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SHIZU

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始まり

俺のせい

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「李音? 李音?」

朝目が覚めると、宮原部長の心配そうな顔が目に入った。

心配なのは俺の方なのに。

「ずっとそこで寝てたのか?」

俺は椅子に座って、部長の寝ているベッドの端にもたれて寝ていた。

「ごめんなさい。邪魔しましたよね」

「いや、身体しんどくないか? そんな体勢で寝て……」

と優しい笑顔で言う。

なんで? こんな時でも俺を心配するの?

泣き始めた俺の腕を引き寄せて言った。

「ごめんな。迎えに行くって約束したのに行けなくて」

「そんなのいいんです! なんでこんな時くらい自分の心配しないんですか? 俺のことなんて……」

部長が俺の頭を撫でる。

いつもより弱々しい手の感触に涙が止まらない。

「朝……目が覚めて、1番に李音の顔が浮かんだ。だから最初は夢なのかと思った」

と笑う。

「帰ろうかとも思ったけど、1人にしたくなかった。その間にもしものことがあったら、俺はどうして良いかわからない」

「大丈夫だよ。お前の顔見たら元気出た」

「もう何言ってるんですか……そういや奥さんはまだですか? 星矢が連絡したと思ってたんですけど」

「妻は来ないよ」

「お仕事ですか?」

「離婚したんだ」

「は!?」

「しー! 声が大きいよ」

「でも離婚て……いつ?」

「李音たちが企画書を持って来た時、俺も社長室にいただろう? あの時離婚のこと社長に報告してたんだ。社長が仲人だったから、一応な。あの前日かな」

「……俺のせいですか?」

「違うよ。大学の同級生だった俺たちは、友人としてはすごく相性が良かった。でも人生のパートナーには向いてなかったんだよ。そのことにだんだんとお互い勘づいていたのに切り出せずにいた。子供のこともあるしな。でも今ならお互いまだ若い。やり直すにしても早い方がいいって話し合った結果離婚したんだ。円満に」

そんなことがあったんだ。

「こんなに俺を心配して泣いてくれるなら、怪我した甲斐があったな」

と笑いながら部長は言った。

「不謹慎なこと言わないでください! 本当にびっくりして死ぬかと思ったんだから……」

俺は少し怒って部長の顔を見た。

部長は優しい表情で俺を見てる。

怒る気も失せる。

「もう……」

と俺が言うと、

「ごめん。心配かけて。でもありがとう」

と部長は俺にキスをした。

あ。どうしよう。

こんなの受け入れたら、また……

俺はキスを返してしまった。

また……この人を愛してしまう。

その時、カタンと扉の外で音がした。

俺はハッとして我に帰る。

「か、看護師さんですかね? ちょっと見て来ます」

俺が行った時には、病室の外にはもう誰もいなかった。

「そういえばみんなも心配してるって、朝星矢からメール入ってました。目を覚ましたって電話して来ます!」

「うん。ありがとう」

俺は病院の中で電話できる場所を探した。

多分俺の顔は今、真っ赤になってると思う。

とりあえず屋上に出た。

リダイアルを押してふと顔を上げると、フェンス越しに景色を見ているリオンがいた。

「リオン? 来てたの? それなら言ってくれれば……」

「言ったよ。昨日。明日の9時頃様子を見にくるからなって。まあ返事は返って来なかったから、伝わってるかどうか怪しいなと思ってたけど」

「ご、ごめん。本当ごめん」

「いいよ。そんなに謝らなくても。それより良かったんじゃない? 部長離婚したんでしょ? また大好きな人と一緒にいられるよ」

「え?」

「聞いちゃったから。さっきの。おめでとう」

リオンの顔は見たこともないくらい苦しそうだった。



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