against

ささくれ

文字の大きさ
上 下
5 / 14

油断

しおりを挟む
次の日、昼休みに勧誘をしなかった。解放された気がしたが、吉田はそのまんまだったし、納得出来なかった。それでも富樫の命令で吉田には手を出さなかった。

---おせぇよ!もうすぐランニングはじめっぞ!
---え?吉田?なんで?あんなに入部を断ってたのに。

彼は金髪ロンゲから丸刈りになっていた。

---いちゃワリぃかよ。気が変わったんだよ。

近くで見てた富樫はニヤニヤしていた。若林は顔をしかめていた。
吉田は5月下旬に入部した。前から入部してた人とは差があったが、持ち前の運動神経の良さで、あっという間に部活には慣れた。

夏の大会が始まった。富樫と吉田はレギュラーで一桁の背番号をもらっていた。生田はベンチだが、背番号11を貰っていた。
投手二番手だったが、先発もさせてもらった。
背番号を貰えなかった3年生は涙を隠せないくらい泣いた。
声を漏らすまいと、腕で必死に口を押えたが、それでも聞こえた。3年生は3年間頑張って練習してきから、泣くのも仕方なかった。しかし、次の瞬間にベンチ漏れした3年生がサポートにまわりたいと監督にいうのだ。なんという切り替えの早さだろう。本当はもっと泣きたいはずなのに、悔しがりたいはずなのに。

生田はベンチに入れなかった3年生の気持ちにイマイチピンと来なかった。試合に負けたわけじゃあるまいし。
それを知ってか知らずかキャプテンが1年生に集合をかけて言った。

---彼らは僕たちと同じ練習をしてきた。時には僕たち以上にバットを振った。それも2年半も。けど、背番号を貰えなかった。彼らにとって最後の公式戦。それがベンチにも入れないなんてそれですぐにサポートにまわりたいだなんて。彼らは相当悔しいはずなのにチームの役に立とうとすぐに切り替えてくれた。
僕はそんな彼らを尊敬する。そして、彼らに頼んだ一緒に戦ってくれとすぐ様返事を貰ったもちろんとベンチに入れなかった1年生もまだチャンスがあるけど、この夏は僕たちに力を貸して欲しい。

富樫は拍手で答えた。それに続き他の1年生も拍手をした。生田は恥ずかしかった。キャプテンの言葉がなければ3年生の思いに気づけなかった。

---おお~、燃えてきた!

 富樫が言った。生田も他の1年生もいつも以上に良いプレーを心掛けた。
 次の日、富樫が教えてくれた。

---キャプテンは中学3年間1回も公式戦出てないんだよ。
---それなのに憧れて高校まで追っかけてきたのか?
---違う!オレが惚れたのはキャプテンの人間力だ。別にプレーを見たからじゃない!現にスタンドの3年生に気づかって寄り添えるんだ。キャプテンは中学のとき出られなくて相当悔しかった筈だから。俺はキャプテンみたいになりたいんだ!

富樫はそう言い放ち、こぶしを強く握った。
夏の大会では後半連戦になるので、投手の負担も考えて何人も用意する必要があった。
うちの学校は4人いたが、4人目の登板はなかった。エースの仲野さんが先発の時は基本完投で他の先発時は基本6回まで投げ、残りを先輩に任せた。それが功を奏して決勝まで進んだ。

---相手の7番近藤は私たちと同い年よ。だから、絶対負けないでね。
---ぇ?1年?名門道大三も落ちたな。
---ウチらだって1年じゃん。
---ほら俺らは先輩達を脅かす存在だから
---それ、自分で言う?

取材も決勝に都立高校が残ったと何件か来たが大会期間中ということで、全て断った。
前日から道大三のビデオを穴が開くほど観たがキャプテンを除きどうにも浮き足だった雰囲気があった。

---明日、絶対勝ってね。
---おう!当たり前じゃん!

富樫は若林の声掛けに息巻いた。彼らは甲子園しか見ていなかった。まだ、決勝戦前なのに
そして決勝の朝、いつもの風景いつものメンバーいつもの表情。学校でみんなとバスに乗り球場へ向かった。
球場は満員に近かった。マスコミも数社来ていた。そのほとんどが都立高校を応援していた。生田はそれを感じ、いつも以上に力が入った。
生田は甲子園をかけた大事な試合の先発の2番手を任された。もちろん1番手はエース仲野さん。3回を投げ切るよう言われてた。オーダーは富樫と吉田が一つずつ打順をあげた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

坊主の決意:ちひろの変身物語

S.H.L
青春
### 坊主のちひろと仲間たち:変化と絆の物語 ちひろは高校時代、友達も少なく、スポーツにも無縁な日々を過ごしていた。しかし、担任の佐藤先生の勧めでソフトボール部に入部し、新しい仲間たちと共に高校生活を楽しむことができた。高校卒業後、柔道整復師を目指して専門学校に進学し、厳しい勉強に励む一方で、成人式に向けて髪を伸ばし始める。 専門学校卒業後、大手の整骨院に就職したちひろは、忙しい日々を送る中で、高校時代の恩師、佐藤先生から再び連絡を受ける。佐藤先生の奥さんが美容院でカットモデルを募集しており、ちひろに依頼が来る。高額な謝礼金に心を動かされ、ちひろはカットモデルを引き受けることに。 美容院での撮影中、ちひろは長い髪をセミロング、ボブ、ツーブロック、そして最終的にスキンヘッドにカットされる。新しい自分と向き合いながら、ちひろは自分の内面の強さと柔軟性を再発見する。仕事や日常生活でも、スキンヘッドのちひろは周囲に驚きと感動を与え、友人たちや同僚からも応援を受ける。 さらに、ちひろは同級生たちにもカットモデルを提案し、多くの仲間が参加することで、新たな絆が生まれる。成人式では、ロングヘアの同級生たちとスキンヘッドの仲間たちで特別な集合写真を撮影し、その絆を再確認する。 カットモデルの経験を通じて得た収益を元に、ちひろは自分の治療院を開くことを決意。結婚式では、再び髪をカットするサプライズ演出で会場を盛り上げ、夫となった拓也と共に新しい未来を誓う。 ちひろの物語は、外見の変化を通じて内面の成長を描き、友情と挑戦を通じて新たな自分を見つける旅路である。彼女の強さと勇気は、周囲の人々にも影響を与え、未来へと続く新しい一歩を踏み出す力となる。

弁当 in the『マ゛ンバ』

とは
青春
「第6回ほっこり・じんわり大賞」奨励賞をいただきました! 『マ゛ンバ』 それは一人の女子中学生に訪れた試練。 言葉の意味が分からない? そうでしょうそうでしょう! 読んで下さい。 必ず納得させてみせます。 これはうっかりな母親としっかりな娘のおかしくて、いとおしい時間を過ごした日々のお話。 優しくあったかな表紙は楠木結衣様作です!

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

坊主女子:青春恋愛短編集【短編集】

S.H.L
青春
女性が坊主にする恋愛小説を短篇集としてまとめました。

浦島子(うらしまこ)

wawabubu
青春
大阪の淀川べりで、女の人が暴漢に襲われそうになっていることを助けたことから、いい関係に。

Missing you

廣瀬純一
青春
突然消えた彼女を探しに山口県に訪れた伊東達也が自転車で県内の各市を巡り様々な体験や不思議な体験をする話

天ヶ崎高校二年男子バレーボール部員本田稔、幼馴染に告白する。

山法師
青春
 四月も半ばの日の放課後のこと。  高校二年になったばかりの本田稔(ほんだみのる)は、幼馴染である中野晶(なかのあきら)を、空き教室に呼び出した。

処理中です...