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SHIZU

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終わり

⭐︎彼の恋人

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李音は本当に誰に対しても、優しかった。

残業を代わってあげたり、風邪気味の同僚にメッセージ付きの栄養ドリンクをあげたり、お店をリサーチして教えてあげたり。

「どうしてそんなに優しいの?」

そう聞いた俺に、李音はこう言った。

「心には心で返すんだよ」

説明を聞くまで何を言ってるかわからなかった。

「優しくしてもらったり愛を貰ったら、今度はこっちが相手に優しくして愛をあげるんだっていうのが、おじいちゃんの教えなんだよ。お金や簡単に物を贈るだけじゃ、心を尽くしてもらったお返しにはならないんだって」

「???」

「俺はここにきてたくさんの愛をもらった。星矢や先輩や後輩。みんなで助け合ってきた。式を挙げる人たちもそう。たくさん一緒に考えて話し合って、最高の時間になった時、何より笑顔でありがとう!って言ってくれたら、もうこれ以上のお返しはないよ」

「そういうものなの?」

「きっとリオンにもわかるよ!」

そう言って李音は笑った。

初めて人の笑顔でこんなに幸せになるのかと思った。

同時にこの気持ちに気付くべきじゃなかったことが悲しかった。

習慣になった2人でカラオケで話しながら歌うあの時間。

楽しいはずなのに、俺は自分の気持ちが大きくなればなるほど苦しさの方が増してった。

昔、あの人を好きになった時、出逢わなければ良かったと思った。

あんな気持ちになるのなら、出逢わなかった方が幸せだったんだと思った。

ウェディングプランナーに恋をした新婦の話。

俺には痛いほどわかった。

理屈じゃない。

好きになるなと言われても止められない。

だったらせめて出逢わなければ。


~~~~~~~~~~


「リオン、ちょっと……」

夏の暑い日、星矢に呼ばれてミーティングルームに行った。

「どうした?」

「最近、李音元気なくない? なんか聞いてない?」

「何も聞いてない。星矢の方がよく知ってるんじゃ?」

「あいつ自分からは言わないからさ」

「俺も何も聞いてない」

「そっか……恋人とうまくいってないのかな」

???

聞き間違いか?

「星矢が李音と喧嘩した?」

「俺はしてないよ。恋人とって言ったんだ」

「え、だから星矢が李音の恋人なんじゃ……?」

歓迎会の時の2人の雰囲気で、俺は李音の恋人は星矢だと思っていた。

「違う! 違う! 俺じゃないよ! なんでそう思った?」

「俺の歓迎会の時ハグしてたし、その時の2人の表情はどう見ても……」

「違うよ! というかもちろん李音のことは好きだけど、そんなんじゃないよ」

「でも李音は誰よりも星矢に優しいし、星矢も誰よりも李音に優しいだろ?」

「それは同期だし、大切な人には変わりないよ? だけど……あー、なんか難しいな……」

と言いながら続けて話し始めた。

「俺入社して一年経った時に、色々あって仕事嫌になって辞めたくなったんだ。ちょっと鬱っぽくなったりして。あ、鬱ってわかるかな? まあ心が病んだというか」

「うん。わかる」

「もう自分には何もできない、存在する価値もないって悩んで夜も眠れなくなった。いよいよ退職願書こうかと思って遅くまで残ってたら、あいつが後ろから来て"星矢が辞めるなら俺も辞める"って」

「どうして?」

「1人にしたくないって言ってくれた。それ聞いたら泣けてきちゃって、全部思ってることぶちまけたら、"話してくれてありがとう。辛かったね"って。それでまた大泣きしてさ。そしたら最後に"何もできない、存在する価値がないなんてことはないよ。星矢はちゃんと人を幸せに出来る人だよ。だって俺、星矢と居たらめっちゃ幸せだもん"って。もうそんなん頑張るしかないよな」

「うん」

「その時に俺は決めた。じゃあ俺があいつを幸せにしてやれてるうちは、あいつのそばを離れないって。そんであいつを不幸にする奴がいたら俺が許さないって」

「うん」

「だから今、何に悩んでるのか知りたくて、それでお前に…」

「俺は何も聞いてないし、多分聞いても李音は何も言わないよ」

「そうだよなぁ……」

「2人は恋人じゃないってことは友達? ただの同期?」

「俺たちは……」

ガチャッ。

扉が開く音がして外から人が入ってくる。

「何してんの2人とも。会議始まるよ?」

俺たちが2人で話していたのを、不思議そうに思ったんだろう。

目を丸くした李音が呼びにきた。

「うん。行くよ」

俺は星矢が李音の恋人じゃなかったことに安心した。

だけど、じゃあ本当の相手は?


~~~~~~~~~~


その日の昼休み。

「ねぇ! さっき2人でなんの話してたの?」

「なんもないよ」

「嘘だ! 内緒話なんかしちゃってさ」

口を少し膨らませ、李音は分かりやすくちょっと拗ねている。

可愛い。

「最近元気ないって星矢は心配してるみたい」

と俺が横から言うと、

「ちょ、リオン…」

星矢が俺の腕を軽く掴んだ。

「なんかあったの?」

「何もないよ? いつも通りだけど」

ほらな、って感じで俺と星矢が目配せすると、

「やっぱ俺だけ仲間はずれー!」

と李音は拗ねながら笑った。

「あ、それとリオンは俺たちが付き合ってるって思ってたって」

「どうして?」

「歓迎会の時のハグをみて、俺たちのただならぬ関係に気付いたらしいよ?」

「ただならぬって……」

「でも2人は恋人じゃないって言ったけど、ただの同期って感じにも見えないよ」

と俺が言うと、

「俺たちの関係ねぇ……」

と星矢が悩んでいた。

「こういうことじゃない?」

李音はそばにあった付箋に、ボールペンで

"心友しんゆう"

と書いた。

それを見て、

「心友か! それだな。それがいい!」

と笑って言った星矢の顔は忘れられない。

多分、そんなんじゃないと星矢は言ったけど、彼のその気持ちに名前を付けるなら、それはやっぱり愛なんだと思った。









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