命の雫

SHIZU

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薔薇の香り

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俺は2日に1回は夜な夜な外へ出る。

血を吸いにではない。

大抵は夜市に向かう。

あの雰囲気が好きだからだ。

夜景を見たり、人間の暮らしを観察したりもする。

夜市は定期的に店の場所が変わる。

入り口付近が儲かるとか、なんか色々あるんだろ?

よくは知らんが人間も大変だな。

良い匂いがしてふと立ち止まる。

肉と血の匂い。あとはスパイスか。

ふと見ると若い男が肉を焼いていた。

「いらっしゃいませ! おひとつどうですか?」

「いただくよ」

「ありがとうございます!」

俺は代金を渡して、受け取った肉を一口かじった。

「ん? この肉……」

「オリジナルのスパイス使ってるんです。お口に合いませんか?」

う…! ニンニクが入っている!

どうして食べる前に気付かなかったんだ。

俺は苦しみに耐えかねてその場に倒れ込んだ。

周りがざわつき始める。

こんなとこで騒ぎになるわけにはいかない。

なんとか立ちあがろうとするが、体がいうことをきかなかった。

「お兄さん! 大丈夫ですか!? えっと、えっと……どうしよう。あ、救急車呼ばないと……」

スマホに手をかけた彼の手を握った。

救急車なんて呼ばれてたまるか。

「救急車は必要ない。休めばすぐ治まる。だからあそこの人の少ないベンチに、俺を運んでくれるか?」

「わかりました」

俺は肩を借りてベンチまで向かった。

ニンニクを触ったことはあるが、口にしたのは初めてだった。

どうしてあの匂いに気付かなかったんだ。

屋台から離れて気付いた。

この青年、薔薇の香りがする……

「ありがとう」

そう言うと俺は気を失った。


~~~~~~~~~~


目覚めると、俺の頭は青年の膝の上にあった。

「何をしている?」

ふと顔を見ると彼は泣いていた。

「あー良かった……生き返ったー!」

ちょっと待て。俺は1度も死んではいない。

俺の頬が彼の涙で濡れている。

「ずっとこうしていたのか? 大丈夫なのか?」

「あ、膝? 全然大丈夫です!」

「じゃなくて、店の方」

「ちゃんと火は消してきました」

そういう問題か?

「ずっと付きっきりだったんだろ? 俺のせいで売り上げがなかったんじゃないか?」

「まぁそういうときもありますよ!」

「放っておいてくれて良かったのに」

「意識不明の人、その辺に置いとけないですよ! しかも俺の焼いた肉食べて死んだら困るじゃないですか」

だからちょっと待て。俺は死んではいない。

「そうか。世話になった」

「体調悪かったんですか?」

「いや、ニンニクにアレルギーがあるんだ」

「へー。ニンニクアレルギーってあるんですね」

「まあな」

「そういやこの公園から朝日を見たことあります?」

「?……いや、無いがどうして?」

「とっても綺麗なんですよ! あと30分で日の出です。いつもここで朝日を見て帰るんです。元気になったなら一緒にどうですか?」

は? あと30分で日の出だと!?

「今何時だ!?」

「4時前ってとこですかね」

しまった。

俺は3時間も気を失っていたのか。

これだから夏は困る。

夜が短すぎるじゃないか……

「すまない。用事を思い出したから今日は帰る」

「え?」

「この礼はいつか必ず! じゃ!」

俺はそれだけ言って、急いで屋敷に向かった。

日の出と共にギリギリ屋敷の扉を開けた。

少しだけ日に浴びた俺の手が灰になり始める。

なんとか間に合ったか。

俺の左手から腕にかけて、灰になってしまった。

「これ再生するのに時間かかるんだよな……2週間くらいか? まあいい。寝るか」

俺は腕がないまま眠りについた。


~~~~~~~~~~


「おい、なんだこれは」

その夜、目覚めた俺は自分の体を見て驚いた。

再生に2週間はかかると思っていた左腕が、もう元に戻っている。

何が起きた?

ユキに相談するか悩んだが、とりあえずこのまま様子を見ることにした。



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