不可抗力

SHIZU

文字の大きさ
上 下
5 / 12

お願い

しおりを挟む
 3年になってしばらくしたある日。
「藍くん、ちょっと相談があるの……」
  萌ちゃんに呼び出され、放課後茶道部の部室に。
「どうしたの?  こんなとこで」
「実はね。茶道部は時々、浴衣を着てお茶会してるの」
「うん。知ってるよ」
「でね、今年結構部員が増えちゃって。それは嬉しいんだけど、顧問の先生と私たちだけだと人手が足らなくて。もし時間があったら手伝ってもらえないかな?ダメ?」
「ダメじゃないよ。いいよ。いつ?」
「今週の金曜日」
「わかった。じゃあ金曜日にここで」
「良かった!  ありがとう!  本当はずっとお願いしたかったんだけど、急にこんなお願いしたら厚かましいって思われるかなって。そしたら凱くんが藍はそんなこと思わないよ。力になってくれるから聞いてみなって。本当に急でごめんね」
「……いいよ!  どうせ暇だしね」
「本当に助かる!  ありがとう!」

   俺は帰ってから、凱にメッセージを送った。
   あの水族館の日、初めて連絡先を交換した。
   それからほとんどメッセージ送ってなかったから、なんかちょっと緊張する。
「萌ちゃんに聞いた。今週のお茶会のこと」
「俺、余計なことした?」
  返信はやっ!
「ううん。友達の力になれるなら嬉しいよ」
「やっぱり」
「何やっぱりって」
  打った瞬間、凱からの着信。
「なんで電話!?」
「こっちの方が早いから」
「それよりやっぱりって何?」
「藍なら萌の力になってくれると思った。だから」
あ、それって前に……
「……」
「藍?どうした?」
「別に……」
「負担か?  もちろん当日は俺も手伝うから」
「違う。負担とかじゃないよ。萌ちゃんもだけど、萌ちゃんを助けるってことは凱も助けることになるってことだろ?  2人も助けられるって、俺ヒーローっぽくない?」
「なんで俺も助けることになる?」
「株上がるじゃん。からの」
俺はなんであえて彼女なんて言い方したんだろ……
さっきまで萌ちゃんって呼んでたのに。
しかも自分で言っといて、なんか……変。
「余計なお世話だよ。そんなのなくても俺の株は天井まで上がってるんで」
「はぁ?  なんかむかつくわー。こっちは彼女がバレーの練習で忙しくて、なかなか会えないっつうのに」
「でも毎日メールしたり電話したり、練習や試合観に行ったりしてんだろ?」
「まあできる時はね。ってなんで知ってるんだよ?」
「萌が恵美から聞いたって」
「……」
「藍?大丈夫か?」
「……ん?  大丈夫!  あの2人本当に仲良いな」
「そうだな」
「じゃあ、風呂入って寝るわ」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
凱の口から、"恵美"って自分の彼女を呼び捨てにされても何も思わないのに、あいつが萌ちゃんを"萌"って呼び捨てにするたびにモヤモヤする。
今日の俺、なんか変だ。

 金曜日の放課後。
「今日茶道部の手伝いあるから」
  颯人と奏多と別れて茶道部に向かう。
「藍。それすごい荷物だな。半分持つよ」
「ありがとう」
  凱と茶道部の部屋に行くと萌ちゃんがいた。
「どうしたの?その荷物」
「浴衣の着付けの手伝いするって言ったら母さんが、去年の展示に使ってた浴衣と帯、何枚か持ってけってうるさくて。なんなら自分も手伝いに行くとか言い出して」
「え!すごい!  嬉しい!  じゃあ、お母さんもいらっしゃってるの?」
「いや、流石にそれは断ったよ。いくら父兄でも、学校の中に行事以外で入るには事前に許可がいるからさ」
「あ。そうだよね。でも嬉しい!  お母さんにお礼言っといてね?」
「うん。伝えとく」
「じゃあ男の子の方頼んでいい?  終わったらこっちも手伝ってもらえると助かるんだけど……」
「わかった。じゃあ後で行くね」
 俺は隣の部屋に男子を集めて、みんなの前で説明した。2年と1年で4人か。あれ?  凱は?
「凱!  何してんの?  お前も入れよ」
廊下に出ていた凱に声をかける。
「え……俺、浴衣持ってきてない」
「そう思って、お前のも持ってきてる」
「え、でも……」
「とりあえず着付けするから中入れ!」
前に立って説明しながら、みんなで一緒に着付けをする。凱も頑張ってる。
最後はみんなの手直しを俺がして終了。
「……やっぱこれ似合うと思った!」
凱の浴衣の襟を少しなおしながら顔を見た。
凱と目が合う。
俺はすぐに目を逸らした。
「じゃあ向こうの手伝いしてくるからみんなはここで待ってて」
俺は女子の方を手伝いに行った。
 着付けが終わっていよいよお茶会。あ、萌ちゃんの帯ちょっと歪んでる。
「みんな上手く着付け出来たね!  じゃあ始めましょう!」
「待って。帯の後ろ、ちょっとなおしていい?」
と小声で萌ちゃんに話しかけた。
「うん、ありがとう」
俺が帯に手をかけたその時。パシッ!  凱が俺の手を掴んだ。
「え?」
2人で驚いて凱を見る。
「あ、ごめん。なんでもない……」
  なんだ今の。
  お茶会は無事終了して、浴衣は茶道部に置いておくことになった。洗える浴衣だから汚れたら洗えばいいし、気軽に着られるとこに置いとけばみんな着たくなるから…と母さんが言っていたからだ。

 帰り道。
もちろん俺と凱は同じ方向で、家の少し手前まで一緒に帰ることにした。
凱は黙ったままだ。
「今日、楽しかったな」
「うん……」
「てか和装は慣れてないんだ?」
「あぁ。着たことほとんどないから……」
「まあそりゃそうか。お隣さんが大嫌いな呉服屋じゃあ着る機会もないわな」
「……あのさ。今日のごめん。手、大丈夫か?」
「ん?  あぁ。あれ?  大丈夫だよ。それより凱があんな嫉妬深いってことにビックリした!」
「え?  いやあれは……」
「言い訳すんなって。嫉妬だろー?」
「そうだな……」
「うん。今度からは気をつけるよ」
「今度?」
「うん。せっかくだから浴衣でお茶会する回数増やそうかなって言ってた。だからみんなが自分で出来るようになるまで手伝おうかなって思って。それに今度夏祭りに着て行く浴衣、うちで買ってくれるって。夏休み終わったら、受験でそれどころじゃなくなるかもしれないから、思い出作りたいって!」
「萌が?」
「うん。本当はお前と一緒にお互いのを選びに行きたかったけど、恵美に俺たちの家のこと聞いて、それは無理そうだからお母さん連れて行きますってさ。律儀だねー。萌ちゃん」
「そうか」
「夏祭り、今日凱が着てた浴衣で行ってやって」
「でもあれは……」
「あれは俺からのプレゼント。お前専用に選んだから」
「なんで……?」
「だって浴衣なんて家に持って帰ったら、親に何言われるかわかんないだろ?  だから学校に置かせてもらえるように、顧問の先生に頼んでみたら大丈夫だって言ってくれたから」
「藍」
  次の瞬間、俺は凱の腕の中にいた。
「凱?どうした?そんなに感動したか?」
  さっと離れた凱は
「ごめん。ありがとう」
と言った。
「夏祭り、4人で行こうな。水族館のリベンジだ」
「そうだな…」
  俺たちは家の少し手前で別れた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

幸せのカタチ

杏西モジコ
BL
幼馴染の須藤祥太に想いを寄せていた唐木幸介。ある日、祥太に呼び出されると結婚の報告をされ、その長年の想いは告げる前に玉砕する。ショックのあまり、その足でやけ酒に溺れた幸介が翌朝目覚めると、そこは見知らぬ青年、福島律也の自宅だった……。 拗れた片想いになかなか決着をつけられないサラリーマンが、新しい幸せに向かうお話。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

夏の扉を開けるとき

萩尾雅縁
BL
「霧のはし 虹のたもとで 2nd season」  アルビーの留学を控えた二か月間の夏物語。  僕の心はきみには見えない――。  やっと通じ合えたと思ったのに――。 思いがけない闖入者に平穏を乱され、冷静ではいられないアルビー。 不可思議で傍若無人、何やら訳アリなコウの友人たちに振り回され、断ち切れない過去のしがらみが浮かび上がる。 夢と現を両手に掬い、境界線を綱渡りする。 アルビーの心に映る万華鏡のように脆く、危うい世界が広がる――。  *****  コウからアルビーへ一人称視点が切り替わっていますが、続編として内容は続いています。独立した作品としては読めませんので、「霧のはし 虹のたもとで」からお読み下さい。  注・精神疾患に関する記述があります。ご不快に感じられる面があるかもしれません。 (番外編「憂鬱な朝」をプロローグとして挿入しています)  

突然現れたアイドルを家に匿うことになりました

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 「俺を匿ってくれ」と平凡な日向の前に突然現れた人気アイドル凪沢優貴。そこから凪沢と二人で日向のマンションに暮らすことになる。凪沢は日向に好意を抱いているようで——。 凪沢優貴(20)人気アイドル。 日向影虎(20)平凡。工場作業員。 高埜(21)日向の同僚。 久遠(22)凪沢主演の映画の共演者。

クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話

雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。 塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。 真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。 一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。

処理中です...