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終わり
研修生
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大学を卒業し、俺がウェディングプランナーになってから、早いもので5年が経った。
最初は本当に手探りで、先輩に指導してもらいながら、どうすれば喜んでもらえるのか、2人にとっての完璧なプランはなんなのか、そればかりを考えていた。
「李音が楽しまないとダメだよ?」
頭で考えすぎる俺に、10個先輩の宮原理玖さんがそう言って頭を撫でた。
あれから5年か。
入社した当時から俺の教育係で、当時はマネージャーだった。
それからあっという間に営業部の部長にまで登り詰めた。
仕事は出来るし人当たりもいい。責任感も後輩の指導力もあって文句のつけようもない。
大学の同級生だった奥さんと7年前に結婚して、5歳と3歳の子供までいる。
「あーいうふうになりたいよなぁ?」
と言った俺に、
「確かに……美人の奥さんと可愛い子供。仕事も出来て人望もある。弱点とかないのかなぁ。実はヅラとかさ」
と返してきたのは同期の山本星矢だ。
「んなわけ」
と突っ込みつつ、今度機会があったら引っ張ってみようか……。
怒られるな、絶対。
~~~~~~~~~~
「ちょっと集まって!」
マネージャーの畠中里香さんが、営業部の全員を集めた。
うちは2つのチームで構成されている。
俺は第一営業部、さっきの同期の星矢は第二営業部だ。
前の部長が、切磋琢磨して営業成績を上げるのを目的に、この体制にしたと聞いた。
最初はギスギスもしてたらしい。
俺が入る前にマネージャーだった宮原部長が、協力する方がいいと体制を緩やかに変えたんだとか。
どこまで出来る人なんだ。腹が立つ。
本当にハゲでヅラならいいのに。
今でも第一と第二に分かれているが、ただの名残のようなものだった。
英語が出来る人が多いから、海外の案件は第一が受け持つことは多いけど。
俺の英語力はそんなだけど、成り行きで第一に入った。
「部長連れてきてください」
畠中さんがそういうと、部長は外国人を1人連れて現れた。
「今度新たに、タイに支店を出すことになった。彼はそこの責任者になってもらうべく、1年間この部署で研修を兼ねて働いてもらう。自己紹介して」
「タイから来ました。27歳です。名前は……長くて覚えられないと思うので、リオンと呼んでください。よろしくお願いします」
カタコトの日本語でリオンがそう言ったあと、一瞬みんなが俺を見た。
「お揃いぃ」
と隣にいた星矢が俺を茶化す。
「お願いしまーす!」
とすぐにみんなは拍手をした。
~~~~~~~~~~
「部長!部長!どういうことなんですか?」
会社の説明を畠中さんがリオンに説明しているときに、星矢が小声で部長を呼び止めた。
「タイに支店を出す話は知ってるか?」
「噂レベルでは…」
社長と奥さんが新婚旅行で行ったのがタイで、その時からタイが好きでいつかは支店をと思っていたらしい。
「実際その予定で社長は動いていたんだ。でも信頼できるスタッフが見つかるかもわからないし、物件探しやら色々あるし、みんなにはまだハッキリと決まるまで言わないでくれって、社長に言われてた」
「で、彼は?」
「社長が向こうに出張で行った時……3ヶ月くらい前か。暑さと疲労で倒れたらしい」
「え!?」
俺たちが2人で声を上げると、部長はしーっと人差し指を口に当てた。
「その時たまたまそばにいて、救急車を呼んだり病院に運んでくれたりと、世話をしてくれたのが彼なんだ。その時に社長に言ったらしい。日本語と韓国語と中国語で"大丈夫ですか?"って」
「マルチリンガルってことですか?」
「んー、どれも挨拶くらいしかできないと言ってたみたいだけど、日本語が1番得意らしい。字は全然読めないみたいだけど。社長が粘ってスカウトして連れてきた」
へぇ。面白い出会いがあるもんだ。
「李音!ちょっとこっちに!」
「はい!」
マネージャーに呼ばれて行くと、自分と同じ名前を呼ばれて返事をした俺を見て、リオンはびっくりしているみたいだった。
「今日からあなたが教育係ね?よろしく!」
「え?俺でいいんですか?」
「あんたも指導する立場を少し経験すりゃいいのよ。そうしたら部長や私の苦労がわかるから」
「苦労って……でも、経験か。ありがとうございます!」
「せっかく同い年で同じ名前だしね」
「ってことで、俺は天野李音です。よろしく!」
と握手の為に出した右手を
「よろしく…」
とリオンは優しく両手で包み込んだ。
最初は本当に手探りで、先輩に指導してもらいながら、どうすれば喜んでもらえるのか、2人にとっての完璧なプランはなんなのか、そればかりを考えていた。
「李音が楽しまないとダメだよ?」
頭で考えすぎる俺に、10個先輩の宮原理玖さんがそう言って頭を撫でた。
あれから5年か。
入社した当時から俺の教育係で、当時はマネージャーだった。
それからあっという間に営業部の部長にまで登り詰めた。
仕事は出来るし人当たりもいい。責任感も後輩の指導力もあって文句のつけようもない。
大学の同級生だった奥さんと7年前に結婚して、5歳と3歳の子供までいる。
「あーいうふうになりたいよなぁ?」
と言った俺に、
「確かに……美人の奥さんと可愛い子供。仕事も出来て人望もある。弱点とかないのかなぁ。実はヅラとかさ」
と返してきたのは同期の山本星矢だ。
「んなわけ」
と突っ込みつつ、今度機会があったら引っ張ってみようか……。
怒られるな、絶対。
~~~~~~~~~~
「ちょっと集まって!」
マネージャーの畠中里香さんが、営業部の全員を集めた。
うちは2つのチームで構成されている。
俺は第一営業部、さっきの同期の星矢は第二営業部だ。
前の部長が、切磋琢磨して営業成績を上げるのを目的に、この体制にしたと聞いた。
最初はギスギスもしてたらしい。
俺が入る前にマネージャーだった宮原部長が、協力する方がいいと体制を緩やかに変えたんだとか。
どこまで出来る人なんだ。腹が立つ。
本当にハゲでヅラならいいのに。
今でも第一と第二に分かれているが、ただの名残のようなものだった。
英語が出来る人が多いから、海外の案件は第一が受け持つことは多いけど。
俺の英語力はそんなだけど、成り行きで第一に入った。
「部長連れてきてください」
畠中さんがそういうと、部長は外国人を1人連れて現れた。
「今度新たに、タイに支店を出すことになった。彼はそこの責任者になってもらうべく、1年間この部署で研修を兼ねて働いてもらう。自己紹介して」
「タイから来ました。27歳です。名前は……長くて覚えられないと思うので、リオンと呼んでください。よろしくお願いします」
カタコトの日本語でリオンがそう言ったあと、一瞬みんなが俺を見た。
「お揃いぃ」
と隣にいた星矢が俺を茶化す。
「お願いしまーす!」
とすぐにみんなは拍手をした。
~~~~~~~~~~
「部長!部長!どういうことなんですか?」
会社の説明を畠中さんがリオンに説明しているときに、星矢が小声で部長を呼び止めた。
「タイに支店を出す話は知ってるか?」
「噂レベルでは…」
社長と奥さんが新婚旅行で行ったのがタイで、その時からタイが好きでいつかは支店をと思っていたらしい。
「実際その予定で社長は動いていたんだ。でも信頼できるスタッフが見つかるかもわからないし、物件探しやら色々あるし、みんなにはまだハッキリと決まるまで言わないでくれって、社長に言われてた」
「で、彼は?」
「社長が向こうに出張で行った時……3ヶ月くらい前か。暑さと疲労で倒れたらしい」
「え!?」
俺たちが2人で声を上げると、部長はしーっと人差し指を口に当てた。
「その時たまたまそばにいて、救急車を呼んだり病院に運んでくれたりと、世話をしてくれたのが彼なんだ。その時に社長に言ったらしい。日本語と韓国語と中国語で"大丈夫ですか?"って」
「マルチリンガルってことですか?」
「んー、どれも挨拶くらいしかできないと言ってたみたいだけど、日本語が1番得意らしい。字は全然読めないみたいだけど。社長が粘ってスカウトして連れてきた」
へぇ。面白い出会いがあるもんだ。
「李音!ちょっとこっちに!」
「はい!」
マネージャーに呼ばれて行くと、自分と同じ名前を呼ばれて返事をした俺を見て、リオンはびっくりしているみたいだった。
「今日からあなたが教育係ね?よろしく!」
「え?俺でいいんですか?」
「あんたも指導する立場を少し経験すりゃいいのよ。そうしたら部長や私の苦労がわかるから」
「苦労って……でも、経験か。ありがとうございます!」
「せっかく同い年で同じ名前だしね」
「ってことで、俺は天野李音です。よろしく!」
と握手の為に出した右手を
「よろしく…」
とリオンは優しく両手で包み込んだ。
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