街コン!

SHIZU

文字の大きさ
上 下
2 / 7
Main Storys

二度あることは三度ある

しおりを挟む
会場に着くと、男女2人ずつが1チームになると料理教室の先生が説明をしてくれた。
今日はパンを作るらしい。
具は自分のオリジナルで、キッチンにある材料を好きに使える。
チーム分けはくじ引きか…
先生の持ってたい袋に手を入れ、紙を引くとBと書いてあった。
聡は…?Dだ…
ふと総司くんの方を見ると、持っていた紙にはBと書いてある。
「総司くん!見て。一緒!」
知っている人がいるという安心感で、思わずはしゃいでしまった。
総司くんは少しだけえっ?って顔をした後笑って、
「うん!一緒」
と言った。
全員が揃って、みんなで自己紹介をした。
女性の方は、滝川たきがわさん25歳と、本木もときさん27歳と言うらしい。
2人は知り合いで、都内の会社で事務職をしてるって。
先輩と後輩なんだそうだ。
滝川さんが僕たちを見て聞いてくる。
「お2人もお知り合いなんですか?」
僕はパンの生地を捏ねながら答える。
「はい。わかります?」
「さっき入ってきた時に、仲良さそうにお2人が話していたのが見えたんで、そうかなって話してたんです」
「そうなんです。プライベートで女性と話すの緊張するんで、総司くんが同じグループに居てくれて安心したんですよ。この間誘われて行った、初街コンの時も女性とは全然話せなくて…」
「じゃあ、その時誘ってくれた友達が総司くん?」
「…じゃないです。その時誘ってくれた友達はあっちのテーブルにいる背の高い方です」
と聡を見ながら僕が言うと
「その街コンで、新くんをナンパしたのが僕です」
と冗談を言いながら笑った総司くん。
2人の女性の目が、ハートになった瞬間を僕は目撃した。
モテるねー。うらやまー。
総司くんは女性陣に囲まれている。
僕はとりあえずパンを発酵させている間に具を考えよう。材料があるところで、何を具にするか選んでいると、他のグループにいた人に声をかけられた。
「どうも。僕、藤原翼ふじわらつばさといいます。26歳です。あなたは?」
「あ、はじめまして。僕は植本新です。もうすぐ28歳です」
「植本さんはパンの具どうするんですか?」
「うーん。悩んでるんですよねー。ピザ風もいいし、明太子もアリだなーって。藤原さんは?」
「年下だし、翼でいいですよ。新さん…でいいですか?」
「うん。翼くんはどうするの?」
「僕クルミめっちゃ好きなんですよねー。レーズンが嫌いだからクルミ入れたいんですけど、今、3対1でレーズンの勝ちなんですよ…困った…」
「自分のだけクルミにしたら?」
「え?そんなことしたら、協調性の無いわがままなヤツとか思われないですか?」
「いいんじゃない?好きなものは好きだし、嫌いなものは嫌いなんだから、せっかく楽しく料理してるのに、無理して人に合わせる必要はないでしょ?」
「そっか…そうですよね」
とにっこり笑った。
翼くんはお皿にたくさんのレーズンとクルミを持ってみんなのとこへ帰って行った。
僕はどうしようと考えていると、再び翼くんがやってきて、
「僕がクルミ入れると、みんなやっぱクルミも美味しそうって言って、レーズンと一緒にクルミも入れてました。焼いたら見た目、ややこしくなりますよね…僕のクルミだけのやつ、わかるかな?」
と苦笑いした。
「それはもうハートとかにして、他の人と形変えたら?」
とか話していると、
「何これ!?めっちゃうまい!」
と大きな声がした。
僕と翼くんが声の方を見ると、聡のグループの子がみんなでキャッキャしている。
どうやら聡のグループはカレーパンにしたらしい。
パンの中に入れるカレーを聡が作っていて、それを横から味見したグループのみんなが、美味すぎてテンションが上がっていたんだ。
えー。いいな。僕もカレーパン好きなのに。
聡と同じグループなら僕もカレーパンにしたかった。
僕がじーっと見ていたから聡が気付いて、僕を見てふっと笑った。
ちぇっ。いいさ。僕はピザパンにするんだ!
と具材を持ってこうとした時、翼くんが僕のポケットにメモを入れた。
「何?」
「僕のIDです。連絡先交換しませんか?僕、恋人はおろか、友達も少ないんで、是非友達からお願いします」
「うん。いいよ。じゃあ後で登録して折り返すね」
「ありがとうございます!」
と言って翼くんは自分のグループの所へ走って行った。
人懐っこいな。可愛らしい感じだし、モテそうなのに。
ていうか、友達って言った?
からってなんだろ…言い間違えかな。
僕はピザパンの具を持って、みんなの所へ戻ると、
「ごめん。1人で行かせて…」
と総司くんが顔の前で手を合わせて謝った。
「そうだね。ごめんなさい」
と女性2人も謝った。
そんな気にすることでもないのに。
「大丈夫!僕、ピザ風のパンにしようと思って、材料持ってきたんだ。みんなどうするの?」
「ピザ!私ピザ好きだから私もそれにします!便乗していいですか?」
と本木さんに言われて、
「もちろん」
と、結局みんなでピザパンを作ることにした。
出来たてホカホカのパンはとても美味しくて、みんな笑顔で食べていた。
パンを食べながら連絡先も交換した。
また飲みに行きましょうって。
2人とも感じのいい人だった。楽しかったな。

帰りに聡とまたご飯行くことになった。
恒例になってるのかな。反省会的な?
教室を出たとこで待ってると、聡が来て紙袋を僕に差し出した。
「ほら。お前の」
「何?」
カレーパンが入ってた。
「聡たちが作ったやつ?」
「そ。新、カレーパン好きだろ?」
「ありがとう!最初僕もカレーパンにしようかと思ったけど、美味しく作る自信がなくてやめちゃった。今食べてもいい?」
「今から飯行くのに?」
「うん。でもあったかいうちに食べたいから」
「いいよ」
開けると一口サイズのカレーパンが3つ入ってた。
「えー!思ってたのと違うけど、美味そう!」
「大きいのだとみんなで分けにくいから、一口サイズにしたんだ」
「可愛いな。いただきます!」
1つ食べてみる。
「うまっ!何これ?」
「カレーパン」
「いや、それは知ってる。なんでこんな美味くなるの?」
「料理教室通ってる成果が出てるだろ?」
「いやマジで。すげーよ」
その時、翼くんが声をかけてきた。
「新さん!良かったらこの後ご飯どうですか?もっと話したいし!」
「ごめん。この後、友達とご飯行こうと思ってて…」
「じゃあ、僕もご一緒させてもらってもいいですか?」
「友達がいいって言えば僕はいいよ」
と言って聡の方を見た。
「俺はいいよ」
「じゃあ僕もいい?」
と総司くんが僕の肩に手を回して言った。
「じゃあ4人で行こうか!」
と僕は聡が出してくれたウェットティッシュで、パンの油が付いた指を拭きながら言った。


教室の近くにあった居酒屋に入ることにした。
「かんぱーい!」
「お疲れ様ー」
と4人で乾杯した。
「じゃあ僕から紹介するね。こちら藤原翼ふじわらつばさくん。で、翼くんの隣が高岡総司たかおかそうじくん。僕の隣にいるのが川辺聡かわべさとし。で、一応僕は植本新うえもとあらたです。翼くん以外はみんな同い年だね」
と自分で紹介しながら、なんで街コンの後に男ばっかでご飯行ってんだ?と疑問が湧く。
「でも、こん中で1番若く見えるの、新くんですよね!」
と翼くんが言った。自分でもそんな気はしてた。
「…可愛いだろ?なんで彼女出来ないのか不思議なんだよなー」
と俺の頭をなでなでしながら聡が言った。
ん!?どうした、聡。
普段はこんなことしたことないのに…変なの。
その後みんなちゃんと自己紹介して、街コンの話や仕事の話なんかで盛り上がった。
「翼くんは、美容師なんだね!どうりでオシャレだもんなー」
と僕が言うと、
「今度お店に来てくださいよ。似合う髪型にするんで!」
「いいの?ちょうどそろそろ散髪行きたいと思ってたんだ!」
「じゃあカラーもしましょ!あーでもそれで格好良くなっちゃったら、逆にモテ過ぎて困っちゃうかもですね!」
「どんなに良くしてもらっても、モテ過ぎるなんてことないから大丈夫だよ!」
と僕が笑うと、
「じゃあ、僕の名刺渡しときますね。来週の土曜とかどうですか?」
と言って僕にだけ名刺をくれた。
あれ?聡と総司くんにはあげないのかな…
「朝イチとかなら行けるよ!」
陶芸教室は12時からのレッスンだから、それまでに行けたら、スッキリして蒼さんとこ行けるなって思った。
「じゃあ9時半は?」
「うん。いいよ」
「じゃあ予約入れときます。お店の場所、名刺に書いてるんで、もし迷ったりしたら、迎えに行くんで連絡くださいね!」
「うん。ありがとう!急にごめんね?」
「いや!僕はめっちゃ嬉しいです!」
と2人で盛り上がっていると、
「俺ちょっとトイレ…」
と聡が立ち上がる。
「じゃあ僕も…」
と翼くんも聡の後を追ってトイレに行った。
「なんか、男同士で集まって話すのも楽しいね?あ、総司くんなんか飲む?」
と僕が言うと、斜めに座ってた総司くんが
「ありがとう。ビール頼もうかな。あとやっぱ君付けは慣れてないから総司でいいよ!新はあんまり友達とご飯行かないの?」
「もう、仲の良かった奴はほとんど結婚しちゃってて、あんまみんなでってのは最近ないかなー。ほとんど聡とばっか遊んでる」
と僕が笑うと、
「じゃあこれからは、僕のことも誘ってよ」
と総司が言った。
「じゃあ、今度また聡と翼くんも誘って、4人で男子会しようよ!」
「それもいいけど、次は2人で会いたいな」
総司は僕の目を見てそう言った。
なんだろ?他の人には聞かれたくない、悩み相談的なやつかな?だったら2人の方がいいよな。空気読めないこと言っちゃった…
「いいよ!いつでもメールして!」
「じゃあ早速…次の土曜、陶芸教室の後はどう?」
また聡とご飯行くかもしれないと思ったけど、たまにはいいか。にしても土曜は忙しくなるなー。
「いいよ!じゃあ陶芸の後でご飯行こう」
そうしている間に2人が帰ってきた。
聡の様子が少し変な気もした。大丈夫かな?
今日のお酒の量なんて、あいつには水飲んだのと変わらんくらいだと思う。
酔っ払ったわけじゃないのか?
その後も軽く飲んでお開きにした。

帰り道、聡が無言のまま僕の隣を歩く。
しばらくして
「俺、飲み足りないから、もう少し飲んで帰るわ」
と駅に向かう方の信号を渡ろうとしたから、僕は聡の腕を掴んで言った。
「僕も行く」

着いたのは行きつけのBAR。
2人の家から割と近くて重宝してる。
「ちょっとトイレ行ってくる」
と僕がトイレに行って帰ってくると、聡のウイスキーと僕のシャンディガフがテーブルに置かれていた。
「良かった」
「何が?」
「さっきのお店にいる時ちょっと変な感じしたから、具合が悪いのか僕か他の何かに怒ってるのかなって不安になったんだ。今の聡がいつも通りで良かったって思っただけ」
「うん。いつも通りだよ。あんまり馴染みのないメンツだったから、少し居心地悪かったけどな。あんまり飲めなかったし」
「そうだな。あんなの聡なら、水飲むのと変わんないくらいだもんな!」
「うん。あー!疲れた!」
「今日どうだった?街コン」
「まー悪くはなかったと思うよ。みんな感じのいい人ばかりだったし。1人を除いて」
「えー誰ー?」
「教えない」
「いじわる」
「もう会わないと思うし、俺に対してだけだろうから、気にすんなよ。」
「そうなの?」
「うん。たぶんライバル認定されちゃったからだと思う」
それを聞いて、あー、あの同じグループにいた男の人か…と僕は思った。仲良くカレーパン作ってたくせに!裏ではそんな態度だったんか…
「大丈夫!僕だけは何があっても聡の友達だから!そんな奴、気にすんな!」
と僕は聡の肩をぽんと叩いて言った。
「うん。サンキュ」
そう言った聡の表情は、やっぱりいつもと違って見えた。


次の日、聡から電話が来た。
「そういえば、昨日のメンバーの中で、恋人になれそうな子いた?」
「んーどうかな。恋人ってよりかは、友達の感じ?飲み友って感じかな」
「じゃあまた再来週の土曜日、街コン行こう!ついて来てくれよ」
「えーまたー?」
「今度はお酒好きが集まるやつ。どう?」
「どう?って言われても…まあどうしてもってなら行くけどさ…」
聡はそんなに恋人が欲しいのか?
結婚焦ってるのかな。
そもそもそんなもの行かなくても、聡ならその気になればいくらでも相手見つけられるのに…
そう思ったけど、聡には言わずに約束をして電話を切った。


土曜日。今日はめっちゃ忙しい。
とりあえず朝起きて準備を済ますと、翼くんの店に向かった。
今のお店は、良くしてくれた先輩が独立する際、声をかけてくれて、2年ほど前に移籍したらしい。
「おはようございます。植本です」
とお店に入ると
「いらっしゃいませ。こちらのお席どうぞ。翼ー!お客様」
と、たぶん店長さんと思われる男性が僕を席に案内した後、翼くんを呼びに行った。
お店はチェーン店のような明るく賑わった感じではなく、落ち着いていて隠れ家みたいなお店だった。
「いらっしゃいませ。お待ちしてました」
「うん。ありがとう。よろしくね」
「こんな感じがいいとかあります?髪型とかカラーとか」
「全部お任せする。似合うのしてくれるって言ってたし。でも、カラーはあんまり派手じゃないやつがいいな。派手すぎてチャラくなっちゃうと、仕事しづらいから」
「わかりました!任せてください。じゃあ先にカラーしますねー」
準備をしながら、翼くんが言った。
「この間はありがとうございました。急にご飯付いてっちゃって、川辺さん、気を悪くされてませんでした?」
「ん?聡?全然大丈夫だったよー」
「結構長い付き合いなんですもんね?」
「そうそう!大学入ってからだから、もう10年になるかなー」
「へー!長いですね。10年も…」
「またみんなで飲みたいねー」
「そうですねー。あれはあれで楽しかったですけどね。でも僕は新さんさえいればいいです」
な、なんと…いつのまにかそんなに懐かれてしまっていたのか。
「新さん。僕、新さんがなんで4年も恋人いないのか、わかりましたよ!」
「え?なんで?教えてよ」
「新さん、結構天然ですよね?」
「えー。そんなことないよ」
「いや、ありますよ」
「どうしてそう思うの?」
「んー。じゃカラーの待ち時間の間ちょっと考えてみてください」
「うん。わかった」
どういう意味だろ。全然わからん。
しばらくして、
「洗い流しますねー」
と言ってシャンプー台に案内された。
「さっき言ってたの、どういうこと?」
「たぶん今まで周りにいた人で、新さんに対して好きですよー、気になってますよーってオーラを出してる人が何人もいたと思いますよ。でもあなたは何も気付かなかったでしょ?」
「そんな人居なかったよー?」
「ほらー!僕も最初は、気付いてるけど面倒臭いから気付かないふりをしてると思ってました。でもすぐにそうじゃないってわかったんです。新さんは素で全部スルーして来たんだなって気付いたんですよ」
「そんなことないよ」
「ありますよ。僕が知ってるだけでも、3人はあなたのことを好きですよ。もちろん僕も入れてですけど。かゆいとこないです?」
「うん。大丈夫」
3人!?そんないるの?全然わかんないぞ。
っていうか、今僕も入れてって言った!?
思わず起きあがろうとして、翼くんに抑えられた。
「まだ泡流してないんで、起きちゃダメです」
「あぁ…ごめん」
「全然気付かなかったですか?僕の気持ち」
「うん。だって出会ったばかりだし」
「考えるより感じるタイプなんです、僕」
「どういうこと?」
「どうかなー?合うかなー?長く続くかなー?なんて考えたってしょうがなくないですか?気になる!って思ったら付き合ってみないとでしょ?どうせ今見せてるもん、全部上っ面だけなんですから」
「えー。そうかな?」
「そうですよ!それを仲良くなって、徐々に知っていこうなんて考えてたら、全部知った時にはもうおっさんですよ。付き合ってみて初めてわかることたくさんあるでしょ?相手が男でも女でもです。だから、気になった人がいたら、とりあえず付き合ってみる。それでどうしようもなかったら、別れて次探せばいいんです」
そういうもんなのか?言ってることはわかる気がするけど…
「起こしますよー。…だから僕と付き合ってみませんか?」
起き上がった僕の目を見て、翼くんはそう言った。
「いや、いやいやいや!なんでそんな話になってるの?だってそもそも僕たちは、恋人探すために街コン参加してたんだよね?」
「元のお席にどうぞ」
と案内されて、元いた席に戻ってきた。
「もちろんそうですよ。でも新さんが性別のこと気にしてるんなら、僕にはなんの問題もないです。その時心が動けば、相手が誰だろうとそれが諦める理由にはならないですよ」
え。ちょっとカッコいい…とか思ってしまった。
いや、でもそれとこれとは別。
「でもやっぱりそんな簡単には…」
「じゃあちょっと考えてみてください。返事、今すぐじゃなくていいんで。じゃあカットしますね」
「お願いします」
カットされてる間ずっと考えていた。
気付けば終わっていた。
「はい!お疲れ様でしたー」
久しぶりに髪染めたなー。
「いい感じだね。ありがとう!」
「あ。お写真撮らせてもらってもいいですか?」
「どうして?」
「カットモデル的なやつです。もし嫌じゃなければホームページにも載せてもいいですか?せっかく上手く出来たんで」
「うん。別にいいよ」
「ありがとうございます。じゃああちらでお写真を」
と言われて、前、横、後ろの写真を撮った。
お会計はカットモデルってことになったから、カラーの分だけにしてくれた。あとおまけの小さいワックスも付けてくれた。
「ありがとう。また来るね」
「それは付き合ってくれるって意味ですか?」
「ち、違うよ!翼くんが上手だったから、次もお願いしようかなって意味だよ!」
「わかってますよ。いい返事待ってるんで、しばらく考えてみてください。今日はありがとうございました」
と笑いながら翼くんは言った。


昼からは陶芸だな。11時半に駅で聡と待ち合わせだった。
「今日は、シーサーでも作ってみる?」
蒼さんがそう言った。
「シーサーですか?手作りで?」
「そう!シーサーや埴輪みたいな置物やオブジェを陶芸で作るのも楽しいんだよ」
「絶対可愛いじゃないですか!」
「もし新が上達して、上手く作れるようになったら、お店に置かせてよ!」
「え、いいんですか?」
「売れるくらい上手くできるようになったらね」
と蒼さんが言ってくれた。
「ねぇ、蒼さん」
「どうした?」
「少しご相談が…」
と、僕は聡に聞こえないように小声で話した。
「男に告白されたらどうしますか?」
一瞬びっくりした顔をしたけど、すぐに真顔になった蒼さんは、
「新…そんなに俺のこと…俺も新が好きだよ!」
と言った。
「ち、違います!僕じゃなくて、最近知り合った人に、もし告白されたらどうします?」
「そうだなー。実はさっきの俺も好きだよっていうのは、案外嘘でも冗談でもないんだ」
「え?」
「実は街コンで最初に話しかけた時、お前のこと気になったから、料理を取りに行ったお前に付いてった」
「マジっすか?」
「マジ。でも新が本当に楽しそうに陶芸をしてくれてるから、そういうのは辞めとこうって思った。気まずくなって来てくれなくなったら嫌だしね」
「蒼さん…」
「だからこれからも楽しくここで陶芸してくれな?」
「はい。ありがとうございます」
今日は何点か小物を作った。2週間後に絵付けできるらしい。来週はこの間の徳利とお猪口が出来上がるって!
あ、蒼さんにも告白されたってことは、これで2人目か。
飲みに行った時、陶芸と蒼さんの話をしたから、それで翼くんは気付いたんだろうか。
じゃああと1人…


蒼さんのとこを出ると、やっぱり聡に飲みに誘われた。
「今日、この後どうする?飲みに行く?」
「ごめん。このあと家で仕事の資料まとめなきゃだから、やめとくわ」
と僕は聡に言った。あれ?僕、なんで嘘ついたんだろ?
普通にこの後総司に飲みに誘われたからって言えば良かったのに。
「わかった。俺このままどっか飲みに行くから、ここで解散な」
「うん。あんまり飲みすぎるなよ」
「お前もな」
「うん」
僕たちは駅で解散した。


汗をかいたから、一度家に戻って着替えた後、待ち合わせの駅に向かう。
「総司!お待たせ。」
「じゃあ行こうか?」
総司くんが連れて行ってくれたのは、お洒落なダイニングバーだった。昔フランスで修行したシェフが料理長をやっていて、本格的なフレンチを味わえると評判らしい。ワインの種類も多くて美味しいんだって。
「乾杯」
2人でワインを開けた。
料理はコースと単品どちらでも選べるらしい。とりあえず今日は単品でいくつか頼むことにした。
「総司。今日はどうしたの?なんか悩み事?」
「どうして?」
「いや2人で会いたいとか言うから、なんか聞いて欲しい悩みでもあるのかと思って…」
「うん。悩みではないけど、聞いて欲しい話はあるかな」
総司はお肉を食べながらそう言った。
「どんな話?」
「その前に、川辺さんはただの友達?」
「そうだよ?どうして?」
なんでみんな聡のことばっか気にするんだ?
「そうか。良かった」
もしかして総司は聡のこと好きなのか?
「ねぇ?もしかして聡のこと好きなの?その相談?」
「違うよ。僕が好きなのは新だよ」
とテーブルに置いていた僕の手を握って言った。
まさか…そうだ。これは夢だ!じゃなきゃ、僕が1日で3人も告白されるわけがない。しかも男に…
俺はほっぺたをつねる。うん。痛い。夢じゃないみたい。
総司は笑いながら
「夢じゃないよ。びっくりしたとは思うけど、これは現実だから。僕は新が好きなんだよ」
「僕なんかのどこが…」
「可愛いとことか、純粋なとことか、一生懸命なとことか。いいとこいっぱいあるよ。まだ出会ってそんなに経ってないけど、僕が今まで出会った人の中で1番素敵な人だと思った」
相手は男だけど、総司の言葉は普通に嬉しかった。
街コン行っても、男にしか声をかけられないってのは、もうやめろって神様が言ってんのかなー。
「気持ちは嬉しいけど、そんな簡単には答え出せないよ」
「わかってる。少し考えてみて?」
「うん。わかった」

帰り道、僕は1人で街をうろついていた。
翼くんが言った3人が全部わかった。
んで、僕はどうしたらいいんだ。
翼くんと総司に至っては、告白されてその返事を保留にしている。
相手は2人とも男だぞ?
考えるまでもなく断ればよかったのに、何故だか即答出来なかった。
どっちみち、次の街コンを最後にしよう。
僕は電話して聡に言った。
「来週の街コンてもう予約してるよね?…それなら僕、次の街コンで最後にするよ」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

ポンコツアルファを拾いました。

おもちDX
BL
オメガのほうが優秀な世界。会社を立ち上げたばかりの渚は、しくしく泣いているアルファを拾った。すぐにラットを起こす梨杜は、社員に馬鹿にされながらも渚のそばで一生懸命働く。渚はそんな梨杜が可愛くなってきて…… ポンコツアルファをエリートオメガがヨシヨシする話です。 オメガバースのアルファが『優秀』という部分を、オメガにあげたい!と思いついた世界観。 ※特殊設定の現代オメガバースです

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

処理中です...