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ささくれ

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理由

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その日から吉田野球部に勧誘作戦が始まった。同じクラスだった富樫と若林と生田の3人で昼休みに日替わりで勧誘した。作戦と言っても、順番に誘うだけだった。
3日目、吉田のところへ行くと吉田は既に構えていた。

---今日はお前か。俺は野球部に入らねぇからな!

こっちが質問する前に答えが出てしまった様で引き返した。表情を見る限り、とりつく島もないといった感じでこれ以上勧誘すると逆効果になる気がした。

このままでは納得がいかないと思った。

その日の部活でこっそり殴られたやつの話を聞いた。
そいつが言うには殴られる前に部活の愚痴を言ってたらしいのだ。
それを聞いて吉田はきれたのか?でも、今は野球を辞めてるのに。
別のクラスに元八王子シニアの吉田の同級生から話しを聞いてもらった。
どうやら、東北の高校の進学は決まってたらしいが、中学最後の試合で暴力事件を起こしてしまい、進学がなくなってしまったらしい。
すぐ手が出るのはダメだけど、出るのは理由があるんじゃないかと生田は考えた。
彼はこうも言ってた。

---あの時、ホームランになるかと思った球をワンバンで取って長打を短打にされたんだ。外野のファインプレーが生まれて、その時ファーストを殴ったんだ。単打になった腹いせで殴ったと周りから言われていたが、あの時スタンド応援だからよく見えていたけど、ファーストが吉田に何か言ったんじゃ無いかと思って。応援の声とかで聞き取れなかったけど、口が動いてるのをスタンドから見たんだよ。そっからだよ。吉田が練習に顔出さなくなったの。

生田は思った。吉田のこと何も知らないけど、腹いせで殴る様なやつじゃないと。話してくれた彼にも聞いてみた。

---お前は野球部に入らないのか?一緒にやらないか?

---誘ってくれるのは嬉しいけど、野球は中学までって決めてるし、今は合唱部に夢中だからな。中3でスタンドだぞ?さすがに才能ないことに気づいたわ。でも、あの時の声出しのおかげで合唱部が楽しいんだ。

 彼は笑顔で答えた。生田はそれを見て、彼を誘うのをやめた。彼の充実した笑顔を見たら誘えなかった。絶対入らないのはわかったし、彼から合唱を奪うようなマネをしたくなかった。
吉田のことを富樫と若林にも伝えた。3人は考えた。そんな時、富樫は言った。

---吉田は野球をやりたいに決まってる!

大きな声で言い切った。傍で聞いていた俺は頭が痛かった。そんな決めつけなくても問題は吉田にどうやって入部して貰うかだ。
 
---ただいま~
と、吉田はドアノブに手をかけ入ってきた。
---おかえり~

と、カウンター越しに吉田の母と富樫は笑顔で迎えた。吉田の母はスナックを経営して小さい頃から出入りしていた。

---は?なんでうちが分かったんだよ。
---最初先生に聞いたけど、教えてくれなかった。そこで君の元チームメイトに聞いたんだ。具体的な住所はわからなかったけど、この素敵なお母さまがお店やってると聞いてね。
---あら、富樫君お上手ね。
---スマホで検索したらすぐ出てきたよ。
---お前部活は?
---さぼった。

吉田の質問に富樫はあっさり答えた。

 吉田の母は吉田を睨んで強く言った。

---富樫君に全部聞いたよ。野球部あるんだって?何で入らないんだい。
吉田は俯いてこう言った。
---母ちゃんにこれ以上迷惑掛けたくなかった。せっかく東北の学校から特待の話がきてたのに

---何言ってんの!翔平の親だよ。迷惑だなんて思ってないよ。野球部無いって嘘つかれた方が悲しいよ。
小学校の時、水商売をバカにしたクラスメートに制裁を加えたって。学校に呼び出し食らったけどスカッとしたね。旦那が死んでから8年だっけ?
あんたは一回もわがままなんて言わなかった。中学卒業した時に金髪にしたのは驚いたけど。
だから、店の心配もいらないよ。好きなことしな!あんまり高いのは買ってあげられないけど、翔平のためなら頑張れる。
翔平の手が空いたときに店手伝ってくれればいいから。

吉田の目から涙がこぼれた。

---もう少し入部のこと考えてもいいか。

ふり絞った言葉だった。吉田から出た言葉がそれだけだった。
 富樫はそれを聞いて答えた。

---ああ。ゆっくりでいいぞ。
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