灯の芳香

藤岡 志眞子

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園庭

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「かんなちゃん、」

お弁当の時間が終わり、園児が一斉に園庭に駆け出す。他の友達と手をつないで走り出した柑奈の背中に真珠が声をかけた。

「かんなちゃん、あそぼう!」

「しんじゅちゃん、いまからまりちゃんたちとおままごとするの。しんじゅちゃんもいっしょにあそばない?」

「え、しんじゅ、かんなちゃんとブランコしたい。ブランコのろうよ。」

「しんじゅちゃん、」

柑奈と手をつないでいた茉莉ちゃんが割って話に入る。

「さいしょにかんなちゃんとあそぶやくそくしてたのは、あたしよ。」

「しんじゅもかんなちゃんとあそびたい。まりちゃんもいっしょにブランコする?」

「ブランコじゃなくておままごとするの。しんじゅちゃん、あっちいって!」

そう言って茉莉ちゃんが柑奈の手を引いて砂場に促す。

「まりちゃん、しんじゅちゃんもいっしょにおままごとしてもいいよね。ね、しんじゅちゃん、いっしょにおままごとしようよ。」

「やだ。おままごとなんてたのしくないよ。」

「たのしいよ?しんじゅちゃん、おかあさんやくでもいいよ?」

「ダメだよ!おかあさんやくはかんなちゃんだよ?」

「まりちゃんはなにやくなの?」

「あたしはこどもやくよ。しんじゅちゃんはおとうさんやくやってよ。」

「やだよ、しんじゅおんなのこなのに、おとうさんやくなんてやだよ。」

「だったらあっちいって!」

どんっ。

茉莉ちゃんが真珠の両肩を前から強く押した。その拍子に真珠は後ろによろけそのまま尻餅をついてしまった。尻餅をついて今にも泣きそうな真珠を見て茉莉ちゃんは、周りをきょろきょろと見てからごめん、と手を差し出した。が、

「まりちゃんなんてきらい、きらいだよっ!」

大声で泣き叫びながら言った。その声で保育士のひとりが事態に気が付き駆け寄ってくる。あたふたとこちらも泣き出しそうな茉莉ちゃんに、柑奈が「大丈夫だよ。」と声をかけた。

「かんなちゃんはしんじゅなの!まりちゃんはダメ!」

めちゃくちゃだ。
三歳の子供ながらに真珠はめちゃくちゃだ、我儘だ、と柑奈は思った。先生に対しても茉莉ちゃんに対しても横暴だし、自分の思い通りにならないといつもこうだ。しかし五分もすると何事もなかったかのように接してくる真珠に怖さも感じていた。そんな真珠は他の友達には見向きもせず執拗に柑奈だけを追っかけてくる。そのせいで柑奈は茉莉ちゃん以外とも仲良く遊ぶことが出来ないでいた。
この一件で他の友達からの遊びの誘いはされなくなった。とはいってもお遊戯やクラスで行う遊びの時は普通にみんなとしゃべったり遊んだりはする。しかし自由時間になると真珠を怖がり面倒くさがる友達は柑奈から遠ざかっていった。必然、柑奈は真珠と一緒にいる時間が多くなった・・・真珠しかいなくなった。

「かんなちゃん、」

「しんじゅちゃん。」

真珠のことは嫌いじゃないし面倒でもない。どちらかというと好きな方だ。けれど何か違う、もやっとした(違和感)を感じ始めていた。



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