命の雫

SHIZU

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見守るだけ

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いきなりもう来るなと言われて、はいそうですかともいかないわけで。

俺は物陰に隠れて、ひっそりとソウの様子を伺っていた。

今日は夜市で串焼きを売っている。

またある時はソウの舞台を観に行く。

セイラも同じ舞台に立っていた。

そんな生活を2週間ほど繰り返していた頃、レイクが家に来た。

「よぉ。どうしてる? 今日は仕事じゃないのか?」

「どうもしてない。仕事は辞めた。今日は何だ?」

「おい。また急にどうしたんだよ。こないだまでご機嫌アリスだったのに。仕事まで辞めたのか」

「たいしたことじゃない」

「命の雫だったか? ソウという人間は無事か?」

「まあ一応な」

「何だ? 喧嘩でもしたのか?」

「もう会いたくないと言われた。薔薇ももう売らなくていいし、舞台も観に来るなとさ。他に好きなやつが出来たみたいだ」

「え? それでもう会ってないのか?」

「会ってはない」

「ん? ?」

「心配だから、物陰に隠れてとりあえず様子を見てる」

「ははは! そりゃあもうストーカーじゃねぇか!」

と爆笑するレイクにワインを出しながら言った。

「うるさい。拒まれているのにしつこくするのも違うだろ」

「まぁそうだな。今日は何もない日か?」

「今日は20時から舞台のはずだ」

「そしたら観に行こう!」

「は?」

「俺も一緒に行ってやるから」

「いや、でも……」

「なんか言われたら、友人に誘われたから仕方なかったと言えばいい。お前も堂々と彼の姿を見たいだろ?」

「それはそうだが……」

「よし!じゃあ決まりだな」

レイクは俺の手を引っ張り、ソウのいる劇場へ連れて行った。

今日もここは賑わっている。

もうすっかり顔馴染みになってしまった劇場のマネージャーがこちらに駆け寄る。

「アリスさん! 今日はどうしたんですか? いつもの席空けてますよ!」

「いつもの?」

とレイクが俺の顔を見た。

するとマネージャーが、

「はい! いつものお席です。1番前のど真ん中!」

それを聞いたレイクは腹を抱えて笑っている。

「お前もうそれは……全く隠れられてないじゃないか」

「それは会いに来るなと言われる前の話だ。そのあとは1番後ろの端の席から観ていた」

「あー。そうか。そうか。ククク……」

笑いがなかなかとまらない。

「もう笑うな」

「わかったよ。今日もその席は空いてるの?」

「もちろんです」

「じゃあその隣の席も用意してもらえる?」

「お客様もご一緒に?」

「そうだよ。今日がその席で鑑賞する最後の日になるから」

「そうなんですね。承知いたしました。すぐにご用意を」

「よろしくね」

「お前、あの席から観ようとしてるのか?」

「俺がいるから大丈夫だろ? それにもう今日が最後だと言っておいたから、次からはストーカー席から観ればいいさ」

「やめろ。その言い方」

「ごめん、ごめん。じゃあ行くか! 初めてだから楽しみだよ」

これで最後か。

あの席からだと、間違いなくソウと眼が合う。

どんな顔すればいいんだ。





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