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好きってなに?
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夏休みに入ると、近所で祭りがある。花火も少し上がって、この町では夏の一大イベントだ。
「奏多!颯人!」
「おー!お疲れー!」
「お疲れ。みんなは?」
「もう先に行ってる」
「てか、良かったの?俺たちも一緒で。ダブルデートの邪魔じゃない?」
「なんでだよ!多い方が楽しいし、こんな大きなイベントの思い出はしばらく作れないかもなんだから、一緒に行きたいじゃん?」
「藍ー!」
「好きだ!このやろー」
俺は2人になった時に恵美に聞いた。
「結局それにしたの? 浴衣」
「大変だったんだから! 藍んちに萌が浴衣買いに行くって言うから、私も行きたいって言ったら、うちのお母さんまで行くって言い出して、藍のお母さんと萌のお母さんと3人でずっと喋ってんの! 娘たちの浴衣選びにきたのにさ」
「萌ちゃんのお母さんも話好きなんだ?」
「そうだよ! 3人で3時間くらい喋ってたからね」
「長いね……」
「長いよ。まぁその代わり可愛い浴衣買ってもらったし、萌と2人でパフェ食べたりして楽しかったけど!」
「うん。それ似合ってるよ」
「ありがと!」
俺は恵美の顔を引き寄せて、唇にそっとキスをした。
「どうしたの? 急に」
「いや、なんとなく。可愛かったから」
「あー。藍、なんかチャラくなっちゃったねー」
「彼女なんだからいいでしょ」
「ふ。そだねー。彼女だからねー」
と言って恵美は茶化して笑った。
「恵美は大学どうすんの?」
「何? また急に……しかも真面目な話」
「いやどうすんのかなー? って思って。大学でもバレー続ける? それとも就職して社会人チームに入るとか?」
「ずっと趣味でもなんでもいいから、バレーは続けたいと思ってる。でもそれでお金稼げるのはほんの一握りだから、そこは無理かなぁって。それとね。私、柔道整復師になりたいなって」
「へー! すごいじゃん」
「サポートする側も良いなって」
「恵美には向いてると思うよ」
「そうかな?」
「うん」
「藍は? 将来は家継ぐんでしょ?」
「うん。父さんが通ってた服飾の大学行って、卒業したら家継ぐよ」
「そっか。お互い頑張ろうね」
「うん」
俺たちはまた合流して、6人で花火を見た。
凱はどうするんだろう。きっとお父さんの後を継ぐんだろうな。
ちょっと気になって、端にいる凱の方を見る。また目が合った。どうしよう。笑いかけるべきか。こういう時どうすりゃいいんだっけ?
結局、俺は目を逸らしてしまった。
「そういや藍って、親父さんと同じ大学に行くんだよな?」
学校帰りに俺の家で勉強してるとき奏多が言った。
「そうだよ。家から通えるし。なんで?」
「それって〇〇にある服飾大学?」
「うん」
「じゃあまた凱と一緒なんじゃない?」
「そうなのか?」
「うん。夏祭りの時言ってた。やっぱ運命じゃん?」
「たまたまだろ……」
「……藍? ……なんかあった? 大丈夫か? 凱とせっかく仲良くなれたのに、最近また変じゃない?」
「そうか? そんなことないと思うけど」
自分でも気付いてた。ずっと変なんだ。あの夏祭りから。
いや、お茶会の日からだ。
俺の手を掴んだ凱の体温と、抱きしめられた一瞬の感触がまだ記憶に残ってる……
俺の手を掴んだのは萌ちゃんに触れようとしたから嫉妬しただけで、抱きしめられたのはただ感動して喜びが溢れたってだけ。深い意味はない。
なのに、あいつの顔を見るたびに思い出してしまう。
「どうしちゃったんだよ……俺」
放課後、学校の屋上に居た。別に場所変えたってスッキリする訳じゃない。でも教室にも居たくないし、まだ家にも帰りたくなかった。
「やっぱここだった」
俺の前に颯人と奏多が現れた。
「どうした?」
「いやいや、どうした? はこっちのセリフだから」
と言いながら2人が俺の前に座る。
「悩み事?」
「……」
「俺たちにも話せないようなこと?」
「……」
「そっか……じゃあ今日は帰るわ」
2人が立ちあがろうとしたから、俺はその手を掴んで聞いた。
「あのさ、どうにもならないというか、どうにもできない問題に直面したら……2人はどうする?」
「どういう意味?」
「わかんない。自分でもまだちゃんと整理出来てないんだ。でもそういう時2人ならどうすんのかなって……」
「うーん……」
奏多が考え込んでると、颯人が言った。
「好きってなんですか?」
「えっ?」
「前にテレビで見たんだ。トップアスリートに相談するみたいな番組で、1人の女の子が好きってなんですか? って聞いたんだ」
「うん。その人はなんて?」
「朝起きて、相手の顔が浮かんだらそれは好きなんじゃないかって言ってた。朝目が覚めて、今どうしてるだろう? とか、よく眠れたかな? とか、相手のことが頭に浮かんだらそれは結構好きなんじゃないかと思うって。夕方や夜はダメなんだって。疲れてて判断が鈍るから。だから重要な決断や大切な人を思うのは、しっかり寝て、朝陽浴びて、心も体も健康な時がいいって」
「なるほど……」
「今は疲れてるだろ? 今日は勉強もほどほどにしてしっかり寝て、明日起きたら朝陽を浴びてそれから考えればいい。明日は土曜だ」
すると奏多が携帯を俺に見せて言った。
「見て! 明日は晴れだよ!」
「そうだな」
明日の朝考えよう。スッキリした頭で。
翌朝。俺は部屋のカーテンを開けて伸びをする。
「朝だな…」
少し寒いけど、パジャマの上にカーディガンを羽織って窓を開けた。
深呼吸を2回。瞼を閉じて太陽の方を向く。
冷たい風が頬を撫でていく中、じんわりと暖かい光が当たる。
「……っうぅ……ゔ……はぁ……」
だめだ。俺は窓を背にしてうずくまって泣いた。
今ならあいつの良いところ、10個言えるのになぁ……
「奏多!颯人!」
「おー!お疲れー!」
「お疲れ。みんなは?」
「もう先に行ってる」
「てか、良かったの?俺たちも一緒で。ダブルデートの邪魔じゃない?」
「なんでだよ!多い方が楽しいし、こんな大きなイベントの思い出はしばらく作れないかもなんだから、一緒に行きたいじゃん?」
「藍ー!」
「好きだ!このやろー」
俺は2人になった時に恵美に聞いた。
「結局それにしたの? 浴衣」
「大変だったんだから! 藍んちに萌が浴衣買いに行くって言うから、私も行きたいって言ったら、うちのお母さんまで行くって言い出して、藍のお母さんと萌のお母さんと3人でずっと喋ってんの! 娘たちの浴衣選びにきたのにさ」
「萌ちゃんのお母さんも話好きなんだ?」
「そうだよ! 3人で3時間くらい喋ってたからね」
「長いね……」
「長いよ。まぁその代わり可愛い浴衣買ってもらったし、萌と2人でパフェ食べたりして楽しかったけど!」
「うん。それ似合ってるよ」
「ありがと!」
俺は恵美の顔を引き寄せて、唇にそっとキスをした。
「どうしたの? 急に」
「いや、なんとなく。可愛かったから」
「あー。藍、なんかチャラくなっちゃったねー」
「彼女なんだからいいでしょ」
「ふ。そだねー。彼女だからねー」
と言って恵美は茶化して笑った。
「恵美は大学どうすんの?」
「何? また急に……しかも真面目な話」
「いやどうすんのかなー? って思って。大学でもバレー続ける? それとも就職して社会人チームに入るとか?」
「ずっと趣味でもなんでもいいから、バレーは続けたいと思ってる。でもそれでお金稼げるのはほんの一握りだから、そこは無理かなぁって。それとね。私、柔道整復師になりたいなって」
「へー! すごいじゃん」
「サポートする側も良いなって」
「恵美には向いてると思うよ」
「そうかな?」
「うん」
「藍は? 将来は家継ぐんでしょ?」
「うん。父さんが通ってた服飾の大学行って、卒業したら家継ぐよ」
「そっか。お互い頑張ろうね」
「うん」
俺たちはまた合流して、6人で花火を見た。
凱はどうするんだろう。きっとお父さんの後を継ぐんだろうな。
ちょっと気になって、端にいる凱の方を見る。また目が合った。どうしよう。笑いかけるべきか。こういう時どうすりゃいいんだっけ?
結局、俺は目を逸らしてしまった。
「そういや藍って、親父さんと同じ大学に行くんだよな?」
学校帰りに俺の家で勉強してるとき奏多が言った。
「そうだよ。家から通えるし。なんで?」
「それって〇〇にある服飾大学?」
「うん」
「じゃあまた凱と一緒なんじゃない?」
「そうなのか?」
「うん。夏祭りの時言ってた。やっぱ運命じゃん?」
「たまたまだろ……」
「……藍? ……なんかあった? 大丈夫か? 凱とせっかく仲良くなれたのに、最近また変じゃない?」
「そうか? そんなことないと思うけど」
自分でも気付いてた。ずっと変なんだ。あの夏祭りから。
いや、お茶会の日からだ。
俺の手を掴んだ凱の体温と、抱きしめられた一瞬の感触がまだ記憶に残ってる……
俺の手を掴んだのは萌ちゃんに触れようとしたから嫉妬しただけで、抱きしめられたのはただ感動して喜びが溢れたってだけ。深い意味はない。
なのに、あいつの顔を見るたびに思い出してしまう。
「どうしちゃったんだよ……俺」
放課後、学校の屋上に居た。別に場所変えたってスッキリする訳じゃない。でも教室にも居たくないし、まだ家にも帰りたくなかった。
「やっぱここだった」
俺の前に颯人と奏多が現れた。
「どうした?」
「いやいや、どうした? はこっちのセリフだから」
と言いながら2人が俺の前に座る。
「悩み事?」
「……」
「俺たちにも話せないようなこと?」
「……」
「そっか……じゃあ今日は帰るわ」
2人が立ちあがろうとしたから、俺はその手を掴んで聞いた。
「あのさ、どうにもならないというか、どうにもできない問題に直面したら……2人はどうする?」
「どういう意味?」
「わかんない。自分でもまだちゃんと整理出来てないんだ。でもそういう時2人ならどうすんのかなって……」
「うーん……」
奏多が考え込んでると、颯人が言った。
「好きってなんですか?」
「えっ?」
「前にテレビで見たんだ。トップアスリートに相談するみたいな番組で、1人の女の子が好きってなんですか? って聞いたんだ」
「うん。その人はなんて?」
「朝起きて、相手の顔が浮かんだらそれは好きなんじゃないかって言ってた。朝目が覚めて、今どうしてるだろう? とか、よく眠れたかな? とか、相手のことが頭に浮かんだらそれは結構好きなんじゃないかと思うって。夕方や夜はダメなんだって。疲れてて判断が鈍るから。だから重要な決断や大切な人を思うのは、しっかり寝て、朝陽浴びて、心も体も健康な時がいいって」
「なるほど……」
「今は疲れてるだろ? 今日は勉強もほどほどにしてしっかり寝て、明日起きたら朝陽を浴びてそれから考えればいい。明日は土曜だ」
すると奏多が携帯を俺に見せて言った。
「見て! 明日は晴れだよ!」
「そうだな」
明日の朝考えよう。スッキリした頭で。
翌朝。俺は部屋のカーテンを開けて伸びをする。
「朝だな…」
少し寒いけど、パジャマの上にカーディガンを羽織って窓を開けた。
深呼吸を2回。瞼を閉じて太陽の方を向く。
冷たい風が頬を撫でていく中、じんわりと暖かい光が当たる。
「……っうぅ……ゔ……はぁ……」
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