能力鬼ごっこ

宮古 そら

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第8話

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「悠真さん、あれって、、、。」

瀧川の一言で吉田たちは歩みを止める。階段から降りてきた鬼面の男の姿があった。

「まずいね、まさかこっちに来るとは、、、。」

悠真たちの額に汗が流れる。幸い鬼面の男は階段のまえから動いていない。

「はぁ、はぁ、なん、で。」

山本さんは息が上がっているな。無理もないか、彼女は二度も鬼から逃げている。それにこんな緊張状態で体力が残っているはずもない。

「見つけた。」

鬼面の男がこちらを見たままつぶやく。

「来るか逃げるかしないと。こっちから行っちゃうよ?」

鬼面の男はおどけた調子で僕たちに話しかけてくる。

「山本さんももう限界だし交戦するしかないと思うんだけど。伊織君、武術の心得は?」

「多少はありますけど、武術であれを何とかするのは無理じゃないっすか?」

「そうだよね。」

伊織君も男を倒せる自信はないらしい。でも、全員で逃げるのも現実的ではない。

「山本さん、走って逃げられるかい?」

まずは山本さんだけでも逃がさないと。

「うーん、そろそろいいかな。」

しびれを切らした鬼面の男がこちらに向かって歩き始めた。

「はぁ、はぁ。」

息を切らしながら山本が吉田たちの後方に逃げ始める。それを見た鬼面の男も徐々に歩く速度を速める。

「来るよ、伊織君。」

「はい。」

悠真と伊織は臨戦態勢をとる。鬼面の男との距離は1 mに迫る。

「なっ。」

悠真は思わず声を漏らした。目前にまで迫った鬼面の男は床を蹴り、壁を使って悠真の頭上を越えていた。

「悠真さん!」

伊織の声でようやく振り返ったが鬼面の男はすでに山本に迫っていた。

「君には用がないんだ。」

「えっ?」

鬼面の男の声で山本は振り返る。しかし、その瞬間に山本は意識を失って倒れた。

「よし、僕の相手は君たち二人でいいかな?」

鬼面の男は悠真と伊織を見ながら嬉しそうに問いながら向かってくる。

「いよいよ逃げられなくなったね。」

「そうっすね。」

悠真と伊織が一歩後退る。

「僕がなんとか隙を作るんで、悠真さんは援護をお願いします。」

「わかったよ。伊織君、十分に気を付けてね。」

吉田は武術経験のある伊織の提案を呑む。
伊織が鬼面の男に向かって走り始めた。それと同時に悠真は教室に入った。

「向かってくるのは君一人かい?」

鬼面の男はわざとらしく悠真を見ながら伊織を挑発する。

「くそが、白々しいっすよ!」

伊織は悪態をつきながら拳を繰り出す。鬼面の男は悠真の方を見ながらその拳を受け止める。そして、伊織に向き直り、呆れたような声で言い放った。
伊織は距離をとるために男の手を振り払おうとしたが強く掴まれていた。

「それじゃダメでしょう。」

「本当にダメっすかね。」

伊織がつぶやいた後、男の顎に伊織の脚が繰り出された。鬼面の男は伊織の拳を掴んだまま、紙一重で躱す。すると、伊織は口の端を吊り上げて笑う。

「俺の拳を離さなくてもいいのか?」

伊織が言い終わるよりも早く、教室から机が飛んできた。男は伊織の拳を離して大きく後ろに回避した。

「伊織君、大丈夫かい?机を投げるのも思ったより大変だね。」

悠真は苦笑を浮かべながら教室から伊織に声をかける。

「ナイスタイミングっす。」

「まったく、油断も隙もあったもんじゃない。」

鬼面の男は笑いながら天を仰ぐ。伊織はもう一度構えようとするがそれより早く鬼面の男が間合いを詰めてきていた。

「かはっ!」

鬼面の男の掌底が伊織の腹部をつき、伊織は後方へ飛ばされた。
教室から見ていた悠真には伊織の前に鬼が突然現れたかと思ったら伊織が吹き飛ばされた。あまりに一瞬の出来事過ぎて思考が追い付かなかった。

「伊織君!」

ワンテンポ遅れて悠真が叫ぶ。

「よく飛ぶねえ。」

鬼面の男は数メートル飛んだ伊織を見て愉快そうに笑う。

「君は、来ないの。」

悠真は机の脚を男に向けて突っ込んでいった。男は机の脚を掴んで悠真の突進を止めた。

「パワー勝負じゃあ僕に勝てないでしょ。」

「そうかもしれないね。でも、やれるだけのことをしなきゃね。」

悠真は笑みを浮かべながらも必死で鬼面の男を抑える。一方男は余裕の笑みを浮かべている。

「君たちはまだ、何もわかっていないね。」

そう言うと、悠真を机ごと押し返し始めた。悠真は机にぶつかりながら教室の奥まで押し込まれる。

「さっきの二人は楽しかったのに。」

鬼面の男は残念そうに悠真に言う。

――――

はぁ、気を抜いたら意識が持っていかれる。

「悠真さんは、、、。」

伊織は掌底を腹部にくらい吹っ飛ばされた後、地面に倒れながらもぎりぎり意識を保っていた。ぎりぎりの意識の中、教室に押し込まれる悠真を目撃していた。

「くそったれが。」

伊織は立ち上がり、鉈を手に取った。

「あぁ、やっぱり、、、。この鉈、返却するっすよ。」

伊織は廊下から教室に向かって鉈を投げた。投げた鉈は回転して、ブーメランのように曲線を描いて鬼面の男に向かっていった。

――――

「何もわかっていないって、どういうことかな。」

悠真は鬼の力に必死に対抗しながら鬼面の男に聞き返す。
視界の端に何かがきらめくのが見えたと思ったら机ごと壁に向かって押し飛ばされた。鬼面の男は半身になって伊織の投げた鉈を日本の指で止めた。

「いや、訂正するよ。少なくとも彼は理解したようだ。」
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