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35 秋晴れ、晴れの日
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(秋 天野家)
「秋奈、ちゃんと足袋履きなさい。あ、理代義姉さん、秋奈の替えの足袋はどうします?」
「依子義姉さんがもう一足買ったって言ってたから…そこの箪笥の上にない?あっ!小梅、帯が解けてるじゃない、こっち来なさい、」
「お父さん暑い~」
「小梅、後ろ向きなさい。お父さんが結んでやろう。道留、海里はどこだ?」
「兄ちゃんなら葵一兄ちゃんに着付けてもらってるよ、ほら。」
「あら、いいじゃない。馬子にも衣装ね~。葵一も着付けてばっかりで自分の支度は出来てるのかしら。」
「理代義姉さんもお義母さんのところ行って着付けてもらって下さい、もうそろそろ依子義姉さんが終わる頃かと、」
「理代さん、次着付けてもらって!」
「依子義姉さん、素敵ですね。その柄、綺麗ですね。」
「そう?みゆきさんも似合うわよ。椿さんも綺麗よぉ、着付けも上手だし、理代さんも早く綺麗になってらっしゃい。」
「絹の着物なんて久しぶりで…いつもボロばっかりだから。」
「ボロしか着せられなくて悪かったな。あやめの時も、今日の着物も借り物で悪いな。」
「いいのよ光吉さん、しょっちゅう着る物じゃないんだから。」
「依子義姉さん、うちにはあと何人いると思ってるんですか。買った方が安いですよ。光吉義兄さん、買ってあげたら良かったのに。」
「みゆきさんはそうやって簡単に言う…。」
「依子義姉さんは今日の花婿の母親なのに、お袋のやつなんだぜ?理代が買ってどうすんだよ。」
「そうなんですか?」
「良いやつだぞ?依子、似合ってるぞ。」
「ふふっ。」
「陽吉さん、理代さんが終わったら出発できそうですか?」
「あぁ。月冬さんも葵一に着付けてもらったのか?」
「いえ、椿に着付けてもらいました。」
「あらぁ、月冬さんも良く似合って。やっぱり良い男が着ると違うわねぇ。」
「悪かったな、醜男で。」
「やぁね、光吉さんったら。月冬さんは別格よ、比べたって仕方がないわよ。」
「母さん、この足袋破けてる。ここ。」
「えっ?二人のお古はやっぱり駄目だったかぁ…新しいの、あるでしょ?それ履いてっちゃいなさい。」
「夏以の準備も出来たぞ。あとは誰だ?」
「葵一さん、男性達のお支度は終わりましたか?こちらは理代さんの着付けで終わりです。」
「こっちも終わりだよ。椿さん…綺麗ですね。母さんも綺麗になるかなぁ。」
「綺麗にしますね、待ってて下さいな。葵一さんも今日は飛び切り男前ですね。」
「え、いやぁ…。(照)」
「陽吉義兄さーん、巳春は直接(柿谷)に行くんですか?」
「え?私はわからないな…。」
「みゆきさん聞いてないの?巳春は祥庵さんのところに寄って、照吉さんと知空と一緒に直接(柿谷)に行くんですってよ。」
「そうなんですか?あの人そんな事一言も…あっ、道留、髪飾りで遊ばないのっ、」
「ちょっと、袴が曲がってるわよ?花婿の父なんだからしっかりしてちょうだいね。」
「光吉義兄さん、煙草持った?扇子は持った??」
「知空、目脂付いてるわよ。海里も髪の毛撫で付けなさいっ!」
「おい、理代ぉ。俺の扇子どこだ?」
「理代さんは今着付けてもらってるんだから呼ばないのっ。」
「母さん、お腹空いたよぉ、」
「あっちに行ったらいーっぱい食べられるから!ねっ。」
「あらあら、みんな綺麗になって。」
「お祖母ちゃんきれいっ。」「お母さん綺麗だなぁ。」「おぉ。」「綺麗ですね。」「お義母さん素敵~。」「お祖母ちゃん、きれぇ、」「お腹空いた。」「素敵です、とても。」「すげぇ。」「良いわねぇ、似合うわぁ、お義母さん。」「お袋、良いじゃないか。」「お義母さん、似合いますね。」
「…俺よりお祖母ちゃんかよ。」
「あら、夏以…ごめん。」
あやめの時は、花婿の家族はいなかったので、家の広間で飲み会のような祝言を挙げた。なので、身なりは適当で綺麗に着飾っていたのは花婿とあやめだけ。
しかし、今回はそうはいかない。大店薬種問屋の久尾屋のお嬢様との婚礼である。久尾屋の家の広間で家族だけで祝言を挙げる予定であったが、家も近いし全員参加したいと弟、義妹、甥っ子姪っ子が騒ぎ出した。急遽、久尾屋から紺屋にお願いしてもらい、借り物といっても豪華な着物ばかりを揃えられ、全額こちらが持つとは言われたが、お願いします、とはさすがに言えなかった。更に、この大人数ではちょっと、と言う事になり、柿谷で祝言を挙げる事になったのだが、これまた凄いかかりになった。
金が無い。(涙)
懐の寂しさとは裏腹に、我が家の女子供達は今までにないほど楽しそうで、美しい。あとに続く子供達の祝言は確実に格落ちするので、今日は、今日だけは思う存分楽しんで頂きたい。まさか、私の次男が千陽さんと、なぁ。天国の父も喜んでいるだろうか。
夏以も薬学師補佐二級(二級って何だ?)になったし、あぁ…めでたい、めでたい。
総勢十四人、晴れ着を着てぞろぞろと柿谷に向かう。これだけの大人数がめかし込んで歩いているのだ、じろじろ見られて恥ずかしいのなんのって…。(汗)
皆が柿谷の座敷に並んで座った瞬間、晴れているのにざぁっと雨が降った。
「狐の嫁入りだねぇ。我が家らしいね。」と、お祖母ちゃんが言うと全員が頷いた。
暫くして雨が止んだ秋の空の下、久尾屋 (安森家)千陽と、町医者 (天野家)夏以の祝言は執り行われた。
「秋奈、ちゃんと足袋履きなさい。あ、理代義姉さん、秋奈の替えの足袋はどうします?」
「依子義姉さんがもう一足買ったって言ってたから…そこの箪笥の上にない?あっ!小梅、帯が解けてるじゃない、こっち来なさい、」
「お父さん暑い~」
「小梅、後ろ向きなさい。お父さんが結んでやろう。道留、海里はどこだ?」
「兄ちゃんなら葵一兄ちゃんに着付けてもらってるよ、ほら。」
「あら、いいじゃない。馬子にも衣装ね~。葵一も着付けてばっかりで自分の支度は出来てるのかしら。」
「理代義姉さんもお義母さんのところ行って着付けてもらって下さい、もうそろそろ依子義姉さんが終わる頃かと、」
「理代さん、次着付けてもらって!」
「依子義姉さん、素敵ですね。その柄、綺麗ですね。」
「そう?みゆきさんも似合うわよ。椿さんも綺麗よぉ、着付けも上手だし、理代さんも早く綺麗になってらっしゃい。」
「絹の着物なんて久しぶりで…いつもボロばっかりだから。」
「ボロしか着せられなくて悪かったな。あやめの時も、今日の着物も借り物で悪いな。」
「いいのよ光吉さん、しょっちゅう着る物じゃないんだから。」
「依子義姉さん、うちにはあと何人いると思ってるんですか。買った方が安いですよ。光吉義兄さん、買ってあげたら良かったのに。」
「みゆきさんはそうやって簡単に言う…。」
「依子義姉さんは今日の花婿の母親なのに、お袋のやつなんだぜ?理代が買ってどうすんだよ。」
「そうなんですか?」
「良いやつだぞ?依子、似合ってるぞ。」
「ふふっ。」
「陽吉さん、理代さんが終わったら出発できそうですか?」
「あぁ。月冬さんも葵一に着付けてもらったのか?」
「いえ、椿に着付けてもらいました。」
「あらぁ、月冬さんも良く似合って。やっぱり良い男が着ると違うわねぇ。」
「悪かったな、醜男で。」
「やぁね、光吉さんったら。月冬さんは別格よ、比べたって仕方がないわよ。」
「母さん、この足袋破けてる。ここ。」
「えっ?二人のお古はやっぱり駄目だったかぁ…新しいの、あるでしょ?それ履いてっちゃいなさい。」
「夏以の準備も出来たぞ。あとは誰だ?」
「葵一さん、男性達のお支度は終わりましたか?こちらは理代さんの着付けで終わりです。」
「こっちも終わりだよ。椿さん…綺麗ですね。母さんも綺麗になるかなぁ。」
「綺麗にしますね、待ってて下さいな。葵一さんも今日は飛び切り男前ですね。」
「え、いやぁ…。(照)」
「陽吉義兄さーん、巳春は直接(柿谷)に行くんですか?」
「え?私はわからないな…。」
「みゆきさん聞いてないの?巳春は祥庵さんのところに寄って、照吉さんと知空と一緒に直接(柿谷)に行くんですってよ。」
「そうなんですか?あの人そんな事一言も…あっ、道留、髪飾りで遊ばないのっ、」
「ちょっと、袴が曲がってるわよ?花婿の父なんだからしっかりしてちょうだいね。」
「光吉義兄さん、煙草持った?扇子は持った??」
「知空、目脂付いてるわよ。海里も髪の毛撫で付けなさいっ!」
「おい、理代ぉ。俺の扇子どこだ?」
「理代さんは今着付けてもらってるんだから呼ばないのっ。」
「母さん、お腹空いたよぉ、」
「あっちに行ったらいーっぱい食べられるから!ねっ。」
「あらあら、みんな綺麗になって。」
「お祖母ちゃんきれいっ。」「お母さん綺麗だなぁ。」「おぉ。」「綺麗ですね。」「お義母さん素敵~。」「お祖母ちゃん、きれぇ、」「お腹空いた。」「素敵です、とても。」「すげぇ。」「良いわねぇ、似合うわぁ、お義母さん。」「お袋、良いじゃないか。」「お義母さん、似合いますね。」
「…俺よりお祖母ちゃんかよ。」
「あら、夏以…ごめん。」
あやめの時は、花婿の家族はいなかったので、家の広間で飲み会のような祝言を挙げた。なので、身なりは適当で綺麗に着飾っていたのは花婿とあやめだけ。
しかし、今回はそうはいかない。大店薬種問屋の久尾屋のお嬢様との婚礼である。久尾屋の家の広間で家族だけで祝言を挙げる予定であったが、家も近いし全員参加したいと弟、義妹、甥っ子姪っ子が騒ぎ出した。急遽、久尾屋から紺屋にお願いしてもらい、借り物といっても豪華な着物ばかりを揃えられ、全額こちらが持つとは言われたが、お願いします、とはさすがに言えなかった。更に、この大人数ではちょっと、と言う事になり、柿谷で祝言を挙げる事になったのだが、これまた凄いかかりになった。
金が無い。(涙)
懐の寂しさとは裏腹に、我が家の女子供達は今までにないほど楽しそうで、美しい。あとに続く子供達の祝言は確実に格落ちするので、今日は、今日だけは思う存分楽しんで頂きたい。まさか、私の次男が千陽さんと、なぁ。天国の父も喜んでいるだろうか。
夏以も薬学師補佐二級(二級って何だ?)になったし、あぁ…めでたい、めでたい。
総勢十四人、晴れ着を着てぞろぞろと柿谷に向かう。これだけの大人数がめかし込んで歩いているのだ、じろじろ見られて恥ずかしいのなんのって…。(汗)
皆が柿谷の座敷に並んで座った瞬間、晴れているのにざぁっと雨が降った。
「狐の嫁入りだねぇ。我が家らしいね。」と、お祖母ちゃんが言うと全員が頷いた。
暫くして雨が止んだ秋の空の下、久尾屋 (安森家)千陽と、町医者 (天野家)夏以の祝言は執り行われた。
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