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25 山越え
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夜はとっぷりと更け、日付が変わる頃雨が降り始めた。花江は未だ休まず部屋の隅で繕い物をしている。今日も一日、会話がなかった。
花江は、小夜がいなくなる前から塞ぎがちになっていた。本家に連れていかれた息子の下の弟達には無関心で、末の息子が奉公に出る頃には名前も呼ばなかった。
小夜が生まれる前は明るく話上手で、医学塾に父親の手伝いに来ていた時は医学生に好かれ、私以外の者からも交際を申し込まれていた。
念願叶って結婚し、ふたりで暮らしている頃は笑顔が絶えず、祥庵を晩飯に呼んで遅くまで笑い合ったものだ。
しかし、小夜が生まれて狐憑きとわかり存在を隠して暮らし始めた頃から少しずつ、ひとり何か悩み始め物思いに耽るようになった。
口数が減り、ひとりで過ごしたがり、息子が生まれて本家の者が来てからは全く会話がなくなった。
小夜の世話もだんだんしなくなり、さすがに様子が変だと心配になり花江に尋ねたが、何も答えなかった。
そんな時期があった事など忘れた頃、小夜がいなくなった。そして花江は更に様子が酷くなっていった。
あかりが来る手前、急に子供が欲しいと言い出した。末の息子が生まれて以来、床を共にしたことはない。年齢も年齢なので今から産んで育てられるのかと聞くと、もうひとりだけ、性別はどちらでもいいから、とだけ言った。息子三人をまともに世話をしなかったので心配だったが、実際皆家を出たら寂しくなったのだろうと思った。
さすがに妊娠、出産は心配だったので、養子でもとるかと提案した。それから半年後、あかりが家に来た。
甲斐甲斐しく世話をし、小夜が持っていたより着物を買い揃え、親馬鹿なのかと思うほど可愛がった。
頬の火傷跡が可哀想だと毎晩薬を塗ってあげ、自分の化粧水を使い、あかりの肌を整えてやっていた。
お陰であかりの火傷跡は薄くなり、性格は優しく可愛らしい娘に育った。花江への感謝の気持ちからなのか、よく働き、自分の物は滅多に新調せず、私達夫婦にお金を使わせないようにしていた。
自分の子供が五人いるのに、子育てらしい子育てをしたのは他人のあかりだけだっただろう。
しかしそんなあかりも嫁に行き、またふたりの生活に戻った途端、花江の様子が前のように変わり始めた。
またか。
これからはふたりきりの生活になる。このままずっと塞ぎ込まれて会話がないなんてやっていられない。意を決して、その原因を突き止める事にした。
「花江、何か気がかりな事があるのか。」
「いえ、ございませんが。」
「そんな事はないだろう、こうなるのはもう辛抱しきれない。頼むから、私に何かあるのなら言って欲しい。」
「あなたには何もありません。」
「私でないのなら、何があるんだ。」
「………。」
「小夜の事か。」
「いえ…」
「雪冬か。」
「違います。」
「では何だ。」
「何も。」
瞬間、手が出てしまった。ずっと何かを隠し悩み続けている花江は不憫だが、私達は夫婦だ。
頼ってくれない花江、頼られていない私、その原因がわからない自分に腹が立ったのもあったが、なにか反抗的な目が私を逆上させた。
「あなたはお気付きになられてはいないのですね。」
「だから何が。」
「私達の子供です。お医者をやっておられるのに、何故わからないのですか。」
「…私の子じゃないと言うのか。」
「何を見当違いな事を。そうではありません。」
「狐憑きの事か?」
「小夜と雪冬は、本当に狐憑きだとお思いですか。」
…何を言っているんだ?
「下の息子達もそうです、わかりませんか。」
「すまないが…陽吉や、光吉は少しぼんやりなくらいで。照吉は物覚えが悪かったが皆健康ではないか。」
「それです。あなたはお医者のお仕事で患者は診るも息子達は診なかった。」
「何が気にかかるんだ。」
「…あの子達は風鼠なのです。」
風鼠(ふうそ)。血の濃い者を世間ではそう言う。
「私達の親戚に、血が濃い者が居ると?」
「あなたは、安森のお義父様、ご自分の父親をどれくらい知っておいでですか。」
「…安森の当主で、立派な方であったと、」
「その程度ですか。どんな性格の方だとか、交友関係はどうだったかだとか、わからないのですか。」
「何だ急に。ふつうの親子の様に一緒に食事などはしなかったし、同じ部屋にいた事もほとんどない。お父様の交友関係など秘密事項に関わっている者ばかりで知る機会はなかったし。花江も分かり切っている事ではないか。」
「…私の母は父の再婚相手でした。」
いきなり何だ。
「そうなのか、初めて聞くが…」
「私は父の娘ではありません。私の実の父は、安森 冬嘉(とうか)様です。」
久しぶりに聞くお父様の名前…
「…嘘だ、お父様は再婚などしていないし、愛人などいた事はない。」
「あなたが知らなかっただけです。あなたのお父様…私の父は、他にもたくさん奥様がいらっしゃったそうです。私の母は、妻にはなれませんでしたが子供は産みました。」
「花江、それをいつから。」
「小夜を産んですぐに、麻記様がいらっしゃいました。」
「小夜を見せたのか。」
「いえ、ですが狐憑きの娘がいる事は知っていての訪問でした。」
「なぜ言わなかった。」
「約束をしたのです。小夜を連れて行かないかわりに、小夜を他人の目から隠すようにと。」
「花江、なぜ相談しなかったんだ。知っていたら小夜を豆川屋にやらずに済んだではないか。」
「そんな事はありません、どっちにしろ大きくなったら引き取るとも約束に入っておりました。私も迎えが来る前に何とかしなければと、あなたと同じく考えておりましたから…」
「…それで。」
「雪冬が連れていかれた時、わたしひとりで本家に雪冬の忘れ物を持っていった事がありましたでしょ。あの玩具、気に入っていましたから…。
その道すがら、安森の人間でない者が、安森の狐憑きの女の子を何処かに連れて行くのとすれ違ったのです。数年経ってよく似た女の子を…街で見掛けました。」
「どこで。」
「街にあった、峰清楼の仮宅の近くで…遊女と一緒にいました。」
「売られたのか。」
「…はい。安森は金銭的に逼迫しています。男の子の場合は、生きているのかもわかりません。きっと小夜も、匿うと言ってあの女の子のようになるのだと思い、あなたと一緒に模索しました。ですが、どうにもならないとわかり…なら、これ以上情が付いてはいけないと、自分の心を殺し続けておりました。」
…だからあんな調子だったのか。…ひとりで悩ませて。
「…約束はそれだけか。お父様の話と、私達の事も何か言っていなかったか。」
「…私達が兄妹である事はあなたに伝えない代わりに、小夜と雪冬の事実も内密に、と。」
「事実?小夜と雪冬は何なんだ。」
「狐憑きではありません、あの子達は風鼠なだけなのです。陽吉達もそうだと思いますが、症状が低いので見逃す、と。」
「見逃す…?」
「安森は狐憑きを生まれさせるために、意図的に血を濃くしているのです。そのため狐憑きではない風鼠が生まれ、目に余っての障害が出た場合は、安森の品格を下げないために丁重に扱う振りをして自由を奪っているのです。」
花江がこんなに感情を剥き出しに話しているのを初めて見る。堰が切ったように次々と言葉が溢れ出る。その言葉全てが心臓に重く突き刺さった。
「雪冬もきっと、お父様のように奥様を複数迎える事でしょう…小夜も連れていかれていたら、閉じ込められて子供を産まされるか、売られていたに違いありません。」
「そんな、では今居る狐憑き、恭亮様や安記様は。」
「風鼠だと思われます、しかし麻記様の子供です。きっとそんな事はなさらないでしょう。」
「麻記様が主導権を握られているのか。」
「麻記様は、現在のご当主の甥の娘さんで、お義父様のお姉様、葉須和(はすわ)様の孫にあたります。葉須和様は聡明なお方で、ご当主であったお祖父様より、安森を仕切っていたと窺っております。そのひとり娘ですから安森では力の有るお方かと。」
「余所から嫁に来たのではないのか。」
「鳳右衛門様が婿にいらしたのです。私も最近知りました。」
花江、ひとりでこれだけの事を。
「麻記様が、そんなお方だったなんて。」
「狐憑き…風鼠の色と数字を決めていらっしゃるのもご当主様と、麻記様です。障害の度合いや、血の濃さで決めていらっしゃるようです。」
「恭亮様は藍の八・五…祥庵から聞くに障害や体調面での問題は無さそうであるから、血の濃さか。安記様の桃色は、なんだ。体調は著しく悪くなる時があるが…。」
「安記様は麻記様のご配慮で朱のところ、桃色に引き下げておいでです。蒼助様は鳳右衛門様とのお子様だからなのか、狐憑きでももちろんないですし、風鼠の症状も出ていません。陽吉達のように見逃された側なのです。」
「私達、白同士に生まれる筈のない黒が生まれたのは、花江…腹違いの妹であったためなのか。」
「知らなかったと言えど、申し訳ない事をしてしまいました。いくら償っても償い切れません。」
花江は畳に突っ伏し、声を上げて泣いた。
私達が結婚したのも、安森の策略だったのだろうか。
兄妹という事実も重過ぎるが、安森家の計画に悪寒と怒りがおさまらない。
白は見逃された側。狐憑きは崇められ、風鼠は人間以下。
私達の子供を何だと思っているんだ。三つのどの項目にも当てはまらない、唯一無二の人の子を振り分けるなんて。
狐憑きだって今まで本当に居たのかも怪しくなってくる。血を絶やさないために必死になってるようにしか思えないし、何も考えずただ増やし、狐憑きとホラを吹いて騙している。
後に花江はこれだけの話を集めるのに十年費やしたと言った。十年前、あかりがうちに来た頃だ。
あかりを安森に嫁に出すのを喜びも悲しみもしなかったが、それは何か考えがあってのものだと思われた。
実際まだ何も実行に移していない様だが、そろそろ動くのであろう。きっとあかりも幸せになる考えのはず。
幸運の狐憑き、その代償に多くの人間が犠牲になっている。私が縁を切った時の、狐憑きへの気持ちの悪い執着心はあらぬ方向へと向かっていたようだ。安森を失くしたいという最終目標は変わらずに、私の決意は強くなった。
花江は、小夜がいなくなる前から塞ぎがちになっていた。本家に連れていかれた息子の下の弟達には無関心で、末の息子が奉公に出る頃には名前も呼ばなかった。
小夜が生まれる前は明るく話上手で、医学塾に父親の手伝いに来ていた時は医学生に好かれ、私以外の者からも交際を申し込まれていた。
念願叶って結婚し、ふたりで暮らしている頃は笑顔が絶えず、祥庵を晩飯に呼んで遅くまで笑い合ったものだ。
しかし、小夜が生まれて狐憑きとわかり存在を隠して暮らし始めた頃から少しずつ、ひとり何か悩み始め物思いに耽るようになった。
口数が減り、ひとりで過ごしたがり、息子が生まれて本家の者が来てからは全く会話がなくなった。
小夜の世話もだんだんしなくなり、さすがに様子が変だと心配になり花江に尋ねたが、何も答えなかった。
そんな時期があった事など忘れた頃、小夜がいなくなった。そして花江は更に様子が酷くなっていった。
あかりが来る手前、急に子供が欲しいと言い出した。末の息子が生まれて以来、床を共にしたことはない。年齢も年齢なので今から産んで育てられるのかと聞くと、もうひとりだけ、性別はどちらでもいいから、とだけ言った。息子三人をまともに世話をしなかったので心配だったが、実際皆家を出たら寂しくなったのだろうと思った。
さすがに妊娠、出産は心配だったので、養子でもとるかと提案した。それから半年後、あかりが家に来た。
甲斐甲斐しく世話をし、小夜が持っていたより着物を買い揃え、親馬鹿なのかと思うほど可愛がった。
頬の火傷跡が可哀想だと毎晩薬を塗ってあげ、自分の化粧水を使い、あかりの肌を整えてやっていた。
お陰であかりの火傷跡は薄くなり、性格は優しく可愛らしい娘に育った。花江への感謝の気持ちからなのか、よく働き、自分の物は滅多に新調せず、私達夫婦にお金を使わせないようにしていた。
自分の子供が五人いるのに、子育てらしい子育てをしたのは他人のあかりだけだっただろう。
しかしそんなあかりも嫁に行き、またふたりの生活に戻った途端、花江の様子が前のように変わり始めた。
またか。
これからはふたりきりの生活になる。このままずっと塞ぎ込まれて会話がないなんてやっていられない。意を決して、その原因を突き止める事にした。
「花江、何か気がかりな事があるのか。」
「いえ、ございませんが。」
「そんな事はないだろう、こうなるのはもう辛抱しきれない。頼むから、私に何かあるのなら言って欲しい。」
「あなたには何もありません。」
「私でないのなら、何があるんだ。」
「………。」
「小夜の事か。」
「いえ…」
「雪冬か。」
「違います。」
「では何だ。」
「何も。」
瞬間、手が出てしまった。ずっと何かを隠し悩み続けている花江は不憫だが、私達は夫婦だ。
頼ってくれない花江、頼られていない私、その原因がわからない自分に腹が立ったのもあったが、なにか反抗的な目が私を逆上させた。
「あなたはお気付きになられてはいないのですね。」
「だから何が。」
「私達の子供です。お医者をやっておられるのに、何故わからないのですか。」
「…私の子じゃないと言うのか。」
「何を見当違いな事を。そうではありません。」
「狐憑きの事か?」
「小夜と雪冬は、本当に狐憑きだとお思いですか。」
…何を言っているんだ?
「下の息子達もそうです、わかりませんか。」
「すまないが…陽吉や、光吉は少しぼんやりなくらいで。照吉は物覚えが悪かったが皆健康ではないか。」
「それです。あなたはお医者のお仕事で患者は診るも息子達は診なかった。」
「何が気にかかるんだ。」
「…あの子達は風鼠なのです。」
風鼠(ふうそ)。血の濃い者を世間ではそう言う。
「私達の親戚に、血が濃い者が居ると?」
「あなたは、安森のお義父様、ご自分の父親をどれくらい知っておいでですか。」
「…安森の当主で、立派な方であったと、」
「その程度ですか。どんな性格の方だとか、交友関係はどうだったかだとか、わからないのですか。」
「何だ急に。ふつうの親子の様に一緒に食事などはしなかったし、同じ部屋にいた事もほとんどない。お父様の交友関係など秘密事項に関わっている者ばかりで知る機会はなかったし。花江も分かり切っている事ではないか。」
「…私の母は父の再婚相手でした。」
いきなり何だ。
「そうなのか、初めて聞くが…」
「私は父の娘ではありません。私の実の父は、安森 冬嘉(とうか)様です。」
久しぶりに聞くお父様の名前…
「…嘘だ、お父様は再婚などしていないし、愛人などいた事はない。」
「あなたが知らなかっただけです。あなたのお父様…私の父は、他にもたくさん奥様がいらっしゃったそうです。私の母は、妻にはなれませんでしたが子供は産みました。」
「花江、それをいつから。」
「小夜を産んですぐに、麻記様がいらっしゃいました。」
「小夜を見せたのか。」
「いえ、ですが狐憑きの娘がいる事は知っていての訪問でした。」
「なぜ言わなかった。」
「約束をしたのです。小夜を連れて行かないかわりに、小夜を他人の目から隠すようにと。」
「花江、なぜ相談しなかったんだ。知っていたら小夜を豆川屋にやらずに済んだではないか。」
「そんな事はありません、どっちにしろ大きくなったら引き取るとも約束に入っておりました。私も迎えが来る前に何とかしなければと、あなたと同じく考えておりましたから…」
「…それで。」
「雪冬が連れていかれた時、わたしひとりで本家に雪冬の忘れ物を持っていった事がありましたでしょ。あの玩具、気に入っていましたから…。
その道すがら、安森の人間でない者が、安森の狐憑きの女の子を何処かに連れて行くのとすれ違ったのです。数年経ってよく似た女の子を…街で見掛けました。」
「どこで。」
「街にあった、峰清楼の仮宅の近くで…遊女と一緒にいました。」
「売られたのか。」
「…はい。安森は金銭的に逼迫しています。男の子の場合は、生きているのかもわかりません。きっと小夜も、匿うと言ってあの女の子のようになるのだと思い、あなたと一緒に模索しました。ですが、どうにもならないとわかり…なら、これ以上情が付いてはいけないと、自分の心を殺し続けておりました。」
…だからあんな調子だったのか。…ひとりで悩ませて。
「…約束はそれだけか。お父様の話と、私達の事も何か言っていなかったか。」
「…私達が兄妹である事はあなたに伝えない代わりに、小夜と雪冬の事実も内密に、と。」
「事実?小夜と雪冬は何なんだ。」
「狐憑きではありません、あの子達は風鼠なだけなのです。陽吉達もそうだと思いますが、症状が低いので見逃す、と。」
「見逃す…?」
「安森は狐憑きを生まれさせるために、意図的に血を濃くしているのです。そのため狐憑きではない風鼠が生まれ、目に余っての障害が出た場合は、安森の品格を下げないために丁重に扱う振りをして自由を奪っているのです。」
花江がこんなに感情を剥き出しに話しているのを初めて見る。堰が切ったように次々と言葉が溢れ出る。その言葉全てが心臓に重く突き刺さった。
「雪冬もきっと、お父様のように奥様を複数迎える事でしょう…小夜も連れていかれていたら、閉じ込められて子供を産まされるか、売られていたに違いありません。」
「そんな、では今居る狐憑き、恭亮様や安記様は。」
「風鼠だと思われます、しかし麻記様の子供です。きっとそんな事はなさらないでしょう。」
「麻記様が主導権を握られているのか。」
「麻記様は、現在のご当主の甥の娘さんで、お義父様のお姉様、葉須和(はすわ)様の孫にあたります。葉須和様は聡明なお方で、ご当主であったお祖父様より、安森を仕切っていたと窺っております。そのひとり娘ですから安森では力の有るお方かと。」
「余所から嫁に来たのではないのか。」
「鳳右衛門様が婿にいらしたのです。私も最近知りました。」
花江、ひとりでこれだけの事を。
「麻記様が、そんなお方だったなんて。」
「狐憑き…風鼠の色と数字を決めていらっしゃるのもご当主様と、麻記様です。障害の度合いや、血の濃さで決めていらっしゃるようです。」
「恭亮様は藍の八・五…祥庵から聞くに障害や体調面での問題は無さそうであるから、血の濃さか。安記様の桃色は、なんだ。体調は著しく悪くなる時があるが…。」
「安記様は麻記様のご配慮で朱のところ、桃色に引き下げておいでです。蒼助様は鳳右衛門様とのお子様だからなのか、狐憑きでももちろんないですし、風鼠の症状も出ていません。陽吉達のように見逃された側なのです。」
「私達、白同士に生まれる筈のない黒が生まれたのは、花江…腹違いの妹であったためなのか。」
「知らなかったと言えど、申し訳ない事をしてしまいました。いくら償っても償い切れません。」
花江は畳に突っ伏し、声を上げて泣いた。
私達が結婚したのも、安森の策略だったのだろうか。
兄妹という事実も重過ぎるが、安森家の計画に悪寒と怒りがおさまらない。
白は見逃された側。狐憑きは崇められ、風鼠は人間以下。
私達の子供を何だと思っているんだ。三つのどの項目にも当てはまらない、唯一無二の人の子を振り分けるなんて。
狐憑きだって今まで本当に居たのかも怪しくなってくる。血を絶やさないために必死になってるようにしか思えないし、何も考えずただ増やし、狐憑きとホラを吹いて騙している。
後に花江はこれだけの話を集めるのに十年費やしたと言った。十年前、あかりがうちに来た頃だ。
あかりを安森に嫁に出すのを喜びも悲しみもしなかったが、それは何か考えがあってのものだと思われた。
実際まだ何も実行に移していない様だが、そろそろ動くのであろう。きっとあかりも幸せになる考えのはず。
幸運の狐憑き、その代償に多くの人間が犠牲になっている。私が縁を切った時の、狐憑きへの気持ちの悪い執着心はあらぬ方向へと向かっていたようだ。安森を失くしたいという最終目標は変わらずに、私の決意は強くなった。
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