不可抗力

SHIZU

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秘密の箱

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 ひいおじいちゃんの秘密箱、どうなっただろう。
 俺は卒業制作に取り掛かりながら、ふとあの箱を思い出していた。
 ある日、バイトが終わってスマホを見ると着信が。
「もしもし?  どうした」
「にいちゃん!  あの箱開いた!」
「え?」
「それと次の休み、帰ってきて欲しいって!」
「誰が?」
「凱くんが」
「なんで?」
「いいから。ちゃんと帰ってきてよ?  じゃあね」
 自分の言いたいことだけ言って切りやがった。親子だなぁ…
 まぁどうせ卒業したら家に戻るし、徐々に荷物を運んでおきたかったから、金曜日の夜から家に帰ることにした。

「ただいま」
「おかえりー!」
 紡たちが出迎えてくれた。
「帰ってきたら、何時でもいいから電話してって凱くんが」
「…わかった」
 自分の部屋に荷物を置いて、凱に電話する。
「よお。久しぶり。話って?」
「秘密箱を返したくて」
「あれ、開けてくれたんだってな。ありがとう。わざわざ箱根まで行ったのか?」
「いや、行かなくても良くなったんだ。そのことで聞いて欲しい話があって、会えないかな?」
「日曜日の朝には戻るから、今日か明日なら…」
「じゃあ今日で」
 即答かよ…
「今から駅前のファミレスに来れる?」
「わかった」

 窓側に箱を持った凱が見える。
「お疲れ」
「お疲れ。とりあえずドリンクバー頼んだ。何飲む?」
「烏龍茶」
「わかった」
 俺の烏龍茶と自分のホットコーヒーをテーブルに置いて凱が言った。
「あの箱、が詰まってた」
「……俺?」
「違う。ラブレターが入ってた」
「あー。ひいおじいちゃんがもらったラブレターってこと?」
「もらったのと、書いたのと」
 ???
「書いたのに、出さずに持ってたの?」
「読んだらわかるよ…」
 と箱の中の手紙を俺に渡して言った。
 封筒にはひいおじいちゃんの名前、中村市なかむらいち様とだけ書いてある。
 全て住所の記載も、切手も消印もない。
 そして中の手紙には、ひいおじいちゃんへの愛の言葉が書いてあった。
 "あなたに出会えて幸せです"
 "あなたが居れば何も要らない"
 "ずっと一緒にいたい"
 そんな内容の短い手紙が何通か入っている。
「情熱的な相手だったんだな」
「うん…そしてこれが最後の手紙」
 最後の手紙。
 "あなたがいない人生なら、私には生きる価値もない。後の世でまた出会えたら、その時は私と一緒に生きてください。〇〇年〇月〇日 高城文たかしろふみ"
「てか、高城文って……お前の身内?」
「うん。市さんの方の手紙読んでみて」
「わかった」
 ひいおじいちゃんの手紙。
 "君を愛しています"
 "君に会う為に私は生まれてきた"
 同じく、相手に愛を伝える言葉が並んだ手紙。
 ただ途中から様子が変わってきた……
 "私たちのことが父に知られてしまった"
 "父が結婚相手を連れてきた"
 "このままでは無理矢理に結婚させられる。どうすればいいかわからない"
 そして文さんに向けた最後の手紙は……
 "私と一緒に逃げないか?明日、いつもの場所で待ってる"
 読んだ後少し考える。
「ってことは、ひいおじいちゃんは凱の親戚と駆け落ちしたってことか?でもさっきの文面だと文さんは……」
「それ読んでみて」
 箱の一番底に残っている紙をみた。これは文さん宛ではないみたい。
「高城ゆう様?」
「うん。それが俺のひいおじいちゃん」
 雄さん宛の手紙を読んでいく。
 "雄。申し訳ない。私がもっと早く文と生きることを決断出来ていれば、こんなことにはならなかった。君のを、悲しみの中で死なせてしまったことを許して欲しい"
「え……弟?」
「うん。そうみたい」
 その手紙には続きがあった。
 ひいおじいちゃんは一人っ子で、父親は後継ぎがいなくなることを恐れて、最後の手紙が文さんに渡らないように邪魔をしたらしい。
 すれ違いの末、文さんは自ら命を絶ってしまった。
 当時は男同士の恋愛なんて、御法度だったのだろう。
 お互いの店の評判にも関わるとも思った。
 それにもう同じ悲劇を繰り返さない為に、愛する人を失った悲しみの中、ひいおじいちゃんは親友だった雄さんと協力して、その事実を隠すことにした。
 ひいおじいちゃんが持っていた秘密箱に全ての手紙を集めて、簡単に誰かに開けられたりしないように、開け方を記した紙を雄さんに渡した。
 そしてお互いの家には因縁があるように語り継いだのだ。
 そして最後に小さな紙が入っていた。
 たぶんこれはだいぶ後になってから書いたものなのだろう。
 "私が死ぬ時、この箱を私の棺に入れて欲しいと雄に頼んだが、彼は私より先に文のところへ行ってしまった。もしいつか誰かがこの箱を開けた時、その者が心から愛する人と共に生きることが出来る世の中になっていて欲しいと望む"
 しばらく言葉が出なかった。
「俺たちの家族がいがみ合っていたのは、資材確保で揉めたからでもなければ、三角関係のもつれでもない。悲しい理由ではあったけど、それを俺たちが背負うことはないんだよ」
「凱……」
「この手紙を読んで決心がついた。俺の運命の人は藍だと思っている。ちなみに俺は、俺の家族にもお前の家族にも宣言したからな」
「へぇ。そうなん……って、は?」
「ん?」
「宣言て何?」
「手紙を親に見せて、俺は藍と一緒に居たいって宣言した」
「いや、まあそれはいいよ。俺の家族にもっていうのは?」
「紡くんに手伝ってもらって、ご両親に会った。それで僕は藍くんが好きです。息子さんを僕にくださいって言った」
「はぁぁあー!?」
 立ち上がりながら叫んだ俺の声が、ファミレス中に響き渡る。
 俺は周りの人にペコペコと頭を下げて、謝りながら席につく。
「ぷっ!  いやそれは冗談だけど。でもその手紙のことはご両親に伝えてもらった上で、藍くんは僕の運命の人です。あとは彼の返事を聞くだけなんでって言っといた」
 何言ってんの?それはそれで恥ずかしいじゃん。
 俯いたままの俺に
「大学卒業したら俺はイギリスに行く。跡を継ぐ前に3年間はイギリスに修行に行くのが高城家の慣わしだから。だから3年後お前のところに帰ってくるまでに答えを出しといてくれればいいよ」
 そう言って凱は微笑んだ








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