ダークチョコレート

仙崎 楓

文字の大きさ
上 下
13 / 23

となり

しおりを挟む
 新幹線の窓の外を暗闇がものすごい速さで駆け抜けていく。
  始めは華やかな街並みが横切っていたのに、今はもう灯りもまばらでほとんど暗黒に近い。
  俺は窓際で頬杖をついて、何も見えない外の闇を見つめていた。

「義兄さんホントに何も食べなくていいの?」
  義弟の和哉は、乗り換えの待ち時間に買った駅弁を隣で呑気に頬張っている。
  俺は和哉と話す気になんてなれず、聞こえない振りをした。
  本当は隣どおしで座るのも嫌なのに、何度席を変えてもしつこく和哉がついてくる。

  何でこんな奴が俺のそばにいるんだろう。
  俺がとなりにいてほしい人は、たった一人しかいない。

  先生。
  …ごめん。
  今どうしてる?

  人からたくさん傷つけられてきた先生を大事にするって言った張本人の俺が原因で、また先生が傷つくかもしれない。
  幸せだって、俺を信じるって言ってくれたのに、先生を守るために俺は離れることしかできなかった。
  けど、どんなに遠く離れていってても俺には先生のことしか考えられない。

「ねえ義兄さん」
   ………ずっと隣でちょこちょこと話しかけてくる和哉が疎ましくて仕方がない。
「義兄さんてば!」
「別の席行けよ。
    空いてるだろうが」
  忌々しく言っても和哉には通じない。
「行き先は一緒じゃん。
    それに、オレのほうがあの人より義兄さんに合ってると思うな」
「んなわけないだろ」
「だって俺、左利きだからさ」
  和哉が突然俺の左手をとって、するりと指を絡めてきた。
   「ほら、二人とも食べながら手が繋げる」
  睨み付けようと思ったら、今にも絡めとられそうな和哉の視線とぶつかった。
  俺は不愉快で堪らず、強く手を振り払った。
「手を離したのは、お前だろ」
  すると、にこにこしていた和哉の表情は突然ふっと曇り、何か言いたげな眼差しを俺に向けた。
  俺は全く構わずそっぽを向くと、再び窓の方に顔を背けた。

   別に今更和哉の話を聞く必要なんてない。
   厭に馴れ馴れしいのも、生活費やら学費やらの為なんだから。

「義兄さん、降りるよ」
  和哉に声をかけられて、はっと辺りを見渡すと、新幹線は目的地の駅に到着して既に停止していた。
  ドアが開くと俺は和哉を追い越して足早に新幹線から降りた。
  刺さるように冷たい風がプラットホームを吹き抜ける。
  久しぶりの景色。
  もう見ることはないと思っていたけど、これで本当に最後だ。
   今日こそ自分の過去と決別してみせる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

出産は一番の快楽

及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。 とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。 【注意事項】 *受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。 *寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め *倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意 *軽く出産シーン有り *ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り 続編) *近親相姦・母子相姦要素有り *奇形発言注意 *カニバリズム発言有り

処女姫Ωと帝の初夜

切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。  七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。  幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・  『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。  歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。  フツーの日本語で書いています。

涙は流さないで

水場奨
BL
仕事をしようとドアを開けたら、婚約者が俺の天敵とイタしておるのですが……! もう俺のことは要らないんだよな?と思っていたのに、なんで追いかけてくるんですか!

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた

キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。 人外✕人間 ♡喘ぎな分、いつもより過激です。 以下注意 ♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり 2024/01/31追記  本作品はキルキのオリジナル小説です。

薬師は語る、その・・・

香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。 目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、 そして多くの民の怒号。 最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・ 私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中

彼が毎回俺に中出しする理由

和泉奏
BL
翔には彼女がいるけど、俺にはそんなの関係なかった。行為中「中に出したい」って言われて毎度中出しされるのは、彼女より俺を愛してる証拠だから。

処理中です...