青天の霹靂

SHIZU

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社会見学

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次の日は新さんと台所に並んで一緒に朝ごはんを作っていた。
朝はいつも麦飯と味噌汁と漬物だ。
庭の畑で採れた野菜を漬物にしていると言った。
「贅沢はしないの?稼いでるんでしょ?」
「1人だからな。それに昼は店が用意してくれる。そこではそこそこいいものを食べられてるから、家では質素なものでいい」
「ふーん。でも俺がきたから、1人じゃなくなったし、食費も増えるな!」
「じゃあ食費入れてもらおうかな」
「仕事もしてないのにー!?」
「冗談だ。お前1人養うくらいの稼ぎは充分ある」
「へー」
「早く食べるぞ」
「うん」
朝ごはんを食べながら新さんが聞いた。
「今日は?どうする?街を散歩するか?」
「…新さんの仕事、見学してもいい?」
「は?何を言ってるんだ?」
「家にいても暇だし、散歩は今度、新さんが休みの日に案内してよ」
「見学って、どういうことかわかってるのか?」
「うん。新さんさえよければだけど」
「それはいいが、渉は…そういう趣味なのか?」
「そういうって………あっ!ちが!違う!どんな感じかなーっていうただの興味と、もし雑用とかでもいいから手伝えることがあればなーって思っただけ。お世話になりっぱなしも申し訳ないから!」
なんか凄い言い訳がましいな。
「まあ、女将さんに聞いてみないとだけどな。とりあえず一緒に行くか?」
「うん!」

店に着くと、そこは時代劇で見る遊郭のような場所だった。
でも部屋にいるのは全員"男"。
新さんは受付の女性と話をして、奥の部屋に俺を連れて行った。
「おきょうさん。新です」
「どうぞ」
そう言われて部屋に入ると40歳くらいの女の人が座っていた。
とても綺麗な人だ。
俺の顔を見て一瞬顔色を変えたように見えたが、すぐに元に戻り、
「どうしたの?その子」と言った。
「私が昨日、道で拾ったんです。今日は私の仕事を見学したいそうですよ?」
「あら!見学と言わず、すぐに働いてくれてもいいのよ!可愛いからきっと人気出ると思うし!」
「まぁまぁ。とりあえず今日は私の部屋に置いてあげていいですか?」
「えぇ。この店1番の実力を見せつけてやんなさい!」
「何言ってんですか。じゃあ行ってきます」
「はあい。よろしくねー」

俺たちが向かった部屋は、この店で1番大きな部屋だった。
「No.1だからこんなでかい部屋?」
「なんばー?何?」
「あ。えーと…この店1番の稼ぎ頭だから?」
「まぁ、そんなとこだ」
その時、外から声がした。
「新さん。お菊さんが来られましたよ」
「え?もう?お客さん?」
と俺が聞くと、新さんはコクっと頷いて
「お通しして」
と言いながら、俺をどでかい屏風の裏に隠した。
「何を見ても声を出すなよ?」
と俺の唇に人差し指を当てて言った。
うぉっふ。思わず変な声が出そうだった。
「おかえり」
そう言うと、新さんはお菊さんという女性を抱きしめた。
「新さん!だだいまー!」
これから何が始まるのかとドキドキしていたのに、お菊さんは1時間ずっと姑さんの愚痴をこぼして帰って行った。
「何今の?」
「凄いだろ?あの人はいつもあーなんだ。面白い人だよ」
するとすぐさま、
「新さん!お香さんがおみえに…」
「ありがとう。お通しして」
そういうとまた屏風の裏に俺を追いやって、
「今度こそ凄いぞ」
とウィンクをした。
俺、お客さんが来て、屏風の裏に追いやられるたびに、HPを減らされてる気がする。
ヒットポイントじゃないぞ。
ハートポイントだ。
…ごめんなさい。
「おかえり」
「新さん!ちょっと聞いてよ!」
次の人は近所の噂話をずっと新さんに聞かせていた。
満足すると、
「またね!」
と言って帰って行ったのだった。
もう何が何だか…
「な?すごかっただろ?」
「いや、すごかったけど…ちょっと、思ってたのと違うっていうか…」
「どんなのを想像してた?やっぱり変な趣味があるんじゃないか?」
「ない!ない!」
「新さーん…」
新さんは朝から6時間ほどで、昼休憩はとったものの、4人の女性の相手をしていた。
今日のお客さんはどの人も体の関係は求めてなくて、話を聞いて欲しいだけみたいだった。
そしてわかった。
新さんは女性たちが求めている答えをちゃんとくれる。
目を見て話を聞いてくれて、表情も柔らかく、ちょうどいい相槌で、時には盛り上げてくれる。
あとは声がかっこいい。
お茶を飲んで落ち着いた頃。
「新。竜が来たわ」
お京さん自らが知らせに来るなんて。
なんだ?太客か?
「わかりました。渉、部屋を出てて」
「え、嫌だ!俺まだ社会見学する!」
「出てくれ、頼む!」
「嫌だ!」
俺はそう言って、屏風の裏に隠れた。
どんな太客なのか、この目で見てやる!
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