命の雫

SHIZU

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友達にも恋人にもなれない

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ユキは日が昇る前に来て、日が暮れてから帰って行った。

少し昔の話をした。

今日はバイトもないし、庭でギターでも弾くか。

ユキのおかげで片付けも終わったしな。

俺がバルコニーのベンチに座りギターを弾こうとした時。

パキッと枝の折れる音がした。

「誰だ!」

陰から顔を出したのはソウだった。

「どうした? 家まで来て」

「昨日……」

ソウは言葉を詰まらせる。

「ああ。昨日?」

「売り上げ全部俺に渡して、自分のバイト代を引かずに……」

「ああ、それで昨日何かを言いかけたのか?」

ソウは無言で頷いた。

「わざわざ届けに?」

「急いでたみたいだったから呼び止めたくなくて、後で届ければいいと思った」

「すまない。今朝は用があった。明日で良かったのに」

「用って、ユキさんと会う?」

「なぜ?」

「バイト代を持って家まで来たら、ユキさんが入って行くのが見えた……」

「あんな時間からずっといたのか?」

「俺には忙しいって、言ってたくせに。2、3日は1人にして欲しいって言ってたくせに。ユキさんは家に呼ぶんだ?」

「呼んだわけじゃない。薔薇を見にあいつがたまたま来ただけだ」

「たまたま来たのに、1人にして欲しいのに、こんな時間までずっと2人でいたの?」

「ソウ? 落ち着け」

「うっ…ぐっ…」

泣きながら話そうとするから何を言ってるのかよく分からない。

「ソウ! 落ち着いて話せ。ちゃんと聞いてるから」

俺はソウの顔を手で包んで視線を合わせた。

「俺。少し嬉しかった。出会ったのは偶然だったけど、友達が出来て」

「ああ。俺もだ」

「仕事ばっかしてるから、友達いないし。アリスは俺とずっと友達でいてくれるかな?ってそう思ってた」


「そうか……俺で良ければずっと一緒にいるから。もう泣くな」

「そんな時、あんな激しく求められて、思っちゃったんだ。俺はアリスが好きなんだ。友達なんかじゃ嫌だって。それを伝えようとした。それなのに……」

「なのに?」

「あの日からアリスはなんか冷たいし。今日家に入って行くユキさんを見て、本当は恋人がいて、俺は暇つぶしで、ただ遊ばれただけなんだって……」

「そんな……」

「でも、それでもそばにいられるならいい!って思った。だからずっと待ってた。なのに全然帰らないから……うぅ」

また泣き始めた。

俺は指でソウの涙を拭った。

「だから泣くなって」

「ねぇ? やっぱり俺じゃダメ? 浮気相手でもいいよ? 特殊なプレイが好きなら頑張るよ? 血の味とか言ってたよね?」

だいぶ錯乱してるな。

自分でも何を言ってるかよくわかってないんだろうな。

上目遣いで、すがるように俺を見るソウを、力一杯抱きしめようとした。

「アリス…苦しい」

「ああ、すまない」

俺は軽くソウのおでこにキスをして言った。

「ユキは本当に薔薇を見に来ただけ。俺が探し物をして散らかした部屋を一緒に片付けてくれて、疲れたからワインを飲んで、幼い時の昔話を少しして帰っただけだよ。彼とは何もない」

「でも……」

「目が合った時、ソウが目を逸らしたから、したから嫌われたんだなって思った。だからあまり俺から話しかけない方がいいんだろうなって」

「目を逸らしたのは少し緊張というか、恥ずかしかったから」

「本当に申し訳ない……あんなことしといてなんだが、恋人にはなれない」

「やっぱり……」

「ユキは関係ない。俺の問題なんだ。俺はお前とは一緒に生きてはいけない」

「どうして? 一緒にいるって言ったのに……」

もう限界か。

本当のことを話すしかないか。

「俺はヴァンパイアなんだ。人間の血液を吸って生きてる。そんなやつが人間の友達にはなれないだろう? ましてや恋人なんて……」

「何言ってんの? 俺が嫌いならもう少しマシな嘘を……」

「嘘じゃない」

俺は普段血を吸う時しか出さない牙を見せて言った。

「あっ……」

怖がらせたか。

無理もないが。

「恋人にも友達にもなれないかもしれないが、俺はお前を守っていく。そういうつもりでずっと一緒にいると言った」

「守るってなんだよ……」

「お前はヴァンパイアに永遠の命と若さを与える、特別な血を持ってるんだ」

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