11 / 12
秘密の箱
しおりを挟む
ひいおじいちゃんの秘密箱、どうなっただろう。
俺は卒業制作に取り掛かりながら、ふとあの箱を思い出していた。
ある日、バイトが終わってスマホを見ると着信が。
「もしもし? どうした」
「にいちゃん! あの箱開いた!」
「え?」
「それと次の休み、帰ってきて欲しいって!」
「誰が?」
「凱くんが」
「なんで?」
「いいから。ちゃんと帰ってきてよ? じゃあね」
自分の言いたいことだけ言って切りやがった。親子だなぁ…
まぁどうせ卒業したら家に戻るし、徐々に荷物を運んでおきたかったから、金曜日の夜から家に帰ることにした。
「ただいま」
「おかえりー!」
紡たちが出迎えてくれた。
「帰ってきたら、何時でもいいから電話してって凱くんが」
「…わかった」
自分の部屋に荷物を置いて、凱に電話する。
「よお。久しぶり。話って?」
「秘密箱を返したくて」
「あれ、開けてくれたんだってな。ありがとう。わざわざ箱根まで行ったのか?」
「いや、行かなくても良くなったんだ。そのことで聞いて欲しい話があって、会えないかな?」
「日曜日の朝には戻るから、今日か明日なら…」
「じゃあ今日で」
即答かよ…
「今から駅前のファミレスに来れる?」
「わかった」
窓側に箱を持った凱が見える。
「お疲れ」
「お疲れ。とりあえずドリンクバー頼んだ。何飲む?」
「烏龍茶」
「わかった」
俺の烏龍茶と自分のホットコーヒーをテーブルに置いて凱が言った。
「あの箱、愛が詰まってた」
「……俺?」
「違う。ラブレターが入ってた」
「あー。ひいおじいちゃんがもらったラブレターってこと?」
「もらったのと、書いたのと」
???
「書いたのに、出さずに持ってたの?」
「読んだらわかるよ…」
と箱の中の手紙を俺に渡して言った。
封筒にはひいおじいちゃんの名前、中村市様とだけ書いてある。
全て住所の記載も、切手も消印もない。
そして中の手紙には、ひいおじいちゃんへの愛の言葉が書いてあった。
"あなたに出会えて幸せです"
"あなたが居れば何も要らない"
"ずっと一緒にいたい"
そんな内容の短い手紙が何通か入っている。
「情熱的な相手だったんだな」
「うん…そしてこれが最後の手紙」
最後の手紙。
"あなたがいない人生なら、私には生きる価値もない。後の世でまた出会えたら、その時は私と一緒に生きてください。〇〇年〇月〇日 高城文"
「てか、高城文って……お前の身内?」
「うん。市さんの方の手紙読んでみて」
「わかった」
ひいおじいちゃんの手紙。
"君を愛しています"
"君に会う為に私は生まれてきた"
同じく、相手に愛を伝える言葉が並んだ手紙。
ただ途中から様子が変わってきた……
"私たちのことが父に知られてしまった"
"父が結婚相手を連れてきた"
"このままでは無理矢理に結婚させられる。どうすればいいかわからない"
そして文さんに向けた最後の手紙は……
"私と一緒に逃げないか?明日、いつもの場所で待ってる"
読んだ後少し考える。
「ってことは、ひいおじいちゃんは凱の親戚と駆け落ちしたってことか?でもさっきの文面だと文さんは……」
「それ読んでみて」
箱の一番底に残っている紙をみた。これは文さん宛ではないみたい。
「高城雄様?」
「うん。それが俺のひいおじいちゃん」
雄さん宛の手紙を読んでいく。
"雄。申し訳ない。私がもっと早く文と生きることを決断出来ていれば、こんなことにはならなかった。君の弟を、悲しみの中で死なせてしまったことを許して欲しい"
「え……弟?」
「うん。そうみたい」
その手紙には続きがあった。
ひいおじいちゃんは一人っ子で、父親は後継ぎがいなくなることを恐れて、最後の手紙が文さんに渡らないように邪魔をしたらしい。
すれ違いの末、文さんは自ら命を絶ってしまった。
当時は男同士の恋愛なんて、御法度だったのだろう。
お互いの店の評判にも関わるとも思った。
それにもう同じ悲劇を繰り返さない為に、愛する人を失った悲しみの中、ひいおじいちゃんは親友だった雄さんと協力して、その事実を隠すことにした。
ひいおじいちゃんが持っていた秘密箱に全ての手紙を集めて、簡単に誰かに開けられたりしないように、開け方を記した紙を雄さんに渡した。
そしてお互いの家には因縁があるように語り継いだのだ。
そして最後に小さな紙が入っていた。
たぶんこれはだいぶ後になってから書いたものなのだろう。
"私が死ぬ時、この箱を私の棺に入れて欲しいと雄に頼んだが、彼は私より先に文のところへ行ってしまった。もしいつか誰かがこの箱を開けた時、その者が心から愛する人と共に生きることが出来る世の中になっていて欲しいと望む"
しばらく言葉が出なかった。
「俺たちの家族がいがみ合っていたのは、資材確保で揉めたからでもなければ、三角関係のもつれでもない。悲しい理由ではあったけど、それを俺たちが背負うことはないんだよ」
「凱……」
「この手紙を読んで決心がついた。俺の運命の人は藍だと思っている。ちなみに俺は、俺の家族にもお前の家族にも宣言したからな」
「へぇ。そうなん……って、は?」
「ん?」
「宣言て何?」
「手紙を親に見せて、俺は藍と一緒に居たいって宣言した」
「いや、まあそれはいいよ。俺の家族にもっていうのは?」
「紡くんに手伝ってもらって、ご両親に会った。それで僕は藍くんが好きです。息子さんを僕にくださいって言った」
「はぁぁあー!?」
立ち上がりながら叫んだ俺の声が、ファミレス中に響き渡る。
俺は周りの人にペコペコと頭を下げて、謝りながら席につく。
「ぷっ! いやそれは冗談だけど。でもその手紙のことはご両親に伝えてもらった上で、藍くんは僕の運命の人です。あとは彼の返事を聞くだけなんでって言っといた」
何言ってんの?それはそれで恥ずかしいじゃん。
俯いたままの俺に
「大学卒業したら俺はイギリスに行く。跡を継ぐ前に3年間はイギリスに修行に行くのが高城家の慣わしだから。だから3年後お前のところに帰ってくるまでに答えを出しといてくれればいいよ」
そう言って凱は微笑んだ
俺は卒業制作に取り掛かりながら、ふとあの箱を思い出していた。
ある日、バイトが終わってスマホを見ると着信が。
「もしもし? どうした」
「にいちゃん! あの箱開いた!」
「え?」
「それと次の休み、帰ってきて欲しいって!」
「誰が?」
「凱くんが」
「なんで?」
「いいから。ちゃんと帰ってきてよ? じゃあね」
自分の言いたいことだけ言って切りやがった。親子だなぁ…
まぁどうせ卒業したら家に戻るし、徐々に荷物を運んでおきたかったから、金曜日の夜から家に帰ることにした。
「ただいま」
「おかえりー!」
紡たちが出迎えてくれた。
「帰ってきたら、何時でもいいから電話してって凱くんが」
「…わかった」
自分の部屋に荷物を置いて、凱に電話する。
「よお。久しぶり。話って?」
「秘密箱を返したくて」
「あれ、開けてくれたんだってな。ありがとう。わざわざ箱根まで行ったのか?」
「いや、行かなくても良くなったんだ。そのことで聞いて欲しい話があって、会えないかな?」
「日曜日の朝には戻るから、今日か明日なら…」
「じゃあ今日で」
即答かよ…
「今から駅前のファミレスに来れる?」
「わかった」
窓側に箱を持った凱が見える。
「お疲れ」
「お疲れ。とりあえずドリンクバー頼んだ。何飲む?」
「烏龍茶」
「わかった」
俺の烏龍茶と自分のホットコーヒーをテーブルに置いて凱が言った。
「あの箱、愛が詰まってた」
「……俺?」
「違う。ラブレターが入ってた」
「あー。ひいおじいちゃんがもらったラブレターってこと?」
「もらったのと、書いたのと」
???
「書いたのに、出さずに持ってたの?」
「読んだらわかるよ…」
と箱の中の手紙を俺に渡して言った。
封筒にはひいおじいちゃんの名前、中村市様とだけ書いてある。
全て住所の記載も、切手も消印もない。
そして中の手紙には、ひいおじいちゃんへの愛の言葉が書いてあった。
"あなたに出会えて幸せです"
"あなたが居れば何も要らない"
"ずっと一緒にいたい"
そんな内容の短い手紙が何通か入っている。
「情熱的な相手だったんだな」
「うん…そしてこれが最後の手紙」
最後の手紙。
"あなたがいない人生なら、私には生きる価値もない。後の世でまた出会えたら、その時は私と一緒に生きてください。〇〇年〇月〇日 高城文"
「てか、高城文って……お前の身内?」
「うん。市さんの方の手紙読んでみて」
「わかった」
ひいおじいちゃんの手紙。
"君を愛しています"
"君に会う為に私は生まれてきた"
同じく、相手に愛を伝える言葉が並んだ手紙。
ただ途中から様子が変わってきた……
"私たちのことが父に知られてしまった"
"父が結婚相手を連れてきた"
"このままでは無理矢理に結婚させられる。どうすればいいかわからない"
そして文さんに向けた最後の手紙は……
"私と一緒に逃げないか?明日、いつもの場所で待ってる"
読んだ後少し考える。
「ってことは、ひいおじいちゃんは凱の親戚と駆け落ちしたってことか?でもさっきの文面だと文さんは……」
「それ読んでみて」
箱の一番底に残っている紙をみた。これは文さん宛ではないみたい。
「高城雄様?」
「うん。それが俺のひいおじいちゃん」
雄さん宛の手紙を読んでいく。
"雄。申し訳ない。私がもっと早く文と生きることを決断出来ていれば、こんなことにはならなかった。君の弟を、悲しみの中で死なせてしまったことを許して欲しい"
「え……弟?」
「うん。そうみたい」
その手紙には続きがあった。
ひいおじいちゃんは一人っ子で、父親は後継ぎがいなくなることを恐れて、最後の手紙が文さんに渡らないように邪魔をしたらしい。
すれ違いの末、文さんは自ら命を絶ってしまった。
当時は男同士の恋愛なんて、御法度だったのだろう。
お互いの店の評判にも関わるとも思った。
それにもう同じ悲劇を繰り返さない為に、愛する人を失った悲しみの中、ひいおじいちゃんは親友だった雄さんと協力して、その事実を隠すことにした。
ひいおじいちゃんが持っていた秘密箱に全ての手紙を集めて、簡単に誰かに開けられたりしないように、開け方を記した紙を雄さんに渡した。
そしてお互いの家には因縁があるように語り継いだのだ。
そして最後に小さな紙が入っていた。
たぶんこれはだいぶ後になってから書いたものなのだろう。
"私が死ぬ時、この箱を私の棺に入れて欲しいと雄に頼んだが、彼は私より先に文のところへ行ってしまった。もしいつか誰かがこの箱を開けた時、その者が心から愛する人と共に生きることが出来る世の中になっていて欲しいと望む"
しばらく言葉が出なかった。
「俺たちの家族がいがみ合っていたのは、資材確保で揉めたからでもなければ、三角関係のもつれでもない。悲しい理由ではあったけど、それを俺たちが背負うことはないんだよ」
「凱……」
「この手紙を読んで決心がついた。俺の運命の人は藍だと思っている。ちなみに俺は、俺の家族にもお前の家族にも宣言したからな」
「へぇ。そうなん……って、は?」
「ん?」
「宣言て何?」
「手紙を親に見せて、俺は藍と一緒に居たいって宣言した」
「いや、まあそれはいいよ。俺の家族にもっていうのは?」
「紡くんに手伝ってもらって、ご両親に会った。それで僕は藍くんが好きです。息子さんを僕にくださいって言った」
「はぁぁあー!?」
立ち上がりながら叫んだ俺の声が、ファミレス中に響き渡る。
俺は周りの人にペコペコと頭を下げて、謝りながら席につく。
「ぷっ! いやそれは冗談だけど。でもその手紙のことはご両親に伝えてもらった上で、藍くんは僕の運命の人です。あとは彼の返事を聞くだけなんでって言っといた」
何言ってんの?それはそれで恥ずかしいじゃん。
俯いたままの俺に
「大学卒業したら俺はイギリスに行く。跡を継ぐ前に3年間はイギリスに修行に行くのが高城家の慣わしだから。だから3年後お前のところに帰ってくるまでに答えを出しといてくれればいいよ」
そう言って凱は微笑んだ
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
幸せのカタチ
杏西モジコ
BL
幼馴染の須藤祥太に想いを寄せていた唐木幸介。ある日、祥太に呼び出されると結婚の報告をされ、その長年の想いは告げる前に玉砕する。ショックのあまり、その足でやけ酒に溺れた幸介が翌朝目覚めると、そこは見知らぬ青年、福島律也の自宅だった……。
拗れた片想いになかなか決着をつけられないサラリーマンが、新しい幸せに向かうお話。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
突然現れたアイドルを家に匿うことになりました
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
「俺を匿ってくれ」と平凡な日向の前に突然現れた人気アイドル凪沢優貴。そこから凪沢と二人で日向のマンションに暮らすことになる。凪沢は日向に好意を抱いているようで——。
凪沢優貴(20)人気アイドル。
日向影虎(20)平凡。工場作業員。
高埜(21)日向の同僚。
久遠(22)凪沢主演の映画の共演者。
クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話
雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。
塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。
真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。
一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる