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束の間の幸せ
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屋台がない日は、ソウは花屋が終わった後、この屋敷に来ては俺のギターの演奏に合わせて歌う。
「楽しいか?」
「うん。すごく!」
「それは良かった」
俺たちはいろんな話をした。
俺やユキの両親のこと。庭の薔薇のこと。
ソウの子供の頃のこと。
ギターを弾いたり、ワインを飲みながらDVDを観たり。
穏やかな日々だった。
「ねぇ、アリス」
「どうした?」
「キス、していい?」
「それは……」
ダメだと言おうとした。
でもすでにソウの唇は俺の唇に触れていた。
「ん……」
この間の時と似た感覚が……
「うっ……」
「ど、どうしたの?」
「お前、口の中怪我してるのか?」
「え? 今日は何も」
じゃあ何故……
「ダメだ。これ以上は……」
「ダメじゃないよ。このまま最後まで……お願い?」
ソウは着ているシャツのボタンを外していく。
心臓がおかしなくらい速くなる。
また我を失うのか。
血も舐めていないのに。
「どうなっても知らないぞ」
「いいよ。どうなっても」
~~~~~~~~~~
「ソウ。朝だ」
「え、もうそんな時間?」
「ああ。この後仕事で大丈夫なのか?」
「うん。ちゃんと寝られたから大丈夫」
「そうか。今日、夜また屋台でな」
「うん」
ソウを見送ったあと俺は考えていた。
あの時俺がおかしくなったのは、命の雫のせいだけじゃ無かった。
きっと我を失うくらい、ソウを愛してしまっていたからだ。
「困ったな……」
俺は残っていたワインを飲み干した。
~~~~~~~~~~
「今日も薔薇完売よろしくね!」
ソウは薔薇の乗った台車を俺に渡し、串焼きの屋台を組み立てていた。
その時、強風に煽られたテントがソウの方に倒れていく。
「危ない!」
俺は間一髪間に合ったが腕を切ってしまった。
「怪我は?」
「俺は大丈夫。でもアリスの腕が……」
「大丈夫だ」
「向こうで手当しよ!」
ソウは俺を人のいないところに連れて行った。
「こういう時さ、俺の血を舐めたらすぐに治るんじゃないの?」
「バカなこと言うな。こんなとこでもし俺が豹変したらどうする」
「外でっていうのも悪くないかもよ?」
と笑いながらソウが言った。
「やめてくれ。それだけならまだいいが、お前を死なせるわけにはいかない」
「じゃあこうしたらどうなるの?」
ソウは俺の傷口を舐めた。
「くっ……」
「ごめん。痛かった?」
「いや、大丈夫だ。痛みは感じない」
「そっか……良かった」
驚くことに、10分ほどすると傷口が塞がってきた。
「なんだこれは……」
「すごいね! アリスは俺といれば無敵じゃん!」
「やめろ。誰かに見られたらどうする」
その時後ろで声がした。
「アリス? どうしたの? 今日はお店やってないの?」
聞き覚えのある声にドキッとした。
俺は振り向く。
「ユキ……どうしてここに?」
「アリスの薔薇屋さんが評判だから、一回買ってみようと思って」
「薔薇なら家に来たらいくらでも……」
「そうだね。だけど最近アリスは家にいる方が忙しそうだから」
しまった……ユキに見られたか?
「今から準備するよ。ちょっとトラブルがあっただけ。ソウももう大丈夫だから店に戻って」
「うん…… 」
俺は所定の場所に戻り、テントを組み立てた。
「どれにする?」
「じゃあ、赤い薔薇を4本花束に」
「ああ、わかった」
「……ありがとう。はい、これ。お釣りはいいよ」
そういうとユキは帰って行った。
「楽しいか?」
「うん。すごく!」
「それは良かった」
俺たちはいろんな話をした。
俺やユキの両親のこと。庭の薔薇のこと。
ソウの子供の頃のこと。
ギターを弾いたり、ワインを飲みながらDVDを観たり。
穏やかな日々だった。
「ねぇ、アリス」
「どうした?」
「キス、していい?」
「それは……」
ダメだと言おうとした。
でもすでにソウの唇は俺の唇に触れていた。
「ん……」
この間の時と似た感覚が……
「うっ……」
「ど、どうしたの?」
「お前、口の中怪我してるのか?」
「え? 今日は何も」
じゃあ何故……
「ダメだ。これ以上は……」
「ダメじゃないよ。このまま最後まで……お願い?」
ソウは着ているシャツのボタンを外していく。
心臓がおかしなくらい速くなる。
また我を失うのか。
血も舐めていないのに。
「どうなっても知らないぞ」
「いいよ。どうなっても」
~~~~~~~~~~
「ソウ。朝だ」
「え、もうそんな時間?」
「ああ。この後仕事で大丈夫なのか?」
「うん。ちゃんと寝られたから大丈夫」
「そうか。今日、夜また屋台でな」
「うん」
ソウを見送ったあと俺は考えていた。
あの時俺がおかしくなったのは、命の雫のせいだけじゃ無かった。
きっと我を失うくらい、ソウを愛してしまっていたからだ。
「困ったな……」
俺は残っていたワインを飲み干した。
~~~~~~~~~~
「今日も薔薇完売よろしくね!」
ソウは薔薇の乗った台車を俺に渡し、串焼きの屋台を組み立てていた。
その時、強風に煽られたテントがソウの方に倒れていく。
「危ない!」
俺は間一髪間に合ったが腕を切ってしまった。
「怪我は?」
「俺は大丈夫。でもアリスの腕が……」
「大丈夫だ」
「向こうで手当しよ!」
ソウは俺を人のいないところに連れて行った。
「こういう時さ、俺の血を舐めたらすぐに治るんじゃないの?」
「バカなこと言うな。こんなとこでもし俺が豹変したらどうする」
「外でっていうのも悪くないかもよ?」
と笑いながらソウが言った。
「やめてくれ。それだけならまだいいが、お前を死なせるわけにはいかない」
「じゃあこうしたらどうなるの?」
ソウは俺の傷口を舐めた。
「くっ……」
「ごめん。痛かった?」
「いや、大丈夫だ。痛みは感じない」
「そっか……良かった」
驚くことに、10分ほどすると傷口が塞がってきた。
「なんだこれは……」
「すごいね! アリスは俺といれば無敵じゃん!」
「やめろ。誰かに見られたらどうする」
その時後ろで声がした。
「アリス? どうしたの? 今日はお店やってないの?」
聞き覚えのある声にドキッとした。
俺は振り向く。
「ユキ……どうしてここに?」
「アリスの薔薇屋さんが評判だから、一回買ってみようと思って」
「薔薇なら家に来たらいくらでも……」
「そうだね。だけど最近アリスは家にいる方が忙しそうだから」
しまった……ユキに見られたか?
「今から準備するよ。ちょっとトラブルがあっただけ。ソウももう大丈夫だから店に戻って」
「うん…… 」
俺は所定の場所に戻り、テントを組み立てた。
「どれにする?」
「じゃあ、赤い薔薇を4本花束に」
「ああ、わかった」
「……ありがとう。はい、これ。お釣りはいいよ」
そういうとユキは帰って行った。
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