マイダンジョン育成中

どらいあい

文字の大きさ
上 下
84 / 100

第84話

しおりを挟む
 そしてたどり着いたアパートはまあ普通のアパートだった。
 ボロ過ぎず高級過ぎず、私がサラリーマンをしていた時に利用していたものと 同じくらいだろうか。

 ハルカの『瞬間移動』により私はそのアパートのとある一室の前に立っている。
  防犯などに力を入れた高級マンションとかではないので問題はないのかもしれないが、いきなり月城さんが住んでるであろう部屋の前に連れてこられたのだろう。
 てっきりアパートの近くに瞬間移動するのかと思ってた。

「ハルカ」

「その扉の向こうに彼女はいるわよ、もっとも出てくるかわからないけど…」

 ハルカは『千里眼』のスキルを持っている、彼女がいるというならいるのだろう。
 とりあえず私は横にあるチャイムを鳴らす、返事などはない、ただ何かが中で動いてる足音はかすかに聞こえたような気がした。

 とりあえず声をかけてみるか。

「月城さん聞こえますか? 一河です、少し話を聞きたいことがあってこちらに伺わせてもらいました」

 返事はない……仕方ないな。

「ハルカも来ています、少々急な用事がありますので中に入らせてもらっても構いませんか?」

 今度ははっきりと部屋の中から足跡が聞こえる。
 少し慌てているようだ。
 そして目の前の扉が少し開いた。

 その扉の隙間から月城さんの顔を見ることが出来た。
 しかし健康そうではないな。

 きれいな長い金髪は少し痛んでほつれている、目の下には隈のようなものが見えた。
 肌の色は元々綺麗な色白だったのに今はむしろ青白いと言うか…とにかく健康的な感じじゃない。
 彼女は私の顔見ると扉に隠れるように 顔を隠した。

「………すみません」

「部屋にいたので安心しました」

「…………いえっそういう意味のすいませんというわけではなくて」

「…なるほど」

 どういう意味で謝罪したのか、ここは聞いてみるべきかな。

「あの黒山という男が聞いてもいないのにいろいろ話をしていました」

「…そうですか」

「少し話をしませんか?」

「…………分かりました」

 月城さんがドアを開ける。
 私とハルカは彼女の部屋に入れてもらった。
 玄関や廊下、そして彼女の部屋を少し見てみると少なくともそんなゴミを大分溜め込んでるということはないみたいだ。

  多分掃除とかは小まめにするタイプなのだろう。
 おっとあまり女性の部屋ジロジロ見るもんじゃないな、普通に嫌われるだろう。

  私は月城さん自身に集中することにした。
 そしてそこまで広くない部屋に案内される、あるのはテーブルと椅子とテレビ くらいだろうか。
 若い女性らしく可愛い小物やらも少し目に入る。

 私とハルカはそれぞれ椅子に腰掛け向かいの方に月城さんが腰を下ろした。
 お互いに向かい合うが無言のまま。
 空気は重い、まずはこちらから話をするか。

「まずは私が黒山から聞いた話をします。もし間違いや訂正したいところがあったら教えてください」

 そして黒山と話したことについて記憶にある限り話した。
 私はあまり親しくもなければ親しくなりたいとも思わない人間との会話はわりと直ぐに忘れる人間だ、印象に残ったところの会話以外はだいぶぼやっとしている。

 そういう類の人間たちのことってあんまり記憶に残らないし残したいと思わないタイプなんだ。
 そして黒山に聞いた話を私が話した後に月城さんはゆっくりと口を開いた。

「…まずは私が何故あの黒山という男に目をつけられたのか、というところから話していいでしょうか? 少し長い話になりますが…」

「構いません」

 月城さんが自身の中で整理する意味も込めて話をしてほしいと思う。
 月城さんが語った内容については以下の通りだ。

 まず黒山が月城さんに近づいた理由だが、それは単なる下心だ。

 月城さんは美人だからね、妙にプライドが高く自分になびかない女なんていないとでも思ってたらしい黒山だったが月城さんは仕事に集中したかったし黒山という人間に何の魅力を感じなかったそうでほどほどに相手にする程度だったとか。

 黒山はそれが気に入らなかったのらしく、プライドを刺激された彼は親のコネうまく使ったのかまず彼女の上司となり 彼女の仕事ぶりを監視し様々な嫌がらせをするようになったらしい。

 その辺りのことは月城さんと黒川、そしてダンジョンセンターという会社組織のことなので詳しくは月城さんも話すことはなかった。

 ただ問題なのはそこからだったそうだ。
 月城さんの仕事のアラを探す為なのか 黒山は月城さんがこれまで担当していた探索者たちのことまで調べ始めたらしい。

 黒山もしつこく調べていったのだろう。
 そうすると様々なダンジョン資源を売りに来て、それにいてダンジョンでの活動らしい活動をほとんどしてもいない変なアラサーを見つけた訳である。

 もちろん私だ。
 ……そういやダンジョンで出入りする時に色々とダンジョンセンターの職員とやり取りとかあったな。

 そんなの全て無視して換金だけしに来てたわ、そりゃ変だとバレるよ。
 むしろこれまで気付かないふりを月城さんしてくれていたのだろうな。

 それはともかく、黒山という男は金になりそうなネタを見つける鼻は利くらしい。
 月城さんに私についての情報を得ようと何気なく聞いてきたそうだ。
 そしてそれについて月城さんは個人的な情報なので答えられないし元よりそこまで詳しく知っているわけでもないといった感じで返答しそうだ。

 再びプライドを傷つけられた黒山。
 そんなタイミングだったらしい。
 私と工藤さんが彼女を誘って休日にダンジョンでのストレス発散を提案したのは。

「……………」

 我ながら何も知らなかったとはいえとんでもないタイミングで出て来たな自分、申し訳ないとしか言えない。

 その結果本当は私と本当はかなり親しいんじゃないかと勘ぐった黒山は、男としての嫉妬もあったのか月城さんに対してこれまで以上に異常な行動を取り始めたようだ。

 月城さんに対して私がダンジョンを所有していることなどの情報をとにかく話せ。
 知らないなら調べろ、そしてそれらを黒山自身に教えるようにとを言ってきたそうだ。

 なんか女なんだから美人局とかスパイみたいな事をしろって脅されたらしい。
 月城さんがそれを断ると…。

 扉以外は机と椅子あとは壁のところに小窓があるだけの、他には何もない部屋に行くように言われたらしい。
 そこには紙が一枚を机の上に置いてあるだけだったそうだ。

 その紙に私ついて知っている情報を全て書くまでその部屋に軟禁されたそうだ。
 それ以外の仕事は何もさせてもらえず、ただ椅子に座り時間だけが無為に流れる。
 スマホは部屋に入る前に必ず没収されたらしい。

 仕事の出社と同時に部屋に入れられ、退社時間までずっとそこに……。
 いわゆる追い出し部屋というやつだな、それは。

 まさかこの令和の時代においてもそんなものも用意している腐った会社組織があるとはね…。

 私は自身の表情が怒りに変わるのを堪える事に我慢しながら話を聞いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

ああ、もういらないのね

志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。 それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。 だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥ たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

女性が少ない世界へ異世界転生してしまった件

りん
恋愛
水野理沙15歳は鬱だった。何で生きているのかわからないし、将来なりたいものもない。親は馬鹿で話が通じない。生きても意味がないと思い自殺してしまった。でも、死んだと思ったら異世界に転生していてなんとそこは男女500:1の200年後の未来に転生してしまった。

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

処理中です...