその席は空いてるの?」
「もちろんです」
「じゃあその隣の席も用意してもらえる?」
「お客様もご一緒に?」
「そうだよ。今日がその席で鑑賞する最後の日になるから」
「そうなんですね。承知いたしました。すぐにご用意を」
「よろしくね」
「お前、あの席から観ようとしてるのか?」
「俺がいるから大丈夫だろ? それにもう今日が最後だと言っておいたから、次からはストーカー席から観ればいいさ」
「やめろ。その言い方」
「ごめん、ごめん。じゃあ行くか! 初めてだから楽しみだよ」
これで最後か。
あの席からだと、間違いなくソウと眼が合う。
どんな顔すればいいんだ。
俺は物陰に隠れて、ひっそりとソウの様子を伺っていた。
今日は夜市で串焼きを売っている。
またある時はソウの舞台を観に行く。
セイラも同じ舞台に立っていた。
そんな生活を2週間ほど繰り返していた頃、レイクが家に来た。
「よぉ。どうしてる? 今日は仕事じゃないのか?」
「どうもしてない。仕事は辞めた。今日は何だ?」
「おい。また急にどうしたんだよ。こないだまでご機嫌アリスだったのに。仕事まで辞めたのか」
「たいしたことじゃない」
「命の雫だったか? ソウという人間は無事か?」
「まあ一応な」
「何だ? 喧嘩でもしたのか?」
「もう会いたくないと言われた。薔薇ももう売らなくていいし、舞台も観に来るなとさ。他に好きなやつが出来たみたいだ」
「え? それでもう会ってないのか?」
「会ってはない」
「ん? 会っては?」
「心配だから、物陰に隠れてとりあえず様子を見てる」
「ははは! そりゃあもうストーカーじゃねぇか!」
と爆笑するレイクにワインを出しながら言った。
「うるさい。拒まれているのにしつこくするのも違うだろ」
「まぁそうだな。今日は何もない日か?」
「今日は20時から舞台のはずだ」
「そしたら観に行こう!」
「は?」
「俺も一緒に行ってやるから」
「いや、でも……」
「なんか言われたら、友人に誘われたから仕方なかったと言えばいい。お前も堂々と彼の姿を見たいだろ?」
「それはそうだが……」
「よし!じゃあ決まりだな」
レイクは俺の手を引っ張り、ソウのいる劇場へ連れて行った。
今日もここは賑わっている。
もうすっかり顔馴染みになってしまった劇場のマネージャーがこちらに駆け寄る。
「アリスさん! 今日はどうしたんですか? いつもの席空けてますよ!」
「いつもの?」
とレイクが俺の顔を見た。
するとマネージャーが、
「はい! いつものお席です。1番前のど真ん中!」
それを聞いたレイクは腹を抱えて笑っている。
「お前もうそれは……全く隠れられてないじゃないか」
「それは会いに来るなと言われる前の話だ。そのあとは1番後ろの端の席から観ていた」
「あー。そうか。そうか。ククク……」
笑いがなかなかとまらない。
「もう笑うな」
「わかったよ。今日もその席は空いてるの?」
「もちろんです」
「じゃあその隣の席も用意してもらえる?」
「お客様もご一緒に?」
「そうだよ。今日がその席で鑑賞する最後の日になるから」
「そうなんですね。承知いたしました。すぐにご用意を」
「よろしくね」
「お前、あの席から観ようとしてるのか?」
「俺がいるから大丈夫だろ? それにもう今日が最後だと言っておいたから、次からはストーカー席から観ればいいさ」
「やめろ。その言い方」
「ごめん、ごめん。じゃあ行くか! 初めてだから楽しみだよ」
これで最後か。
あの席からだと、間違いなくソウと眼が合う。
どんな顔すればいいんだ。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ひとりぼっちの180日
あこ
BL
付き合いだしたのは高校の時。
何かと不便な場所にあった、全寮制男子高校時代だ。
篠原茜は、その学園の想像を遥かに超えた風習に驚いたものの、順調な滑り出しで学園生活を始めた。
二年目からは学園生活を楽しみ始め、その矢先、田村ツトムから猛アピールを受け始める。
いつの間にか絆されて、二年次夏休みを前に二人は付き合い始めた。
▷ よくある?王道全寮制男子校を卒業したキャラクターばっかり。
▷ 綺麗系な受けは学園時代保健室の天使なんて言われてた。
▷ 攻めはスポーツマン。
▶︎ タグがネタバレ状態かもしれません。
▶︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
溺愛
papiko
BL
長い間、地下に名目上の幽閉、実際は監禁されていたルートベルト。今年で20年目になる檻の中での生活。――――――――ついに動き出す。
※やってないです。
※オメガバースではないです。
【リクエストがあれば執筆します。】
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる