僕たちのスタートライン

仙崎 楓

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二つ目の告白

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 昨日から思考回路が止まってばかりだ。
あまりに信じられない言葉ばかり聞いているから。
 それも唯一無二の親友から。

 病気でもなく、嫌われてもいなかったんだから喜ぶべきか。
 いや、結局一緒に陸上できないんなら悲しむべきか。

「………え?」
 好きだと言われて俺がやっと出せた言葉はこれだけだった。
「ちょっと入って」
「!」
 俺は静に両手を引き寄せられた。
俺の肩で支えて開けていた玄関の扉がバタンと閉まった。

「ごめん。
人目があるから」
 確かに玄関先で騒いでるのはバツが悪い。
 かと言って俺たちは会話をするわけでもなく、薄暗い玄関で手をつないで突っ立っているだけだ。

 どうしたものかと静のほうを見下ろす。

 静の頬が紅く染まっている。
 唇はきゅっとかみしめられて、長いまつげはまばたきの度に揺れる。
 こんなに間近でじっくりと静を眺めるのは初めてだった。
 透きとおるような肌は同じ男とは思えないくらいきめ細やかで綺麗だった。

 「僕のこと、気持ち悪い?」
 「は?」
 「だって、男友達から急にこんなこと言われたらひくでしょ」
 静の手はうっすら汗ばんできている。
 さっきまで紅かった頬も血の気をすっかり無くして、唇は少し震えているみたいだ。

 俺は全然気にしてないという風に明るく言った。
「思わねーよ。
 てか、俺をそんな奴だと思ってたほうがショックだわ」
「陸…」
 安心したのか、静の肩から力が抜けて、表情が急に柔らかくなった。
「好きだって言われて驚いたけど、俺にとって静は大事な友達だよ。
 今でも静と陸上続けたいと思うし」
 俺は笑って静のほうを見た。
 けれど静はにこりともせずに神妙な顔をして言った。

「陸が平気だと言ってくれるだけじゃ、僕はもう友達のまま陸上を続けることはできない」
 静が握りしめたままの手に熱がこもっていく。
「僕は、いつも陸に抱かれたいと思ってる。
 離れても陸の感触が体に残るくらいメチャクチャにしてほしい。
 陸が僕のものにならないのなら、陸が他の誰といるのも耐えられない」

 俺は何も言えなかった。
 恋愛感情のない男友達相手に、女の子とするようなことができるとは到底思えなかったからだ。

 けれど、そこまで言われても静と陸上を続けたいという気持ちに変わりはなかった。

 静と走るのはとにかく楽しくて、体に羽が生えたかと思うくらい速く走れる。

 静が走る姿が好きだった。
ゴールして満面の笑みでこっちにガッツポーズされて、思わずスタンドに飛び出して抱き合った事だってある。
「俺はまだお前と走りたいよ」
 何て言えば元通りになるのかなんて分からないから、本心をぶつけるしかなかった。

 「じゃあ、これからこんなことできるの?」
 「は?」
 
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