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第1話
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その夜、領主邸は慌ただしかった。領主の第三子となる二人目の男の子が誕生した。
「ハインツ様!アレクシア様!元気な男の子ですよ。」
赤ん坊を取り出した助産師がそう告げた。名前を呼ばれたのは生まれた子の両親、ハインツはこの子の父親であり、ネルフューア領の領主を務める。アレクシアというのはこの子の母親であり、ハインツの妻である。
「二人ともよく頑張ったね。」
ハインツは妻であるアレクシアと生まれてきた子供に労いの言葉をかけた。そして、アレクシアが抱く子供にやさしく触れた。
「初めまして、マティアス。『マティアス・ネルフューア』これが君の名前だよ。」
泣いている赤子にハインツは『マティアス』と名付けた。
――――――――――――――――――――――――――
部屋の外からドタドタと走る足音が聞こえ、部屋の前で止まった。
「ねぇさま、まって。。。」
「お父様!あ母様!産まれたのですか?」
足音の主は部屋の入口でメイドに制止されながら両親に声をかけた。
「カルラ、クラウス、無事に産まれたよ。この子はマティアス。君たちの弟だ。」
勢いよくやってきた女の子はネルフューア家の第一子にして長女のカルラ・ネルフューア。カルラに置いて行かれながらも必死についてきた男の子は第二子にして長男のクラウス・ネルフューア。
あまりの勢いで突撃しそうなカルラと少し控えめながら興味津々なクラウスにアレクシアが声をかけた。
「カルラ、クラウス。来てくれてありがとう。マティアスはまだ生まれたばかりでたくさん寝ないといけないの。もう少し大きくなったら一緒に遊んでくれる?」
「はい!マティアスの面倒は私が見ます!」
「まてぃあす、ぼく、なかよくする。」
二人の可愛らしい反応にアレクシアとハインツは微笑んだ。
「さぁ、寝る時間だよ。二人とも、部屋に戻ろうか。」
アレクシアとマティアスを気遣ってハインツが二人を連れだした。
――――――――――――――――――――――――――
マティアスが生まれてから2年と少しが経った。歩けるようになったマティアスは屋敷を散策していた。屋敷の書庫に入るとクラウスが本を読んでいた。
「やぁ、マティ。何してるの?」
「クラウス兄様。散歩してる。兄様は?」
「僕は勇者様がドラゴンと戦うお話を読んでいるんだ。」
「兄様は、ご本が読める?すごい。」
クラウスは今年で5歳になり、基本的な読み書きの勉強が始まっていた。習得が速く、簡単な物語であれば一人で本が読めるようになっていた。クラウスの返答にマティアスはキラキラした目で兄を見つめた。
「マティアスも大きくなったら読めるようになるよ。じゃあ、散歩楽しんでね。」
元気よく返事をしたマティアスは書庫を後にした。
しばらく歩いていると、ドタドタと足音が聞こえてきた。
「マティ!お散歩?私も一緒に散歩しようかな。」
足音の主は姉のカルラだった。逃げるようにしてやってきたカルラはマティアスを見つけると笑みを浮かべ、同行を申し出た。
「カルラお嬢様。授業の途中に逃げ出さないでください。」
「うげっ…。」
メイドのニーナがカルラの後ろから声をかけた。カルラは先ほどの笑顔から一転し気まずそうな表情を浮かべて恐る恐る振り返った。
「来年には学園の入学試験を控えております。真面目に授業を受けてください。」
振り返った先には笑顔とは裏腹に有無を言わせぬ圧を放ったニーナの姿があった。カルラはマティアスの後ろに隠れるように飛びのいた。
「ニーナ、姉様にいじわる?少しこわい。」
「マティアス、ニーナはいじわるをしているわけではないのよ。」
あまりに純粋な目でカルラをかばうマティアスの姿を見てニーナが言い淀んでいると、たまたま通りかかったアレクシアが助け舟を出した。
「母様。ニーナいじわるじゃない?」
「そうよ。どちらかというとカルラがニーナに意地悪をしているわね。ニーナ、カルラを連れて行っていいわよ。」
「いやぁ~。」
カルラは情けない声出し嫌がりながらニーナに連れていかれた。カルラが連れていかれた後、アレクシアが学園のことを説明したがマティアスにはなにがなんだかわからなかった。わかったことは、今回はカルラが悪いということだけだった。
「マティ、気を付けて散歩するのよ。」
「はい!」
アレクシアと別れてからも、マティアスは散歩という名の屋敷探検を続けた。マティアスは自分で歩けることが嬉しく、ずっと歩いていたかった。
「マティアス様、そちらは危ないので入ってはなりません。」
「ノーラだ。そうなの?」
マティアスを制止したのは、メイドのノーラだった。ノーラはマティアスの散歩を後ろからずっと見守っていた。屋敷内とはいえ、2歳と数か月の幼児には危険が潜んでいる。マティアスは今の今まで一人で歩いていると思い、気にもしていなかったがクラウスやカルラと話していた時も少し後ろをついてきていたのだ。
「ここは、厨房と言って、ご飯を作っている部屋になります。刃物や火を使っていて危ないのでここには入ってはいけません。」
「はーい。」
マティアスはノーラの説明に納得したのか返事をして次の部屋に向かった。当然ノーラはその後をついて行った。
ふと窓の外に目をやると花壇の水やりをしている一人のメイドがいた。メイドのミアはマティアスに気づき、お辞儀をした。マティアスが手を振り返すと笑顔で水やりを続けた。その少し奥にはマティアスの父、ハインツの姿があった。ハインツは剣を振っているようだった。
「ノーラ、父様は何をしているの?」
「剣の訓練にございます。相手は執事のラインハルトです。」
ハインツもラインハルトも昔は冒険者をやっていて、剣の腕はかなりのものだ。領地の周りの森や山から村の近くまで時々魔物が降りてくる。ネルフューア領にも兵士はいるが冒険者時代の名残や、ハインツが体を動かしたいという理由で討伐に向かうことがある。そのため、こうしてラインハルトが相手をしている。
まだ小さいマティアスには二人の剣技を見てもよくわからないため少し見た後飽きて歩き出した。疲れたため、部屋に戻るようだった。今日歩いた道をそのまま戻っていると、水やりを終えて戻ってきたミアに遭遇した。
「マティアス様、今日のお散歩はおしまいですか?」
「おしまい!もうお昼寝する!」
ミアと少し話した後、マティアスは自分の足で部屋に戻った。マティアスは自室のベッドによじ登り昼寝を始めた。
「マティアスもすっかり大きくなったね。」
「今日は一人で散歩をしました。」
夕食のときにハインツがマティアスの成長を感慨深げに口にした。マティアスはノーラと一緒に散歩をした記憶を捏造して胸を張って自慢げに一人で散歩をしたと答えた。とはいえ、すべて一人で歩き切ったという点では十分立派に散歩したといえるだろう。
その後、家族で食事をしながらクラウスの今日の出来事やカルラの授業の進捗などを話した。
夕食を終え、マティアスは一人(もちろん後ろにノーラがついてきている)で部屋に戻ろうとしたとき、厨房から一人の男が現れた。その男を見上げてびっくりしたマティアスはあたふたしている。
「ブルーノさん急に出てこないでください。マティアス様が驚いています。」
ブルーノと呼ばれた男はネルフューア家のシェフだ。ハインツよりも身長が高く、まるで冒険者のような体つきをしている。そのためブルーノが急に現れるとまだ小さいマティアスはびっくりしてあたふたすることが多い。クラウスが小さいころはブルーノを見ただけで泣き出していたくらいだ。
「お?坊か、わりぃわりぃ。大丈夫か?」
ブルーノの遠慮のない問いかけにマティアスはコクリとうなずいて見せた。ネルフューア家はハインツがもともと平民出身の冒険者だったこともあり、使用人のマナーに関して比較的寛容だ。しかし、このブルーノという男は中でも遠慮がない。
少し驚いたが気を取り直して部屋へと帰った。疲れたマティアスはすぐに眠りについた。
「ハインツ様!アレクシア様!元気な男の子ですよ。」
赤ん坊を取り出した助産師がそう告げた。名前を呼ばれたのは生まれた子の両親、ハインツはこの子の父親であり、ネルフューア領の領主を務める。アレクシアというのはこの子の母親であり、ハインツの妻である。
「二人ともよく頑張ったね。」
ハインツは妻であるアレクシアと生まれてきた子供に労いの言葉をかけた。そして、アレクシアが抱く子供にやさしく触れた。
「初めまして、マティアス。『マティアス・ネルフューア』これが君の名前だよ。」
泣いている赤子にハインツは『マティアス』と名付けた。
――――――――――――――――――――――――――
部屋の外からドタドタと走る足音が聞こえ、部屋の前で止まった。
「ねぇさま、まって。。。」
「お父様!あ母様!産まれたのですか?」
足音の主は部屋の入口でメイドに制止されながら両親に声をかけた。
「カルラ、クラウス、無事に産まれたよ。この子はマティアス。君たちの弟だ。」
勢いよくやってきた女の子はネルフューア家の第一子にして長女のカルラ・ネルフューア。カルラに置いて行かれながらも必死についてきた男の子は第二子にして長男のクラウス・ネルフューア。
あまりの勢いで突撃しそうなカルラと少し控えめながら興味津々なクラウスにアレクシアが声をかけた。
「カルラ、クラウス。来てくれてありがとう。マティアスはまだ生まれたばかりでたくさん寝ないといけないの。もう少し大きくなったら一緒に遊んでくれる?」
「はい!マティアスの面倒は私が見ます!」
「まてぃあす、ぼく、なかよくする。」
二人の可愛らしい反応にアレクシアとハインツは微笑んだ。
「さぁ、寝る時間だよ。二人とも、部屋に戻ろうか。」
アレクシアとマティアスを気遣ってハインツが二人を連れだした。
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マティアスが生まれてから2年と少しが経った。歩けるようになったマティアスは屋敷を散策していた。屋敷の書庫に入るとクラウスが本を読んでいた。
「やぁ、マティ。何してるの?」
「クラウス兄様。散歩してる。兄様は?」
「僕は勇者様がドラゴンと戦うお話を読んでいるんだ。」
「兄様は、ご本が読める?すごい。」
クラウスは今年で5歳になり、基本的な読み書きの勉強が始まっていた。習得が速く、簡単な物語であれば一人で本が読めるようになっていた。クラウスの返答にマティアスはキラキラした目で兄を見つめた。
「マティアスも大きくなったら読めるようになるよ。じゃあ、散歩楽しんでね。」
元気よく返事をしたマティアスは書庫を後にした。
しばらく歩いていると、ドタドタと足音が聞こえてきた。
「マティ!お散歩?私も一緒に散歩しようかな。」
足音の主は姉のカルラだった。逃げるようにしてやってきたカルラはマティアスを見つけると笑みを浮かべ、同行を申し出た。
「カルラお嬢様。授業の途中に逃げ出さないでください。」
「うげっ…。」
メイドのニーナがカルラの後ろから声をかけた。カルラは先ほどの笑顔から一転し気まずそうな表情を浮かべて恐る恐る振り返った。
「来年には学園の入学試験を控えております。真面目に授業を受けてください。」
振り返った先には笑顔とは裏腹に有無を言わせぬ圧を放ったニーナの姿があった。カルラはマティアスの後ろに隠れるように飛びのいた。
「ニーナ、姉様にいじわる?少しこわい。」
「マティアス、ニーナはいじわるをしているわけではないのよ。」
あまりに純粋な目でカルラをかばうマティアスの姿を見てニーナが言い淀んでいると、たまたま通りかかったアレクシアが助け舟を出した。
「母様。ニーナいじわるじゃない?」
「そうよ。どちらかというとカルラがニーナに意地悪をしているわね。ニーナ、カルラを連れて行っていいわよ。」
「いやぁ~。」
カルラは情けない声出し嫌がりながらニーナに連れていかれた。カルラが連れていかれた後、アレクシアが学園のことを説明したがマティアスにはなにがなんだかわからなかった。わかったことは、今回はカルラが悪いということだけだった。
「マティ、気を付けて散歩するのよ。」
「はい!」
アレクシアと別れてからも、マティアスは散歩という名の屋敷探検を続けた。マティアスは自分で歩けることが嬉しく、ずっと歩いていたかった。
「マティアス様、そちらは危ないので入ってはなりません。」
「ノーラだ。そうなの?」
マティアスを制止したのは、メイドのノーラだった。ノーラはマティアスの散歩を後ろからずっと見守っていた。屋敷内とはいえ、2歳と数か月の幼児には危険が潜んでいる。マティアスは今の今まで一人で歩いていると思い、気にもしていなかったがクラウスやカルラと話していた時も少し後ろをついてきていたのだ。
「ここは、厨房と言って、ご飯を作っている部屋になります。刃物や火を使っていて危ないのでここには入ってはいけません。」
「はーい。」
マティアスはノーラの説明に納得したのか返事をして次の部屋に向かった。当然ノーラはその後をついて行った。
ふと窓の外に目をやると花壇の水やりをしている一人のメイドがいた。メイドのミアはマティアスに気づき、お辞儀をした。マティアスが手を振り返すと笑顔で水やりを続けた。その少し奥にはマティアスの父、ハインツの姿があった。ハインツは剣を振っているようだった。
「ノーラ、父様は何をしているの?」
「剣の訓練にございます。相手は執事のラインハルトです。」
ハインツもラインハルトも昔は冒険者をやっていて、剣の腕はかなりのものだ。領地の周りの森や山から村の近くまで時々魔物が降りてくる。ネルフューア領にも兵士はいるが冒険者時代の名残や、ハインツが体を動かしたいという理由で討伐に向かうことがある。そのため、こうしてラインハルトが相手をしている。
まだ小さいマティアスには二人の剣技を見てもよくわからないため少し見た後飽きて歩き出した。疲れたため、部屋に戻るようだった。今日歩いた道をそのまま戻っていると、水やりを終えて戻ってきたミアに遭遇した。
「マティアス様、今日のお散歩はおしまいですか?」
「おしまい!もうお昼寝する!」
ミアと少し話した後、マティアスは自分の足で部屋に戻った。マティアスは自室のベッドによじ登り昼寝を始めた。
「マティアスもすっかり大きくなったね。」
「今日は一人で散歩をしました。」
夕食のときにハインツがマティアスの成長を感慨深げに口にした。マティアスはノーラと一緒に散歩をした記憶を捏造して胸を張って自慢げに一人で散歩をしたと答えた。とはいえ、すべて一人で歩き切ったという点では十分立派に散歩したといえるだろう。
その後、家族で食事をしながらクラウスの今日の出来事やカルラの授業の進捗などを話した。
夕食を終え、マティアスは一人(もちろん後ろにノーラがついてきている)で部屋に戻ろうとしたとき、厨房から一人の男が現れた。その男を見上げてびっくりしたマティアスはあたふたしている。
「ブルーノさん急に出てこないでください。マティアス様が驚いています。」
ブルーノと呼ばれた男はネルフューア家のシェフだ。ハインツよりも身長が高く、まるで冒険者のような体つきをしている。そのためブルーノが急に現れるとまだ小さいマティアスはびっくりしてあたふたすることが多い。クラウスが小さいころはブルーノを見ただけで泣き出していたくらいだ。
「お?坊か、わりぃわりぃ。大丈夫か?」
ブルーノの遠慮のない問いかけにマティアスはコクリとうなずいて見せた。ネルフューア家はハインツがもともと平民出身の冒険者だったこともあり、使用人のマナーに関して比較的寛容だ。しかし、このブルーノという男は中でも遠慮がない。
少し驚いたが気を取り直して部屋へと帰った。疲れたマティアスはすぐに眠りについた。
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