Infinity pure

SHIZU

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終わり

恋の終わり

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"今日の夜、お話があります。仕事が終わったら食事をして、俺の家まで送ってくれますか?"

俺は部長にメッセージを送った。

"分かった。じゃあ終わったら連絡するからいつものレストランで待ってて。予約しておく"

と返事が来た。


~~~~~~~~~~


いよいよか。

部長に告白した時から決めていた。

誰かにこの関係を知られてしまった時は、潔く身を引こうと。

彼を失う怖さより、彼が何かを失う方が怖かった。

「待ったよな」

1人で考えていると、部長に声をかけられた。

「俺もさっき来たとこです」

「そうか。料理は? 注文した?」

「前菜だけ」

「そうか。……今日は軽く済ますか」

その部長の言葉に俺は頷いた。

いつも通りに振る舞った。

星矢やリオンの話。

お客さんの話。

レストランで泣くわけにもいかないから、気を紛らわすだけのありきたりな話をしていた。

「そろそろ送るよ」

「はい」

会計を済ませて俺たちは車に乗り込んだ。

この車の助手席には何度も乗った。

仕事でもプライベートでも。

部長との初めてのキスもこの車だ。

せっかく思い出さないようにしてたのに……

泣き始めた俺に、何かを察した部長は車を停めた。

「大丈夫か?」

「大丈夫です。家に着いたら話します」


~~~~~~~~~~


家に着くと俺はコーヒーを出した。

「ありがとう」

そう言って部長は一口だけコーヒーを飲んだ。

「お願いがいくつかあるんです。理玖……いえ、宮原さん。俺と別れてください」

少し驚いた表情のあと、やっぱりなという感じで俺を見た。

「理由、聞いてもいいか?」

「俺たちのこと、リオンに知られてしまったんです」

「……うん。それで?」

「俺、誰か1人にでも俺たちの関係を知られたら、その時は別れようって思ってたから……」

「それはお前の気持ちだな。俺の気持ちはどうなる?」

「でも知られてしまったのに、この関係を続けるなんて無理ですよ」

「無理かどうか、1人で決めるのか? 俺たち2人のことなのに……」

「はい。あとリオンには誰にも言わないでって口止めしました」

「彼はなんて?」

「言わないと言ってくれました」

「そうか。なら……」

「でもこれはただのきっかけなんですよ。この先もずっとこんな関係続けたら、いつかもっとたくさんの人に知られてしまう。そうなる前に、自分で終わらせたいんです」

「俺は誰に知られてもいいよ。李音がそばにいてくれるなら」

「家族は? 奥さんや子供さんたちはどうするんですか?」

「それはちゃんとケジメをつける」

「そんなの俺が嫌なんです。俺のせいで貴方が何かを失うのは辛すぎる……」

「でもそのかわり、お前が一緒にいてくれるんだろ? 俺はそれで充分なんだが、お前はそれじゃダメなのか?」

「貴方にはこの先も、良い上司で、良い父親で、良い夫で、良い相談相手でいてほしいんです」

「良い恋人はもういらない?」

「……はい、今日で最後です。今までありがとうございました」

「……いくつかのお願いって言ってたな。他の願いは?」

「最後に……抱いてください」

「……あぁ。分かった」

そう頷いて部長は俺の頭に手を回し顔を近付けた。

軽くキスをして見つめ合う。

「理玖……」

「ん?」

「愛してる……本当に、本当に愛してる」

「うん。俺もだよ……」

止まらないキス。震える唇。

彼の眼から初めて涙が流れるのを見た。

あぁ。多分この人は俺のことをすごく好きでいてくれた。

俺もすごく好きだった。

出逢えて良かった。

さようなら。








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