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ライバル
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生まれた瞬間から、あいつは俺のライバルだった。
誕生日。生まれた病院。幼稚園から高校まで全てが一緒。
家が隣同士の俺たちは、当たり前のように同じ時を過ごした。
普通なら親友になれるはず。
男女なら恋に落ちるシナリオだ。
だけどそうもいかない。
俺の家は何百年も続く呉服屋。先祖代々、丁寧な仕事を心がけてきた。贔屓にしてくれるお得意様も多い。
一方お隣は、オーダーメイドのスーツを仕立てるテーラー。歴史はうちより浅いものの長く続く店で腕はいい。
「藍。隣の子とは仲良くするんじゃない!」
物心ついた時からそう言われ続けてきた。
もう何年もずっと。俺だって嫌だった。
だって俺の初恋の女の子の初恋はあいつだったから。俺の方が仲良いと思ってたのに……
小学5年の時、放課後に女子達が話してるのを聞いてしまった。
「えー! 恵美ちゃんの好きな人って高城凱くんなんだー! 中村藍くんだと思ってたー。だって仲良いじゃん?」
「藍はお母さん同士が仲良いから、ただそれだけだよ!」
こんな形で初恋は終わるのか。そう思った記憶がある。
運動会だってなんだって、あいつに負けたら家族がピリつく。
勉強、バレンタインのチョコの数、なんでも勝たなきゃだなんて……
あんなやつ、居なくなれば楽なのに。何度そう思ったか。
そんな俺たちも高校生になり、俺はその初恋の相手の恵美に告白した。修学旅行の少し前に。
友達の奏多が、
「修学旅行前なら成功率が上がるって兄ちゃんが言ってた!」
と言ってるのを聞いたからだ。
「えー藍と私が? まあいっか! 付き合ってみよっか」
ってあっさりした返事。
なんかちょっともやっと感はあったが、ひとまず俺は浮かれてみた。
修学旅行の夜って、やっぱ恋バナとか怖い話とかしちゃって盛り上がるよなー。
「藍と凱ってさ。なんで仲悪いの?」
と同じ部屋になった颯人が言った。
そこは恋バナの流れだろ? 俺の彼女の話を聞けよ。もっと浮かれさせろよ。
「だってまず誕生日が一緒。んで、家が隣で家業は呉服屋とテーラー。名前も似てて、生まれた病院、小学校、中学校、高校、しかも今年はクラスまで一緒でさぁ。これで大学も同じなら、もう苗字まで同じになる流れだろ?」
と奏多が言う。
2人とも中学からの友達だ。
だから凱と同じ学校でもあるし、俺たちの仲の悪さも知っている。
「馬鹿言うなよ。なんで苗字まで一緒になるんだ? ……あ、養子とかってこと?」
「いやいや。なんでや。こんなのはもうドラマか映画になるって話よ。2人並ぶと結構画になるし。なかなかのラブストーリー描けるんじゃね? 偶然? 必然? いや、運命か奇跡だろつって。それか神様のいたずらか…」
「いやいや、なんでや。奏多、テレビ見過ぎ。俺たち2人とも男だし、神様もそんな暇じゃないよ。それに俺には恵美っていう彼女がちゃんといるんだから!」
「あー凱から略奪したっていう……」
「略奪って言うなよ。元々俺の方が仲良かったし、恵美は最初好きだったけど、凱はなんとも思ってないみたいだったから略奪ではない! それより聞いてよ。恵美がさぁ……」
「でもさ、ぶっちゃけなんで仲悪いの? 俺はずっと気になってる」
颯人が俺の話を遮って言った。
だから聞けって。
「俺にもはっきりしたことはわかんない。でも物心ついた時には、爺さんたちも父さんたちもいがみ合ってて、仲良くするなって言われてきたから……」
「なんか聞いたことないの? お父さんたちとかさ。あとは凱とそんな話したりないの?」
「うーん……そういや昔、従業員の人が話してたのがチラッと聞こえて来たことがあるかも。うちの店は昔から高品質で低価格な蚕糸を契約してたんだけど、戦後で物がなかなか手に入らない時に、凱のご先祖さんがうちより良い条件で買い占めたせいで店が傾きかけたとか、昔じいさん達かひいじいさん達だかが、1人の女性を取り合ってだいぶ揉めたとかって、そんな噂聞いた気がする」
「あぁ、なるほどね。ありそうな話だな。でもそれって何十年も引きずること?」
「さあな。どれが本当かもわからないけど、昔からお互いギスギスしてたんだろ」
「それを子孫にも継承するのがすごいよな」
「確かに……凱に聞いたら他にもなんか知ってんのかなー。聞いたことないけど」
「そういやもう一個不思議なのは、そんなに小さい時から仲良くするなって言われてた割に、お互い下の名前で呼んでるよな? 何で?」
と奏多。
「高城って言いにくい。タカちゃんとか言う仲でもないし。みんなが凱って呼ぶから流されたのかな。気付いたらそう呼んでた」
「向こうもじゃん?」
「向こうも周りに流されただけじゃない?」
「へー。じゃあ聞いてほしそうだから聞くけど、恵美ちゃんとはどこまでいったの?」
「お、それ聞いちゃう? とりあえずカラオケと映画は行った!」
「なんの映画?」
「ホラー。あの今流行ってるやつ」
「ホラーなんかじゃキス出来ないじゃん」
「何言ってんの!?」
「聞いてほしそうにしてた割に大したことねーな」
「ひでぇな、颯人。俺らはまだ友達の延長って感じなの」
「ムラムラしたりするだろ?」
「奏多まで…そういうことは20歳になるまでしないでおこうっていう2人の意向なんだよ!」
「なにそれ。好きなのにそういうのしたくなんないの?」
「大事にしてるの!そういうのはがっついたらかっこ悪いだろー?俺ってあんまりそういう欲求も湧かないタイプっぽいし」
「ふーん。イマドキだね。まぁそんなの快楽を知らないから言えるんだろ」
「自分だってそんなに経験あるわけじゃないくせに」
「それより他の人に獲られないように頑張れよ?結構人気あんだから、恵美ちゃん」
「そうなの?」
「そうだよ。後輩も先輩も結構狙ってたって」
「まぁ顔は可愛いし、2年でバレー部のキャプテンだもんなー。かっこいいし可愛いって無敵だろ」
「まさかお前らも……」
「流石に親友の彼女に手は出さんわ」
「流石にな」
「良かったー」
「そういや……」
颯人が何か言いかけたとき、
ドンドンドン。
「お前らいつまで騒いでんだー! 早く寝ろー! 明日は8時にロビー集合だぞ!」
と担任が扉を叩く音がした。
「やべぇ。もう寝るか」
「そうだな!」
「おやすみ」
颯人は最後何を言いかけたんだろう。
誕生日。生まれた病院。幼稚園から高校まで全てが一緒。
家が隣同士の俺たちは、当たり前のように同じ時を過ごした。
普通なら親友になれるはず。
男女なら恋に落ちるシナリオだ。
だけどそうもいかない。
俺の家は何百年も続く呉服屋。先祖代々、丁寧な仕事を心がけてきた。贔屓にしてくれるお得意様も多い。
一方お隣は、オーダーメイドのスーツを仕立てるテーラー。歴史はうちより浅いものの長く続く店で腕はいい。
「藍。隣の子とは仲良くするんじゃない!」
物心ついた時からそう言われ続けてきた。
もう何年もずっと。俺だって嫌だった。
だって俺の初恋の女の子の初恋はあいつだったから。俺の方が仲良いと思ってたのに……
小学5年の時、放課後に女子達が話してるのを聞いてしまった。
「えー! 恵美ちゃんの好きな人って高城凱くんなんだー! 中村藍くんだと思ってたー。だって仲良いじゃん?」
「藍はお母さん同士が仲良いから、ただそれだけだよ!」
こんな形で初恋は終わるのか。そう思った記憶がある。
運動会だってなんだって、あいつに負けたら家族がピリつく。
勉強、バレンタインのチョコの数、なんでも勝たなきゃだなんて……
あんなやつ、居なくなれば楽なのに。何度そう思ったか。
そんな俺たちも高校生になり、俺はその初恋の相手の恵美に告白した。修学旅行の少し前に。
友達の奏多が、
「修学旅行前なら成功率が上がるって兄ちゃんが言ってた!」
と言ってるのを聞いたからだ。
「えー藍と私が? まあいっか! 付き合ってみよっか」
ってあっさりした返事。
なんかちょっともやっと感はあったが、ひとまず俺は浮かれてみた。
修学旅行の夜って、やっぱ恋バナとか怖い話とかしちゃって盛り上がるよなー。
「藍と凱ってさ。なんで仲悪いの?」
と同じ部屋になった颯人が言った。
そこは恋バナの流れだろ? 俺の彼女の話を聞けよ。もっと浮かれさせろよ。
「だってまず誕生日が一緒。んで、家が隣で家業は呉服屋とテーラー。名前も似てて、生まれた病院、小学校、中学校、高校、しかも今年はクラスまで一緒でさぁ。これで大学も同じなら、もう苗字まで同じになる流れだろ?」
と奏多が言う。
2人とも中学からの友達だ。
だから凱と同じ学校でもあるし、俺たちの仲の悪さも知っている。
「馬鹿言うなよ。なんで苗字まで一緒になるんだ? ……あ、養子とかってこと?」
「いやいや。なんでや。こんなのはもうドラマか映画になるって話よ。2人並ぶと結構画になるし。なかなかのラブストーリー描けるんじゃね? 偶然? 必然? いや、運命か奇跡だろつって。それか神様のいたずらか…」
「いやいや、なんでや。奏多、テレビ見過ぎ。俺たち2人とも男だし、神様もそんな暇じゃないよ。それに俺には恵美っていう彼女がちゃんといるんだから!」
「あー凱から略奪したっていう……」
「略奪って言うなよ。元々俺の方が仲良かったし、恵美は最初好きだったけど、凱はなんとも思ってないみたいだったから略奪ではない! それより聞いてよ。恵美がさぁ……」
「でもさ、ぶっちゃけなんで仲悪いの? 俺はずっと気になってる」
颯人が俺の話を遮って言った。
だから聞けって。
「俺にもはっきりしたことはわかんない。でも物心ついた時には、爺さんたちも父さんたちもいがみ合ってて、仲良くするなって言われてきたから……」
「なんか聞いたことないの? お父さんたちとかさ。あとは凱とそんな話したりないの?」
「うーん……そういや昔、従業員の人が話してたのがチラッと聞こえて来たことがあるかも。うちの店は昔から高品質で低価格な蚕糸を契約してたんだけど、戦後で物がなかなか手に入らない時に、凱のご先祖さんがうちより良い条件で買い占めたせいで店が傾きかけたとか、昔じいさん達かひいじいさん達だかが、1人の女性を取り合ってだいぶ揉めたとかって、そんな噂聞いた気がする」
「あぁ、なるほどね。ありそうな話だな。でもそれって何十年も引きずること?」
「さあな。どれが本当かもわからないけど、昔からお互いギスギスしてたんだろ」
「それを子孫にも継承するのがすごいよな」
「確かに……凱に聞いたら他にもなんか知ってんのかなー。聞いたことないけど」
「そういやもう一個不思議なのは、そんなに小さい時から仲良くするなって言われてた割に、お互い下の名前で呼んでるよな? 何で?」
と奏多。
「高城って言いにくい。タカちゃんとか言う仲でもないし。みんなが凱って呼ぶから流されたのかな。気付いたらそう呼んでた」
「向こうもじゃん?」
「向こうも周りに流されただけじゃない?」
「へー。じゃあ聞いてほしそうだから聞くけど、恵美ちゃんとはどこまでいったの?」
「お、それ聞いちゃう? とりあえずカラオケと映画は行った!」
「なんの映画?」
「ホラー。あの今流行ってるやつ」
「ホラーなんかじゃキス出来ないじゃん」
「何言ってんの!?」
「聞いてほしそうにしてた割に大したことねーな」
「ひでぇな、颯人。俺らはまだ友達の延長って感じなの」
「ムラムラしたりするだろ?」
「奏多まで…そういうことは20歳になるまでしないでおこうっていう2人の意向なんだよ!」
「なにそれ。好きなのにそういうのしたくなんないの?」
「大事にしてるの!そういうのはがっついたらかっこ悪いだろー?俺ってあんまりそういう欲求も湧かないタイプっぽいし」
「ふーん。イマドキだね。まぁそんなの快楽を知らないから言えるんだろ」
「自分だってそんなに経験あるわけじゃないくせに」
「それより他の人に獲られないように頑張れよ?結構人気あんだから、恵美ちゃん」
「そうなの?」
「そうだよ。後輩も先輩も結構狙ってたって」
「まぁ顔は可愛いし、2年でバレー部のキャプテンだもんなー。かっこいいし可愛いって無敵だろ」
「まさかお前らも……」
「流石に親友の彼女に手は出さんわ」
「流石にな」
「良かったー」
「そういや……」
颯人が何か言いかけたとき、
ドンドンドン。
「お前らいつまで騒いでんだー! 早く寝ろー! 明日は8時にロビー集合だぞ!」
と担任が扉を叩く音がした。
「やべぇ。もう寝るか」
「そうだな!」
「おやすみ」
颯人は最後何を言いかけたんだろう。
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