Infinity pure

SHIZU

文字の大きさ
上 下
31 / 36
始まり

君がいない

しおりを挟む
リオンが日本に来てからの9ヶ月はあっという間だった。

急に新人の教育係にされて、しかも相手は外国人で。

言葉の壁も、文化の壁もあったと思う。

それでもお互いに言葉を教え合って。

色んなこと共有して。

ずっと一緒にいた。

星矢も一緒に3人で月を見て。

リオンとタイにも行ったな。

部長が離婚したって聞いて、リオンは俺に

「また大好きな人と一緒にいられるよ」

「今度こそ幸せにしてくれる」

そう言った。

俺は部長を選んで、また恋をしよう……そう思った。

今度こそ幸せに……

部長と一緒にずっとこの先も。

だけど、どんなに時を重ねても俺の中にあるもやもやは晴れなくて。

何なら苦しさの方が多くなっていくような気さえした。

隣にはあんなに愛した人がいるのに。


~~~~~~~~~~


リオンが帰った次の日。

「ランチ行こうぜ」

星矢が俺をランチに誘った。

最近はずっと3人だった。

4人がけの席に通されると、いつも決まって俺の隣にリオンが座り、俺の前に星矢が座った。

昼時で混んでいる店内。

「お二人様ですか?」

と店員さんに聞かれて

「あ、3人です!……じゃなくて2人です」

と俺は訂正した。

「あと2週間で星矢もいなくなるんだよな」

食べながらぼそっと呟いた。

「そうだな。まあ向こうが落ち着くまでの1年くらいの予定だけどな」

「そっか……」

「なぁ聞いてもいいか?」

「何?」

急に星矢が真剣な顔になった。

「後悔、してないか?」

「何を?」

「何もしなかったこと」

「どういう意味?」

「誰よりもそばにいたならわかるだろ? あいつがどれだけ李音を好きだったか。好きだったから背中を押した。今度こそ部長と幸せになれるように」

「……」

「だけど今、李音は幸せか?」

「え?」

「俺にはどうしてもそう見えない。部長が悪いとかじゃない。その原因はお前にあると思うよ」

「幸せだと思う。だってそう思わなきゃ……」

「まだ気付かないフリする?」

「どういう……」

「失ってから気付いても遅いんだぞ。だけど今ならまだ間に合う。それでも気付かないフリして、なかったことにする?」

「だってもう俺のことなんて何とも思ってないかもしれないじゃん! 星矢が来るの楽しみにしてるかもしれないじゃん! 俺の居場所はもうリオンの中にないかもしれないじゃん……」

泣きそうになるのを堪えながら言った。

「これ、どうして撮ってたかわかる?」

「……空港のやつ?」

「そう。あいつはいつも、本当の自分の気持ちをお前に伝える時は、絶対タイ語で話す。愛してるの時もそうだっただろ?」

「あの夜の……?」

「そう。だから絶対最後にお前に対する気持ちを言う時はタイ語だと思った。でも早かったり難しい言葉は俺たちには聞き取れないだろうから、後でちゃんと見られるように撮ってた」

「それで撮ってたのか……」

「後で動画送るから、なんて言ってたかちゃんと調べてみな?」

「星矢はもう観た?」

「うん。ゆっくり再生しながら翻訳機使って調べた」

「そっか。後で俺もちゃんと観てみる」

「その方がいい。そんで、ちゃんと向き合え」

星矢は自分の皿に乗っていた、俺が好きなプチトマトを、俺の皿にころんと移して言った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

となりの露峰薫さん

なずとず
BL
恋をしたことがないセックス依存の男が、隣人に恋をするほのぼの話 ロングヘアのぽんわり年上受と寂しがりのヘタレな攻がひっつくまでと、ひっついた後の話になる予定です。 テーマは楽しんで書く、なのでゆっくりまったり進行、更新します。 掲載開始段階で書き終わっていないので、執筆に合わせて公開部分の加筆修正が行われる可能性が有ります。 攻 七鳥和真(ななとり かずま) 25歳 受 露峰薫(つゆみね かおる) 32歳 また書いていて注意事項が増えたら、こちらに追記致します。

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川パナ
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

処理中です...