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始まり
君がいない
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リオンが日本に来てからの9ヶ月はあっという間だった。
急に新人の教育係にされて、しかも相手は外国人で。
言葉の壁も、文化の壁もあったと思う。
それでもお互いに言葉を教え合って。
色んなこと共有して。
ずっと一緒にいた。
星矢も一緒に3人で月を見て。
リオンとタイにも行ったな。
部長が離婚したって聞いて、リオンは俺に
「また大好きな人と一緒にいられるよ」
「今度こそ幸せにしてくれる」
そう言った。
俺は部長を選んで、また恋をしよう……そう思った。
今度こそ幸せに……
部長と一緒にずっとこの先も。
だけど、どんなに時を重ねても俺の中にあるもやもやは晴れなくて。
何なら苦しさの方が多くなっていくような気さえした。
隣にはあんなに愛した人がいるのに。
~~~~~~~~~~
リオンが帰った次の日。
「ランチ行こうぜ」
星矢が俺をランチに誘った。
最近はずっと3人だった。
4人がけの席に通されると、いつも決まって俺の隣にリオンが座り、俺の前に星矢が座った。
昼時で混んでいる店内。
「お二人様ですか?」
と店員さんに聞かれて
「あ、3人です!……じゃなくて2人です」
と俺は訂正した。
「あと2週間で星矢もいなくなるんだよな」
食べながらぼそっと呟いた。
「そうだな。まあ向こうが落ち着くまでの1年くらいの予定だけどな」
「そっか……」
「なぁ聞いてもいいか?」
「何?」
急に星矢が真剣な顔になった。
「後悔、してないか?」
「何を?」
「何もしなかったこと」
「どういう意味?」
「誰よりもそばにいたならわかるだろ? あいつがどれだけ李音を好きだったか。好きだったから背中を押した。今度こそ部長と幸せになれるように」
「……」
「だけど今、李音は幸せか?」
「え?」
「俺にはどうしてもそう見えない。部長が悪いとかじゃない。その原因はお前にあると思うよ」
「幸せだと思う。だってそう思わなきゃ……」
「まだ気付かないフリする?」
「どういう……」
「失ってから気付いても遅いんだぞ。だけど今ならまだ間に合う。それでも気付かないフリして、なかったことにする?」
「だってもう俺のことなんて何とも思ってないかもしれないじゃん! 星矢が来るの楽しみにしてるかもしれないじゃん! 俺の居場所はもうリオンの中にないかもしれないじゃん……」
泣きそうになるのを堪えながら言った。
「これ、どうして撮ってたかわかる?」
「……空港のやつ?」
「そう。あいつはいつも、本当の自分の気持ちをお前に伝える時は、絶対タイ語で話す。愛してるの時もそうだっただろ?」
「あの夜の……?」
「そう。だから絶対最後にお前に対する気持ちを言う時はタイ語だと思った。でも早かったり難しい言葉は俺たちには聞き取れないだろうから、後でちゃんと見られるように撮ってた」
「それで撮ってたのか……」
「後で動画送るから、なんて言ってたかちゃんと調べてみな?」
「星矢はもう観た?」
「うん。ゆっくり再生しながら翻訳機使って調べた」
「そっか。後で俺もちゃんと観てみる」
「その方がいい。そんで、ちゃんと向き合え」
星矢は自分の皿に乗っていた、俺が好きなプチトマトを、俺の皿にころんと移して言った。
急に新人の教育係にされて、しかも相手は外国人で。
言葉の壁も、文化の壁もあったと思う。
それでもお互いに言葉を教え合って。
色んなこと共有して。
ずっと一緒にいた。
星矢も一緒に3人で月を見て。
リオンとタイにも行ったな。
部長が離婚したって聞いて、リオンは俺に
「また大好きな人と一緒にいられるよ」
「今度こそ幸せにしてくれる」
そう言った。
俺は部長を選んで、また恋をしよう……そう思った。
今度こそ幸せに……
部長と一緒にずっとこの先も。
だけど、どんなに時を重ねても俺の中にあるもやもやは晴れなくて。
何なら苦しさの方が多くなっていくような気さえした。
隣にはあんなに愛した人がいるのに。
~~~~~~~~~~
リオンが帰った次の日。
「ランチ行こうぜ」
星矢が俺をランチに誘った。
最近はずっと3人だった。
4人がけの席に通されると、いつも決まって俺の隣にリオンが座り、俺の前に星矢が座った。
昼時で混んでいる店内。
「お二人様ですか?」
と店員さんに聞かれて
「あ、3人です!……じゃなくて2人です」
と俺は訂正した。
「あと2週間で星矢もいなくなるんだよな」
食べながらぼそっと呟いた。
「そうだな。まあ向こうが落ち着くまでの1年くらいの予定だけどな」
「そっか……」
「なぁ聞いてもいいか?」
「何?」
急に星矢が真剣な顔になった。
「後悔、してないか?」
「何を?」
「何もしなかったこと」
「どういう意味?」
「誰よりもそばにいたならわかるだろ? あいつがどれだけ李音を好きだったか。好きだったから背中を押した。今度こそ部長と幸せになれるように」
「……」
「だけど今、李音は幸せか?」
「え?」
「俺にはどうしてもそう見えない。部長が悪いとかじゃない。その原因はお前にあると思うよ」
「幸せだと思う。だってそう思わなきゃ……」
「まだ気付かないフリする?」
「どういう……」
「失ってから気付いても遅いんだぞ。だけど今ならまだ間に合う。それでも気付かないフリして、なかったことにする?」
「だってもう俺のことなんて何とも思ってないかもしれないじゃん! 星矢が来るの楽しみにしてるかもしれないじゃん! 俺の居場所はもうリオンの中にないかもしれないじゃん……」
泣きそうになるのを堪えながら言った。
「これ、どうして撮ってたかわかる?」
「……空港のやつ?」
「そう。あいつはいつも、本当の自分の気持ちをお前に伝える時は、絶対タイ語で話す。愛してるの時もそうだっただろ?」
「あの夜の……?」
「そう。だから絶対最後にお前に対する気持ちを言う時はタイ語だと思った。でも早かったり難しい言葉は俺たちには聞き取れないだろうから、後でちゃんと見られるように撮ってた」
「それで撮ってたのか……」
「後で動画送るから、なんて言ってたかちゃんと調べてみな?」
「星矢はもう観た?」
「うん。ゆっくり再生しながら翻訳機使って調べた」
「そっか。後で俺もちゃんと観てみる」
「その方がいい。そんで、ちゃんと向き合え」
星矢は自分の皿に乗っていた、俺が好きなプチトマトを、俺の皿にころんと移して言った。
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